World Joker/Side-B

後日談

双子兄弟の熱愛スキャンダル



[前編]

アイボリー、17才。
中性的な顔立ちのまま、ずいぶんと大人っぽくなっていた。
金の髪にこだわりがあるらしく、鎖骨あたりまで毛先を綺麗に伸ばしている。
身長は20センチ以上もUPし、しっかりとした男子体型になっていた。
しかもまだ、成長は続いているようだ。

そんなある日のことだった。

「明日、俺の彼女連れてくるから」

アイボリーは、コハクとヒスイに向け、いきなりそう宣言した。
 
 

…その日の夜。
意気込むアイボリーと、気乗りしなそうなマーキュリーが、スピネルの元を訪れた。

「彼女のフリなら、クラスの子に頼めばいいのに。なんで僕が女装なんか…」

と、マーキュリー。

「まー、俺が男子校だってこと忘れてね?それに、付き合いが長い方がボロが出ないだろ」

当たり前のように話すアイボリーに対し、マーキュリーが言った。

「確かにそうかもしれないけど、僕じゃもう厳しいと思うよ」

ただでさえ、実年齢より上に見られるのだ。
つまりそれだけ“男”だということ。
どんなに綺麗な顔をしていても、だ。

「そんなことはわかってる。けど安心しろ」

と、やたら前向きなアイボリー。

「そのために、スピネルんとこ来たんだからな」

どこで聞きつけたのか…
かつての女装男子であるスピネルに、協力を仰ぐつもりなのだ。

「スピネルなら、完璧に仕上げてくれるよな!」
「それは構わないけど ―」

2人のやりとりを聞いているうちに、事態は把握できた…が。
なぜ急に、そんなイタズラを思いついたのか。
尋ねる前に、考える。

「……」
(あーくんも年頃だから…ママの気持ちを、試したくなったのかもしれない)

イタズラのようで、イタズラではなく。
そのことに、マーキュリーも気付いているのだろう。
だからこそ、嫌々ながらもニセの彼女役を引き受けようとしているのだ。

「……」

スピネルは瞳を伏せて静かに笑い。
こう言った。

「準備しておくから、明日の朝、まーくんだけ先に来てくれる?あーくんは後から迎えに来て」 


 
そして、翌日 ―

「おおー!!すげーじゃん!!女に見える」

ライトブラウンのウィッグを肩の長さで内巻きにして。
細身のスキニーパンツに、ゆったりチュニックというシンプルな組み合わせだが、大きめのアクセサリーを上手に使い、女らしさを見事演出している。

「…なんつーか、ずいぶん年上っぽいけど」
「…うるさいよ」

と、マーキュリー。
パンプスの踵で、アイボリーの足を踏みつける。

「あー…女に足踏まれると、痛ぇな。冷や汗でるわ」
「気を付けた方がいいよ。僕は女じゃないけどね」

2人の言い草に、スピネルはくすくすと笑いながら。

「まーくんは、素材としてはいいんだけど、身長があるから。ワンピースで無理に女の子っぽくするよりも、パンツスタイルの方が自然かと思って」
「さすがスピネル!ありがとな!」
「頑張ってね」
(パパは騙せないだろうけど)

偽造カップルとして。
赤い屋根の屋敷へと向かう双子兄弟を見送って。

「兄弟愛…だね」

眩しそうに目を細めるスピネル。

「懐かしくなっちゃったな」

と、微笑みを浮かべ。
ポケットから携帯電話を取り出した。

「…もしもし、ジスト?急で悪いんだけど、今夜空いてる?…うん、久しぶりに飲まない?」

「サルファーも誘って、3人で」

 

[後編]


 赤い屋根の屋敷―

ヒスイはコハクの隣でソワソワしていた。
プリーツスカートとアンティークなブラウスをゴールド系の色合いで統一し、上品な雰囲気…なのだが。
息子の彼女を紹介されるとなれば、大人しく座ってなどいられない。
落ち着かない上に、人見知りも加わって。
玄関のチャイムが鳴った瞬間、ヒスイは反射的にコハクの後ろに隠れてしまった。

「いらっしゃい」

と、柔らかな物腰で、コハクが息子達を出迎える。
女装をしているマーキュリーを見るとすぐ。

「何て呼べばいいかな?」

こっそり耳打ちをして。

「…キュトスで、お願いします」

マーキュリーが小声で返答する。
“了解”コハクは頷き。
隠れているヒスイに声をかけた。

「ヒスイ、あーくんの彼女のキュトスさんだよ」
「……」

コハクの横に並び、マーキュリー改めキュトスを、じっと見上げるヒスイ。
容姿が完璧に整っているため、黙っていると美しい人形そのものなのだが。
内面では激しく葛藤していた。

(一言、これさえ言えればいいのよ!!夕べお兄ちゃんといっぱい練習したじゃない!!このままじゃ、変なお母さんだと思われちゃう!!)

