World Joker

番外編

餌付けの時間です


[01]

双子兄弟が小学校へ進学し、初めての夏休み。


アイボリーも、マーキュリーも、思い思いに過ごしていた。
マーキュリーは子供部屋で宿題。そして、アイボリーは・・・


「うぉりゃぁぁぁぁ!!」


リビングでおもちゃの剣を振り回していた。
勇者気分で剣を掲げ、次々と技を繰り出している。
「とうっ!」「はっ!」
その脇を、彼シャツ姿のヒスイが、欠伸をしながら通り過ぎる・・・
「ヒスイ発見!!」
ヒスイ好きのアイボリーがそれを見逃す筈もなく、一緒に遊んで欲しい一心で剣を構える。
背後から、姿勢を低く忍び寄り・・・一気に技を決めた。
「とりゃぁっ!!」


――ズボッ!!


「ん?」(マジで刺さってね?これ・・・)
「ん?」(なんかお尻に入っ・・・)
おもちゃの剣は、見事、ヒスイの尻穴に突き刺さり。
「え?え?」←困惑するヒスイ。
(これ、斬られて死んだフリとかした方がいいのかな???)
子供と遊ぶのは、いくつになっても苦手だ。
担当のコハクにバトンタッチすべく、その姿を探す・・・までもなく。


「何、してるのかな?」


お決まりのタイミングで、コハク参上。
わざわざ尋ねる必要もない。状況は一目で理解できた。
「あーくん?だめだよねぇ?お母さんの可愛いお尻に、そんな物騒なもの入れちゃぁ」
「!!わ、わざとじゃねぇしっ!!」と、一声吠えて逃げ出すアイボリー。
これは結構なお仕置き案件だということを悟ったのだ。
「僕から逃げられるとでも?」
窓から飛び降り走るアイボリーを追い、コハクもリビングから姿を消した。
ひとり残されたヒスイは・・・
「――んっ」
お尻からおもちゃの剣を引き抜いた。
「お兄ちゃんのに比べたら、こんなの大したことないんだけど・・・」
そう呟いて、窓の外を見る。
「あーくん・・・大丈夫かな・・・」




それから間もなく、コハクがリビングへと戻ってきた。
「ヒスイ、剣が刺さったところ、見せて。怪我でもしてたら大変だ」
「あ、うん」
大袈裟だよ、と、言いながら、ヒスイは四つん這いになり、コハクにお尻を向けた。
コハクは顔を寄せ、ヒスイの尻肉を両手で割り開いた。
「んっ・・・おにいちゃ・・・あーくんは?」
「磔にしてきたよ」
「磔って・・・あッ・・・」
ちゅっちゅっアナルに優しくキスをされ、ヒスイの頬が赤く染まる。
「おにいちゃ・・・も・・・い・・・」
振り向き、そう告げるも。コハクが離れる気配はなく。
「ふぁ・・・ッ!!」
一層深まるキス。
「は・・・ぁ・・・ん・・・」
直腸に熱い息を吹き込まれると、蕩けるような快感と共に、そこから粘液が滲み出し、コハクの唇を濡らした。
くちゅくちゅ・・・くちゃッ・・・ぐちゅ・・・ぢゅるッ!!
口戯の音量が上がる中、舌で押し揺らされた穴は綻び、物欲しそうにヒクつき始めていた。
「あッ・・・はぁ・・・おにぃちゃ・・・」
昔は苦手だったアナルセックスも、長きに渡る調教により、性器として扱われることに慣れてしまった。
「挿れようか?」と、尋ねられ、迷わず頷く。無論、コハクは初めからそのつもりである。


