World Joker

番外編

彼と、彼と、彼。めぐり、めぐる。

ジン、スピネル、トパーズ他

国境の家――


スピネル大学卒業の年。
その後の進路を巡り、一族間・・・双子兄妹による小競り合いが勃発していた。


「スピネルはいずれ王となるべきだ!城に入り、帝王学を身につけろ!!」と、シトリン。※現モルダバイト王妃/城下の猫ボス※
「スピネルにはオレの手伝いをさせる。教員免許も取らせた」と、トパーズ。※教育機関総括/コスモクロア管理者※


「!!なんだと!!抜け駆けは許さんぞ!兄上!!」
「知ったことか」
絶対に譲らないという姿勢で、睨み合う、二人。
「姉貴も兄貴も落ち着いて」
苦笑いで両者を宥めるのは、スピネルだ。
この場を収めるため、まずはそれぞれの職場を見学してみたいと提案した。




そして――モルダバイト城。

「スピネル君!ようこそ!」
現王ジンカイトが嬉々として迎える。
城内をのんびり歩きながら、王の職務についての話をし、執務室へ戻ると、ジン自らカフェラテを振舞った。
「あの、誤解のないように言っておきたいんだけど・・・シトリンは、国を押し付けたい訳じゃなくて、むしろ誇りに思っているからこそ、王の血を継いだスピネル君に譲るべき――いや、還したいと言ってるんだ」
「うん、わかってるよ。ジン義兄さん」
ところで、と、スピネルが続ける。
「ジン兄さん的には、どう思ってる?」
「オレ?」
意外そうに瞬きするジン。自分に意見を求められるとは思っていなかったのだ。
とはいえ、言葉に詰まることなく、ジンは言った。
「シトリンには怒られそうだけど、スピネル君には、トパーズの手伝いを頼みたいかな」
過去の経験から、どれほどハードな仕事か、ジンは知っているのだ。
「オレにはシトリンがいるから、どんなことでも乗り越えていけるけど・・・トパーズの隣にはまだ、ヒスイさんがいないから・・・」
そこまで言ってからハッとしたらしく、慌ててこう付け加える。
「スピネル君に、ヒスイさんの代わりをお願いしてるんじゃないんだ!ただちょっと心配で・・・誰かが傍にいてくれれば、なんて思っただけで。決めるのはスピネル君自身だから!」
ジンの気遣いにスピネルは礼を述べ。
「ジン義兄さん、最後にひとつ聞いてもいいかな?もし引退したら、何したい?」
「そうだなー・・・シトリンと二人で旅行にでも行きたいな。それから――」




――コスモクロア理事長室。

「忙しいところ、ごめんね、兄貴」
「当然の権利だ」
気が済むまで見学していけ、と、トパーズ。
その間も書類に視線を落としたまま。仕事の手を止める気配はない。
「兄貴、疲れてない?」という問いに。
「いつもこんなもんだ」という答え。
スピネルは肩を竦め、それから改めて理事長室を見渡した。
トパーズの机とは別に、いくつか机が並んでいる。
その殆どに、書類や資料、教材などが積まれていたが、ひとつだけ、空いている机があった。
セットの椅子には、ふわふわのクッション。
“誰”の席なのかは、聞かずともわかった。
「・・・・・・」(ママの居場所をちゃんと作っておくところ、オニキスと似てるな、兄貴)
あたたかな愛を感じながら、スピネルは言った。
「そこ、ママの席でしょ?よく手伝いに来るの?」
「・・・たまにだ」

と、ちょうどその時だった。

「トパーズっ!手伝いに来たよ!」
ヒスイが近くの魔法陣から現れた。
トパーズから急ぎの書類を受け取り、早速席に着く。
スピネルの存在に気が付いたのは、それからだった。
「あれ?スピネル来てたの?」
「まあね、ボクのことは気にしないで」
「ん!」
ヒスイは髪を束ね、やる気満々で机に向かった・・・が。
間もなく、うつらうつらし始めた。
「Zzzz・・・・はっ!!」
眠気と戦うヒスイ。
「うぐぐ・・・」
両手を使い、無理矢理、目を開こうとする。
これにはスピネルも笑ったが。
トパーズも・・・笑っていた。仕事の手を止めて。
「ママっていつもああなの?」スピネルが小声で耳打ちすると。
「そうだ」と、トパーズ。
眠気で、もがき苦しむ様が面白い――意地悪な笑みでそう言い放った。


