5話 朝、えっち。
時刻は遡り・・・出発前。
「おはよう、ヒスイ」
「おはよ〜・・・お兄ちゃん」
今朝もコハクは先に起きていて、ピシッと制服を着こなした上からエプロンをしてヒスイの目覚めを待っていた。
「さ、こっちへおいで」
「ん〜・・・」
まだぼんやりとしている視界。
コハクの手招きと、甘いミルクティーの香りに誘われて、ふらふらと。
「・・・あれ?」
いつもならテーブルの上には朝食が並べられているのだが、今朝に限ってそれがない。
端のほうにミルクティーの入ったティーカップがひとつ。それだけだ。
「?」
「朝ご飯を食べる前に、することがあります。さて何でしょう?」
コハクの口調はクイズ形式。
外の天気に負けないぐらいの晴れやかな笑顔でヒスイを見つめる。
「・・・・・・えっち?」
「はい、正解〜」
口約どおり、夕べはセックスをしなかった。
が、その分はしっかり朝へと持ち越されて。
「今、すごくしたいんだけど、いい?」
「くす。うん、いいよ」
「出発時間はまだずっと先だから、大丈夫だよ」
パジャマのズボンを脱がせ、上着のボタンを全部外す。
「よっ、と」
テーブルの上に乗せると、ヒスイは自分から脚を開いた。
コハクの愛撫を受けるために。
「今日もいい子だね・・・ヒスイ」
「ん・・・ぁ」
ぷにゅっ。と、指先で柔らかい割れ目を押してみる。
すると入口を覆っている布がすぐに温かく湿った。
「ね、おにい・・・ちゃん」
「ん?」
「先にミルクティー飲んじゃ・・・だめ?」
「だ〜め。おあずけ」
ティーカップへ向けてソロソロと伸びるヒスイの手首を掴んで、封印のキス。
「う゛〜っ・・・」
「ソレはね、香りを楽しむためのものだから、あとでちゃんと淹れ直してあげる」
ヒスイが欲しがるのを知っていて、わざとそう焦らすのだ。
会話をしながらパジャマを捲り、覗いた薄紅色の乳首を舌でなぞる。
「んっ・・・ん。おにぃちゃ・・・」
固く膨らみ立った、小さく丸い先端に・・・ちゅっ。
口に含み、それこそ夕べの飴玉のように舐め転がして、味わう。
ティーカップからはまだ湯気がたっていて、深く甘い香りを漂わせていた。
諦めきれないヒスイは少々拗ねた表情をしていたが、絶え間なく加えられる刺激に体はすっかり目覚めて、芯が、疼きはじめていた。
ハァ・・・ッ。
「も・・・パンツ脱ぐ」
“脱ぐ”と言っても“脱がせて”の意。
ヒスイは両脚をブラブラさせてコハクに催促した。
くすっ。
「焦っちゃだめだよ、ヒスイ」
コハクの指先が、食い込むくらいに激しく布の上から擦りたててきた。
「あ・・・ぁん・・・おにいちゃん・・・って・・・ば・・・」
「そろそろ中、見せてね」
「ん・・・」
テーブルに乗ったご馳走。
ヒスイを仰向けに寝かせて、大興奮。
「・・・うん。いい感じだ」
脱がせる瞬間、糸を引く。
中は愛液で満ち溢れていた。
「や・・・ぁ・・・ん・・・」
赤ちゃんのおしめを替えるような格好で、股を大きく開かせる。
(おおっ!!)
