World Joker

番外編

これもまた、縁。



赤い屋根の屋敷にて。

「え?イースター?」と、ヒスイ。
「そうそう、面白そうじゃん」と、メノウ。

パーティの類を主催するのは、大抵コハクだが、今回は珍しくメノウが言い出した。
「いいかもしれませんね」
コハクも乗り気だ。参加人数を指折り数え。
「イースターエッグ作りは任せてください」
快く祭りの準備を引き受ける。
「あ、じゃあ私も何か手伝う!」
「んじゃ、ヒスイは俺の手伝いで」
「うんっ!」



そして、イースター当日。

敷地一帯※村全体※に撒かれた=隠された玉子を探し集めるというイベントが開催された。
参加者は・・・
アイボリー、マーキュリー、ジスト、サルファー、スピネル、アクア、シトリン。
トパーズとオニキスは仕事の都合で少し遅れるとのこと。
その分不利にはなるが、これは子供達のための祭りとも言えるので、それも仕方がない。
ちなみに、玉子を隠したメノウとヒスイは不参加。コハクも参加表明はしていない。
主催者側の3人は、イースターにちなんでウサギの耳を付けている。
ヒスイに至っては、イースターを意識した色彩のロリータファッションだ。
勿論、コハクのお手製コーデである。
「おお!母上!今日も可愛いな!」
代表して、シトリンが絶賛。
その姿に見とれる者多数のなか、メノウが参加メンバーの前に立ち、祭りのルールを説明した。
「ま、基本的には、玉子を一番多く集めたヤツが優勝。賞品もちゃんと用意してあるから、張り切っていけよ!」
それともうひとつ――スペシャルイースターエッグの存在を明かす。
ノーマルイースターエッグの見本を一つ掲げて見せながら。
「他の玉子は、こういう柄が入ってるわけだけど」
スペシャルイースターエッグだけは、ハートが描かれているという。
「スペシャルなだけに、隠し場所にも凝った」と、メノウ。
「誰も見つけられなかった場合は、集めた玉子の数で勝負ってことになるけどさ、最もレアなその玉子を見つけたヤツを無条件で優勝とみなす!」
まさに一発逆転エッグなのだ。
尚、敷地内でのみ、どんな手を使っても構わないとのこと。
「魔法使用はもちろん、共同戦線を張るもよし、奪い合うのもよし、ま、そのへんは自由だ」
切磋琢磨しながら、優勝目指せ!そう、孫達を焚き付けるメノウ。
制限時間は日暮れまで。
ただし、誰かがスペシャルイースターエッグを見つけた時点で終了となる。

「そんじゃ、スタート!」

アイボリー、マーキュリー、ジスト、サルファー、スピネル、アクア、シトリン・・・
賞品目当ての者から、単純に勝負事が好きな者まで。一斉に動き出した。
「やるからには勝つぜ」
まずはサルファーが、効率的な手段のひとつとして、悪魔召喚――ピッ!
「あ、プラズマ?ちょっと出てこいよ。手伝って貰いたいことがあるんだよ」
1分で来い!と言って、携帯電話を切る。
すると、負けじとアクアが、ピッ!こちらも携帯電話で喚び出しだ。
「エピちゃ〜ん、おいでぇ〜」
サルファー同様、1分指定で通話終了。
「へへん!そんなら俺も!」
そう言ったのは、アイボリーだ。
右手に装着した腕輪を高々と掲げ――
「チャロー!!ヒスイのパンツやるから来い!!」
「それは真かぁぁぁ!!!」
突然沸いた煙の中から、淫魔チャロアイトが飛び出した。
「ならば力を貸してやろうぞ!何でも言ってみい!」
物凄い意気込みだ。
そしてここに、一級悪魔3体が揃う。
「!!おお、久しいのう」
なんとチャロも『熾天使被害者の会』のメンバーだった。
プラズマこと、アザゼル。エピドートこと、マモン。
皆面識があり、つい話に花が咲く。
一方、主である3人は、自分の悪魔がナンバーワンとばかりに睨み合っている。そこに・・・
「ふはは!甘いぞ!弟達よ!」
シトリン※猫型※が割って入った。
「出でよ!我が同胞!!」
シトリンがそう叫ぶと。ニヤァーッ・・・モルダバイトの猫達が集まってきた。
その数は10や20ではない。もはや軍団だ。

