World Joker

番外編

PINK PRINCESS

[ 1 ]

“その日”は、突然訪れた。


モルダバイト城、王室にて。

「シトリン?どうかした?」
現在の王であるジンカイトが、王妃シトリンに尋ねる。
「いや、窓辺にこんなものがな」と、シトリン。※人型※
それは・・・20cm以上ある、棒状の氷の彫刻で。
男性器をモチーフにしたように見える。
しかしそれはあくまでジン目線の話であって、シトリンは気付いていないようだ。
「なんだ、これは。キノコの像か?」
気色が悪いと、氷ペニスを訝しげに眺めた挙句・・・ふんッ!片手で握り潰し、粉々に。
(うわ・・・)←ジン、心の声。
なんとなく他人事とは思えない気がして。
同情の眼差しで、砕け散った氷ペニスを見ていた・・・のだが。
「・・・シトリン?」
キラキラ光る破片越し、シトリンの姿が消えていた――



エクソシスト正員寮、405号室にて。

「ね〜、コクヨ〜、見てぇ。これ、オ○ン○ンみたいじゃなぁい?」と、アクア。
シトリンと同じく窓辺で見つけた氷ペニスを、コクヨウの目前まで持ってゆき。
「ほらぁ、こ〜やってぇ、おっぱいで挟んでぇ〜」
アクアは、胸元が大きく開いた服を着ていることが多いが、今日もそう。
巨乳の深い谷間に、氷ペニスを挟み、色っぽく見せつける。
コクヨウを誘惑しているのだ。
「コクヨ〜のオ○ン○ンも、パイズリしたげよっか?」
「興味ねーよ」と、コクヨウ。※人型※
近付けられたアクアの胸元から、露骨に顔を背けるのは、照れているからだ。
「んふふ♪」
これはイケると確信したアクアは、コクヨウに体を寄せ。
ジーンズの股間部を撫でた。
「あは、も〜膨らんできたよ」
「うるせぇ・・・いちいち言うな・・・」
こうなるともう、氷ペニスは用済みで。
アクアはそれを、壁に向けて放り投げた。
当然それは粉々に割れ。破片がキラキラと光る。
「!?アクア!!おまっ・・・」
「え〜???」
こうして・・・アクアの姿も消えた――



赤い屋根の屋敷、リビングにて。

「何だろ???これ・・・」
コハクが菜園の様子を見に行き、ひとりで留守番をしていたヒスイ。
手にしているのは・・・氷ペニスだ。
シトリン、アクア同様、窓辺に置かれていたものだ。
「なんか変なカタチしてるけど、氷・・・だよね?」
ヒスイは、しばらくそれを眺めた末・・・
ぺろっ。先を舐めて。ぱくっ。口に含んだ。
その時。


「何でも食うな。この馬鹿」


ヒスイに会うため立ち寄ったトパーズが、口から氷ペニスを引き抜く。
ところが、それを一目見た瞬間。
「むぐッ!?」(な・・・なに???)
再びヒスイの口の中へと戻した。
「いいか、このまま割らずに溶かせ」


「連れていかれたくなかったら、な」


「んむ・・・ッ!!」
トパーズに氷ペニスを押し込まれた拍子に、ヒスイの腰がソファーへ落ちる。
そのまま、ヒスイの顎を掴み上げ、氷ペニスをスライドさせるトパーズ。
「えぅ・・・あ・・・」
得体の知れない冷たい棒に、唇から喉まで蹂躙され。
唾液と溶けた氷が混ざり合ったものが、口から溢れ出す・・・ヒスイの顎はおろか、トパーズの指までたっぷりと濡らして。
「なかなかいい眺めだ」
「っ〜!!!」(なんかこれ・・・)
フェラチオに似て。かなり恥ずかしい。
「ふ・・・」(わたし・・・なんて顔・・・)
舌の上に氷ペニスを乗せ、頬を赤らめている・・・トパーズの瞳に映る姿が、ひどく淫らで。直視し難い。
ヒスイは視線を外そうとしたが。
「目を逸らすな。こっち見ろ。じゃないと、もっと奥まで突っ込む」
トパーズに意地悪を言われる。
「ん〜!!!!」
(そもそもなんでこんなことしなきゃいけないのよっ!!)


(早く帰ってきて!!お兄ちゃぁぁぁん!!)

[ 2 ]

そんなヒスイの声を聞きつけてか。

「ヒスイ・・・っ!!」

コハクが窓から緊急帰宅する。
「ふぉにぃひゃ・・・」訳:お兄ちゃん
ヒスイが羞恥の涙を浮かべ、コハクを見た。
いつもなら、怒り狂う場面だが・・・
ヒスイが口にしている“ソレ”が何か、コハクも気付いたらしく。
トパーズを責めることはしなかった。
「???」(お兄ちゃん?トパーズ?)
上半身はトパーズに、下半身はコハクに、それぞれ抱えられ。
男二人により、ソファーから床へと下ろされた。
かと思うと、コハクがTシャツの上に着ていたカーディガンを脱ぎ、それをヒスイのお腹から膝上にかけて被せた。
「ホラ」
トパーズがヒスイの口から氷ペニスを抜き、コハクに投げ渡す。
「こっちじゃ、埒が明かないと思ってたところだ」
「確かにそうだね」
受け取ったコハクがにこやかにそう答え。

そして・・・

「!?んぅ・・・っ!!」(おにいちゃん!?なに!?)
膣口を指で拡げられ、その中に氷ペニスが挿れられる。
「ちょっとの間、いい子にしててね、ヒスイ」
「ひぁ・・・」
思わず片目をつぶってしまう。
コハクとのセックスを絶やさないヒスイのそこは常にほぐれているため、痛みはないが、驚きはあるのだ。
「いっひゃいらんらのよ!!」訳:一体何なのよ!!
冷たさで口元が麻痺して、呂律が回らない。
すると、コハクとトパーズが。


「説明はあと、ね」
「説明はあと、だ」


・・・揃って同じ発言をした。




トパーズに背中から抱きかかえられ、コハクの前で両脚を開く・・・
カーディガンで隠れてはいても、ヒスイにとっては羞恥プレイに等しかった。
「あ・・・んんッ・・・!!」
にゅるにゅると、膣内の氷ペニスが動き出す。
「や・・・やめ・・・!!あ、あ、あッ・・・あ!!」
どんなに抵抗しても、トパーズに羽交い絞めにされ、コハクは手を休めない。
「あッ・・・おにい・・・ちゃ・・・!!」
氷ペニスを器用に扱い、適度な圧力で膣壁に擦りつけてくる。
「はぁっ・・・はぁっ・・・」
冷たい摩擦に戸惑うヒスイ。
本来、ペニスは段々と太さを増すものだが、氷ペニスは逆なのだ。
交わるほどに溶けて。少しずつ細くなる。
「は・・・」(なんか・・・じんじんする・・・)
擦れた瞬間は冷たい、けれどすぐに熱を取り戻すヒスイの膣。
「ふ・・・」
濡れる、というより、濡らされ。
ぐっちゃ、ぐっちゃ、水分たっぷりの、この音漏れは防ぎようがない。
「っ〜!!!」
次々と入り込んでくる淫音に耳の中が熱くなる。
それを知らせるかのように赤く染まったヒスイの耳の裏側をトパーズが舐め。
「そんなものに感じてるのか?」
息を吹きかけ、ヒスイを煽った。
「ちが・・・っ・・・かんじて・・・なんか・・・うッ・・・ん!!」
嘘をついたことで、ヒスイの感度が増す。
「ちょっと」と、そこでコハク。
「邪魔しないで貰えるかな」
「協力してやってるんだが?」
「・・・あとできっちり借りは返すから」
「望むところだ」
ヒスイを巡る言葉の応酬。いつもなら、とっくに大喧嘩だ。
しかしそうしない、できない理由があった。
(とにかく早く終わらせないと)←コハク、心の声。
「ヒスイ――」
優しく微笑んで、身を乗り出すコハク。
「目、つぶって」