コハクの目前でキラキラと輝く潤み。
(あぁ・・・朝はまた一段と眩しい・・・)
最近特に朝のセックスにハマっている。
朝一番、リセットされたヒスイの体に、まず自分を刻み込む。
それからじゃないと、外の世界に出したくない。
・・・変態思考の極み。
「・・・好きだよ」
ぢゅっ。
唇を窄めて吸って。
「あふっ・・・ぅ・・・おに・・・ちゃぁ・・・」
生温かく微かに酸味のあるヒスイの粘液で、たっぷりと舌をヌメらせ、喉を潤す。
下半身も我慢の限界だ。
コハクはエプロンを外し、ズボンと下着を同時に下ろした。
ちなみに、ボクサーパンツ派だ。
「・・・入れる、ね」
「ん・・・」
片手で自分の肉棒を掴み、もう片方は開かれたヒスイの太股に添えて、いざ挿入。
ちゅ・・・
先をあてがい。
ぐっ・・・
狙いを定めて、沈める。
ぐぐっ・・・
ゆっくりと。奥を目指して。
「うっ・・・うぅ・・ん・・・おにいちゃ・・・ん」
テーブルクロスはシーツ代わりで。
くしゃっと両手で握ったヒスイが大きく背中を反らせる。
「はぁ・・・ヒスイ・・・ん・・・」
ヒスイの膣奥から分泌される熱い液体に亀頭を包み込まれたコハクも快感の息を洩らした。
「あ、あ、あ、あぁんっ!」
少々乱暴に引き寄せては、突き抜いて。
テーブルの上、悶えるヒスイ、姿を眺めて、更に欲情。
コハクの中で、視覚的快感の占める割合は非常に高い。
「ヒスイ・・・アレ、しようか」
アレ、とはフィニッシュを決める愛用の体位を指す。
「んっ・・・」
頬を染め、うっとりとヒスイが頷いた。
「それじゃあ・・・」
貫通状態のまま、コハクがヒスイをテーブルから抱き上げた。
ヒスイはコハクの首に手を回してしがみつく。
「うっ・・・!!くっ!」
持ち上げられて、逆にかかった体重の分だけ、否応なく内側が突き開かれる。
「あ、あ、あんっ!!」
「今日はどこまで我慢できるかな?」
ユサユサと、抱えたヒスイの体を上下左右に揺らし、顔が近付けば、キス。
ちゅ。ちゅっ。ぺちゃっ。くちゃっ。ちぅ〜っ。
揺さぶりながら、キスしっ放し。
互いの唇を貪るように、キスを繰り返す。
擦れた結合部からは大量の愛液が流れ出し、床に大きな染みを作っていた。
ハッ。ハァ。ハァ。
「あぅっ!あっ・・・あ」
上も下もごっちゃになって奏でる音は、たとえようもなく淫猥で。
ヒスイの乱れ具合も半端じゃない。
(おおおっ!今朝のヒスイと父ちゃん、超激しいぜぇぇ!)
そこに覗き要員、ジスト。息を殺してガッツポーズ。
(アレはエキベン・ファック!!)
ジストによる体位説明。パート1。
(名前の由来は勿論駅弁。父ちゃんが駅弁売りで、ヒスイが駅弁。うん、きっとそうだ!!)
隠れて読んだエロ本にそんなことが書いてあった。
(ヒスイが小柄で軽くて、父ちゃんの腰が強いからデキる技だ!!)
「アレ、カッコイイよな〜・・・」
(いつかオレもあんなんできるようになるのかなぁ〜・・・)
「・・・・・・」
なにせ相手がいないので、イメージ化に苦戦。
理想の女の子。
無理矢理想像しようものなら、相手はヒスイになってしまう。
ボッ!と、突然耳まで赤くなる。
(だっ・・・だめ!だめ!何考えてんだ、オレっ!!)
「あっ!はぁんっ!おに・・・あっ・・・あぁっ!!」
ぐちゃっ。ぷちゅっ。くちゅくちゅ。
(わ〜っ!!!ヒスイっ!そんな音声出さないでっ!!)
覗きに来ているのに、思わず耳と目を塞ぐ。
「うぅ・・・今回はちょっと刺激が強すぎた・・・かも」
「朝から燃えちゃったね」
「うん、燃えちゃった」
絶頂を超えた二人が鼻先を合わせて笑う。
「シャワーを浴びた方が良さそうだ」
「まだ時間ある?」
「大丈夫だよ。“30分でシャワーを済ませて、朝食”にしよう」
即ち、朝食は30分後。
それはコハクからジストに向けられた言葉だった。
(あ・・・やっぱバレてた)
しかし、覗きでコハクに怒られたことは一度もない。
ヒスイにバレたら大変なことになるのはわかっているが、そこは男同士の連携でカバーしていた。
そして30分後。
白々しいほどに偶然を装ったジストは、サルファーを連れて夫婦の部屋を訪れた。
「ヒスイ!父ちゃん!おっはよ〜!!」
試験開始直前。海底神殿前にて。
“海底神殿”と言うだけあって、その場所は深い海の底にある。
試験官のコハクとヒスイ。
受験者のサルファーとジスト。
4人は広大な海に臨んで立っていた。
