番外編
選ぶのは誰の手?
コハク・オニキス・トパーズ×ヒスイ
モルダバイト城下――オープンしたての大型入浴施設に併設されたサウナにて。
コハク、トパーズ、オニキス・・・他を寄せ付けぬ美男子三名が、腰にタオル一枚という格好で、サウナ定番の我慢比べをしていた。
「どんなものか、下見に来たんですよ。良ければ家にも〜と、思って」と、コハク。
「・・・・・・」同じ事を考えていたトパーズが、同じタイミングでサウナに。
オニキスはジンに勧められ、たまたま、なのだが。
どうしようもない腐れ縁だ。
かれこれ二時間近くこうしている。
“先に出たら負け”の空気が、男達の間に流れているのだ。
「ああ、そういえば――」コハクの雑談。
ここからが物語の始まりである。
「僕、今度、ぬか床を作ってみようと思うんですよ。ヒスイに美味しい漬物を食べさせてあげたくて」
ノロケを挟みつつ、ぬか床の、発酵食品のメリットをひとしきり語り。
「知ってます?ぬか床は作り手によって味を変えるんですよ」
コハク曰く、手の常在菌により、自分だけのぬか床が出来上がるとのこと。
「そう、この手の味になるんです。ぬか漬けが」
天使、神、吸血鬼の眷属・・・その手に常在菌なるものが存在しているのか、そもそも謎だが。
「どうです?勝負しませんか?」
コハクの言う勝負とは、それぞれのぬか床による漬物勝負だ。
ヒスイが一番気に入るのは、誰の漬物か。
「クク、面白い」
乗り気のトパーズ。
隣のオニキスも頷き。
「そうだな、受けて立つとしよう」
それから数日――国境の家。
オニキスに借りていた本を返すため、訪れたヒスイ。
・・・だったが。出迎えたのは、オニキスではなく、スピネルだった。
「あれ?オニキスいないの?」
「いらっしゃい、ママ。オニキスなんだけど、なんか忙しいみたいで」
そう――忙しいのだ。
突如勃発した、ぬか床勝負。
まずは知識。それから材料。糠、水、塩、昆布・・・ひとつひとつに拘れば、それだけ時間もかかる。
ヒスイを誰よりも喜ばせたいという、愛故の不在。
「忙しいんじゃ、しょうがないわね。あ、これ、オニキスに返しといて」
「待って、ママ」
あっさり帰ろうとするヒスイを引き留めるスピネル。
「紅茶の一杯くらい、飲んでいったら?」
応じたヒスイは、カウンターの定位置に着席した。
スピネルは、紅茶とお菓子を用意しながら。
「珍しいよね、オニキス、休日のこの時間はいつも家に居るのに」(ママが来るってわかってるから・・・)
時間を作って、待っているのだ。
「・・・別に。約束してる訳じゃないし」
「ママ?ひょっとして、機嫌悪い?」
するとヒスイは口を尖らせ。
「最近、トパーズも変なのよね」
職場に手伝いに行っても不在である事が多く、電話も繋がりにくいという。
「お兄ちゃんも、やたらいなくなるっていうか」
何度理由を尋ねても、「秘密」で。
「私の秘密は許さないくせにっ!お兄ちゃんのバカぁ!!」
紅茶をヤケ飲みし、愚痴るヒスイに。スピネルは苦笑いを浮かべ、言った。
「確かに、オニキスも兄貴もパパも、ここのところ落ち着かない感じだよね」※ぬか床が気になっているため※
それから更に二週間後――赤い屋根の屋敷。
「ついにこの日が来た」
不敵に微笑むコハク。
「最高のコンディションだ」←ぬか床が。
自信があるからこそ、持ち掛けた勝負だった。ヒスイに選ばれ、愛情を確かめる。
コハクにとっては、ただそれだけの事なのだ。楽しみで仕方ない。
間もなく、オニキスとトパーズが到着し。
それぞれのぬか床で漬けられたカブが持ち寄られた。
カブのぬか漬けが乗ったお皿は四つ。
