世界はキミのために

19話 恋愛至上主義兄妹



コンコン。
ヒスイはコハクの部屋のドアを叩いた。
コハクは自らドアを開け、ヒスイを中に招き入れた。
「お茶いれようか?」
「ううん。いい」
ヒスイはコハクの部屋に置いてある自分専用の小さな椅子に腰かけた。
話したいことがあると自分から言い出した割には何から切り出せばいいかわからず、ヒスイは言葉に詰まった。
コハクはそんなヒスイをせかすことなく、向かいの椅子に腰かけて穏やかな表情で待っていたが、ヒスイが深く俯いて完全に沈黙してしまったのを見てゆっくりと言葉を発した。
「・・・シンジュに何か言われた?」
「・・・っ・・・」
その言葉でヒスイは堰を切ったように泣き出した。
俯いたヒスイの頬をポタポタと大粒の涙が伝う・・・。
コハクは覚悟していた時が訪れたという面持ちで瞳を伏せた。
そして椅子から立ち上がりヒスイのそばへ寄ると「・・・泣かないで。ヒスイ。こっちへ」と言ってヒスイを椅子から立たせ、優しく抱きしめた。
そのまま両手でヒスイの頬を覆い涙を唇で拭った。
「シンジュの言ったことはすべて本当だ。僕とヒスイは兄妹じゃない。兄妹じゃないから・・・こんなことだってできる――」
コハクはヒスイの頬にあてていた唇を滑らせ、ヒスイの唇に重ねた。
「・・・昨日の続き」
「お兄ちゃん・・・」
ヒスイの涙は止まらなかった。
「馬鹿。いつもあんなに能天気なのに、どうして急にこうなるのよ・・・」
コハクの唇から解放されると、ヒスイはか細い声を出した。
「・・・その理由もわかってるんだよね?」
コハクはヒスイを抱く腕に力を込めた。
いつもより低い声でそう言うと、ヒスイは泣きながら笑って。
「お兄ちゃん・・・男の人みたい」
「そうだよ。ここまできたらもうだだの男」
コハクも笑った。
「最後までちゃんと兄妹でいようと思ったけど・・・ごめんね。だめかもしれない」
コハクはヒスイの肩に軽く頭を乗せた。
「いいよ。だめで」
ヒスイは躊躇うことなく答えた。
「・・・シンジュに僕のこと聞いたなら・・・この先どうなるかわかるよね?」
「うん」
「それでも・・・望んでくれるの?」
「だからこそ、望むわ」
ヒスイは一拍おいてから、息を吸って言った。


「私、お兄ちゃんが好き。だから・・・お兄ちゃんの気持ちが聞きたい」


「そんなの・・・とっくにわかってるくせに」
コハクはそう言ってまた笑った。それからヒスイを見つめた。愛おしそうに目を細めて。
「でも聞きたい」
「・・・ヒスイ」
コハクはヒスイの頬を撫でながらまっすぐヒスイを見て言った。


「気が遠くなるほど好きだよ。好きで好きでどうしようもなくらいだ」


ヒスイは嬉しそうににっこり微笑んだ。涙はいつの間にか乾いていた。
「じゃあ、次はお兄ちゃんの気持ち、態度でみせて」
ヒスイは頬を撫でるコハクの手に自分の手を重ね、強く握った。
「・・・そんなことをしたら大人になっちゃうよ?」
コハクはいつもの困ったような笑いを浮かべた。
「うん。いい。お兄ちゃんがいいの。お兄ちゃんじゃなきゃだめなの」
ヒスイはコハクの手をとって中指のヒビの入った指輪をいとも簡単にするりと外した。
「約束・・・だよ。私の願いを叶えて・・・。お兄ちゃん」
「・・・わかった」
コハクは外された指輪を握りしめた。
「ヒスイを大人にした責任もちゃんととるからね」
コハクがそう付け加えたのでヒスイは笑ってしまった。
「本気だよ」
「うん!」
ヒスイは顔をほころばせて返事をした。