「気持ちいいキスしてあげる」



そう言って、唇を重ねる。
奥の手的に、コハクが隠し持っているキスだ。
「ん・・・」
ぐちゅッ!ぐちゅッ!
氷ペニスを指で軽く摘み、軽快なリズムで出し入れを続けながら。
「・・・んッ!!」
ぴくんっ!感じたヒスイが声を漏らすタイミングを狙って舌を滑り込ませる・・・
口内をたっぷり愛撫したあと、続けて牙に触れた。
「んん・・・」
ヒスイの牙は、吸血時や感情の起伏によって伸び縮みするが、性感帯のひとつでもあった。
そこを弄られるのは、非常に気持ちがいいらしく。
「は・・・ぁ・・・」
キス以上の、キス。
コハクに牙を舐められながら。
「あ・・・はぁ・・・」
ヒスイは氷ペニスに絡める愛液の量を増やしていった。


「ん・・・ああ・・・」
快感と引き換えに、力を奪われていく・・・
ヒスイが大人しくなったため、トパーズは腕の拘束を緩め。
氷ペニスを孕むヒスイの下腹を撫でた。
「さっさと溶かせ」
ヒスイの耳元に唇を寄せ、そう囁く。一方で。
「ちゃんとできたら、ご褒美あげる、ここに」
コハクもまた、反対側の耳元に唇を寄せ、甘く囁いた。
「はぁはぁ・・・」(なんで・・・こんなことに・・・)
男二人に身を任せるしかなくなり。
ヒスイは命じられるまま、膣熱で氷ペニスを溶かしていった――




その頃、屋敷の門前では。

パートナが消えた者同士が出くわしていた。
実質上の義兄弟である、ジンカイトとコクヨウだ。
ジンはお決まりのコハクに。
コクヨウは苦汁の選択でヒスイに。
相談をしに来たのだ。
「あの・・・もしかして・・・」
「・・・お前んトコもか」

[ 3 ]

赤い屋根の屋敷、リビング。

「はぁっ・・・はぁっ・・・」
男二人に挟まれたヒスイが、氷ペニスを溶かし終えていた。
拡げた両脚の間、大きな水たまりができている。
「んっ・・・」
鼻から抜ける官能の声。
肩先と膝先が度々攣りあがる。イキかけなのだ。
いつの間にか勃ってしまった乳首が僅かにシャツを持ち上げて。
もはや自制が効かなくなっていた。


「あとは任せて」と。コハクがトパーズに告げる。
「お客さんも来たみたいだし」
「・・・・・・」
トパーズは黙ってヒスイから離れた。
「はぁはぁ・・・おきゃく・・・さん?きたの?」
「ヒスイは気にしなくていいからね」
コハクがそうヒスイに言い聞かせている間に扉が閉まり。
コハクとヒスイの二人きりになった。



「ご褒美の時間だよ」



コハクのその声に、ヒスイの下腹がピクピクと反応する。
「っ・・・!!」
床の上で仰向けになったまま、唇を噛むヒスイ。
(だめ・・・なのに・・・えっちしてるばあいじゃ・・・ない・・・のに)
この姿を“お客さん”に見られでもしたら、と思う反面、イキたくて堪らない。
膣奥が甘く燻り、脚を閉じることができずにいた。
「くす・・・これはもう必要ないね」
視線を遮っていたカーディガンをコハクが優雅に投げ捨て。
「!?や・・・」
隠しておきたい場所が晒される・・・
氷ペニスのピストンを受け、収まりきらなくなった肉ビラの縁が、物欲しそうにうねり、露を滴らせていた。
「あ・・・おにぃ・・・ちゃぁ・・・」
ヒスイはこれ以上ないくらい頬を真っ赤に染め、今にも泣き出しそうな顔でコハクを見上げた。
「大丈夫、綺麗だよ」と、ヒスイの頬を撫でながら、唇を啄むコハク。
「ん・・・おにいちゃ・・・」
一旦唇を離し、念を押すように、ヒスイの顔のあちこちにキスをして。
ふたたび唇を唇に戻す。
「んッ・・・ん・・・」
大好きなコハクのキスに身を任せ、発情していく・・・
コハクを求め、肉ビラがいっそう激しく蠢いた。
一方、コハクは。
キスを続けながら、股下の浅いジーンズのジッパーを下ろし。
ヒスイの両脚を抱え上げ、勃起を一気に押し込んだ。

ずぷ・・・んッ!!!

「!!?」(あ・・・あつ・・・い・・・っ!!)
あまりの温度差に、呼吸が止まりそうになる。
ヒスイの膣も熱をなくした訳ではなかったが、氷ペニスをすべて溶かす頃には、その大部分を奪われていた。
「あ、あ、あ・・・!!」(おにいちゃ・・・の・・・あつすぎ・・・るっ!!)
入口から奥まで灼熱の塊で満たされ。
浮いた汗が燃え上がるようだ。
「ふぁッ・・・んッ!んッ――!!」
喘ぐ唇を唇で捉えられ。
コハクの下、ヒスイは腰を跳ね回らせて。
間もなく、ビクン・・・ッ!!大きく痙攣。
「――!!!!!」
繋がった唇を介し、コハクの口内へ、声にならない声を放ち、脱力した。




「びっくりしちゃったかな?」
長いキスで濡れた自身の唇を親指で拭い、コハクが微笑む。
「あ・・・あ・・・」
ヒスイは全身をビクつかせ、息を吐く度、口の端から唾液を溢した。
「中が同じ温度になるまで、こうしていようね」と、コハク。
絶頂中の膣にペニスを入れた状態で。
ヒスイのシャツのボタンを外し、左右に広げた。
両手でシャツを掴んだまま、唇をヒスイの浅い胸の谷間に寄せ。
ちゅっ。ちゅっ。何度かキスをしたあと、乳房の麓から頂に向けてゆっくりと舐め上げる。
「あ・・・ん」
ヒスイは焦点の合わない目を細め、開きっぱなしの太腿を震わせながら、爪先を曲げたり伸ばしたりしている。
イキながら感じているのだ。


