World Joker/Side-B

番外編

過剰スキンシップ

セレの陰謀渦巻く(!?)エクソシスト昇格試験。


[前編]


エクソシスト本部、最上階 ― 司令室。
 

総帥セレナイトの前に並ぶのは、一級エクソシストのヒスイと・・・
同じく一級エクソシストのジスト。珍しい組み合わせだ。

「今日君達を呼んだのは、他でもない」
と、総帥お決まりの文句。
直々の依頼には、厄介なものが多いのだ。
今回も例外なく・・・

「“プレナ”を、知っているだろう?」

正式名称、プレナイト。
小国ラブラドライトの姫君であり、かつてモルダバイトの王妃の座に就いていたヒスイとは、それなりに面識がある。
現在はエクソシストとして教会に籍を置いているが・・・

「実は彼女から、こんなものが送られてきてね」

そう言って、セレが公開した一通の手紙には。

エクソシストの昇格試験を受けさせろ。
尚、パートナーにはヒスイを指名する。
こちらの要求をのまない場合、教会本部を爆破する。

以上。

・・・文面からも漂う凶暴性。
それが災いし、プレナには特定のパートナーがいなかった。
何かと暴力沙汰の多い問題児なのだ。
誰と組んでも長続きしない。
エクソシストの任務には、パートナー制で臨むことが原則となっている。
従って今は依頼を受けることもできず、教会の調理場で働いているのだ。
亡命同然でモルダバイトに来たため、祖国に帰る気はこれっぽっちもないらしい。
とにかく色々とこじらせている人物なのだ。

「戦闘能力はなかなかのものだがね、扱いが少々難しいのだよ。我が教会のマスコットキャラである、ヒスイ、君なら ―」

「無理」
と、即答するヒスイ。
そもそも、マスコットキャラになった覚えもない。

「私が人見知りなの、セレだって知ってるでしょ?」

ヒスイの人見知りをカバーすべく、ジストが呼ばれているのだが、それは後の話で。

「そう言わず、頼むよ。階級が上がれば、パートナーの志願者も出てくるかもしれない。いつまでも、ひとりで食堂勤務では気の毒だと思わないかね?」
「う〜ん・・・」

そう言われてしまうと、断りづらいのだが。

(あの子ちょっと苦手なのよね・・・)

教会内で顔を合わせる度、髪を引っ張ってきたり、スカートを捲ってきたり。
それも、ヒスイがひとりでいる時に限って、だ。

(嫌われてるとしか思えないんだけど・・・)

「オレは何すればいいの?セレのおっちゃん」
と、そこでジスト。
困っている人は助ける。
ジストにとっては当たり前のことなのだ。
セレ曰く、昇格試験の内容は、研究員の身辺警護で。
隣国の支部まで無事送り届けるというもの。
その研究員役にジストが選ばれたのだ。

「彼女にとっては試験だが、君達にとっては任務だ」

「わかったわ」ヒスイが承諾する。

「プレナを合格させればいいんでしょ!その代わり・・・」

お兄ちゃんを呼び出す回数を減らして!と、条件を突き付ける。
セレは苦笑いでこう返事をした。

「肝に銘じておくよ」


「セレって・・・お父さんと同じ匂いがする」

司令室を出たヒスイが呟くように言った。

「じいちゃんと同じ匂い???」

大人の男のコロンの匂いしかしなかったような気がするが。

「そういうことじゃないの」と、ヒスイ。
「実際セレは大人だし、落ち着いて見えるけど・・・」
(あのひとも、面白いことが好きなんだわ、きっと)
 

 
昇格試験、当日 ―

 
ジストは髪を黒く染め、ノーフレームの眼鏡をかけて、研究員に変装。
白衣がなかなか似合っている。
ヒスイはツインテールで。
網タイツに赤い靴。
若干幼く見えるが・・・

(ヒスイ・・・可愛い・・・)

ジストは今日もデレデレだ。
そしてついに、プレナとの対面の時がきた。

「う・・・」
(大きい・・・)←ヒスイ、心の声。

エクソシストの女子の中でも、一二を争う長身のため、迫力がある。
ローズピンクの髪はおかっぱだが、なぜかスタイリッシュに見えた。
年代的には、トパーズ、シトリンと一緒なので、プレナにとってヒスイは年上の先輩だが、遠慮はない。
顔を見て早々、プレナはヒスイの髪を両手で引っ張った。

「痛っ!ちょっ・・・離して・・・」
「わっ・・・ヒスイっ!?」

慌ててジストが間に入ろうとするも。

“待って!”