「あ゛ッ・・・う゛・・・ッ!!」


皺の中心に押し込まれる亀頭。
それを吸い込もうと、腸が逆流する。
これが、堪らない。息をするのも忘れる程に。
「うッ・・・あ・・・!!」(お○ん○ん・・・おっき・・・)
直腸を埋め尽くされる圧迫感は、あらゆる臓器に作用し。子宮も例外ではなかった。
「あ・・・あ・・・ぅ」
体内のすべてが押し上げられる感覚・・・ヒスイは何度も甘い嗚咽を漏らした。
「・・・んッ!!あ!!」
ペニスを咥え、大きく拡がった尻穴が快楽に痺れ、尾てい骨から脊髄を伝って、脳まで届く。
そこから全身へと分配され、クッションを握る指先にも力が入らない。
「はぁっ・・・はぁっ・・・あ・・・」
よしよし、と、ヒスイの尻山を撫でるコハク。
「まずはゆっくり、ね」と、腸内のペニスを律動させた。
「あッ!!んぁッ・・・あ!!」
肉傘と弁が絡み合い、全体がうねる。
「ひぅ・・・ッ!!」
その度に、ペニスと腸壁が強く擦れ。
更にそこに粘液が加わり、揉みくちゃになってゆく・・・
ぐちゅるッ!ぐちゅるッ!淫靡な流動音が幾度となく腸内を遡っていった。
「あッあッ・・・」(おしりのなか・・・もう・・・)
ヒスイが気持ちよく涙を流した、その時だった。


「――ふぇっ?」


「あ!!あぁぁぁ・・・ッ!!!!」
ヒスイのカラダがビクンッ!と、大きく跳ねた。
「あッ・・・そこ・・・だめ・・・んぁッ!!」
コハクが後ろから手を回し、ヒスイの膣に指を入れていた。
腰を振りながら、中指と薬指を器用に動かす。
「こっちも、もっと濡らしていいんだよ、ヒスイ」
「あッ・・・ひッ・・・!!」
複雑に折り重なった肉襞を全部拡げられてしまいそうな、巧みな指使い。
膣内が甘美な快感で溢れる。
「あ・・・はぁ・・・」
愛されるがまま、そこがドロドロに濡れていくのがわかった。
「ね、ヒスイ」コハクが囁く。


「前と後ろ、どっちから先にイきたい?」


「んあぁぁぁ・・・ッ!!!!」
ビクンッ!再びヒスイのカラダが跳ねた。
裏側から子宮を甘く責め立てられ、蕩け落ちそうなところを、指で触られているのだ。
「――」
感じ過ぎて言葉も出ず。涎を垂らし、ビクビクと震えるばかり。
ヒスイは、幸せな眩暈に視界を白く覆われ・・・失神した。



「よっ・・・と」
意識を失くしたヒスイを、後ろから抱え直すコハク。
(今日も可愛いなぁ・・・)
それは愛おしげに、ヒスイの肩先や髪にキスを落とし。
美しすぎる相貌に若干の狂気を乗せ、言った。
「戻ってくるまで、待ってるよ」


このまま、ずっとね。







一方、その頃、アイボリーは。

屋敷の屋根に、突如突き立てられた十字架。
そこで、ある意味、芸術的な磔姿を晒していた。
「ちくしょー・・・コハクぅぅぅ・・・」

と、そこに。

長男トパーズがやってきた。
アイボリーとばっちり目が合う、も。
「おい!!無視すんな!!トパーズ!!トパーズっ!!トパーズぅぅぅっ!!」
見て見ぬふりをしようとするトパーズの名を大声で連呼するアイボリー。
「・・・・・・」
仕方なく足を止め、トパーズは騒々しい弟を睨んだ。
「・・・あいつの“お仕置き”か、今度は何をやらかした?」
「ヒスイの尻に、おもちゃの剣突っ込んだんだよ。そしたら、こーなった」
すると。
「クク・・・それはなかなかのモンだ」
どうやらトパーズのツボに入ったらしく。
アイボリーは無事(?)救出された。


「トパーズは、何しに来たんだよ」と、アイボリー。
ヒスイに会いに来た――に決まっている、が。
今日はそれだけではない。
「面白い食い物が手に入った」
つまり・・・


「ヒスイの餌付けだ」

[02]

