World Joker/Side-B

番外編

『Shell*Blue』




アクアとクジャがモデルを務める雑誌『Shell*Blue』。
今、人気の二人は『Shell*Blue』の表紙を飾るべく、本日も撮影に臨んでいた。ただ・・・

「アクアちゃん、ダメダメ、そんなんじゃ」

カメラマンの厳しい声。
撮影で滅多にNGを出すことがないアクアが、苦戦していた。

今回のテーマは“アツアツの恋人達”。

相手役のクジャと、いつもより濃密な絡みを要求され、実行するも。
全然気持ちが入っていない、と、度々指摘を受けていた。
段々と不機嫌になるアクア。
これでは撮影どころではなく、場の空気も悪くなる。
そこでクジャが。

「いやんっ、アクアちゃ〜ん、ちょっと休憩しない?」
と、強引に休憩タイムへ。
 
「カメラの前だけの恋人が相手じゃ、やっぱりその気になれない?」

用意したパイプ椅子にアクアを座らせ、いつものオネエ口調で尋ねる。

「そ〜ゆ〜わけじゃないけどぉ〜」

チラリ、アクアの視線が動く。その先には、犬の姿をしたコクヨウ。
赤い首輪から伸びた鎖が、スタジオの柱に括り付けられている。
今日に限ってだが、アクアはコクヨウを撮影現場に連れてきていたのだ。
撮影スタッフ達は皆、アクアの飼い犬だと思っているようだ。が。

「彼氏クンが気になるの?」

と、クジャ。
コクヨウと直接話をしたことはないが、アクアから話は聞いていた。
同棲中だということも。
当のコクヨウはそっぽを向いて。
アクアと目を合わせようともしない。

「無理矢理連れてきたらぁ〜、なぁんか機嫌悪くって〜」
「あら、でも大丈夫よ?」
「なんで〜?」

アルゴスの目を持つクジャは知っている。

「撮影中、ずっとアクアちゃんのこと見てるもの。気にしてるのよ、きっと」

メッシュの前髪を揺らし、笑うクジャ。

「クジャってぇ〜、いつも見てる見てるって言うけど〜、ホントに見てる〜?」

アクアの、疑いの眼差し。

「いやんっ、ちゃんと見てるわよ?僕は人よりちょっと目がいいの。まあ、それだけだけど」
「ふぅ〜ん・・・ま、いいや〜、ちょっと来て」
「アクアちゃん?」

アクアに連れられ、3Fのスタジオを出る・・・階段の踊り場までいくと、突然アクアが。

「ねぇ〜、クジャってぇ〜、アクアの“子分”だよね〜?」
「ええ、そうよ?」

クジャが、どこか誇らしげに頷く。
この業界で偶然出会ったアクアに惹かれ、友人付き合いをしていく中で、自らこのポジションを獲得したのだ。
アクアの我儘に振り回されるのが、楽しくて仕方がなかった。

「だったらぁ〜」

と、髪を掻き上げるアクア。
とても10代とは思えない妖艶な微笑みを浮かべ、さらっと鬼畜発言。

「今すぐ階段から落ちてくんない〜?」
 
  

場面は変わり。
こちら、スタジオ。

クジャとアクアが出て行ってから、20分が過ぎていた。
主役の二人がいないとなれば、遅かれ早かれ、現場が騒ぎ出す。

「・・・・・・」

寝たフリを決め込んでいたコクヨウも、片目を開けたり閉じたり、落ち付かない。

その時。

ざわっ・・・騒ぎが一段と大きくなった。
クジャが、派手な負傷をして戻ってきたのだ。
顔から手から、不自然なほど包帯が巻いてある。

「ごめんなさーい。階段から落ちちゃった」

と、スタッフに誤るクジャだったが・・・
今日の撮影をどうするか、当然モメる。
そこで。

「だぁ〜いじょ〜ぶ。クジャの代役はぁ、アクアが用意するからぁ〜」

任せて〜と、胸を叩くアクア。
それから、柱に縛り付けていたコクヨウを連れ、外へ。

「んだよっ!こんなトコ連れてきやがって!!」

獣っぽく唸り、威嚇するコクヨウ。
その一方で。

「用意するって、お前、アテあんのかよ!?」

と、心配する。
アクアとスタッフ達とのやりとりを聞いていたらしい。
するとアクアは。

「あるよ〜。ほらぁ〜目の前にいるじゃん」
「・・・・・・」

コクヨウは横を向き、聞こえないフリをした・・・が。
アクアはコクヨウの鎖を引き、犬の体を手繰り寄せると、短い呪文を唱えた。
メノウ直伝、コクヨウを元の姿に戻す魔法だ。

「おま・・・っ!!なにすん・・・」

文句を言おうとしたコクヨウの口を、アクアがキスで塞ぐ。
本来の力が出せぬよう、呪いのようなものがかけられているため、コクヨウは抵抗できず。
唇だけでなく、口の中までアクアに蹂躙された。