「あ・・・おにいちゃ・・・あぁ・・・」
ヒスイは自ら指を咥え、牙を弄りはじめた。
コハクの舌で解禁されたそこには、快感の余韻が残っていて。
興奮しながらそれを貪る。
「あ・・・はぁ・・・」
(きもちい・・・これ・・・ひさしぶりだも・・・)
触れたところで、普段は何ともないのだが。
あのキスのあとは別なのだ。
ヒスイ自身、その原理がわからない。知っているのはコハクだけだ。
「あ・・・あ・・・ん・・・」
頬が緩み、表情が蕩ける。
するとコハクが・・・
ちゅぽんっ。舐め転がしていたヒスイの乳首を口から出し、顔を上げた。
「そこは自分で触っちゃ駄目だよ、ヒスイ」
引き抜いた指先にキスをして。低い声で優しく躾ける。そして・・・


「そろそろこっちで気持ちよくなろうね」


そう言いながら、軽く腰を捻り、ヒスイの内側を掻き混ぜた。
「あッ・・・おにぃちゃ・・・!!」
中に水が溜まっているせいか、グジュグジュと、いつにも増して淫らな音が鳴り響く。
「んッ・・・ふッ!!あ・・・ああ・・・ッ!!」
ピストン開始の合図とばかりにコハクが腰を振り抜き。
「あッ!!!!」
ずぷぷぷぷ・・・ッ!!じゅぷッ!じゅぷッ!
力強い抽送が繰り返される。
「あうッ!!あ!あッあッ・・・んッ!!」
膣襞から、氷ペニスの名残り水が抉り出されていく。
「あんッ!!あ!あッあッあッ・・・あ!!」
愛液だけになると、今度は膣肉に粘りが出て。
ぐちゅッ!ぐちゅッ!ぐちゅぅぅぅッ!
ピストンを受ける度、ペニスに吸い付く感覚が増し。
ねっとりとした肉襞に、快感が深く擦り込まれていった。
「あ・・・あぁ・・・はぁはぁ・・・」
(すご・・・きもち・・・い・・・これ・・・またイッちゃ・・・!!)
突き込みの振動でガクガク下腹が揺れる。
「・・・っ!!んはぁ・・・ッ!!」
牙の快感を忘れるほど、膣の快感に溺れるヒスイ。
「ひッ!!ん!!あぁ・・・ッ!!!!」
コハクの下で、思いっきり拡げた両脚の間、絶頂液を沸き立たせ。
震えては窄まる肉襞が、奥へ奥へとペニスを引き込んだ。


「やっぱりここが好きなんだね」


ふっとコハクが笑い、ヒスイの子宮口を擦り上げた。
「!!ひあッ!あ!あぁぁぁ!!!」
子宮だけでなく、周辺の器官までもが熱く痺れ。
「あ・・・ひ・・・あぁッ!!!」
胃も腸も膣さえも、甘美な溶解液に包まれたかのように、どろどろと輪郭を崩してゆく。
「あふ・・・ぁ・・・」
悦楽で混沌として。何がどこにあるのか、もはや認識できない。
(おなか・・・のなか・・・ぜんぶ・・・なくなっちゃ・・・)
快感ゆえの、幻覚に囚われるヒスイ。
「あ・・・あ・・・おにいちゃ・・・おにいちゃあんっ・・・!!」
コハクにしがみつくと、ちゅっ。耳元にキス。
「大丈夫、ちゃんとあるから。ここに、ね」
ヒスイの心情を察し、そう囁いてから、コハクが射精する、と。
「あ・・・ふぁぁぁッ!!!!」
精液を注入される子宮の位置だけは、はっきりとわかり。
体は昇り詰めながらも、心には安心感が生まれた。
「あ・・・あ・・・」
(おにいちゃんの・・・いっぱい・・・はいって・・・きてる・・・)
たぷん、たぷん、と、そこが重みを増してゆくのが、心地いい。
「あ・・・はぁ・・・」
コハクの首元に回していた手がほどけ、ヒスイは背中からベッドに落ちた。
「はぁはぁ・・・は・・・」


「今日も愛してるよ、ヒスイ」


コハクは、ヒスイの腰を掬い上げるようにして抱き起こし、唇にそっと口づけた。
「ん・・・」
四肢が痺れ、ヒスイは動くこともままならなかったが、最後の力を振り絞り、コハクのキスに応えていた――



その頃、客間では。

「呪いだって!?」
「呪いだと!?」

トパーズの説明に、ジンとコクヨウが同時に驚嘆の声を上げる。
「そうだ。“アレ”には強力な呪いが込められている」
“割る”ことで発動するのだ。
「じゃあ、ヒスイさんは・・・」
「割らずに溶かした」
「そうか、無事なんだな」と、ジン。
内心かなりホッとしている。
ヒスイが無事でなかったら、間違いなくコハクが荒れ。
協力を仰ぐどころではなくなってしまうからだ。
「何故一族の女が狙われたのか、現時点では謎だが――」
トパーズが煙草を咥え、言った。


「手口からして、北の魔物の仕業だろう」

[ 4 ]

「お待たせ」と、コハクが客間に現れた。
エクソシストの制服に着替え、無論、ヒスイも一緒だ。
ただしこちらは、コハクが抱き上げている。意識がないのだ。
ヒスイはコハクの肩に頭を乗せ、ぴくりとも動かない。
「ヒスイさん!?どうかしたんですか!?」
ジンが席を立つ。
「疲れて眠っているだけだから、心配ないよ」
コハクはにこやかにそう言って、ヒスイを抱えたまま着席した。
するとヒスイは、むにゃむにゃ口を動かし。
改めてコハクに抱き付くと、ふたたび眠ってしまった。
「よしよし」と、コハクが背中を撫でる。

・・・ラブラブ感が凄い。

チラリ、ジンがトパーズを見ると、明らかに機嫌が悪そうだった。
いつもなら気後れする場面だが、大事なパートナー、シトリンを消失中なのだ。
ジンとて余裕を持ってはいられない。
「コハクさん、それで――」
当初の目的どおり、事の顛末をコハクに話し、まずは危険性の度合いを探る。
ヒスイが爆睡中の今、コクヨウも聞き耳を立てている。
「まあ、あの二人の戦闘力は相当なものだからね。自分の身を守ることはできる。相手がよっぽど特殊なタイプでない限りはね」
そう大きな被害は出ない筈だと話し、コハクはこう続けた。
「でも、帰る手段がない」
シトリンもアクアも魔力を持っていない訳ではないが、魔法はほぼ使えない。
母ヒスイと違い、魔導士タイプではないのだ。
「また同じような事が起こっても困るし、二人を迎えに行ったうえで、原因を特定して、しっかり元を断たないとね。焦る気持ちはわかるけど・・・」
冷静な対応を、と、呼びかける。
一方で、苛立ちが隠せないコクヨウは。
「原因?どうせお前に恨みのあるヤツの仕業だろーが」
そう吐き捨てた。
「怨恨・・・ねぇ・・・」
100%ないとは言い切れないが、一級〜特級の悪魔でさえ、コハクを恐れ、手出ししてこないのだ。
「それはない」
トパーズが口を開き、怨恨説を否定。
「窓辺に“アレ”を置ける人物は限られてくる」
赤い屋根の屋敷一帯には、メノウの結界が張られているのだ。
原則的に身内以外は立ち入れない。
「だからって身内を疑うようなことは・・・」
表情を曇らせ、異論を唱えかけたジンだったが・・・そこで思い浮かぶ、娘の顔。
一族の女子が狙われているのだとすれば。
(タンジェは無事なのか!?)
早急に確認しなければ!と、思った矢先。
「う・・・ん・・・」
目覚めかけのヒスイが声を洩らした。
コハクの腕の中、モゾモゾと動き。
「おにいちゃぁ・・・おしっこ・・・」
「ん?よしよし、今連れてってあげるからね〜」
「うん〜・・・」
目を擦るヒスイ。コハクが立ち上がろうとしたところで。
ジンにコクヨウ、そしてトパーズの姿がヒスイの視界に入る。
「!!!!」
猛烈に恥かしいシチュエーション。
一気に眠気が吹き飛び、ヒスイはコハクの膝から飛び降りた。
それから真っ赤な顔で。