そして…

「いらっしゃい。ゆっくりしていってね」

時間はかかったが、やっとそう口にして。

(言えた!言えたよ!!)

…可愛すぎるドヤ顔に、男達は皆、笑い出しそうだった。

「それじゃあ、中へどうぞ」

キュトスを案内するコハク。
一方で。

「ヒスイ、ちょっとこっち来て」

と、アイボリー。
リビングに向かう途中の廊下でヒスイを引き止めた…かと思うと。

「ちょ…なに?」

間にヒスイを囲う形で、壁に両手をついた。
いとも簡単に逃げ道を塞がれたヒスイは、少々驚いたようだった。

「あーくん?どうしたの???」
「…ヒスイ、俺になんか言うことねぇ?」
「言うこと?あ!おめでとう!!」
「……」
「あーくんが、彼女連れてくるって言うから、緊張して眠れなかったよ」

と、話すヒスイ。
悪気はない。

「…て、ゆーかさ」

アイボリーはヒスイの額に自身の額を軽く重ね。

「変だと思わねーの?あんだけヒスイのこと好きだって言ってた俺が、彼女つくるとか」
「そういうこともあるでしょ?子供の頃のことだもん」
「……」

積年の恋心を一言で。
しかも笑顔で片付けられ。

(ヒスイってマジで、コハク以外の男に容赦ねぇな)

「あーくん、さっきから顔近いよ」
「近付けてんの」

アイボリーは、らしくない溜息を漏らし。
それからこう言った。

「…なぁ、ヒスイ。俺、コハクに似てねぇ?」
「うーん。あんまり…」

アイボリーがなぜ今、そんなことを気にするのか。
質問の意図がわからなかったが、ヒスイなりに解釈し。
アイボリーの顔を両手で包んで言った。

「あーくんはね、お兄ちゃんと私が、混ざり合った顔してるの」
「……」
「私は、この顔好きだよ。だから、自信持って!」
「ヒスイ…」
「あ、ごめん。彼女が待ってるね」

パッとヒスイが手を放す。
そこには、キュトスという名のマーキュリーが立っていた。
ところが…

「いい、もうちょいこのままで」

ヒスイが離した手を握り、自身の頬へ戻そうとするアイボリー。

「よくないでしょ!!」

ヒスイは声を荒げ。
アイボリーの腕の間から抜け出した、が。
抱擁で捕獲される。
もうそれだけの体格差があった。

「あーくん!?何やってるのよ!マザコンだと思われたら困るでしょ!!」
「別に?今更、関係ねーもん」
「はぁっ!?」

ヒスイの半端ない焦りっぷりに、アイボリーが笑うと。
キュトス…マーキュリーも笑い出し。
ウィッグを外した。

「え!?あれっ???ずいぶんまーくんに似た彼女だね」
「だーかーら、彼女じゃねぇの」
「…僕です。お母さん」
「イタズラ…だったの?」
「……」

何も言わずにアイボリーが腕を解く、と。
パンッ!その頬にヒスイのビンタが決まる。

「私っ!こういうイタズラ嫌い!!あーくんのばかぁぁぁ!!」

大声で叫んだあと、廊下を走って。滑って。転ぶ…寸前で。
ヒスイを回収しに、コハクが姿を見せた。

「気はすんだ?」

と、アイボリーに尋ね。

「まーな」

アイボリーがそう返事をすると。
“後は任せて”声なき声で告げ。
怒るヒスイを抱っこして、2階へと上がっていった。

「あーあ」

と、アイボリー。
ヒスイに叩かれた頬を触りながら。

「コハクになりてー…」

ボソリと呟き。
振り返る。

「それにしてもヒスイ、今までで一番怒ったんじゃね?」

マーキュリーは苦笑いで。

「わざわざ怒らせるようなことしたんじゃないか。こうなるって、わかってたくせに」
「だよなぁ」

と、アイボリーが言葉を返す。続けてこう明かした。

「試したかったのは、自分の気持ちの方かもしんねー。俺、やっぱヒスイ好き。全く相手にされなくてもブレねーわ」
「不屈すぎて怖いよ、あーくん」
「俺も怖い」

皮肉笑いで天井を仰ぐアイボリー。
逆にマーキュリーは瞳を伏せ。

「まあ、何かあったとしても―」

「半分は背負うよ。双子だからね」

アイボリーは上を向いたまま、横目でマーキュリーを見ると。
笑いを含んだ口調で言った。

「その台詞、そのまんま返すぜ」


+++END+++


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