「やるよ。お兄ちゃん」
「うん、よろしく」
先陣をきったのはヒスイだ。
見慣れたエクソシストの制服を着て。
網のタイツ。赤いリボンと靴。
両脇から少しずつとった髪をリボンで結び、厚底で丸いデザインの靴を履いている。
見た目は15くらいの少女。実年齢は・・・40を超えていた。
「ヒスイが魔法使うとこ初めてみる!オレちょっとワクワクしてきたかも」
ジストがサルファーの耳元で囁く。
「・・・なんだアレ・・・」
ヒスイの右手に握られているのは、ステッキ。
デザインはかなり子供っぽい。
おもちゃ屋で見たことがある、魔法少女のソレと似て。
サルファー、内心、ツボ。不覚にもオタク心を擽られる。
「ヒスイの武器はアレかぁ〜・・・可愛いよなぁ」
ジストも浮かれまくっていた。
『・・・開け!深海へのトビラ!』
えいっ!とヒスイがステッキを振る。
先端から海へ向かって飛び出した、巨大な影。
その輪郭は・・・阿修羅。
左右に3本ずつある太い腕で海を割る。
「おお〜っ!!」
その迫力にサルファーも驚きを隠せない。
「あのステッキがないとダメだけど、ヒスイはね、古代魔法の使い手なんだよ」
この流れでいけば、海は真っ二つに割れ、海底神殿が見えるはず・・・
「え?あれ?」
・・・なのだが、ジストの期待はあっさり裏切られた。
阿修羅が、苦戦している。
海に腕を突っ込んで、うんうんと唸っている始末で。
その姿はかなりマヌケだった。
「あ〜・・・アレね」
ぷくく・・・
ヒスイの目を盗んで、コハクが笑う。
「古代魔法は使い手のセンスが反映されるから」
「ハッ!だからあんなに滑稽なのか」
サルファーが斬る。が。
「なんというか・・・うん。可愛いよね」
「うん!可愛い!可愛い!」
コハクとジストは聞いていない。
「アレは余興みたいなもので、ちゃんと開くから大丈夫だよ」
ゴゴゴゴ・・・ザアァァァーッ・・・
「お〜っ!!ホントに割れたっ!ヒスイすげぇ〜!!」
荘厳な景色。ジストは額に手を当て、遙か遠くまで眺めた。
「いいね?ここから先は“親子”じゃない」
コハクが子供達の頭を撫でる。
サルファーとジストは顔を見合わせ、決意に満ちた表情で頷いた。
「「うん!」」
クスクスクス・・・
「ママらしい魔法だね」
かつて4人が立っていた場所に現れた、スピネルとオニキス。
「割る手間が省けたな。オレ達も行くぞ」
「うん」
スピネルは長い前髪をピンで留め、ミニスカートにロングブーツという格好で、上からフード付きの黒いコートを羽織っている。
「此処にアレがあるとも思えないけど」
リストのようなものをペラペラ捲り、スピネルがぼやいた。
「しらみつぶしに探すだけだ」
「パパってホント、人使い荒いよね」
ふぅ・・・スピネルの溜息。
「アイツは・・・昔からそうだ」
はぁっ・・・オニキスの溜息。
遺伝なのか、やたらと溜息の多い二人。
「とにかく行こう」
「ああ、そうだな」
同時刻。赤い屋根の屋敷では。
「たすけて」
「・・・・・・」
トパーズの前に舞い降りたのは、座天使トロウンズ。
神直属の3天使のうちのひとりだった。
髪も、瞳も、翼さえも、空と同じ色をした天使。
職業はエクソシスト。
(名前は確か・・・イズ)
エクソシストの寮で生活していた時分に一度だけ面識があった。
(だが、それだけだ。助けてやる義理はない)
「出勤前だ。他をあたれ」
トパーズは再び教育機関の総括役に戻り、自らも数学教師として勤務する傍ら、副業としてエクソシストも続けていた。
熾天使であるコハクの同胞ならば、尚更関わりたくない。
神直属云々と言っても“前”の話だ。
何が起ころうと“現”の自分とは無関係。
そう決め込んで、イズの脇を抜けようとした瞬間。
ガッチリ腕を掴まれて。
じ〜・・・っ。
何かを訴えるような熱い眼差し。
「・・・コハクいない。ヒスイもいない。だから・・・」
トパーズに助けを斯うのだと、瞳で語る。
「知ったことか。人助けの趣味はない」
イズの手を払いのけようとするが、思いのほか力が強く、離れない。
「・・・きて」
「・・・・・・」
(トロウンズは本来力の強い天使だ。力だけならセラフィムをも凌ぐ・・・)
能力の大部分を封印した状態では敵うはずもなく。
抵抗虚しく引きずられ・・・拉致されるトパーズ。
「・・・どこへ連れて行く気だ」
「エクソシストの寮。パートナー・・・死にそう。たすけて」