コハク、オニキス、トパーズ・・・と、市販のものだ。
まぐれ当たりを避けるため、あえて一皿加えた。
どのカブが誰のものか伏せた上で、ヒスイに味ききさせるのだ。
「ヒスイ〜!おいで〜!」
「何?お兄ちゃん・・・って、え?カブ???」
キッチンテーブルに並べられたカブの漬物。
「食べてみて」と、ヒスイの両肩に手を置き。コハクは柔らかな口調で言った。
「一番美味しいと思ったものを教えてね」
ヒスイは端から順に食べてゆき・・・
「ん〜・・・一番美味しいのは、これかな」と、右端のカブを指した。
「!?」「!?」「!?」
なんとそれは・・・市販のもので。
城下の八百屋のおばちゃんが漬けたものだった。
「・・・・・・」「・・・・・・」「・・・・・・」
まさかの結果に固まる三人。
特にコハクはショックが大きかったらしく。
「え?本当にそれでいいの?ファイナルアンサー?」
・・・かなり往生際の悪い事になっている。
そこでヒスイが、ぷぷっ!と笑い、言った。
「冗談だよ。これお店のやつでしょ。で、これがお兄ちゃんで、これがオニキス、これがトパーズ。どれも美味しいよ」
一番にお店のカブを選んだのは、ヒスイなりのささやかな意趣返しだった。
お題のカブ以外の野菜でも、ヒスイの味ききはすべて正解し。
むしろ男達の方が驚いている。
「なんでわかるの?」と、コハク。
「なんでって言われても・・・お兄ちゃんの漬物はお兄ちゃんの味がするし、オニキスの漬物はオニキスの味がするし、トパーズの漬物はトパーズの味がするから」
間違えようがないという。
ヒスイのその言葉に。じっと手を見る男達。
「常在菌か・・・クク、悪くない」
「ああ、そうだな」
トパーズとオニキスは満足げ。一方コハクは。
「・・・・・・」(僕の味だけ覚えててくれればいいのに。他の男の味もわかっちゃうんだね、ヒスイ)
美しさが凝縮した目元に妖しい影が差した。
こうして、ぬか漬けバトルは幕を下ろし。
その夜――夫婦の部屋。
「あ゛ッ!あ゛ッ!あ゛ッ!あぁ・・・ッ!!」
背後からヒスイの両手首を引き、腰をパンッ!パンッ!と叩きつけるコハク。
ブチュッ!ブチュッ!膣口から飛び散る愛液の音を聞きながら、笑顔でヒスイに尋ねた。
「ね、ヒスイ。どっちが好き?こうやって激しく突かれるのと、さっきみたいにしつこく捏ねられるの」
「あぁ・・・ッどっちも・・・い・・・あッあー・・・」
精液をたっぷり詰め込まれた子宮が、たぷん、たぷん、重く揺れる。
「あ・・・う・・・」
甘ったるい吐き気と眩暈。舌を垂らすと、快感の涎が伝って落ちた。
「あ・・・!?ひあッ・・・おにぃちゃ・・・!!」
コハクが更にペニスの律動を早める。
「あッあッあッ!!」(おくに・・・かたいの・・・あたって・・・)
風船のように膨らんだ子宮を突き破られしまいそうで。しかしそれが、怖いくらい気持ちいい。
「――ッあ!!あッ・・・あぁぁぁ!!!!」
ヒスイは、もう何度目かもわからない絶頂を迎えた。
「はぁっ・・・はぁっ・・・あ・・・」
ペニスを抜かれ、ベッドに崩れ落ちるカラダ。
それから何秒かののち、ごぽッ・・・、鈍い音をたててヒスイの膣口が精液を吐き戻した。
ヒスイは「――あッ」と声を出し、また達したようだった。
「くすっ、えっちなイキ方、するね」と、コハク。
ヒスイの髪を掬いキスをして。
「あっ」「んっ」
逆流の快感でイキ続けるヒスイの様子を眺めていた。
「っ・・・おにいちゃ・・・きょう・・・いじわる・・・」
ヒスイが涙声で訴えるも。
「意地悪?そうかな?」
認めないコハク。
「ああ、でも・・・」と、話しながら、ヒスイの尻を掴み、持ち上げ。
ズプン・・・ッ!!