二人はベッドの上でじゃれあって何度もキスをした。
「お兄ちゃん・・・どきどきして・・る」
「うん。してる。こんな風にヒスイに触れることなんて・・・できないと思ってたから」
「意外。お兄ちゃんって何事にも動じないと思ってた」
「他のことになら自信あるんだけどね。ヒスイに関しては別みたい」
「わたしも・・・口から心臓が飛び出しそう。頭がくらくらする」
二人は顔を見合わせて照れ笑いをした。そしてもう一度くちづけを交わすとベッドに倒れこんだ。
「・・・お兄ちゃん・・・。大好き」
ヒスイがうわごとのように呟いた。
「ヒスイ・・・」
コハクはヒスイの小さく華奢な体を優しく包み込むように抱いた――




“お兄ちゃんの気持ち・・・態度でみせて”



(なんて言ったけど・・・何もかもが初めてで・・・どうすればいいのか・・・よく・・・わからない・・・お兄ちゃんは・・・どうなのかな・・・)

18年間共に過ごしてきた・・・兄妹じゃないキスをするのは初めてだ。
兄妹だった時間を埋めるように、コハクがキスを繰り返す。
何度も、何度も、唇を重ねる・・・でも足りない。

ベッドの上でじゃれ合いながらするキスは、次第に性の香りのするものへと変わっていく。

「はむ・・・っ。はあっ・・・」
コハクの舌が中に入ってきてはあちこち刺激するので、ヒスイの口内は唾液でいっぱいになって。
「ヒスイ・・・ん・・・」
溜まった唾液をコハクが吸い出す。

ごくん。と喉が鳴った。

「やだ・・・のんじゃ・・・だめだよ・・・そんなの・・・」
「ヒスイのことが好きだから、僕が、飲みたいんだよ」
そう言ってヒスイと唇を合わせ。
躊躇うヒスイの唇を舌でこじ開け、中に溜まったものを飲み干す。

ごくり。

(ヒスイに僕のを飲めっていうのはさすがにちょっと・・・無理かな・・・)
「おにい・・・ちゃん・・・」
「好きだよ・・・ヒスイ。だから僕に全部ちょうだい」
ヒスイの体液・・・コハクにとってはごちそうだ。何の抵抗もない。
「わ・・・たしも・・・おにいちゃんの・・・ほしい」
「無理しなくてもいいんだよ?」
唾液の交換はもっと経験を重ねてからすべきだとわかってはいるのだ。
ヒスイは、常にイメージトレーニングをしていたコハクとは違う。
「のめるよ。おにいちゃんのこと・・・すきだもん」
「ヒスイ・・・」

こく・・・ん。

コハクは自分の唾液をヒスイの口に移した。
ヒスイは嫌がらずそれを飲んだ。
「おにいちゃんの・・・味だぁ・・・」
ヒスイが頬を染めて笑う。

愛しくてたまらない。

コハクがヒスイの唇を舐めると、ヒスイがコハクの唇を舐め返した。
濡れた唇同士を擦り合わせる・・・。
唇が離れても、練り上げられた透明な糸が二人を繋いだ。


「はぁ・・・っ・・・おにい・・・ちゃ・・・わたし・・・へんだよ・・・」
「・・・ん?」
ヒスイを膝に抱いてコハクが優しく聞き返した。
「パンツ・・・の・・・なか・・・」
真っ赤な顔で俯くヒスイ。
子供用かぼちゃパンツ・・・くまのバックプリント付。
コハクはその中心部に触れた。
(パンツ・・・湿ってる・・・かわいい・・・)
「あ・・・!やっ・・・!」
股の間を指でなぞる度、じんわりと湿り気が増す。
「大丈夫だよ・・・これはね、ヒスイの体が僕を受け入れる準備をしてるんだ。だから・・・もっといっぱいだそうね」
「う・・・ん・・・」


コハクはヒスイを横にならせた。
手で少しだけヒスイの足を開いて、間に顔を埋める・・・
そして、湿った下着の上から強く唇を押し当てた。
「あ・・・っ・・・!」
ヒスイが仰け反る。
熱い息を吹きかけ、鼻先を擦りつけると、ヒスイは悩ましげな声を洩らした。
「う・・・ん・・・お・・・にい・・・ちゃん・・・はぁっ。はぁっ。」