赤い屋根の屋敷、リビング――


「あ、トパーズ。おかえり〜」
帰省したトパーズを、彼シャツ姿のヒスイが迎える。
コハクから解放され、これから昼寝というところだった。
「ふぁぁ・・・」
些か眠そうにしているヒスイに。
「ホラ、土産だ」と、トパーズがある物を手渡した。
「?何、これ」
「カップラーメンだ」
「カップ・・・ラーメン???」
それは丼型の容器に入っていたが、とても軽く。
初めて見る物体に、ヒスイは首を傾げた。
「これのどこがラーメンなの?」
「貸してみろ」
トパーズはキッチンへ移動すると、カップラーメンの蓋らしき部分を半分開け。
そこに、やかんで沸かしたお湯を注いだ。

そして3分後・・・

「え?何これ・・・」
ヒスイが目にしたのは、紛うことなきラーメンだった。
立ち上る湯気の中、ナルトやメンマ、チャーシューまで完全再現されている。
「うぉぉぉ・・・!!すげぇ!!」
アイボリーも身を乗り出し、テーブルの上のカップラーメンを覗き込む。
「食ってみろ」と、トパーズ。
「うん」と、頷き。緊張気味にヒスイが箸を持つ。
アイボリーはフォークを構え。二人同時に麺を啜った。


「!!おいしい・・・」「!!うめぇ!!」


「どうだ?」
挑戦的な笑みを浮かべるトパーズ。
そこでヒスイが席を立ち。
「私っ!お兄ちゃん呼んでくるっ!!」





改めて――赤い屋根の屋敷、キッチン。


コハクとマーキュリー、たまたま顔を出したメノウが加わり、計6名でカップラーメンに向き合っていた。
それぞれお椀に取り分け、試食会の始まりだ。
「へー・・・うまいじゃん」と、率直に感想を述べるメノウ。
「うん、おいしい・・・」マーキュリーも驚きの表情で呟く。
「・・・まあ、ラーメンの味はするよね、うん」
ラーメンは麺から作る!こだわりのあるコハクは、内心穏やかではなかった。
「でもほら、醤油味だけだと飽きるでしょ?僕なら、塩でも味噌でも・・・」
「クク・・・」
コハクの言葉に、不敵な笑いを返すトパーズ。
それから次々と、テーブルにカップラーメンを並べた。
塩味、味噌味・・・更にはカレー味まで。
「わ・・・どれもおいしそう」
「俺っ!カレー味食いてぇ!!」
ヒスイを筆頭に盛り上がる面々・・・
「・・・・・・」
一方、コハクはあまりの悔しさに言葉も出ない。
「ね!お兄ちゃんっ!今日の晩ごはん、これでいいよ!」
おやつもいらない!と、ヒスイが満面の笑みで告げる。
その心は・・・


(これがあれば、お兄ちゃんに楽させてあげられるしっ!)


日々、家事に追われるコハクへの思いやりなのだが。真意は伝わらず。
「え・・・?」
あまりのショックに、コハクは一瞬意識が飛んだ。
「あれ?今、なんて・・・」
信じたくない一心でヒスイに聞き返すも。


「おやつも晩ごはんもこれで済ませるから、お兄ちゃんは何もしなくていいよ!」





「・・・・・・」(僕の手打ち麺が・・・こんなものに負けるなんて・・・)
うなだれるコハクを横目に、メノウは笑いながら。
「ところで、これ、どうやって手に入れたの?」と、トパーズに尋ねた。
「コスモクロアの教会支部で、別大陸の調査をする事にした」
トパーズの話では、数ヵ月ほど前から各大陸に調査隊を派遣しているという。
「それで、だ。珍しい食文化を持つ国があると、先日報告を受けた」
そのうちの一つがコレだ――と、トパーズはカップラーメンを指した。
「他にはどんな食べ物があるの?」
ヒスイはいつになく熱い眼差しをトパーズに向けている。
「さあな」
焦らすトパーズの側に寄り。「ねぇ、教えて?」と、袖を引っ張った。
ヒスイ本人に自覚はないが、トパーズからすれば超絶に可愛い仕種・・・
「クク・・・なら、行ってみるか?」
「!!行く!行く!連れてって!!いいよねっ!お兄ちゃん!」
「・・・うん、そうだね」
力なく、コハクが返事をする。
「お前は来なくていい」
勝ち誇ったトパーズにそう言われ。
「行くに決まってるでしょ」
髪を掻き上げ、苛立ちの溜息。コハクはまだダメージが抜けていない。
そんな中。