「いっ・・・今のはちょっと寝惚けてただけなんだからぁっ!!トイレくらいひとりで行けるしっ!!」


客間から逃げるように走り去る。
(照れちゃって、可愛いなぁ・・・)
笑いを堪えつつ、見送るコハクだったが・・・ここが運命の分かれ道だった。




「はぁ」
(あんなトコ、ジンくん達に見られちゃうなんて・・・)
頬に赤味を残したまま、用を足し、ヒスイがトイレのドアを開けた瞬間。
「!?」
背後から何者かに動きを封じられた。
腕を掴まれ、口を押さえられ。助けを呼ぶことができない。
「んー!!」(なにする・・・のよっ!!)
必死に抵抗を試みるが、相手の力は強く、無理矢理“何か”を握らされた。
その“何か”は、氷ペニスだった。
「!!」(なんでコレがまたここに!?)
羞恥プレイの記憶が蘇り、ヒスイはソレから反射的に手を離した。
結果、床に落ちたソレは割れ・・・キラキラと破片が舞う。
「あ・・・」(もしかして、これって割っちゃ駄目なやつ・・・)
今になってヒスイも気付いたが、手遅れだ。
「おにい・・・ちゃ・・・」

こうして、静かにヒスイの姿も消えた――




「・・・ヒスイ?」「・・・・・・」
コハクとトパーズが同時に眉を顰めた。
ヒスイの気配が感じられない。


「ヒスイ・・・っ!!」


コハクが後を追って廊下に走り出るも、遅かった。
ヒスイもまた、攫われてしまったのだ。
「・・・・・・」(あのバカ・・・)←トパーズ心の声。
呪い回避のために苦労して溶かした、一連の作業がすべて無駄になった。
「あの・・・コハクさん?」
コハク、トパーズに続き、廊下に出たジンが恐る恐る声をかけた。
コハクのムードは一転し、ピリピリしている。
「・・・誰に喧嘩を売ったか、わかってないみたいだね」
剣を手に、近くの窓に向け歩き出す。
「じゃあ、僕、ヒスイを取り返しに行ってくるから」
「コハクさん!?」(冷静な対応は!?)
止める間もなく、飛び立つコハク・・・ジンが一番懸念していたパターンだ。
「自分の女は自分で守れ」と、トパーズ。
「もちろんそのつもりだ!オレだって・・・」と、ジンが言い返す。
とはいえ、乗り込む場所の目処が全く立たないのも事実で。
「だったら、教会へ行け」
それはつまり、総帥セレナイトに協力を仰げ、ということだった。
「・・・クソッ!!」
コクヨウは早々に行動を開始した。
「待ってください、オレも!!」
ジンもコクヨウと共に屋敷を後にした。



屋敷にはトパーズがひとり残った。
当然、考えあってのことだ。
まずトパーズは、空間に直径30cmほどの穴を開け。
そこに手を突っ込むと、ジストを引っ張り出した。
強制召喚に近い、この技は、神の子・・・息子に対してのみ有効だった。
「うわっ・・・!?」
トパーズの元へジストが転がり出る。
「兄ちゃん!?どうしたの!?なんかあった!?」
「ヒスイが攫われた」
「へっ!?ヒスイが攫われた!?」
ずいぶん、唐突かつ端的だが、ジストは慣れていて。
あれこれ詮索しない。従って話が早いのだ。
「そうだ。お前は例の特技でヒスイを追え」
ヒスイと合流したら、真っ先に自分のところへ連絡を寄越すよう言い含め。
「ホラ、さっさと行け」
「わかったっ!」
裏庭に出たジストは、助走をつけ、大きくジャンプ。

「ヒスイんとこ・・・飛べっ!!」

[ 5 ]

ドサッ!!

ヒスイを追い、ジストが落下したのは雪原だった。
大地は果てしなく白く、眩しい。
ジストの空間移動はかなりの確率で成功するものの、100%という訳ではなかった。
時には、意図した場所と着地点がズレることもある。
「ヒスイ・・・」
深く鼻で息をするジスト。
すると、大好きなあの甘い香りが嗅ぎ取れた。
よく見ると、前方に建物らしきものがある。
(たぶん、ヒスイはあそこだ!!)
「ヒスイっ!今行く・・・って、あれっ???」
ジストが駆け出そうとした、その時、目の前に立ちはだかったのは。

「タンジェ???」

その声に迷いがあるのも無理はない。
顔や体格はタンジェそのもの。
しかし、すべての色素が抜け、髪も瞳も衣服さえも真っ白なのだ。
「タンジェだよなっ!?」
呼びかけても、返事がない。
タンジェは表情ひとつ変えず、サーベルを抜き、ジストに襲い掛かってきた。
「――グングニルっ!!」
神槍で攻撃を防ぐも、ジストが反撃をすることはなかった。
ただひたすら剣先を叩き落とし、軌道を変えるのみだ。
神の子ジストは計り知れない能力を持つが、女子と戦うのが、とにかく苦手なのだ。
「なんでこんなトコにいんの!?何してんの!?」
タンジェの攻撃を受け流しながら、懸命に話しかける。が、無視される。
(もしかして、誰かに操られてる!?)
そうとしか思えない。
ジストが狙われ体質であるように、操られやすい体質というのもある。
タンジェはどうやらそのタイプのようだ。
なぜこんなことになっているのか、全くわからないが・・・
(大切な子はちゃんと守らなきゃダメだろっ!!)