「は〜い。両手ばんざい」
コハクはいつもの調子でヒスイの服を脱がせた。
小さく華奢なヒスイの体・・・胸はほとんどない。
(うぅ・・・可愛い・・・)
目眩を覚えるコハク。
暴走寸前のところを最後の“兄”としての理性で無理矢理押さえ込んで、胸のささやかな膨らみを手の平で包む。
優しく撫でて、ツンとなったピンクの乳頭を唇で軽く挟むと、ヒスイは体をビクリとさせた。
割れ目から溢れ出した愛液がヒスイの太ももを伝っていく・・・
「う・・・おにい・・・ちゃん・・・」
「いい子だね・・・ちょっとじっとしてて」
コハクの指がヌルヌルとした割れ目をなぞる。
ヒスイは本能で自分から足を開いていた。
(まずは第一関節から・・・少しずつ慣れさせないと・・・)
「痛かったらすぐ言ってね」
「ん・・・」


ぬぷっ。コハクは人差し指をヒスイの中に入れた。
「あっ・・・」
「痛い?」
ヒスイは首を横に振った。
「じゃあ、もう少し・・・ね」
「ん・・・」
人差し指を徐々に深く押し込んで、それから中指を追加する。
「あ・・・ああ・・・おにいちゃ・・・」
愛しいヒスイの内側の肉・・・コハクはじっくりと時間をかけてその感触を指先で堪能した。


「ヒスイ・・・見てみて・・・」
はあっ。はあっ。
ヒスイは泣き出しそうな顔で自分の足の付け根を見た。
愛液にまみれたコハクの指が2本根元まで入っている。
「ほら・・・ちゃんと入ったよ」
コハクが耳元で囁やいた。
(3本目は痛がった・・・体が小さいせいもあるのかもしれないけど・・・やっぱり初めてだと、どうやっても痛いのかも・・・なにせ僕も初めてだし・・・)


「あぁ・・・っ!!」


興奮したヒスイの体に汗が滲む。
「少し・・・動かしてみるね」
「あ・・・っあっ・・・おにぃ・・・ちゃ・・・!!」
(ヒスイのなか、あったかいなぁ・・・)
もうじきこのなかへ入れるのかと思うと、悦びで気が遠くなりそうだ。
コハクは長い指を活かした滑らかな動きで、ヒスイに体の奥から湧き上がる快感を与えた。


「あ・・・ぁ・・・」


(お兄ちゃんの指が・・・私のなかに・・・はいって・・・る・・・)


“ヒスイ。あ〜ん”


(ジャムやはちみつを舐めさせてくれた・・・あの・・・指・・・)
ほんの少し前までは口に含んでいた甘い・・・指。
(大好きな・・・お兄ちゃんの・・・指。この指になら・・・何をされても・・・いい・・・)

ぬちゅっ!ぬちゅっ!

淫らな音が耳に付く。
中で動かしていた指を今度は出し入れしている。
「これで・・・慣れてね」
「う・・・ぅ・・・」
もっと奥へ・・・更なる快感を求めて腰が自然に動く。
「おにいちゃん・・・おにいちゃん・・・っ!!ああ・・・っ!!」
「ヒスイ・・・」
コハクは指を抜いた。


(もう指は入れない。次に入れるのは・・・アレだ)
「おにい・・・ちゃん・・・服・・・脱がない・・・の?」
コハクはまだ服を着ていた。
ヒスイと生きる為に刻んだ紋章が背中一面にある。
それをヒスイに見せたくなかったのだ。
18年間隠し続けてきたが、ここまできたらそんなことは言っていられない。
(・・・受け入れてもらうしかない、か)
コハクは覚悟を決めて服を脱いだ。


「おにいちゃん・・・それ・・・」
ヒスイの視線はコハクの背中までいかなかった。
初めて見る異性の下半身に釘付けになっている。
「うん・・・ヒスイのこと考えるとこうなっちゃうんだ。僕のここ」
コハクは伏目がちに微笑んで続けた。
「触ってみて」
「うん・・・」
ヒスイは手を伸ばした。
「・・・硬い・・・でも、あったかい・・・」
「これをね・・・ヒスイのなかに・・・入れるんだ」
「うん・・・」

