番外編
妄想ロマンス
BL漫画のネタにされてしまった可哀想な(?)男達。BL話ではありません。
ジャンル別漫画賞、薔薇部門。
プロ・アマ不問、受賞者には全員担当付きで徹底指導、おまけに賞金。
・・・と、いう事で。
サルファーは今、漫画を描いていた。
薔薇とはボーイズラブのことだ。
人気ジャンルで、自分の実力がどこまで通用するか、力試しをするのだと本人は言う、が。
「サルファぁぁぁ〜!!」
呪わしいヒスイの声。←消しゴムかけのアシスタントとして徴集された。
「ちょっとっ!なによっ!コレっ!!」
ヒスイは原稿を見るなり、物凄い剣幕でクレームをつけた。
「この“琥珀”ってキャラ、お兄ちゃんでしょっ!!」
すると、サルファーは開き直り。
「何だよ、証拠でもあるのかよ。名前だって違・・・」
「漢字かカタカナかの違いだけでしょっ!!!」
食ってかかるヒスイ。
(お兄ちゃんが他のヒトとエッチするなんて・・・っ!!)
例えフィクションでも許せない。
しかもその相手というのが・・・金色のワカメ頭。
“硫黄”という名の、サルファーだったりする。
(サルファーってやっぱりお兄ちゃんのこと好きなんじゃ・・・)
紙の上でイチャイチャ・・・願望の現れとしか思えない。
ヒスイは疑惑に満ちた眼差しを向け。
「・・・なんでそんなに堂々としてるの?」
「フィクションだからに決まってるだろ」
「・・・・・・」
そう言われて、納得できるものではない。
ヒスイの怒りは半端なかった。
頬をパンパンに膨らませ、
「私も描く!」
と、いきなり投稿宣言。
ライバルとして名乗りをあげる。
「フン、やれるもんなら、やってみろよ」
サルファーの売り言葉。
「見てなさいよ!サルファーなんか、私の漫画でスーパーホモにしてやるんだからっ!!」
ヒスイの買い言葉。
こうしてヒスイは漫画賞参戦を決め、捨て台詞を残して、サルファー宅を後にした。
「お兄ちゃんがホモってる漫画で、賞なんか獲らせないんだから・・・なんとしても私が阻止するしかないわ!!」
寮の廊下を勇み足で歩いていると。
「アマデウス?もうお帰りですの?」
トーンを買いに出ていたタンジェとバッタリ。
これは幸運だった。
「タンジェ!ちょうど良かった!教えて貰いたいことがあるの!」
ヒスイにとって、BLは全く免疫のないジャンルで。
正直、どこから手をつけていいか、わからなかったのだ。
その点タンジェは、BL漫画もGL漫画も持っている。
それなりに知識があるということで。
唯一、頼りにできる人物でもあった。
家に来て!とタンジェの手を引くヒスイ・・・頭に血が昇っているせいか、ヒスイにしては行動的だ。
赤い屋根の屋敷。
ヒスイの部屋。
「男のヒトは入っちゃダメっ!」
と、コハクを遠ざけ、扉を閉める。
ヒスイの部屋は、今や開かずの間となっていた。
「それでね、私もBL漫画を描いてみようと思うんだけど・・・」
プロットだけでも協力して欲しいと、ヒスイに頼み込まれ・・・嫌とは言えないタンジェ。
「少しだけなら・・・」と、承諾する。
「やっぱり性描写はあった方がいいのかな?」真顔で言い放つヒスイ。
「そうですわね。期待する読者が多いと思いますわ」タンジェも真顔で答える。
「男の子同士のえっちは、お尻の穴でするんでしょ?」
「ええ、それだけではありませんけれど」
かくして、BL漫画大作戦(?)が始まった。
「まずは、誰と誰を絡めるか・・・で、受と攻に分ければいいのよね?」
ヒスイはとりあえず、身近な男性の名前をノートに書き出した。
「ジンくん、受。トパーズ、攻。コクヨウ、受。お父さん、攻。オニキスは、ん〜と・・・受でいっか。で、スピネルが攻・・・っと・・・あれ?」
何かを忘れているような気がする。
「アマデウス・・・サルファーをモデルにするのではなくて?」
「あ!そうだった!」逆襲のためにペンを執ったことを、すでに忘れていた。
「お相手はどなたになさるの?」
「サルファーの相手だったら、決まってるよ」
同じ屋根の下では。
家庭菜園が豊作だったため、今日は裏庭でバーベキューをする予定だった。
コハクに声をかけられたメンバーが、続々と集まりつつある中・・・
「「ヒスイは?」」
オニキスとトパーズの第一声。