「サルファー、何やってんだよっ!!」



一方、こちら、ヒスイ。

気付くと“そこ”に立っていた。
“そこ”とは、アイスパレス。天井も柱も謎のオブジェも、すべてが氷でできた宮殿だ。
こういった場所に居を構える魔物は限られてくる。
「スノープリンス?まさかね・・・」⇒番外編『幸せは男次第?』参照
ヒスイが考えを巡らせていると。


「あれぇ〜?ママぁ?」


娘、アクアの声に振り向く。
「アクア!?どうしてここに・・・」
「なんかぁ〜、氷のオ○ン○ン割ったらぁ、ここ来ちゃってぇ」
アクアは至って元気そうだ。
「さっきまで、シト姉も一緒だったんだけど〜」
「え?そうなの?」
「スノーなんとかって魔物に連れてかれちゃったぁ」

以下、アクアの回想。



「あ、シト姉〜」
シトリンとアクアの姉妹もまた、この場で合流した。
「む、アクアか」
シトリンは仁王立ちで、周辺に視線を巡らせた。
「これはどういうことだと思う?」
「アクア、わかんな〜い」
二人共、魔道には疎い。闇の生き物に関してもそうだ。
「せめて、物知りの母上でもいればな」と、呟くシトリン。

・・・そのヒスイは、男二人に氷責めされている真っ最中である。

「まあ、魔物が出たところで、我ら姉妹の敵ではあるまい」
「だね〜」
そう言って、両者武器を構える。
シトリンは大鎌、アクアはトンファー。
“敵”の気配を察したのだ。ところが。
「!!」
猛将シトリンが括目する。
「タンジェか!?」
色素の抜かれた娘が現れ、驚く。
その驚きが致命的な隙となり、シトリンは足元に吹き込んだ冷気に掴まってしまった。
「く・・・」
爪先から凍り付き、動きが取れない。
単なる氷ではないらしく、力を込めても割ることができなかった。

「フフッ・・・豊作だよ」

低い声と共に、タンジェの背後に控えていた者が姿を見せた。
「貴様!!何者だ!?」
凍りかけのシトリンが睨む。
魔物とおぼしきそれは、中性的な人型をしている。
切れ長の目。美人といえば美人だが、悪女顔だ。
スレンダーのモデル体型・・・身長はシトリン・アクアに並ぶも、かなり華奢である。
髪はワンレンボブ、アオザイに似た衣装を纏っている。
勿論、すべてが白い。が、よく見ると髪はクリーム色に近い白で、瞳は僅かにグレーがかっている。
サラリ、髪を手で靡かせ。人型魔物は、こう名乗った。
「スノープリ・・・・・・クイーンとでも言っておこうか」
「スノープリクイーン???」アクアが聞き返す、と。
「“スノークイーン”だよ。フッ・・・」
自称スノークイーンは、両腕を組み、ポーズを決めた。
するとアクアが鼻で笑い。
「クイーンっても、男じゃ〜ん。ま、いいけどぉ」
「そうなのか!?」シトリンがまた驚く。
腰まで凍結が進んでいる・・・暢気にトークしている場合ではないのだが、天然ボケの家系※母方※だ。
何かと脱線してしまう。
「フッ・・・よくわかったね」と、スノークイーン。
上から下までアクアの体を眺めたあと、言った。
「君とは、美について語り合えそうだ。コレクションに加えるのは後にしようじゃないか」


「――で、シト姉だけが連れてかれたの〜」
ここで、回想終了だ。
「・・・・・・」←考えるヒスイ。
(スノークイーンなんて言ってても、男なら・・・)
種族的には、スノーマン。雪男だ。
(しかも、これだけのことができるとなると・・・)
間違いなくプリンスレベル。自分でもプリ・・・と言いかけていた。
「・・・・・・」
近年、スノーマン達による事件は起きていない。
本来は、雪山に棲む大人しい種族なのだ。人間との共存も確認されている。
あまり危機は感じない・・・が。
タンジェが操られている。
実は、ヒスイを屋敷から連れ去ったのもタンジェだった。
相手がタンジェだったため、ヒスイにも迷いが生じ、本気で抗い切れなったのだ。
「とにかくシトリンとタンジェを助けなきゃ!!行くわよ!!アクア!!」
「了〜解♪」

[ 6 ]

宮殿奥では――

シトリンの必死の抵抗虚しく、凍結化が進んでいた。
氷の像になるのも時間の問題だ。
「く・・・おのれ」
力押しの戦いなら、絶対に負けない。
けれども、それは拘束魔法の一種であり、強力な魔力で構成されていた。
スノークイーンは、今まで戦ったことのないタイプの魔物だった。
(くそっ!このままやられてなるものか!!)
シトリンの周辺には、他にもいくつか氷の美人像がある。
スノークイーンのコレクションなのだろう。
自分もそのひとつになるのかと思うと、悔しくて堪らない。
「くっ・・・!!」
シトリンの豊満な胸を覆うように、氷が張っていく・・・
(私としたことが、何たる失態・・・すまん、ジン・・・)
自身を呪い、シトリンが目を閉じた、その時。
ゴウゥッ・・・!!氷の床に炎が走った。
そのままシトリンを円で囲い、高々と燃え上がりながら、氷を溶かし始めた。
「拘束魔法を解くわ!ちょっと熱いけど、我慢して!」と、ヒスイ。
「!!おお!!母上か!助かった!」
魔法のステッキを手に、ヒスイが自称スノークイーンを睨む。そして。
「シトリンに手を出さないで!私が相手になりゅ・・・」

・・・大事なところで噛んだ。

「やだぁ、ママってばぁ」
それはないでしょ〜、と、後ろのアクアが笑う。
「っ〜!!私が相手になるわ!で、いいんでしょっ!!」
気を取り直し、ヒスイがそう言ったところで。
「なんと美しい少女だ・・・」
こんなに可憐で麗しい少女は見たことがない、と、ヒスイを絶賛するスノークイーン。
目を妖しくギラつかせ、ヒスイ確保に乗り出した。
息を吸い込み、吐き出す・・・アイスブレス。
これを食らうと、シトリンのように凍結してしまう。
(お兄ちゃんとえっちしといて良かったぁ)
体がいい具合にほぐれている。
ヒスイはそれを余裕で躱し、改めてステッキを構えた。
「えいっ!」
掲げたステッキの先に炎が燈る。それが渦を巻き、大きな火の玉になる。
ボン!ボン!ボン!特に狙いを定めず、ファイヤーボールを乱発するヒスイ。
掠った柱はゴッソリ削れ・・・かなり凶悪な破壊力だ。
軌道が決まっていないため、回避のしようがなく。
いつコレクションに当ってもおかしくない。
「やめたまえ!!」
スノークイーンが青ざめる。
「私は戦いを好まない!!」
そう叫びながら、指笛を吹く、と。
「ニャーッ!!」
ジストの足止めをしていたタンジェが、猫さながらに、しなやかに、雪原を駆けてきた。
持っていたサーベルで今度はヒスイに斬りかかる。
しかしそこで。