「大丈夫だからね。怖くないよ」


コハクはヒスイの頭を撫でて言い聞かせた。
「うん・・・怖く・・・ない」
ヒスイが両手で包み込んで、そっとキスをした。
「おにいちゃんの・・・だもん。怖くなんか・・・ないよ」
「ヒスイ・・・」
求める気持ちを、もう抑えきれない。
「ごめん・・・僕そろそろ限界なんだけど・・・入れさせて・・・くれる?」
「うん・・・いいよ」



ベッドの上、広げた両脚の間にコハクを迎え入れ。
指を絡め合う。それから一度キスを交わし。
「痛かったら我慢しないで言うんだよ?」
その言葉と共に挿入が始まる――
「ん・・・っ!!あっ!!!」
メキメキと肉の壁を破られ、ヒスイは体が開かれてゆくのを感じた。


「!?ひぁ・・・っ!!あ!!」
コハクの腰が激しく動いて奥を突き上げられる。
処女膜はいつの間にか取り払われて。
「あっ!あっ!おにい・・・ちゃぁんっ!!」
痛いなんて言っている余裕がない。ヒスイはぎゅつと目をつぶって、コハクにしがみついた。

ぬちゃっ!ぐちゅっ!

濡れた音だけが聞こえる。下腹部の内側は痺れて、もう何が何だかわからない。

ふえっ・・・うえっ・・・

ヒスイは初めての感覚と悦びで泣き出した。
「ヒス・・・イ・・・んっ・・・」
ヒスイのなかで果てた後、我に返ったコハクは慌てた。
「ごめんね。痛かった・・・よね?」
よしよしと汗の滲むヒスイの額にキスをして髪を撫でる・・・
精神力の強さには自信があった。
(それなのに・・・ヒスイのなかに入った途端、思考が停止して・・・ただ愛しくて、止まらなくて。初めてって、思うようにいかないものだなぁ・・・)
コハクがそんなことを考えていると。



「こんなの、好きな人とじゃなきゃ・・・無理!!」


ヒスイは目に涙をいっぱい溜めてぷうっと膨れた。
その顔がどうしようもなく可愛くて、コハクは力一杯ヒスイを抱き締めた。





「あれ・・・お兄ちゃんの背中・・・」
続くキスと抱擁の合間、ヒスイはうっすらと瞳を開けてコハクの背中を見た。
ヒスイがコハクの背中を見るのはこれが初めてだった。


「!!」


目にしたと同時に体が強張る。
ヒスイの体にある紋様よりもずっと複雑で禍々しい様式の紋様がそこにあった。
ヒスイは例の血だまりを鮮明に思い出した。
「・・・やっぱり、見ちゃった?」
コハクは動きを止めてヒスイに語りかけた。
「これは・・・ヒスイに害のあるものじゃないから・・・安心して・・・ね」
そう説明して、更にキスを捧げる。
「大丈夫だよ」
「・・・うん。お兄ちゃんとこうしていると安心する・・・よ」
ヒスイはコハクの腕の中で瞳を閉じた。
「ね、ヒスイ。もう一回、しようか」コハクが言った。
「今度はちゃんとヒスイがイクまで」と、苦笑いする。
ヒスイは微笑んでコハクに身を委ねた。
「うん、私も・・・」
 
お兄ちゃんと、もっとしたい――


兄妹を超えた夜。
互いの体を求め合い、与え合う。
そうして二人はいつもと違う初めての夜を過ごした。




(いつもと変わらない朝・・・)
ヒスイはゆっくりと瞳を開けた。朝の光が眩しい。
「ヒスイ、おはよう」
穏やかななコハクの声がする。
(夕べとは別人みたい。いつものお兄ちゃん。すべてが夢のようで・・・だけど夢じゃない)
ヒスイは寝返りを打った。
(お兄ちゃんのベッド。お兄ちゃんの匂い。えっちも気持ち良かったし)
ヒスイはふふふと笑った。幸せな気持ちでいっぱいだった。
「ヒスイ?起きてる?」
コハクが上から覗きこんだ。光を受けた金の髪がキラキラと輝いている。
「あ、うん。おはよう。お兄ちゃん」
ヒスイは体を起こした。
「ミルクティー入ってるよ」
「わ〜い!!」
ヒスイは紅茶が大好きだった。
その中でもコハクの入れるミルクティーが一番のお気に入りである。
「あ、そうだ。新しい服、そこに出してあるから」と、コハク。
「新しい服?あ・・・」
ヒスイはやっと気が付いた。自分の体が成長していることに。
(大人に・・・なってる・・・。本当にお兄ちゃんが大人にしてくれたんだ・・・)
ヒスイは目をぱちくりさせてコハクを見た。
コハクはにっこり笑って。
「サイズ合うと思うから、着てみて」
「うん」
返事をして、ヒスイは用意されたワンピースを手に取った・・・が、それを身に纏う前に。
「お兄ちゃん、今、幸せ?」と、コハクに問いかけ。
「幸せだよ。とても。ヒスイは?」
「幸せに決まってるでしょ!」裸のままコハクに抱きついた。

