World Joker

48話 男女の距離



 

 

 
同じく・・・深夜。

理事長室にて。

 

「オレ週末決闘なんだよ〜、帰らせてくれ〜」

ヒスイ代理のジンカイトは、この時間までトパーズの仕事に付き合わされていた。

「・・・・・・」

ジンが何をどう訴えようが、無視。トパーズは全く取り合わない。

「・・・・・・」(やっぱり今日も鬼だ・・・)

週末に危機を感じつつも、義兄のペースに乗せられてしまうジン。

この調子では朝まで帰してもらえそうにない。

(まいったな・・・)

決闘の準備はできるだけ念入りにしておきたいのだ。

「グロッシュラーの狂戦士が相手なんだ・・・オレも修業とかしないと・・・」

トパーズ相手に愚痴ってみるが・・・聞き流される。

それもまた、いつものことである。

(何か用事でもあるのか?)

トパーズはいつも以上に根を詰めている様子で。どこか急いているように見える。

(顔色があんまり良くないな。疲れてるんじゃないか?)

ジンは席を立ち、徹夜のお供、コーヒーを淹れた。

(ひょっとして何日も寝てないんじゃ・・・)

人の心配をしている場合ではないのだが、トパーズの机にコーヒーを置きがてら、顔を覗き込んだ。

(・・・間近で見ると銀の血族って本当に綺麗だな)

整い過ぎた顔立ちもさることながら。

(肌とか・・・男とは思えない・・・睫毛も長いよな・・・)

圧倒的な美貌を前にジンの思考が脱線・・・その時。

トパーズが席を立った。

ジンの視線に反撃するように、クールな視線で見返す。

「な・・・なんだよ」

 

 

「・・・勝ちたいか」

 

 

トパーズが言った。

「・・・当たり前だ。国の運命が懸かってるんだぞ」

ひと呼吸の後、ジンは真面目な顔で答えた。

すると、トパーズはニヤリと笑い、こう続けた。

「いいか、お前に必要なのは“修業”じゃない」

「だったら何だっていうんだ?」

「・・・“改造”だ」

「!!!」

(改造!?何言ってるんだ!?)

身の危険を感じ、一気に飛び退くジン。

「怖いこと言うなよ・・・なあ、おい・・・」

ジンを壁際に追い詰めるようにして、トパーズがにじり寄る。

その隙のない美しさが・・・恐ろしい。

「なに、すぐ終わる」

「や・・・やめてくれ・・・」

 

 

うわぁぁぁぁー!!!

 

 

 

 

・・・翌朝。

 

「うわっ・・・!?」

事件はここでも起きていた。

赤い屋根の屋敷。ジストの部屋にて。

 

 

「なんでオレ、ヒスイのパンツ持ってんの!?」

 

 

いつものように目覚ましの音で起床・・・すると。

その手にヒスイの下着を握り締めていた。

純白レースの紐パンを、それはそれは大切そうに。

ジストは赤くなった後すぐに青くなった。

いつ、どこで、どうやって手に入れたのか・・・全く覚えがなかったのだ。

昼間のヒスイの制服姿を思い浮かべながら、ご機嫌な就寝をしたところまでしか記憶にない。

(パンツ盗んで何してたんだろ、オレ・・・)

考えるまでもなく、用途はだいたい決まっている。

(やばっ・・・モロ変質者だ・・・)

ベッドの上で頭を抱える。

航海を終えてから、本当にどうかしてしまっている。

「だめだろっ!ヒスイは母ちゃんなんだから!!」自分を叱りつけるジスト。

(息子にパンツ盗まれたって知ったら・・・ヒスイ、嫌な気分になるだろうな)

ヒスイのパンツ・・・これまで全く気にならなかったといえば嘘になるが・・・ここまでする気は微塵もなかった。

「どうしちゃったんだ・・・オレ」

うなだれ、溜息。しかし、ジストに思い悩む時間はなく。

枕元の時計により、忙しない現実が突き付けられた。

「あっ!!今日日直だっ!!」

いつもより早く登校しなければならないというのに、起きた時間からして遅かった。

ジストは朝食ヌキで家を出る羽目になった。更に・・・

(うわ・・・やっちゃった)

ジスト、学校にて。

時間割の確認を怠ったため、今日必要な教科書・ノートが鞄からごっそり抜けていた。

代わりに、ヒスイの紐パンがしっかりと入っている。

今朝は本当にソレで頭が一杯だったのだ。

忘れ物をしたといっても、両隣の女の子が机をくっつけ、競うようにして教科書を見せてくれたので、大事には至らなかった。

 

問題は学校ではなく・・・

 

 

「た、ただいま」と、ジスト。

「あ、おかえり〜」出迎えたのはヒスイだった。

 

 

教壇下のお勤めを終え、ジストより先に帰っていたのだ。

時刻は4時・・・昼寝ではなく夕寝だが、ヒスイはこれからひと眠りするという。

「ジストも一緒に寝る?」

「え!?オレもっ!?」

「うん」

何とも嬉しいお誘いだが、今はやましいことだらけで・・・ジストの笑顔が引きつる。

(だってもし寝てる間にヒスイに変なことしちゃったら・・・)

息子でいられなくなってしまう。

(そんなの絶対嫌だっ!!)