「ターちゃんの相手は、アクアだよぉ」

アクアのトンファーが軽々と刃を止め。その瞬間、勝負はついた。
ヒスイの魔法により、氷の呪縛から解放されたシトリンが、大鎌をスノークイーンの首に引っ掛けたのだ。

「貴様の負けだ。スノー・・・なんとか」
「スノークイーンだよ」

シトリンに駆け寄ったヒスイが、背伸びをして耳打ちする。

「あー、そうだったか」ここで、仕切り直して。

「スノークイーンとやら!命が惜しくば、わかるな?我々を諦め、タンジェの催眠を解け!」

こうして、女達の活躍(?)により、事態は収束に向かっていた・・・筈だった、が。

「どうしてこんなことしたの?」
降伏したスノークイーンにヒスイが質問し、思いがけない展開へ――

「フッ・・・私は“美しい者”をコレクションするのが趣味でね」
単にそれだけだと言う、スノークイーン。
美女を凍結させ、氷の像にするものの、眺め飽きたら、氷を溶かし、帰すという。
たっぷり謝礼の品を持たせて・・・だ。
「美しい者の命を奪ったり、傷付けたり、そんなものはナンセンスだ、フッ」
「・・・・・・」(なんだか微妙ね、このヒト)
やっていることは誘拐だが、謝礼を渡しているせいなのか・・・教会への被害届は出ていない。
エクソシストとして、どう対応すべきなのか、ヒスイが迷っていると。
「私は弟のように、美しい者を排除したりはしない」
スノークイーンがそう力説した。
「弟?もしかしてスノープリンスのこと?」
「弟を知っているとは、驚きだ。フッ・・・」
「じゃあ、やっぱりあなたもスノープリ・・・」
「スノープリンスでは愚かな弟とカブってしまうだろう?カブリはいけない」
そのため、スノークイーンを名乗ったのだという。
「女王のように気高く美しい、という意味も込めてね、フッ・・・」
「あ、そう・・・」(さっきから、フッフ、フッフ、うるさいわね・・・)
“ナルシスト”は、スノープリンス兄弟に共通する特徴のようだ。
「タイガーアイから、モルダバイトには金髪菫目の超美人がいると聞いてね」
と、スノークイーン。
その情報を頼りに、モルダバイトに出向いたという。
「!!」(それってお兄ちゃんのことじゃ・・・)
金髪菫目の超美形といえばコハクだが、シトリンも同じ顔だ。この状況にも頷ける。
更なる情報収集の末、ターゲットをモルダバイト王妃シトリンに定めたスノークイーン。
城へ向かったところ、たまたま里帰りしていたタンジェと鉢合わせになった。
そこで正体を見抜かれ、戦闘になったが、スノークイーンが制し。予定変更。
「地味顔だったのでね、コレクションには加えず、魔力を貸し与え、眷属としてしばらく働いてもらうことにしたのだ、フッ・・・」

『この私より美しい者を連れてきておくれ』

タンジェにそう命じた結果、美形一族の女子に被害が及んだのだ。
「申し訳ないことをしましたわ」
我に返ったタンジェが深々と頭を下げる。
「後は、わたくしからお話します」



その頃、雪原では。

突然タンジェが撤退し、ひとり残されたジスト。
「どうなってんの???」
首を傾げていると。

「ジスト?」

空から金色の羽根が降る。
ジストが見上げた先には。

「父ちゃん!?と、サルファー!!」

[ 7 ]

「サルファー!!タンジェが大変なんだよっ!!」

雪原に降り立つサルファーに、ジストが詰め寄る。
「・・・あいつ、こんなところで何やってるんだよ」と、サルファー。
外出したタンジェがいつまでも戻らないため、城へ行ってみたところ。
タンジェによる戦闘の形跡が残っていたため、不審に思い、捜索していたのだ。

「近くの村で、偶然会ってね」

ジストに対し、コハクが事情を説明した。
トパーズ同様、北の魔物の手口と考え、スノーマンと人間が暮らす雪国の村を目指した。
公にはされていない村だが、コハクはその村への地図を持っていたのだ。
そこでばったりサルファーに出会った。
サルファーは総帥セレナイトからヒントを得たという。
それから村で、アイスパレスの話を聞き、二人はここまで来たのだ。
「ジストは?トパーズのお使いかな?」
続けてコハクに問われ、ドキッとする。
「あっ・・・うんっ!でもちょっと位置がズレちゃったみたいで・・・ヒスイ見つけたら、連絡するように言われてたんだけど・・・」
嘘のつけないジストは、洗いざらい喋ってしまった。
「成程ね」(確かに一番手っ取り早いな)
コハクは苦笑いで相槌を打ってから言った。
「とにかく急ごう」
「うんっ!!」



「あとは、わたくしからお話します」

操られていた間の記憶はぼぼないというタンジェが、意を決したように申し出た。
そこに至るまでの経緯を打ち明けるつもりなのだ。

それは――事件前日の話。

更にその前日は、三つ子の誕生日パーティが催されたばかりだった。
三つ子の誕生日は一族で祝うのが常だが。
サルファー個人の、サルファーのためだけの誕生日パーティをしてはどうかと閃いた。
自我の強いサルファーのことだ。
喜んでくれる筈だと、タンジェは確信していた。
ただ、そこでひとつ、ミスを犯した。
サプライズにするため、サルファーに詳細を伝えなかったのだ。
「明日は、できるだけ早く帰ってきてくださいませんこと?」そう話しただけで。
サルファーは・・・生返事だった。
そして翌日=事件前日の話となるが。
ご馳走と二度目のプレゼントを用意して、サルファーの帰りを待つも。
サルファーは親友のプラズマと出掛けたっきり、帰ってこない。
ご馳走が冷めきった頃、帰宅したが、そのまま口喧嘩に発展し。

“わたくしばかりが、好きみたい”

愛に温度差を感じて。そんな気持ちになった。
ありきたりな男女の光景といえば、そうなのかもしれないが・・・
感情に任せて寮を飛び出し、城に里帰りした際。
スノークイーンとの対決で、あっさり敗北を帰したのは、心が弱っていたせいもあった。

「わたくしに落ち度があったことは、承知しておりますわ」

けれども・・・思うように、想いが通じなかった。
それが、無性に悲しい。
乙女モード全開で、溜息を洩らすタンジェ。
『自分の一番は自分』と、豪語するサルファーが好きだった。
こうなることは、目に見えていた筈なのに。
想いが深くなればなるほど、欲張りになる。
知らず知らずのうちに、相手に求めるものが多くなって。

「愛が等しく正しいわけではないのですわね」
「でもぉ〜、そういうものなんじゃないの〜?愛ってぇ」と、アクア。
「・・・・・・」
シトリンは思うところがあるようで、口を結んでいる。
「・・・・・・」
ヒスイはいまいちわかっていないみたいだったが・・・
「どんなものでも、愛は愛だよ」と、言った。
それからしばらくして。
「・・・女心を平然と踏みにじるとは、我が弟ながら、許せんな!」と、シトリン。
「サルファーだもん、しょうがないよ」と、ヒスイ。
「誰に似たんだろ〜ね」と、アクア。
「酷い話だ。フッ・・・」
ちゃっかり、スノークイーンも参加している。随分タンジェに同情的だ。
「そういえばぁ〜」
続けてアクアが、素朴な質問をした。
「なんで、アレ、オ○ン○ンのカタチしてたのぉ?」
フッ、しつこく笑って、スノークイーンが答える。
「彼女の深層心理が反映された結果さ」
「!!そ・・・それは・・・」
タンジェが両手で顔を隠す。色素が戻った今、真っ赤になっているのがわかる。
「あー・・・欲求不満か?」
不憫そうに、母シトリンが娘の肩に手をかける。
「へ〜、そ〜だったんだぁ〜」
アクアはニヤニヤ。
「・・・・・・」
ヒスイは複雑な面持ちだ。
(じゃあ、アレってサルファーの・・・最悪だわ・・・)