「それが・・・部屋に籠っちゃって。何か一生懸命やってるみたいなんですけど、“男のヒトは入っちゃダメっ!”って言って、開けてくれないんですよぉぉぉ〜・・・」
コハクは、ヒスイのことが気になってしょうがないらしく、扉に張り付いて離れない。
主催のコハクがそんな調子なので、オニキス、トパーズ、スピネル、ジンまでもが部屋の前に集まり。
それから、1時間・・・
話し声がしなくなったので、コハクがそっと扉を開けてみる・・・と。
ヒスイは絨毯に転がって寝ていて。
ちょうどタンジェが、上掛けをかけたところだった。
「あら?皆様お揃いでどうされましたの?」
不思議そうにしているタンジェの傍ら、トパーズは目ざとくテーブルの上のノートを手に取った。
「!!それは・・・っ!!いけませんわ!!」
タンジェが慌てるも、手遅れだ。
トパーズはノートに目を通し・・・ニヤリ。
「クク・・・まあ、妥当だな」
「何?」
と、コハクも覗き込む。
そして・・・プッ、笑った。
何事かと、オニキスもスピネルもジンも、皆がノートを覗き込む。
「ああ・・・」
両手で顔を覆うタンジェ・・・ヒスイと共に腐的妄想を綴ったノートを、当人達に見られてしまっては、恥ずかしくて仕方ない。
ジンくん、受。トパーズ、攻。
コクヨウ、受。お父さん、攻。
オニキス、受。スピネル、攻。
1ページ目に、ヒスイの文字でしっかりとそう書いてあった。
「なんだこれは・・・ヒスイは何をやっている・・・」
と、額に手をあてるオニキス。
モルダバイトのオタク文化がここまでエスカレートしていたとは。
軽く眩暈を覚える。そのうえ。
(何故オレが・・・・・・わからん)
“受”、ヒスイにそういう判定を下されたことが、正直かなり悔しい。
これでも、攻める時には、きっちり攻めてきたつもりだ。
「・・・・・・」
(気のせいかもしれんが・・・)
“攻”の地位が揺るがないコハクとトパーズに、憐れみの目で見られているように感じる。
「まあ、フィクションですから。ははは」
コハクに肩を叩かれ・・・決定的だ。
“攻”ポジションを獲得したスピネルもクスクス笑っている。
(ママは間違ってないと思うな)
母親だけあって、あれでも一応スピネルの本質を見抜いているのだ。
一方、こちらオニキス。
「・・・・・・」
否定したいのが本音だが、それを熱く語るのもどうかと思う。そこで。
「そうだ。気にするな、ジン。フィクションだ」と、同じ“受”組のジンに話を振った。
「はぁ・・・」力なくジンが答える。
(オレ・・・やられる方なのか・・・トパーズに・・・)
自分で納得してしまうあたりが、また悲しい。
遅ればせながら、タンジェが事情を説明し。
「成程、ね。それでヒスイとサルファーが喧嘩した訳ね」
思わず、笑ってしまうコハク。
「じゃあ僕も参加してみようかな」と、すみやかに参加表明をした。
1対1の勝負にしなければ、これ以上角が立つこともないだろうと考えてのことだった。
「オレもやる」
立て続けにトパーズも参加表明。
コハクに対しての挑戦なのか、親子喧嘩成敗のためなのか、それは定かではない。
アシスタントとして、コハクはオニキスを、トパーズはスピネルを連れ、それぞれ作業に入った。
「え!あのっ!?トパーズ!?コハクさんっ!?」
取り残されるジン。
バーベキューは延期だ。
「コハク、お前・・・正気か?」と、オニキス。
「描きたいものがあるんですよ」
そう言って、コハクが描き出したキャラは。
「“翡翠”です。男性化させてみました」
と、にっこり。
相手役は聞くまでもなく、“琥珀”だ。
「・・・・・・」
(益々眩暈が・・・)
屋敷の夜は更け。
ふたたび、ヒスイの部屋。
「むにゃむにゃ・・・あっ!!!ホモ漫画っ!!」
目を覚ましたヒスイの傍には、まだタンジェがいた。
「ごめんね、こんな時間まで」と、ヒスイ。
「お手伝いしますわ。サルファーの方はもうほとんど完成ですもの。大丈夫ですわ」
「ありがと。でも今のままじゃ間に合わないよね」
ヒスイは少し考えてから。
扉を開け、廊下に向かって叫んだ。
「ジスト〜!!!」次の瞬間。
「ヒスイっ!!なになになにっ!!?」
ジストが廊下を走ってくる。
主人に呼ばれた犬さながらのアクションで。
「あのね、手伝って貰いたいことがあるんだけど・・・」
「うんっ!!いいよっ!!」