ジストはブンブンと頭を振った・・・葛藤する少年、かなり挙動不審だ。

「ジスト?寝るの?寝ないの?」

「寝るよっ!寝る!寝る!着替えてくるからちょっとだけ待っててっ!」

 

 

そして・・・

 

 

「・・・なんでそんなに離れてるの?」

その距離、約2m。

ジストはヒスイから離れた場所で横になった。

それは悲しくも親子の距離ではなく。

性を意識した男と女の距離だった。

「?もっとこっちおいでよ」ヒスイが言った。

「えっ!?」あらゆる意味でジストのドキドキは止まらない。

「えーっと・・・あっ!ほらっ!オレ寝相悪いしっ!!」

「そんなの知ってるよ」何を今更とヒスイが笑う。

それなら・・・と、寝転んだままヒスイが一回転。

距離を詰めようとする、が。

同時にジストも一回転。二人の距離は縮まらない。

「・・・・・・」「・・・・・・」

ヒスイがごろんとすれば、ジストもごろん。

ごろん、ごろん、ごろん・・・一定の距離を保ったまま、リビングの床を転がって

ゆく二人。

傍目にはマヌケに映るが、ジストの心は真剣そのもので。

(だめだっ!!こんなんじゃ!!)

逃げ転がりながら思う。

ヒスイと夕寝をする前にやるべきことがあるのだ。

「ごめんっ!また今度っ!!」と、ジストは床から立ち上がった。

(盗んだパンツ返して、父ちゃんに殴られてこよう!!)

ジストはコハクの裁きを受けるべくキッチンへと走った。

 

 

「父ちゃんっ!!」

「ん?」

「・・・ごめんなさいっ!!」

謝罪の言葉と共に深く頭を下げ、例の紐パンをコハクに差し出すジスト・・・

「これ、オレがぬす・・・」

 

 

「ああ、風で飛ばされちゃったんだね」

 

 

コハクはジストの言葉を遮った。

見つけてくれてありがとう、と、笑顔で受け取る。

「父ちゃん・・・」

それは明らかに洗濯済みのものではないのに。

コハクの気遣いが、胸に苦しく。

「違うんだっ!!これはオレがっ・・・」

「うん、そうだとしても。ちゃんと届けてくれたから」

大袈裟に騒ぐほどのことでもない、と。

ジストの頭に手をのせ、コハクは笑顔のまま言った。

「君は本当に正直者だね」

(父親があのひねくれ者とは思えないな)

ジストは、嘘が下手なヒスイ似なのだ。どうあっても憎めない。

 

「・・・っと、お客さんだ」

 

コハクの視線がキッチンの裏口に注がれた。

「やあ、いらっしゃい」

そこには長女シトリンが立っていた。

“あれ”の調査報告に来たのだ。が・・・

来て早々、「ジスト、悪いが席を外してくれ」と、すまなそうに言った。

「あ、うん」

「ヒスイと寝ておいで」コハクが見送る。

ジストが出ていったのを確認すると、シトリンはコハクに身を寄せ、小声で耳打ちした。

「用心に越したことはないと思うから言うが・・・ジストはさかりの季節だ」

さかりの季節・・・猫のシトリンらしい言い回しで。

「少なからず、母上を意識しているぞ」

「うん、そうかもね」

コハクはあっさり頷いた。それから、「大丈夫だよ」と。

ジストから返却された紐パンをしげしげと眺めながら言った。

「ジストはこの家で育った子供だ」

 

 

 

ヒスイが育てた子供だよ。

 

 

 

「・・・・・・」

(兄上とは違うと言いたいのか?)

シトリンは口を閉ざしたまま。

そうであって欲しいと願うが、血の欲望はジストの心と違うところにあるのではないかと・・・心配の種は依然として消えなかった。

「それでどうだった?」と、コハク。

話題は“あれ”についてだ。

シトリンも気持ちを切り替え、口を開いた。

「ああ、それなんだが・・・」

 

 

 
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