こうしてそれぞれ頭数を増やし、本格的なエッグハントが始まった。

勝負事にあまりこだわらないジストとスピネルは、お喋りをしながら共に村を回っている。
マーキュリーは付き合いで、玉子を探しているフリをしていた。



こちら、主催者側。

「時間もあることだし、ゆっくり紅茶でも飲もうか」と、コハク。
メノウはエッグハント観戦に繰り出し、屋敷に残っているのは、コハクとヒスイの二人だけである。
テラスのテーブル席に、エッグタルトと紅茶を用意して、ヒスイを呼ぶ。
着席したヒスイの頭を撫で「召し上がれ」。
ヒスイは「いただきます」を言ってから、エッグタルトを頬張り、舌鼓・・・だ。
「そういえば・・・」
コハクが何気なく話を切り出す。
「優勝賞品って、何?」
メノウとヒスイの担当だったため、コハクは知らなかった。
「マッサージ券」と、ヒスイが答える。
「・・・え?マッサージ券?」
「うん」
「誰の?」
「私が作ったから、私のかな」
それはつまり、優勝者の誰かにヒスイがマッサージをするということで。
「・・・・・・」(あり得ないでしょ)
ヒスイのマッサージ・・・コハクの脳内でピンクの妄想が広がる・・・
「・・・・・・」(させてたまるか!!)
「お兄ちゃん!?」
ウサミミを外し、コハクが身を翻す。
「――メノウ様」
すぐさまメノウを見つけ出し、参加表明だ。
「ま、いいけどさ。あんま大人気ないことすんなよ?お前はこの村知り尽くしてんだから」
隠し場所を割り出すのは容易い。
コハクが本気で参入すれば、大きく流れが変わる、と。メノウが説くも。
軽く聞き流し、コハクは飛び立った。



それからしばらくして。オニキスが到着した。
メノウから説明を受け、競技に参加したものの、優勝を狙っていた訳ではなかった。
愛しいヒスイの顔を一目見られればいい――と、屋内へ。
ところがそこで。
「・・・お前、何をしている」
「何してるって・・・見ればわかるでしょ。スペシャルイースターエッグ作りよ。ちょうど今、完成して・・・あ」
日暮れまでに作成するよう、メノウに言われていた。
作成したものは、どこに隠そうと、誰に渡そうと、好きにしていい、とも。
ヒスイの手には、ハートマークがいっぱいのスペシャルイースターエッグ。
目の前には、オニキスが立っている。
ヒスイは少々迷ったが、第一発見者に手渡すのが道理と。
オニキスにスペシャルイースターエッグを持たせた。
「おめでと!」

「んじゃ、優勝者はオニキスってことで!!」

参加者全員を集めた先で、メノウの声が響き渡る。
「・・・・・・」(何、このオチ・・・)←コハク、心の声。
玉子を一番多く集めたのはコハクだったが、メノウルールにより敗北。
ヒスイのマッサージ券はオニキスのものとなった。
その様子を温かく見守るのは、スピネルとシトリン。
「折角だから、使ってみたら?」
スピネルが提案し。
「おお!そうだ!久しぶりに離宮でゆっくりするといい!二人きりでな!」
シトリンが後押しする。
「・・・それでいいか?」と、ヒスイを見るオニキス。
「うん、いいよ」ヒスイは笑顔で応えた。
なにせこの時ために、マッサージの本を読んで勉強したのだ。
腕を披露する場ができて嬉しい。
「お兄ちゃん!ちょっと行ってくるね!」
「あっ・・・ヒスイ・・・」
オニキス派の面々に周囲を囲まれ、ヒスイを追うに追えないコハク。
「ま、お前も後でしてもらえばいいじゃん。オトナ向けのヤツをさ」と、メノウが笑い。
ほら、と、次点の賞品をコハクに投げ渡した。※足止めも兼ねて※
それを受け取ったコハクは・・・にっこり。
「わかりました。そうします」コハクルート⇒オトナのストセラ『アダルトリラクゼーション』にて。



モルダバイト城、離宮。

シトリンとジンの心遣いにより、離宮は何十年とそのままの状態を保っている。
手入れはきちんとされているため、いつでも利用可能だった。
「これでいいのか?」
「ん!」
かつてヒスイが愛用していた天蓋付のベッドで、うつ伏せになるオニキス。
その上にヒスイが跨る。
「じゃあ、いくわよ」
「ああ、頼む」
ヒスイは覚えたてのツボを親指で押し始めた。
「オニキスって凝ってそうだから、やり甲斐あるわ」
「・・・・・・」(相変わらず、無防備だな・・・)
ヒスイを乗せた腰裏に柔らかな割れ目の感触。それが度々前後し、擦れる。
もう少し若かったら、理性を保つのが難しかったかもしれない。
「どう?気持ちいい?」
「ああ」
オニキスの肩甲骨や背骨に沿って、ヒスイの親指が動く。
「♪〜」そのうち鼻歌が混じって。
何とも心地良い時間・・・だったが。
「ふぁ・・・ちょっと休憩」欠伸混じりにヒスイが言って。
オニキスの背中に伏したかと思うと、そのまま眠ってしまった。
「・・・・・・」(寝たか・・・)
なんとなくそうなる気はしていた。
ヒスイを背中に乗せたまま、オニキスはバルコニーへと目を遣った。
自分が死んだ時のことを思い出したのだ。
イースターは、復活祭とも言われ。
一度死んだ聖人が、生き返ったことを祝う日とされている。
玉子は、新しい命の象徴。
オニキスは、ヒスイの作ったイースターエッグを眺めながら、静かに笑った。



ヒスイから得た玉子と、二度目の命。

「これもまた、縁・・・か」



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