「んじゃ、決定!!」


と、メノウが明るく〆る。
「ちょうど夏休みだしさ!家族で小旅行もいいよな!」
その提案に、ヒスイも双子兄弟も大喜びだ。





目的地は――食の先進国『コーパル』

[03]

一泊二日の小旅行。


日々多忙なトパーズの都合で、移動には魔法陣を使うことになった。

コスモクロアに極秘開設されたという魔法陣へ向かう道すがら。

「旅行なのに直通魔法陣かよ。つまんねーの」
アイボリーが口を尖らせる。
船、汽車、神獣・・・乗り物での移動を期待していたのだ。
「死ぬほど長い休みがあるのは、ガキだけだ」
容赦なく言い放つトパーズ。
社会人的には尤もな意見だ。
「ま、急だったし、仕方ないちゃ、仕方ないよな」と、メノウ。
今度俺がどっか連れてってやるからさ〜と、可愛い孫の機嫌を取りながら、コハクに話し掛けた。
「な、お前、気付いた?」
「・・・何にですか?」
「『コーパル』だよ」
「・・・・・・」
あえて口を閉ざす。その反応から、どうやら気付いているらしいが、答える気はないようだ。
「お父さん?何の話?」ヒスイが話題に食い付くと。
メノウは悪戯に笑い、コハクに向け、話を続けた。
「俺がお前に“コハク”って名前つけたろ?お前のイメージに合った石から引用したワケだけど――」
『コーパル』もまた、石の名称として存在するらしい。
「コーパルはさ、コハクによく似た石でさ。コハクの代用品として使われることもあるんだよ」
「お兄ちゃんの・・・代わり・・・」
ヒスイが感慨深げに呟く。
まさにメノウが伝えたかったのは、それで。
コハクの役割を奪う可能性のある、国。
「コーパルかぁ・・・偶然にしちゃ、出来過ぎだよなぁ?」
コハクに視線を遣りつつ、ニヤリ、だ。
対する、コハク、心の声。


(作者の陰謀を感じる・・・)※その通りです※







――出発から一時間と掛からず、一行は『コーパル』に到着した。

と、いっても。
そこは一面、真っ白な玉砂利が敷き詰められた広場だった。
周囲には、草も木も・・・とにかく何もない。
地熱が関係しているのか、玉砂利の隙間からほんのりと湯気が立っている。
「わ・・・ご飯粒みたいだね!」
「食べられませんよ?お母さん」
浮かれる母ヒスイに、息子マーキュリーが諭す。


「ここからは徒歩だ」


トパーズが示した先には、広い運河。そして、超巨大建造物がひとつ。
丸みのある円錐形をしており、全体が白い煉瓦造りになっている。
正面の跳ね橋が光沢のある黒色をしていることもあり・・・
「!!おにぎりみたいっ!!」と、ヒスイ。
「マジだ!面白れぇ!」と、アイボリー。
誰しもが海苔付きおむすびを連想する・・・そんな風景だった。


トパーズが門番に通行手形らしき書類を見せると、黒い跳ね橋が降ろされた。
「国と認められてはいるが、実態は企業のようなものだ」
トパーズの説明によると、建物の内部は五階層に分かれており。


一階層:観光、商品販売エリア、宿泊施設{外部の人間に向けたエリア}

二階層:国民の居住区。{研究、販売、サービスに関わる者とその家族のエリア}

三階層:役所{他国との交渉などもここで行われる}

四階層:工場

五階層:研究施設


「ヒスイ、手を出せ」
「うん」
犬の“お手”のようなノリで、差し出されたトパーズの手に手を乗せるヒスイ。
次の瞬間、トパーズが呪文を唱えた。
「!?」
一瞬の発光。手首に何かが巻き付いた感触があったが、目には見えない。
それは――トパーズと繋がる、不可視の手錠だった。
「拾い食い、及び、迷子トラブル回避のため」と、トパーズは言うが。
それだけではないのは、明らかだった。
「ここでは、オレから離れるな、いいな?」
トパーズはヒスイの顎を掴み、そう言い聞かせた。