「サルファーには一度灸を据えてやらねばなるまい!」
改めて、シトリンが言った。
「面白そ〜♪」と、アクア。
「・・・まあ、いいんじゃない?」と、ヒスイ。
「フッ・・・私も力を貸そうではないか」と、スノークイーン。
いつの間にか、女子メンバーに馴染んでいる。違和感は、ない。
「!?お母様!!何をおっしゃって・・・わたくしはそんなつもりでお話した訳ではありませんことよ!?」
「タンジェよ!お前は見ているだけでいい!あとは我々に任せろ!!」
こうして・・・
シトリンをリーダーに、『サルファーにお仕置きし隊』が結成された。

「女の怖さ、思い知らせてやるぞ!!」

『サルファーにお仕置きし隊』、いざ参る!!

[ 8 ]

アイスパレスに到着した男子一行。

コハクを先頭に、サルファー、ジストと続く。
「・・・・・・」(ヒスイを氷の像にしてたら殺ス!!)←密かに殺気立つコハクの心の声。
スノープリンスに兄がいることは村人から聞いていた。その性癖も。

“彼”に攫われるということは、“美しい者”の証明であり、名誉である。

この地方では、そう言い伝えられていた。
教会に被害届が出なかったのも、そういった理由からと推測される。
「もしもし?あ、兄ちゃん?うん、もうすぐヒスイと合流できそうなんだけど・・・場所はええと・・・」
ジストは言い付けを守り、トパーズに連絡。
サルファーは不機嫌そうに黙って歩いた。
そして・・・


「よく来たな!男どもよ!」


シトリンの声がアイスパレスに響く。
愛鎌を振り翳し、まるで此処の主がごとき風格だ。
・・・若干、そんな自分に酔っている。
『サルファーにお仕置きし隊』は、すでに戦闘陣形を組んでいた。
前衛はシトリンとアクア。
後衛はヒスイとスノークイーン・・・真の名はアデュラリア、愛称はアデューだ。
隊の結成に伴い、互いに名を明かし。不思議な絆が生まれていた。

「サルファー!!前に出ろ!!貴様に天誅を下す!!」と、シトリン。

どうもこういったノリが好きらしい。
「はぁ?何だよ、それ」
全く意味がわからないが。
「売られた喧嘩は買うぜ?姉さん」
サルファーもハルベルトを構えた。

「姉弟喧嘩はダメだよっ!!」
慌ててジストが止めるが、両者、耳を貸さない。

「・・・・・・」(どうなってるの?これ?)と、コハク。
攫われた筈の女子達が、敵と一致団結・・・謎の展開だ。
しかし今はそれよりも。

「お兄ちゃん・・・っ!!」
「ヒスイ・・・っ!!」

陣形を抜け=戦いを放棄し、ヒスイが駆けてくる。
コハクも同じようにして駆け寄り、二人、抱き合う。
「のぁっ!?母上!?」
後方支援を期待していたシトリンは、ヒスイの離脱に動揺をみせたが・・・
「やるのか、やらないのか、はっきりしろよ」
逆にサルファーに焚き付けられ。
「やるに決まっている!!いざ尋常に勝負!!」

「なんかね、サルファーが色々酷いから、お仕置きするんだって」
コハクの腕の中で安心しきったヒスイが、『サルファーにお仕置きし隊』結成までの経緯を説明した。
「父ちゃん!」と、そこでジスト。
「戦い始まっちゃうよっ!?」
「うん、まあ、いいんじゃないかな。所詮は姉弟喧嘩だし」
一発殴る!くらいの感覚だろうから、しばらく様子を見よう、と、コハクが言った。
「じゃれ合ってるだけだよ」
そう続けるヒスイも暢気なものだ。
「・・・・・・」(そうかもしんないけど・・・)←ジスト、心の声。
獰猛な獣達のじゃれ合いに思えてならない。

怪我人が出ないことを祈るジストの傍ら。

勇んだシトリンは、作戦B!と称し。
アクアとアデューに視線を送った。
線で結ぶと三角形・・・その中心にサルファーを囲うようにして、それぞれ配置につく。
サルファーが圧倒的に不利な状況にも見えるが、エクソシスト1級の実力は侮れないのだ。

シトリンとアクアが同時に攻撃を仕掛けた。

一方、サルファーは、ハルベルトの柄でトン・・・ッ、と、地面を突き。
自身の周辺に烈風を起こす。
その風圧で二人の攻撃を同時に弾いた。
「やるぅ〜♪」
軽く口笛を吹くアクア。
「ふ・・・やるな」
不敵に笑うシトリン。
一打目こそ防がれたが、怯むことなく、間合いを詰める。
待っていたとばかりに、今度はサルファーが、ハルベルトを斜め下へと振りおろし、姉妹の足元を狙った。
体勢を崩させるための攻撃だったが・・・
「よっ、と」
「はっ!!」
二人は華麗に躱して。
こんな具合に、どちらの攻撃もヒットしない中。
「アデューちゃん」
「アデュー!!!」
美人姉妹が声を揃え、呼び掛ける。
「OK、OK、任せたまえ。戦いは好まないが、美しい女性を守るのも、美しい男の役目というもの、フッ・・・」
まずは兵力を提供しよう、と。魔法で兵を造り出す。
弟スノープリンスは“雪だるま”だったが、美を愛するスノークイーンが使役するのは、リアルな8等身の雪像だ。
対するサルファーは。

「どっちにしろ、雪の塊だろ?なら、容赦しないぜ」

片っ端から撃破していくが・・・
驚くべきことに、その雪像は“学習し、受け継ぐ”性質を持ち。
新しく造り出されるたび、能力が上昇してきた。
ただの雪の塊ではない。ついには、サルファーの攻撃を避け始めた。
それに加え、シトリンとアクアの猛攻。
更にアデューがサルファーの体温を奪う呪術を放つ。
「死なない程度」と、アデューは言うが、この手の術は厄介で。
徐々にサルファーの動きが鈍くなる。
唇の色もやや紫がかり。さすがに分が悪そうだった。
見兼ねたタンジェが飛び出す。
(このままでは危険ですわ!!)