ヒスイが口パクで止める。
ジストの正体がバレてはマズイのだ。
あくまで研究員でいてもらわなくてはならない。
プレナの手荒な挨拶に耐え。

「さあ、行くわよ」

と、先を急ぐヒスイ。
一方、プレナはその場に立ち止まったまま、動こうとしなかった。
1m、2m・・・5m、と、距離が開いていく。そしてなんと。
専用武器のひとつであるクナイを構え、背後からヒスイに投げつけた。

「!!ヒスイっ!!あぶな・・・」

ジストが盾となるべく飛び出した、その時。
黒い影が過ぎり。クナイをすべて弾き飛ばした。
ヒスイの視界に入らないところまで、徹底的に。

「んっ?何か言った?」
と、少し遅れてヒスイが振り返る。
・・・が、当然何の形跡も残っていない。

「・・・へっ!?あっ・・・なんでもないっ!!」
(今の・・・誰???)

あまりに素早く、姿を捕らえることができなかった。

(この任務・・・どうなってんの???)

プレナがこんな凶行に及ぶとは思っていなかったし、黒子が同行していることも聞いていない。

(もしかしたら・・・)←ジスト、深刻な心の声。

 
身辺警護が必要なのは、ヒスイの方かもしれない。

 
[後編]


教会を囲む森の奥で。

「隣国までこれで移動するから」
と、しゃがみ込むヒスイ。
魔法のステッキの柄を使い、地面に魔法陣を描き始めた。

「完成まで、研究員Aの護衛をお願い」

人見知りのヒスイらしく、必要最低限のことしか喋らない。
ちなみに・・・モブキャラ扱いのネーミングだが、研究員Aとはジストのことだ。
プレナは返事すらせず。無言のまま、ヒスイと一定の距離を取り。
手裏剣、吹き矢、捕獲投げ網等々、ヒスイに攻撃を仕掛けるが、それらはすべて黒子が処理していた。
見事な手腕だ。
振り向いた時には、姿を消しているので、ヒスイは「へんなの」と、言いつつ、気付かない。

「・・・・・・」
(父ちゃん・・・だよな???)と、ジスト。

最初こそ見逃してしまったが、何度も現場を目撃しているうちに、黒子の正体がコハクであることに確証が持てるようになった。
なぜこんなことになっているのか、一向にわからないが。
コハクがヒスイを守っているのなら、ひと安心だ。
ところが今度は。

ヒスイに忍び寄り、魔法のステッキを取り上げるプレナ。

「ちょっと!邪魔しないで!」

立ち上がったヒスイが睨む。
必然的に作業は中断となり。

「返して!」
と、言ったところで、プレナが素直に返すはずもなく。
しまいには、追いかけっこになって。

「はぁはぁ・・・何なのよ・・・もう・・・」

ヒスイは息切れ。
魔法のステッキは手元に戻ってこない。

「私のこと嫌いなら、はっきり言えばいいでしょっ!!」


こちら、尾行組。

「ヒスイのこと好きなのはわかりますけどね」

と、黒子役のコハクが苦笑いする。
同性同士ということもあり、多少のスキンシップは大目に見ざるを得ないが。
ヒスイの気を引くための、過剰な行為を見過ごす訳にはいかない。

「そもそも、これ、昇格試験じゃないですよね」

コハクの話し相手は・・・セレだ。

「昇格試験というのは、彼女の口実だろうね。さて、これからが本番だ」

そう言ったセレの手には、虫カゴ。

「へぇ“ミ=ゴ”ですか、珍しいですね」

コハクが中を覗き込む。
ミ=ゴは、人間界に生息するものではない。昆虫系の魔物だ。
セレが虫カゴから放った途端、ヘリコプターほどの大きさになった。
蜂に似た姿をしており、体躯は甲羅に覆われている。
比較的大人しい魔物だが、好物は“脳”というグロテスクな一面を持つ。
若いものほど旨そうに食すのだ。
従って、狙われるのは、年齢的にも体質的にもジストをおいて他にいない。
それから間もなく、ヒスイとプレナ、そしてジスト扮する研究員Aのパーティーが、ミ=ゴの襲撃を受けた。