いつもなら、コハクが黙っていない場面だが・・・

コハクは、入国の際に受け取った観光ガイド冊子を熱心に読み込んでいた。
すると、メノウが下から覗き込み。
「お前、何か企んでるだろ」
「いえ、別に?」
「んで、どうすんの?これから」
メノウが尋ねると、コハクは笑顔で。
「僕は工場見学に行ってきます。“敵”を知らなければ始まりませんから」
「見学じゃ済まないんじゃないの?研究員になりすまして、技術盗むくらいはしそうじゃん」
メノウの言葉をコハクは笑顔のままスルーし。更なる笑顔でこう続けた。
「ヒスイはどうせ、トパーズにべったりでしょうし。しばらく僕の出番はないでしょう」
それはまあ、夜、取り返せば済む話ですけど〜と、付け加え。
ははは!爽やかな笑い声を響かせる。
脈絡があるようで、ない。
父親のその姿に、アイボリーもマーキュリーも只ならぬものを感じ、怯えている。
「メノウ様は、あーくんとまーくんをお願いしますね。それでは、後ほど」
「あー・・・やっぱこうなるかー・・・」
メノウは苦笑いで肩を竦め、コハクを見送った。

[04]

こうして、コハクが離脱し・・・

「行くぞ」
トパーズが不可視の手錠を引っ張る。
「行くって、どこに?」と、ヒスイ。
観光エリアとは違う方向に引き摺られている気がした。
俺も!俺も!と、アイボリーが続こうとするも。
「お前等はこっちな」
メノウが道を正す。こちらは正規ルート・・・観光エリアへと繋がっている。
「好きなモン、何でも食わしてやるからさ!」
ヒスイと引き離されたアイボリーは、少々不服そうにしていたが。
そこはまだ子供で。
目の前に広がる新世界に、たちまち夢中になっていった。
「じいちゃん!俺、またカップラーメン食いてぇ!」
「・・・・・・」
一方、マーキュリーはというと。
メノウと並んで歩きながら、黙って後ろを振り向き。
(トパーズ兄さんは、どうしてあんなにお母さんに執着するんだろう)
・・・この時はまだ純粋に首を傾げていた。




ヒスイは三階層へと連れられ・・・何故か役所へ。
すれ違う人々は皆トパーズに頭を下げる。
「???」
気にはなったが、ヒスイにとってさほど重要ではなく。
「ねぇ、私も早く観光したいんだけど」と、トパーズに言った。
「もうすぐだ。大人しくしてろ」
到着したのは、役所の最奥、VIPルーム。パンフレットには記載されていない場所だった。
そこには・・・


「わ!何これっ!!」


テーブルに並べられた名品の数々・・・
カップラーメンだけではなく。
「うどんも!?お蕎麦も!?焼きそばも!?」
すごい!すごい!と、ヒスイは大はしゃぎだ。
他にも・・・
フリーズドライの味噌汁や雑炊。
レトルトパウチのカレー。
栄養バランスまで考えられた菓子のようなものまで。
それらは主に、調理時間・食事時間の短縮を目的とした食べ物だった。
「好きなだけ食え」
「うんっ!!」
トパーズの言葉に嬉々として頷き、片っ端から平らげるヒスイ。
「お湯さえあれば、食べられるなんてっ!」
そして・・・ヒスイが最後に手にしたのは、インスタントのおしるこだった。
カップラーメン同様、お湯を入れて待つだけで完成する。
「トパーズはいつも忙しいから、こういうのがあると便利だよね」
食べながら、そう話すヒスイ。
「でも、トパーズがお菓子作りやめちゃったら、ちょっと寂しいかな」
「・・・それとこれとは別だ」
「そうなの?良かった!」
「・・・・・・」
どういう意味で、ヒスイが“寂しい”と言ったのか。
(どうせただの食い意地だろうが・・・)
悪い気はしない。


