World Joker

番外編

眠り姫と五人の騎士

双子兄弟×ヒスイ他

「・・・保護者が足りない」


神妙な顔でコハクが呟く。
それは、ある日、ある夜のこと。
急な裏任務で、単身外出せねばならず、まだ幼い子供達の預け先に困っていた。※ちなみにヒスイも子供枠※
オニキス、シトリン、アクア・・・今日に限って、皆、予定が入っているのだ。
「お兄ちゃん?私、留守番ぐらいできるよ?あーくんとまーくんの面倒もちゃんとみるし!」
・・・と、ヒスイは言うが。
先日5歳になったばかりの悪戯盛りな双子兄弟と、ドジっ子ヒスイ・・・
(家を燃やされる可能性が高い!!)←コハク、心の声。
「・・・仕方ない。あそこへ預けるか」
あそことは――コスモクロア、三階建ての家。つまり、トパーズだ。
持ち帰りの仕事が多いため、夜は比較的在宅している。
(まあ、あそこなら燃えてもいいし)


・・・と、いうことで。


パジャマ姿の子供達を引き連れ、「よろしくね」と、トパーズ宅の玄関に立つコハク。
「夕食とお風呂は済ませてあるから」
トパーズに向け、そう言って、にっこり笑う。
「・・・・・・」
双子兄弟はとっくに家の中。
ヒスイはコハクと手を繋いだまま、欠伸をしている。
「おにいちゃん・・・わたし・・・ねむい・・・」
よしよし、と、コハクが額にキスをして。再びトパーズを見た。
「くれぐれも、変な気は起こさないように。まあ、あーくん、まーくんがいるから無理だろうけどね」
「・・・行くならさっさと行け」
「おっと」
繰り出される蹴りを軽やかに躱し、コハクはいそいそと飛び立っていった。




こうして――

ヒスイはロフト部屋へ。
「おやすみ〜・・・」と、ひとりベッドへ潜り込む。一方で。
「俺まだ眠くねぇし!トパーズ!あそぼーぜ!」
双子兄弟・・・主にアイボリーは外泊に大はしゃぎで。
しばらくの間、ドタドタと走り回る音が聞こえていたが・・・
「クソガキはさっさと寝ろ(怒)」
ヒスイの眠るベッドに、アイボリーとマーキュリーが放り込まれた。


本題はここからである。


それは、丑三つ時のこと――

「ん・・・」(トイレ・・・)
もぞもぞとヒスイが動き出した。
「おにいちゃぁ・・・」
寝惚け気味にコハクを呼ぶも。当然返事はない。
(そういえば、ここトパーズの・・・)
ヒスイを挟むようにして、アイボリーとマーキュリーが眠っている。
二人を起こさぬよう、ヒスイはこっそりベッドを抜け出し、三階のトイレへ向かった。
そこで・・・
「!?きゃ・・・!!」
驚いたヒスイが、しりもちをつく。
「な・・・なに!?」
トイレのドアを開けた途端、それと連動でもするかのように便器の蓋が開いたのだ。
「なんで???」(もしかして、おばけとか・・・)※ヒスイはお化けが苦手※


「ヒスイ!どーした!?」「お母さん、大丈夫ですか?」


ヒスイの悲鳴に、双子兄弟が目を覚まし、駆け付けた。
ヒスイは便器を指差し、震えた声で。
「蓋が・・・蓋が勝手に開いたの」
「・・・まじで?」
ごくりと唾を飲み、アイボリーが聞き返す。
「うん」
「・・・・・・」(そんなことあるわけないじゃないか)
マーキュリーは真に受けていない様子だったが、ヒスイとアイボリーは真剣そのものだった。
「よっしゃ!俺が確かめてやる!」
得意の強がりで、アイボリーが個室に入る・・・そして、便器の前に立つと。
「!!?」
川のせせらぎと鳥のさえずりが、どこからともなく聞こえてきた。
これにはアイボリーも驚き、ヒスイ同様、しりもちだ。
「これ・・・ヤバくね?」
そうこう言っているうちに、便器の水が流れた。
誰も何もしていないというのに、だ。
アイボリーは渦中の便器を凝視し、言った。


呪いのトイレ――と。


「呪いのトイレ・・・」
思い詰めた表情でヒスイが呟く。その心中は・・・
(トパーズが危険だわ!!何とかしなきゃ!!)
意を決し、立ち上がるヒスイ。
“そこにいるもの”が、本当に霊魂の類かどうかはわからない。けれど。
「・・・あーくん。まーくん。後ろに下がってて」
ヒスイはいつになくシリアスに言った。
「除霊するわ」
とはいえ、除霊用のアイテムは何も持っていない。
ヒスイの場合、属性の問題もあり、“札”がないと除霊の難易度が跳ね上がる。
(それでもやるしかない!!)
呪いのトイレから、トパーズを守るために。
ヒスイは呼吸を整え。