・・・ヒスイを中心にまったりとした時間が流れた。


それまで全く隙のなかったトパーズも、時折ヒスイを見ては笑い。自分も軽く目を閉じる。
「・・・・・・」(兄貴にとって大切な時間なんだな)
邪魔をしないよう、スピネルも静かに佇んで。


午後2:45。


ヒスイは突然立ち上がった。先程までの眠気はどこへやら、だ。
「もうじきおやつの時間だから、一旦帰るね!」
いそいそと魔法陣へと向かう。
そこでトパーズが、「待て」と、声をかけた。
「何?」と、ヒスイが振り向いた先には――


「ク・・・クリームブリュレ!?」


スイーツ欲が猛烈に煽られる、それは勿論、トパーズの手作りである。
「ここで食っていけ」
「今じゃなきゃ駄目?」
「駄目だ」
「・・・・・・」
天秤に掛けられる、おやつ・・・
ヒスイは少々考えた末、バックから携帯を取り出した。そして。
「あ、お兄ちゃん?今日のおやつなんだけど――」


「こっちで食べていいって!」


ヒスイは嬉しそうにトパーズへと駆け寄り。
“早くちょうだい”と謂わんばかりの表情で見上げた。
「!?むぐっ・・・」
そんなヒスイの鼻を摘んでから、「ほら食え」と、クリームブリュレをひとつ与える。
ヒスイは走って席に着き、いただきます!を言って、一口。
「ふぁ・・・」(おいしいぃぃ〜!!)
感動を伝えるべく、ヒスイが口を開いた――その時。


「やあ」


コハクの声が理事長室に響いた。
「お兄ちゃん!?」
ヒスイと同じ魔法陣で移動してきたコハクは、その手にお馴染みのピクニックバスケットを持って。
「今日のおやつはパウンドケーキだよ。スピネルも来てるって聞いたから、皆で食べようと思って。今、支度するから待っててね、ヒスイ」
「ん!」
ヒスイの頬にキスしつつ、堂々、仲間入りを果たす。
「・・・・・・」
「はい」
忌々しそうにコハクを見ていたトパーズに差し出される、パウンドケーキ。
「自信作なんだ。君にも是非、食べて貰いたいな」
「・・・ヒスイの“おかわり”分だが、まあいい。食ってみろ。自信作だ」
トパーズも黙ってはおらず、火花を散らし合いながら、スイーツ交換。

こうして迎えたティータイム。

両方平らげ、満足したヒスイは、コハクに寄り掛かり、再びうとうとし始めた。そんな中。
「へぇ・・・職場見学ねぇ」と、コハク。
「うん、どっちにしようか迷ってるんだ」
するとコハクは。
「他に選択肢がない訳じゃない。君自身の希望はないの?」
「ボクの・・・希望?」
驚くべきことに。指摘されるまで、考えたこともなかった。
「・・・最初になりたかったのは、ママかな。なり損ねたけどね。オニキスは一度もボクの血を飲まなかったし、きっとこれからもそうだと思う」
スピネルは穏やかな口調でそう語ったあと、黙ってトパーズを見た。
「・・・・・・」
普通の人間に比べれば丈夫には違いないが、トパーズもオニキスも人外の割に疲れ易い。
何故なら、それは――


(必要なものが足りていないから)


必要なもの――ヒスイだ。
「・・・・・・」
オニキスとトパーズの姿が重なる・・・
「兄貴」
トパーズに向け、スピネルは言った。
「ママの代わり、ボクに務まるかな?」
「馬鹿言え。お前は、ヒスイより格段に使える」
素っ気なく返すトパーズに、スピネルは続けて質問した。
「兄貴は、引退したら何したい?」
「ヒスイを攫って、知らない土地で暮らすのもいいが――王政に手を貸すぐらいはしてやってもいい」
そこまで聞いて、クスクスと笑うスピネル。
「ジン義兄さんにも同じ質問したんだ。そうしたら、何て言ったと思う?」


『トパーズの手伝いがしたい』


「だよ」
「・・・・・・」
「ボクがどっちに就いても、最終的には繋がってるんだよね」
(だったら・・・)




もう少し、ママの真似事してみようかな。




決めたよ、と、スピネル。
トパーズの前に立ち、握手をすべく腕を伸ばした。





「これからよろしくね、兄貴」

+++END+++

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