手作りは、愛情表現のひとつであり。
ヒスイがそれを受け入れているということなのだ。

愛の言葉も、口づけも拒むのに。




「ご馳走様でした!」と、ヒスイ。
用意されていたものは、ひとつ残らず食べた。
「ふぁ・・・もうお腹いっぱい・・・」
いつもなら、ここでうたた寝をするところだが。
ヒスイはソファーに浅く腰掛けたまま、傍らのバックからノートとペンを取り出し、何やらメモをし始めた。
商品名や作り方、味の感想に至るまで、事細かに書き込んでいる。
「うんっ!沢山買って帰ろ!」
ノートを閉じ、立ち上がるヒスイ。
「じゃあ、私、そろそろ行くね!」
“行く”とは、言わずもがな、コハクのところへ、だ。
「逃がすか」と、トパーズ。
傍目には見えない手錠の鎖を掴み、思い切り引き寄せる。
「!?ちょっ・・・」
ヒスイはソファーに連れ戻され。そのままトパーズに乗り掛かられた。

唇が、唇に狙われる――

「!!」
ヒスイは慌てて両手で唇を隠した。
油断しきっていたため、いつものようにキスを咎めるタイミングを逃してしまった。
「っ・・・」
唇の上で重ねた手。トパーズはそこに何度もキスをして。
「・・・手、どかせ。邪魔だ」
NO!の意思表示で、ぶんぶんと頭を振るヒスイ。
構わずトパーズが熱い唇を押し当てる。


「いつまで待たせる気だ?」


トパーズはそう言ってから、声のトーンを落とし。
「いつまで・・・待てばいい」
「・・・・・・」(そんなこと言われても・・・)
切実な響きに、困惑するヒスイ。
愛おしい相手ではあるが、だからと言って許すことはできない。
「1年か?10年か?それとも・・・アイツが死ぬまでか?」
トパーズの意地悪な問いに頭を振り続けるしかない。
その時だった。


「待っても無駄だから」


という言葉と共に、トパーズの肩に手を置いたのは――コハクだった。
ヒスイからトパーズを引き剥がし、ソファーから抱き上げる。
「ヒスイ、迎えにきたよ」
「お兄ちゃんっ!」
「・・・ん?」と、そこで表情を曇らせるコハク。


(ヒスイの体重が・・・増えてる・・・)

[05]

「・・・・・・」
ヒスイの体重は、それこそg単位で管理している。
人間ではないためか、インスタント食品を摂取した際、肉体に現れる変化が顕著だった。
やってくれたな、という目でトパーズを睨むコハク。
一方トパーズは、“こうなるのがわかっていてやった”確信犯的笑みを浮かべている。
不穏な空気・・・だが、ヒスイは構わず。
コハクの腕の中、得意顔でインスタント食品の感想を述べた。
「・・・お兄ちゃん?聞いてる?」
「・・・ああ、うん」
ヒスイのお腹が、インスタント食品で膨れていることに只ならぬ不快感を覚える。
コハクは生返事をしてから、ヒスイごと身を翻した。
「え!?お兄ちゃん!?どこ行くの!?」
「ホテルの部屋」




そして――

到着したのは、一階層の一角。
真っ白な壁に囲まれた、プール付きのコンドミニアム。
ヤシの木は勿論のこと、屋外にサマーベッドが設置されている、お洒落な南国風だ。
「一棟貸切にしたんだ」と、コハク。
室内のベッドにヒスイを寝かせ。
「・・・・・・」(本当は・・・)
プールで遊ぶ予定だった。ヒスイに似合う水着も浮き輪も用意していた。
(けど、やめだ)


「おにぃ・・・ちゃ・・・?」


下から見上げるヒスイの手首を掴み、空いている方の手をトップスに滑り込ませる。
「ひぁ・・・」
驚き、声をあげるヒスイの唇をキスで塞ぎ。
「ん・・・ぁ・・・」
舌を入れ、ヒスイの口内を濡らしながら、服を脱がせてゆく・・・
オフショルダーのブラウスと裾フリルのショートパンツ。
ブラトップも。ショーツも。着せたのは自分なので、手順に迷うこともない。