ヒスイは、息子のジストをアシスタントとして起用した。
「ふあ・・・ペン入れ、お願いできる?」
欠伸をしつつ、ジストに原稿を渡す。
「うんっ!任してっ!!」
やる気満々で、原稿を受け取ったジストだったが・・・
「・・・ねぇ、ヒスイ」
「んっ?」
「なんでオレ、サルファーに突っ込まれてんの???」
「しょうがないよ、ジスト受だもん」
「えっ!?オレ受なのっ!?」
脱童貞する前に、バックバージンを喪失する羽目になったジスト。
「・・・・・・」
(オレ・・・ヒスイが好きなんだけど)
例えフィクションだとしても。
サルファーに挿入されるより、ヒスイに挿入したいに決まっている。
お願いだから察して!!と、思うけれど。
惚れた弱味で、どうしても強くは言えず。
(ヴぅ〜・・・ヒスイぃ〜・・・)
なぜこうも報われないのか・・・
原稿を見ているだけで、お尻の穴が痛くなってくる。が。
「でもオレ・・・」
ジストはすぐに心を決め、顔を上げて言った。
「ヒスイの役に立つんなら・・・やるよっ!やりまくるよ!サルファーと!!」
「うん、お願い」
それから、30分経過・・・
「ヒスイ・・・ちんちん描くのすげぇうまい・・・」
「そう?」
長年見てきただけあって、ディテールまで描き込まれている。
ヒスイはハチマキまでして。
真剣そのものだ。
「アマデウス、申し上げにくいのですけれど・・・」と、タンジェ。
「うん?何?」栄養ドリンクをストローで啜るヒスイ。一端の漫画家だ。
「リアルに描きすぎですわ。殿方のそこには、適当にモザイクを入れなければ、規制に引っ掛かって・・・」
タンジェもまた一端の編集者気取りになっている。
それから、2時間経過・・・
「ヒスイ、そろそろ・・・」
夜更かしはお肌によくないから、と。
コハクが様子を見にやってきた、が。
心配をするまでもなく、ヒスイとジストは寝こけていた。
「ヒスイがすっかりお世話になって」
コハクが礼を述べると、タンジェは首を横に振り。
「大騒ぎになってしまいましたけれど・・・こういうのも楽しいですわ」
「くすっ・・・そうみたいだね」
ヒスイとジスト、2人の寝顔を見ればわかる。
「もとはといえば、サルファーがその・・・」と、コハクの前で言葉を濁すタンジェ。
「大丈夫だよ。ヒスイは怒っても、根に持ったりしないから」
コハクがそう言うと、タンジェは安心したように立ち上がり。
「それではわたくし帰りますわ!」と、笑顔を見せた。
「うん」コハクも笑顔で頷き。親指で外を指した。
「サルファー、迎えに来てるよ」
それから1週間経過・・・
屋敷には平和が戻りつつあった。
もともと、腐女子でも、腐男子でもない。
投稿が済めば、皆いつも通りだ。
ただし、しばらくの間・・・
若干その気のあったタンジェが、男性陣の顔を見る度、ロマンスを妄想しまったのは、ここだけの・・・秘密。
ジャンル別漫画家賞の結果発表です。
それから1ヶ月経過・・・
ジャンル別漫画賞の結果を知る日がやってきた。
週刊少女マーガリンの発売日だ。
朝一番で買ってきた雑誌を捲り、ヒスイは大きく目を見開いた。
「ええっ!?」
サルファーとヒスイの作品は揃って佳作。
そして大賞は・・・
コハクとトパーズのW受賞。
そこまでは良いのだが。問題は、カップリングだ。
琥珀×翡翠
黄玉×翡翠
双方とも、“受”に、男性化させたヒスイを使っていた。
キャラの外見、口調、行動までもが、思いっきりカブっている。
((クソ・・・やられた))
心の声までカブる、コハクとトパーズ。
「・・・カブせやがって」睨むトパーズ。
「カブせたのはそっちでしょ」睨み返すコハク。
つまりこの2人は、同時に同じことを閃いたのだ。
「・・・・・・」「・・・・・・」
((我ながら、いいアイデアだ))と、思っていただけに、お互い許し難いカブりであり、この2人の場合、あとは拳で決着だ。
「やる気か?」「いいとも、やってやろうじゃないか」
こうして・・・
サルファーとヒスイの争いは引き分けとなったが、皮肉にも新たな争いを生むことになるのだった・・・
「もうっ!!お兄ちゃんっ!!トパーズっ!!」
なんなのよっ!!この“翡翠”って!!
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