「サルファー!!」

[ 9 ]

加勢のつもりで、タンジェは戦いに身を投じた。
サルファーの隣に立ち、アデューの視線を遮る・・・それだけで、体温低下の呪術は無効化できる。
そうと知っての行為ではないが、愛する男の危機に、反射的に体が動いたのだ。

「・・・お前、どういうつもりだよ。いきなりいなくなったかと思えば」

サルファーは、タンジェもまた『サルファーにお仕置きし隊』のメンバーと解釈したようだった。

「わざわざ迎えに来てやったのに」

「女って、何考えてんのか、わかんねー」

うんざりと、そう吐き捨てるサルファー・・・
するとタンジェは。

「わからなくて当然ですわ!!」

ヒステリックな声で言い返し。場が静まりかえる。
シトリンもアクアもアデューも、攻撃の手を止め。
コハク、ヒスイ、ジストも黙って見守っている。
そして続く言葉・・・

「わかろうとしないんですもの!!」
「何だよ、それ」
「わたくしはっ!!サルファーのこと、何でも知っておりますわ!!」

喜ぶこと、好きな食べ物、お気に入りの漫画、服の好みも、全部。

「けれどサルファーは、わたくしのこと、何も知らないのではなくて!?」

タンジェにそこまで言われ、沈黙・・・するかと思いきや。

「知ってるぜ。お前の好きなものぐらい」


「僕だろ」


サルファーは真顔で。堂々、俺様発言。
「な・・・」
シトリンをはじめ、ヒスイ、ジストは唖然。
コハクとアクアは笑っている。
アデューは興味深そうに、様子を窺っていた。
「・・・・・・」
言い返せなくなったのはタンジェの方で。
「その通りですわ」
極限に赤く染まった顔で俯く。
恋愛に於いてドMのタンジェは、胸がキュンキュンしてしまっていた。
「・・・顔、あげろよ」と、サルファー。
「ああ・・・サルファー!!」
涙ながらに、熱い抱擁を交わす。
「わたくしが悪かったんですの!ごめんなさい・・・」

「・・・あれでいいのか?鳥肌が立つんだが」

誰に、という訳でもなく、シトリンが呟やいた。
ヒスイも渋い表情をしていたが、「まあまあ」と、コハクがキスで機嫌を取っている。

そうこうしているうちに。

「シトリン!!」
ジンがアイスパレスに駆け込んだ。
「アクア・・・っ!!」
負けじとコクヨウも走り寄る。それから・・・
「・・・・・・」
トパーズと、もうひとり。牽引者である、セレナイト。計4名が合流した。

「シトリン!無事だったか!?」
「おお!ジンか!この通り無事だ!心配をかけたな!」

「アクア・・・お前・・・元気そうじゃねぇか」
「ん〜、まね〜、楽しかったよぉ〜」

「ヒスイ、怪我はないかね」
「さりげなく混ざるな。タヌキオヤジ」

・・・ヒスイ周辺が定員オーバーだ。

「フッ・・・迷惑をかけてしまったお詫びに、それぞれ部屋を用意しよう。休んでいくといい」
と、アデュー。反省と友愛の証として、そう申し出た。
アイスパレスは確かに美しいところだった。
素晴らしい景観だ。一流のホテルとして利用できる。
すべてが氷でできているのに、寒さや冷たさを感じないのは、アデューの緻密な魔力コントロールによる。
「そうさせていただきませんこと?」
ご奉仕いたしますわ――サルファーの耳元で囁くタンジェ。
発情の香りを漂わせながら、サルファーに身を擦り寄せ、若々しい巨乳を押し付ける。
「もちろん、これで」
「いいぜ。好きなだけいたぶってやるよ」
「嬉しいですわ」
仲直りしたらしい二人を、雪像のベルボーイが部屋まで案内する。
それを見ていたシトリンが。
「よし!私も久しぶりにやってやろう!娘に負けてはいられんからな!」
「え!?シトリン!?ちょっと待ってくれ〜・・・心の準備が・・・」※嬉し過ぎて※
「遠慮するな!さあ、いくぞ!!」
ジンを引き摺って、ベルボーイに続く。
「ね〜、コクヨ〜、アクア達もぉ〜、パイズリの続きしよ〜」
「・・・・・・」
逆らうだけ無駄と悟っているのか、コクヨウは黙って引き摺られていった・・・

残されたヒスイは・・・

「・・・・・・」(足りない・・・)
己のなだらかな貧乳を見下ろし。それからコハクを見上げた。
「お兄ちゃん、あの・・・私も・・・大人のカラダにしてくれたら・・・おっぱい、何とかなるかもしれないけど・・・」
「ヒスイはそのままで充分だよ」
「そう・・・かな???」
「そうそう」
ちゅっ。ヒスイの目元にコハクがキスをすると。ヒスイはくすぐったそうに笑った。
「ね、ヒスイ、僕等も休んでいこうか」
「ん・・・」
ところがそこで。

「ヒスイ君のパートナーは4人かね?フッ・・・見かけによらず、体力があるようだ」

大きなベッドを準備しなくては、と、余計な気を利かせるアデュー。
「!?違うってば!!」
ヒスイが慌てて否定するも。悪ノリしたセレが・・・
「では行こうか、ヒスイ」
コハクの腕の中にいるヒスイに手を伸ばす。
その手は当然、コハクが叩き落とした、が。
その隙にトパーズがヒスイの腕を掴み、コハクの懐から引っ張り出した。
「!!兄ちゃん、だめだよっ!!」
しかしそこでジストが止め。
「父ちゃんに返さないとっ!!」

兄弟親子でヒスイの引っ張り合いになる。

「ちょっ・・・やめ・・・」

「ヒスイ、こっちだよ」と、コハク。
「こっちへおいで、ヒスイ」と、セレ。
「こっち来い、ヒスイ」と、トパーズ。
「ヒスイはこっちだっ!」と、ジスト。

方々から手を出され。
「っ〜!!!もう帰るっ!!!」
アイスパレスでの休憩を放棄し、逃げ出すヒスイだったが・・・
「!?ひぁ・・・」
足が縺れ、積もった雪の中へ全身ダイビング・・・
ヒスイの型が取れるほど、すっぽり埋まった。
「・・・・・・」(なんでこうなるの?)
「ヒスイっ!!」
コハクが抱き起こし、雪を払う。
「大丈夫?痛いところない?」
「うん。平気」
ぎゅっ・・・コハクに抱き付くヒスイ。
もはや誰も寄せ付けない雰囲気だ。

「くすっ、帰ろうか」
「うんっ!」

コハクとヒスイ。以下、トパーズ、ジスト、セレ。
5人は一足先に帰路に就くことにした。
アデューに許可を得て、アイスパレス入口に魔法陣を描くヒスイ。
いつものようにしゃがみ込み、ステッキの柄でガリガリ・・・

「そんで、結局、何だったの???」

今になって、ジストが言った。

「う〜ん、そうね・・・」

ヒスイは手を止め、タンジェの姿を振り返った。
おかげで散々な目に遭ったが。
恋に一生懸命で。欲求不満な、モルダバイトの姫。
(今頃サルファーとえっちしてるかな?)
ヒスイは、ぷぷぷ、と、笑い。それからこう答えた。

「ちょっとえっちな、お姫様の話――なんじゃない?」

PINK PRINCESS――HAPPY END!

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