「あッ・・・んッ!」
ヒスイの膣を二本の指で愛撫するコハク。
にちゃっにちゅにちゅっぬちゅっ
巧みな指使いで愛液を練り上げる傍ら、ヒスイの肌に唇を寄せ、至るところを甘く吸う。
「あ・・・ふ・・・」
幸せに濡れた襞が、コハクの指の動きに合わせて波打っている。
「は・・・ぁ・・・」
揺らめく快感に、ヒスイは目を細めうっとりしていたが。
「あッ・・・あ!!」
ぐちゃぐちゃと、激しい波を起こされた途端、大きく目を見開いた。
「あッ!あ!!おにいっ・・・!!」
うねる膣肉。奥から子宮が流れ出しそうだ。
ヒスイは喘ぎ、コハクに抱き付いた。
「そろそろ欲しい?じゃあ――」
「あ!!う゛ぁ・・・」
コハクは、最後に指をこれでもかと深く入れ。
愛液を指に絡め取ると、そのままゆっくり引き抜いた。
「はぁはぁ・・・あ・・・」(ねばねばしたの・・・そとに・・・でて・・・)
膣口とコハクの指先が愛液の糸で繋がっている。
見なくても、感覚でわかってしまう。
「っ〜・・・!!」
ヒスイの頬が真紅に染まる。
糸引く指先・・・コハクはそれを口に咥え。ヒスイを見た。
視線を遣りながら、艶めかしい舌使いで、美味しそうに舐める。そして一言。
「挿れるね」



「あッあッ!あぁ・・・ッ!!」
ヒスイの手を握り、その指先にキスをしながら、コハクが腰を振る。
「これ、好きでしょ?」
男の蜜を滴らせながら、突き込んで。
「あッあぁ・・・あッあはぁ・・・ん」
ヒスイの口から悦びの声が溢れた。
「んはッあんふぅあああ」
膣内で体積を増していくペニス。
押し上げられ、歪んだ小穴が、度々潮を吹いた。
「んぁ・・・ぁ・・・」(きもち・・・よすぎ・・・て・・・)
膣肉だけでなく、全身の肉が蕩けて、シーツに染み込んでいくような気がした。
そんな中、腰を引き寄せられ。
「は・・・」
湿った子宮口が亀頭に沿って捲れてゆく・・・
唇には唇が与えられ。
「ん・・・ふ・・・」
最高級の快感に、ヒスイがすべてを委ねた――その時。


「――ふぇっ!?」


コハクがペニスを抜いた。
それからヒスイの顎を掴み、その口元に先端を突き付ける。


「飲んで、ヒスイ」


ヒスイは、訳が分からないという顔をしながらも、言われた通り、ペニスを口に含み。
次の瞬間、精液が注ぎ込まれた。
「んん・・・ッ!!」
優しく喉を撫でられ、飲めると思った。
ところが、思うように飲み込めず。
ヒスイは精液を吐き戻し、むせた。
「えふッ・・・げほッ・・・」
「飲めない、でしょ?」


「お腹がいっぱいで」


「あ・・・」
コハクに指摘された通りだった。
胃に落ちるというより、食道に詰まるような。
とにかく、空きスペースがない。明らかに食べ過ぎだ。
「おにいちゃ・・・ごめ・・・」
タオルでヒスイの口元を拭うコハク。
「・・・いいよ。こっちに出すから」
コハクは伏せ目がちに微笑んでから、ヒスイを押し倒し。その股ぐらに腰を沈めた。
「――ッあッ!!おにぃっ・・・!!あぁぁぁ!!!」
ビュッ!ビュルッ!射精の脈動。続けて熱い精液がビュルビュルと送り込まれ、最奥にネットリ張り付く。
「あ・・・あ・・・」
コハクはヒスイを抱え直し。体勢を変えながら、何度もヒスイの中に精を放った。



濡れ場の、静寂。

絶頂を重ねたヒスイは沈黙し、動かない。
精液を逆流させている膣穴は一向に閉じる気配がなく。
コハクはヒスイの膝裏を持ち上げ、再びペニスを挿入した。
「・・・愛してるよ、ヒスイ」
下がったままになっている子宮にコハクが亀頭を擦り付けると。
「ひッ・・・!!」
短い悲鳴。ヒスイは一瞬身を強張らせたが、すぐに脱力した。
「」「」「」「」