「うわ・・・っと!」

本来は恐れるに足りない相手だが、研究員Aは非戦闘要員であるため、戦う訳にはいかない。
プレナとヒスイの即席コンビが何とかするまで、逃げ回るしかないのだが・・・
ヒスイはまだ、専用武器を取り戻せていなかった。

「ちょっとっ!それ返してくれないと・・・」

当然、応戦できない。

「昇格試験に合格したいんじゃないのっ!?」

真面目にやりなさいよっ!!そう、プレナに向けて怒る。
ミ=ゴは、耳障りな羽音をさせて、ジストの上空を旋回していた。
プレナはフンッ!と、露骨に反抗。

「殺ればいいんだろ」

どこからか鎖鎌を出し、ミ=ゴに斬りかかった。
しかし、ミ=ゴの甲羅に傷ひとつ付けることができず。
それならば、と、ミ=ゴの昆虫肢を掴んで投げ飛ばす・・・が、またすぐ寄ってくる。
ダメージを負っているようには見えない。
ミ=ゴはターゲットをジストに絞っているらしく、プレナを無視してジストに攻撃を仕掛けてきた。

「!!」

接触寸前のところで。


「わんっ!」

・・・ヒスイが吠えた。
ミ=ゴの動きが止まる。

「ジストも吠えて!アレはね、犬が苦手なの!」
「わかったワン!!」
「わんわん!」「ワンッ!ワン!ワンワンッ!!」

ヒスイとジストが犬になりきって、威嚇すると。
あれだけ執拗に付き纏っていたミ=ゴが、次第に離れていった。
どうやら獲物を諦めたらしい。

「・・・なんだ、今のは」
と、プレナ。
良くも悪くも、茫然といった様子で。

「倒すのが目的じゃないんだから、いいのよ、これで」

そう言って、ヒスイはやっとこさ魔法のステッキを取り返すことができた。

「・・・・・・」
(疲れた・・・)

こんなに骨の折れる任務は正直初めてだ。

(とにかく最後までやり遂げなくちゃ・・・)

ヒスイは再びしゃがみ込み、魔法陣の作成を再開した。

しばらくして。
トントン!肩を叩かれたヒスイが振り向くと。
ブスッ!頬にプレナの人差し指が突き刺さった。

「痛いってば!!なにす・・・」
「わたし・・・友達いない」
「私も友達いないよ。それがどうかした?」
「・・・あっ!!」

そこでジストの閃きの声。
プレナの行動の意味が、やっとわかった。

「あのさっ!もしかして、ヒスイと友達になりたいんじゃ・・・」

昇格云々より、ヒスイと友達になることの方が、プレナにとっては重要なのだ。

(父ちゃんと、セレのおっちゃんは、知ってたんだ!)

「・・・え?そうなの???」

プレナは、こくり、頷いたが。

「えーと・・・」

「ごめんなさい」

ヒスイが丁寧に頭を下げた。
驚いたのはジストだ。

「ヒスイ!?」
(断っちゃうのっ!?友達ってそういうモンだっけ!?)

ちょっと有り得ない展開だと思う。

「わたしが嫌いか」と、プレナ。
「ううん」ヒスイが頭を振る。
「そうじゃなくて。私はね・・・」

“お兄ちゃんさえいればいい”

「そういうタイプだから。友達には向かないよ」
「・・・・・・」
「プレナくらい勇気があれば、きっといい友達ができると思う。意地悪は、少し控えた方がいいかもしれないけど」と。

ここへきて、ヒスイは初めて笑った。
その笑顔を見て。

「・・・やっぱりかわいい」

ぼそり、プレナが呟いたのを、ジストは偶然聞いてしまった。

「・・・あれっ???」
(女の子同士でも、可愛いとか、そういうのは、あると思うけど・・・)

改めて観察してみると、ヒスイを見る目がなんとなく自分と同じような気がする。

(なんて・・・)

「・・・まさかなっ!」

 

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