「――出でよ。浄化の炎」


すると、右の手のひらに白い炎が灯り。
ヒスイが息を吹き掛けると、それは紐状に長く伸び、便器へと巻き付いた。
そこから更に燃え上がり、個室の天井、壁、床へと炎が走る。
呪文に成功していれば、本来は霊魂の類にのみ影響する浄化の炎・・・だが・・・
「お母さん・・・本当に燃えてませんか」
マーキュリーが冷静に指摘する。
「え・・・そんなはず・・・」
しかし言われてみれば、焦げ臭い。白いはずの炎も赤々としている。
気が付けば、炎の嵐となって。
「これ・・・フツーに火事じゃね?」と、アイボリー。
「・・・そうかも」
ヒスイが納得した、次の瞬間――燃え盛る個室から熱風が吹き出した。
「ヒスイ!」「お母さん!」「ヒスイっ!!あー!まー!」


「「「危ない!!!!」」」


「――え?」
双子兄弟がヒスイを庇い前へ出る。そこに仕事帰りのジストが加わり、盾となる。
「うお!」「っ・・・!!」「わ・・・」「ちょっ・・・」
熱風を受け、そのまま全員後ろに倒れた。
バタンッ!これ以上被害が拡がらないよう、ドアを閉めたのは、スピネルだ。
今やトパーズの右腕であるスピネルは、三階建ての家に寄る機会が多く、この日もそうだった。
「皆、怪我はない?」

そこでついに。

「・・・お前等、何やってる」
主のトパーズが姿を見せた。
シャワー直後の濡れた髪を掻き上げ、ヒスイとジスト、双子兄弟を見下ろす。
「トイレが呪われてて・・・その・・・除霊しようとしたんだけど・・・」
起き上がりながら、ヒスイが説明する。
「呪いだと?バカ言え。ジジイが弄ってただけだ」
「あ、そうだっ!じいちゃんが、異世界の技術が何とかって言ってた!」と、ジスト。
不思議なことに、次にドアを開けた時には、鎮火していて。※魔導式スプリンクラーが作動したため※
焼け焦げたトイレの壁には、メノウの魔法陣が仕込まれていた。
「・・・・・・」←トパーズ。
大事に至らなかったとはいえ、火事は火事だ。トイレは丸焦げ、水浸し・・・
どうしてくれようか、あれこれお仕置きを考える中。
「あの・・・ごめんね?」
ヒスイが見上げる。
その上目遣いに、恋心を煽られつつ、ヒスイの頬を摘んで引っ張るトパーズ。
「あぅ〜・・・・」
苦しそうに呻くヒスイを見兼ねてか。
「くすくす、兄貴、今夜はそれくらいにしてあげたら?」スピネルが言った。


「貰い物の蜜柑があるんだ。皆で食べよう」





キッチンテーブルに、トパーズ、ヒスイ、ジストと、アイボリー、マーキュリー、スピネル。
親子兄弟が3:3で向かい合わせに座る。
「俺、みかん好きー!」「僕も」「私もっ!」
双子兄弟とヒスイは、嬉々として、みかんを手に取った。
ところが・・・
アイボリーが、みかんのへそに親指を突き立てた瞬間。
ビチャッ!みかんの汁が、トパーズの眼鏡に飛んだ。
「・・・・・・(怒)」
「ぎゃはは!メガネおもしれぇ!!」
足をバタバタさせ、大笑いするアイボリーを。
「あーくん」
マーキュリーが咎めるように肘でつつく。
「あーくんってば、だめじゃない」
などと言いつつ、こうやるんだよ、と、ヒスイが手本を見せた、が。
ブシュッ!!
「ぎゃっ!!」
みかんの汁を自分の目に飛ばした。なんと両目に直撃だ。
「っ〜!!!!」
「ヒスイっ!!」
痛みに悶え、椅子ごとひっくり返りそうになったヒスイを、ジストが支えようとするが。
「うわっ・・・」
慌てるあまり体勢を崩し、ヒスイより先に転倒する。
ヒスイの背もたれを掴んだのは、トパーズだった。
「毎度、毎度、手間かけさせやがって」
その傍らで、アイボリーがみかん汁を飛ばし続けていた。
「くらえ!トパーズ!!みかんビーィィム!!」
トパーズの怒りは相当なものだったが、何も見えなくなっているヒスイから手を離すわけにもいかず。
「・・・後で宙づりにしてやる。そこで待ってろアホガキ」




「大丈夫?」
スピネルが席を立ち、ジストに手を差し伸べる。
「スピネル?なんで笑ってんの???」
「うん、ちょっと思うところがあって」
「思うところ???」
「ママにとって、パパが唯一の王子様なら――皆は、ママを守る騎士なんだな、って」
この場にいないオニキスも。きっと。
「――うんっ!」
力いっぱいジストが頷いた。


ヒスイは両目をつぶったまま、しばらく痛がっていたが、机に突っ伏し、そのまま動かなくなった。
眠ってしまったのだ。
マーキュリーが気を利かせ、ヒスイにブランケットを被せる一方で。
トパーズに追いかけられるアイボリー。
この光景に、スピネルとジストは顔を見合わせ、笑った。





眠り姫と騎士達の夜は、賑やかに、更けてゆく――

+++END+++

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