快楽の涙が、翡翠色の瞳から輝きを攫っていく一方で、愛の象徴ともいうべきハートの光がそこに刷り込まれていった――


「――――」





「ん・・・」


セックス明けの朝――


「おはよう、ヒスイ」
「おはよ、おにい・・・ん?」
コハクが、ミルクティーを運んできた。
ここまでは、いつも通り・・・だが。
「え?」(紙コップ???)
しかも味がいつもと違う。ヒスイが首を傾げていると。
「どうかな?ティーパックを使ってみたんだけど」
便利だよね、と、コハクは笑顔で。
「あ・・・うん」(あれ?なんか・・・おかしいような・・・)





それから数日――赤い屋根の屋敷、夫婦の寝室。


昼近くになってもまだ、コハクとヒスイはベッドの中にいた。
「もう一回する?」
ヒスイの頬にキスをして、コハクが尋ねる。
「ん・・・でも、もうすぐお昼だし。あーくんもまーくんも、お腹空かせてるんじゃ・・・」
「大丈夫だよ。あーくんとまーくんにはカップラーメンがあるから」
「え?今日も?」
その問いに、答えはない。
「・・・・・・」(お兄ちゃんが・・・お兄ちゃんじゃないみたい・・・)
コーパルから帰国して以来、コハクの手料理を一切食べていない。
たっぷりエッチをして、その後は夜までデート。
それはそれで楽しかったが。
ヒスイの食事は主に外食となり。残された子供達はインスタント食品。
「・・・・・・」(まずいわ・・・これは・・・)
流石に、ヒスイも気付く。


(お兄ちゃん、怒ってる!!)


「あーくん!まーくん!」
ヒスイはデートの誘いを断り、走って子供達のもとへ向かった。
「緊急会議よ!!」



――双子の部屋にて。


「あー!!コハクのメシ食いてぇ!!」
金髪を掻き毟るアイボリー。
「今更都合良すぎるよ。あーくん」
マーキュリーはこの状況を冷静に分析していた。

なぜ、こうなったのか。

「・・・そうよね。お兄ちゃんに“いらない”って言ったの、私達だもんね」
ヒスイもいつになく神妙な表情だ。
結局、ヒスイも子供達もコハクに餌付けされていて。
コハクの手料理なしでは生きられないのだ。
「ヒスイ〜・・・何とかしてくれよぉ〜・・・」と、アイボリー。
マーキュリーも弱音こそ吐かないが元気がない。
ヒスイはしばらく考え・・・言った。
「お兄ちゃんに、謝ろう!!」
「あ!そうだ!」続けて、閃く。


「反省文を提出すればいいわ!!」


「書くわよ!あーくん!まーくん!準備して!」
「おう!」「はい!」
双子兄弟が揃って頷く。
「お兄ちゃん!待っててね!!」





――こちら、リビング。

そこには、コハクと・・・メノウの姿があった。
「そろそろ許してやれば?」メノウは苦笑いだ。
「“便利”ってのは、それだけで価値があるモンだろ?」
「まあ、それはわかります。実際、ヒスイと過ごせる時間は増えたし。でも、物足りないんですよね」
真面目に工場見学をして。
インスタント食品が“どういうものか”は理解している。
「だからといって、僕の役目を奪われるのは困るんです」


食を通して、愛を伝えたいから。


「そのために使う時間は惜しまない」と、笑うコハク。
「そろそろヒスイもわかってくれたと思いますし」


時刻は、午後2時。


「さて、と」コハクが立ち上がる。
「メノウ様も食べていきますよね?」
3時のおやつにピサを焼くという。
「時間があったんで、ピザ窯作ったんですよ」
今日からまた腕を振るうぞ、と。エプロンを腰に巻き、心機一転。
そんなコハクをメノウは笑顔で見送った。
娘と孫の健康を心配して来たが、ひと安心だ。
(良かったな、ヒスイ)



待ちに待った、餌付けの時間。



(・・・なんてな)

+++END+++

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