「お兄ちゃん」
「ん?」
背伸びして、キスをねだる仕草。
「それだけじゃ済まないかも」
コハクはくすっと笑ってヒスイにキスをした。
「いいよ」キスをしながらヒスイが答える。
それから二人、声を揃えて。
「「ミルクティー飲んでから、ね」」


「・・・遅い!!」
「まぁ、まぁ、そんなにカリカリすんなって。ヒスイとは長い付き合いになるんだからさ」
シンジュとカーネリアンは凝った彫刻の施されたティーテーブルとふかふかのソファーが置いてあるリビングで二人を待っていた。
「アンタもわかっただろ?ヒスイは大人になった。喜んでやれよ」
「・・・・・・」
シンジュはムスッとしている。ヒスイが昨夜大人になったのと同時にシンジュの姿も成長した。
今では14・5歳には見える。
「まさかマスターの娘と恋仲になるなんて・・・タブーもいいとこですよ!前代未聞です!あいつは一体何を考えて・・・昔からアブナイ感じはしてましたけど。メノウ様の言い付けをやぶってばかりだったくせに何故かメノウ様には可愛いがられていたし・・・」
シンジュはプンプン怒っていた。
「そりゃぁ、アンタにとっちゃぁ、面白くないだろうけどさ」
カーネリアンは爆笑したいところをぐっと堪えて言った。
「好きになっちまったもんはしょうがないだろ」
「私にはわかりませんね!そんな人間じみた感情」
シンジュはツンとして言った。
「精霊ってみんなそんなもんなのか?」
「基本的に性別がありませんからね。自分の意思でどちらかに特化することはできますけど」
「へぇ・・・それで今は男に特化してるってわけかい?」
「別に深い意味はありませんよ。どっちつかずだと何かと面倒なもので」
「しかしアンタがねぇ・・・先の大戦でメノウと共に名を轟かせた最高位の精霊とはねぇ・・・」
「主人に恵まれないとこういうことになるんです。我々精霊は」
シンジュはこれがすっかり口癖になっていた。


「悪かったわね、未熟で」


リビングの扉が開いて、ヒスイとコハクが入ってきた。
大人になったヒスイの姿に、カーネリアンもジンジュも一瞬息を呑んだ。
真っ直ぐ伸びた銀の髪、若々しく弾む胸、細くくびれた腰。
美しき透明感・・・この世のものとは思えぬほど。
「どうも、遅くなりまして」
「ごめんね、待った?」
「アンタ達・・・顔緩みっぱなしだよ」
気を取り直したカーネリアンは、そう言って笑い、「おめでとう」とヒスイを祝福した。
「いい夜だったかい?」
「うん!そっちは?」
「まぁ、それなりに・・・だな。何度か足を運ばせてもらうことになりそうだよ」
「そう。じゃ、これ」
ヒスイはカーネリアンに家の鍵を渡した。
「好きに使って」
「サンキュ」
コハクはそんな二人のやりとりをにこにこしながら眺めていた。
「・・・暢気なものですね。まあ、あなたは昔からそうでしたけど」
「シンジュ。良かったね、少し成長して」
コハクはシンジュに微笑みかけた。
「おかげさまでね」
その言葉とは裏腹にシンジュはコハクを睨みつけた。
「どうするつもりなんですか。こんなことになって」
「ちゃんと考えてるよ」
「どうだか」
「・・・シンジュは相変わらずだね。メノウ様に生きうつしのヒスイが、傷ついて泣くことになるのが心配でしょうがないんだろうけど・・・ヒスイは泣かない。大丈夫だよ」




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