「くそ・・・っ!!」男のプライドは、もはやズタズタだ。

「ね〜・・・コクヨ〜おねがぁ〜い。アクアと一緒に表紙モデルやって〜」
「ハァン?モデルだぁ?冗談じゃねぇ!!」
「冗談じゃないよ〜?ほらぁ〜アクアって、サンゴちゃんに似て、おっぱい大きいし〜?」

アクアは、挑発的な目でコクヨウを見上げた。
“サンゴ”は、コクヨウの実姉で、アクアの祖母だ。

「クジャはバイセクだから〜、アクアのおっぱいに惑わされたりしないけど〜。他のコと組んだら、撮影中おっぱい触られちゃうかも〜」
「・・・・・・」
「ね〜、コクヨ〜、アクアのおっぱい守って〜?」

・・・こんな時だけ、か弱いフリだ。
傍からすれば、屁理屈以外の何物でもないが。
案外心配性なコクヨウは・・・鵜呑みにしてしまう。

「・・・・・・」(雑誌の撮影って、そんなに危ねぇモンなのか!?)
「アクアのおっぱいを守るってことは〜、おば〜ちゃんのおっぱいを守るってことなんだよ〜?」

コクヨウに体をすり寄せ、アクアが言った。

「意味わかんねぇよ、バカ・・・」

サンゴを思い出してか、コクヨウは少し赤い顔で。

「とにかく〜、このままじゃお仕事できなくて困るの〜!おねがぁ〜い!」

アクアの口調には緊張感の欠片もないが、言っていることには責任感がある。

「チッ・・・しょうがねぇ・・・今回だけだかんな!!!」
「わぁ〜い!!コクヨ〜大好き〜ぃ!!」


説得の甲斐あり、臨時モデルを引き受けたコクヨウとスタジオに戻る。
アクアと同じ銀髪のイケメンの出現に、現場は再び大騒ぎだ。
スマートで長身、整った顔立ちからして、この場に立てば、モデルにしか見えないコクヨウ。

“一体、どこの事務所に所属するモデルなのか”

スタッフは揃ってそう口にした。無論、知る者はいない。
スタジオの角に立っていたクジャが、アクアに向け、軽く片目を瞑り。
同じようにアクアも片目を瞑ってみせた。

「ほらぁ〜、コクヨ〜、協力してくれるんでしょ〜?」

カメラの前で堂々とコクヨウに抱きつくアクア。
本気モード全開。その表情は、生き生きしている。

「いいよ〜!アクアちゃん!視線こっちね〜!」

フラッシュの嵐。
コクヨウは、華やかなクジャとはまた違った魅力を持つモデルだった。
逸材を前に、カメラマンのテンションも上がる。
最初は嫌々だったコクヨウも次第にスタジオのムードに慣れ。
意外な才能だった。
もともとモデル向きだったのかもしれない。
モデルらしく表情を作り、結構・・・その気になっている。

「・・・いい雑誌になりそうね」

ふぅ。
息を吐きながら・・・笑顔のクジャ。
お役御免でスタジオを去る足取りは軽く、とても怪我人とは思えない。
それもそのはず、怪我などしていないのだ。
アクアの作戦に協力したまでのこと。
クジャは踊り場に立ち、落ちたことになっている階段を見下ろしながら、アクアに巻かれた包帯をほどいた。

「本当、いい顔してたわ、アクアちゃん」

全身の“目”に焼き付いている。

「実在の恋人に、架空の恋人が、勝てるはずないものね」

そんなことを呟きつつ、メッシュの前髪を弄る。
その時。
  
「ク〜ジャ、ありがと〜」

早々に礼を述べながら、アクアが階段を下りてきた。

「アクアちゃん」

少し驚いた顔でクジャが迎える。

「撮影は?」
「一発OKだよぉ〜」アクアがピースを決める。

「身を引いた甲斐があるわね」クジャが冗談交じりに言うと。

「ごほ〜びあげる〜」と、アクア。

「ご褒美?いやんっ、嬉しい」

オカマっぽく体をくねらせるクジャ。
何かしら〜?と、尋ねたら。

「アクアのキス〜」

アクアはそう言って、ポーチから白いハンカチを取り出した。
そこに、口づける。
口紅の色がハンカチへと移った。

「コレ、クジャにあげる〜」

小悪魔的な微笑みで、わざとハンカチを床に落とす。
クジャが拾い上げるのを見届けると・・・

「アクアはぁ〜、ママみたいに隙だらけじゃないから〜。じゃね〜」

軽く手を振り、階段を駆け上っていった。

「アクアちゃんて、案外身持ちが固いのよね」

恋人のコクヨウにしっかり操を立てている。

「立派よ、アクアちゃん」

クジャの口から笑いが漏れる。
ご褒美のハンカチには、唇の形がくっきりと残っていた。
鼻先に持っていくと、アクア愛用の香水の匂い。

「まったく・・・」

鬼畜なんだか。
乙女なんだか。
鮮やかな二面性だ。

「そゆとこ、好きよ」

笑いながら、肩を竦めるクジャ。

「このキスは・・・貰っておくわね」


そして後日。
無事発行された、雑誌『Shell*Blue』。
アクアとコクヨウ、二人のキスシーンが表紙を飾り、モルダバイト城下で大きな話題を呼んだとか。



+++END+++


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