再びペニスを挿入した。
「――!!!!!」
「ちょっと悔しかったのかな。ヒスイは絶対僕のを選んでくれると思ってたから」
「うッ・・・あ・・・」
嗚咽を漏らし、絶頂に震えるヒスイを優しく抱き起こし。
その口に自身の指を差し入れる・・・
「あ・・・ぅ・・・」
「もう一回、よく覚えて」
『明日も、この手でぬか床を混ぜて、世界で一番美味しい漬物を食べさせてあげる』
[後日談]
夜が明け――赤い屋根の屋敷。ダイニングキッチン。
双子兄弟は学校へ。
ヒスイは遅めの朝食タイムだ。
「お兄ちゃん、おはよ」
「おはよう、ヒスイ」
愛の溢れる笑顔でヒスイを迎えるコハク。
頬を寄せ、何度か擦り合わせたあと、唇に甘いキスをした。
「朝ごはん、もうすぐ出来るから、座って待ってて」
「ん!」
テーブルには、ぬか漬け。
胡瓜、大根、人参、茄子、定番のものに加え、プチトマト、アボカド、オクラ、山芋、チーズという変わり種まである。
飾り切りを駆使し、盛り付けや器にもこだわり。
品良く、華やか。一流の料亭レベルとなっている。
土鍋でご飯を炊いているコハクは、すこぶるご機嫌で。
「・・・・・・」
夕べのプレイを思い出しながら、じっと見つめるヒスイ。
昼は優しく。夜は意地悪。
そんな所は昔から変わっていないと思う。
「――あ、そうだ」と、そこでコハク。
「バナナを漬けてみたんだ。先に食べてみる?」
「バナナ!?食べるっ!!」
まさかの、果物のぬか漬け。
ヒスイは興奮気味に席を立ち、コハクの元へ。共にぬか床を覗き込む・・・
そして、ふと。
「ね、お兄ちゃん」
「うん?」
「ぬか床混ぜるの、私もやってみていい?」
「いいよ」
快く返事をしたコハクだったが・・・
(あれ?それって・・・僕とヒスイの常在菌が交わるってことだよね!?)
ヒスイが楽しそうに混ぜる様子を眺めつつ、ひとつの結論に達する。
(これってもう、二人の子供だよね!?)
このぬか床は――
「・・・娘同然」
「え?お兄ちゃん?何か言った?」
見上げるヒスイに「何でもないよ」と、キスをして。
(名前、考えよう。うん)
朝食を終え、間もなく。次女アクアが帰省した。
手土産をコハクに渡すべく、キッチンに顔を出す・・・と。
「パパぁ〜?何やってるのぉ〜?」
この世界でチート級に美しい男が、ぬか床の前でニヤけている。
覗き込むアクアに向け、コハクは、眩い笑顔でこう言い放った。
「紹介するよ。この子は、君の妹だ」
「・・・パパぁ〜?頭、大丈夫〜?」
一方、その頃――コスモクロア。三階建ての家。
そこには、トパーズとヒスイの姿があった。
「――でね!お兄ちゃんが、バナナのぬか漬けを食べさせてくれたのっ!」
果物ぬか漬けの自慢をしにきたのだ。
コハクに無断で〜のため、今夜も意地悪エッチ確定なのだが、そんな事は今頭にない。
とにかく誰かに話したかったのだ。
「そうそう、お兄ちゃんのぬか床、私も掻き混ぜたんだよ!」
「・・・何だと?」
トパーズが聞き返す。
「?だから、私もぬか床・・・え?ちょ・・・トパ?何して・・・」
神の手で、空間に穴を開けるトパーズ。
そこから引き出したのは・・・自分のぬか床だ。
「オレのも混ぜろ」
この時点で、すでにコハクと同じ考えに至っている。
そんな事は露知らず。ヒスイは「いいよ」と返答し、トパーズのぬか床に手を入れた――
「・・・・・・」
子供の泥遊びのような、ヒスイのたどたどしい手つき。
それが、愛しくて。
「真面目にやれ」と言いながら、トパーズも手を入れた。
「あ・・・」
ぬか床の中、触れ合う手と手。
トパーズの指先がヒスイの甲を滑り、指の付け根にするすると入ってくる。
続けて、強く握り込まれ。動かす事ができない。
「ちょっ・・・トパ・・・っ・・・これじゃ、ちゃんと混ぜられな・・・ひぁっ!?」
ヒスイの耳を食み、トパーズが笑う。
「っ・・・だから・・・何して・・・」
抗うヒスイ。抑え込むトパーズ。
その度に、ぬか床が、ぬちゃくちゃと、どことなくいやらしい音をたてて。
「!!」(うわっ!!兄ちゃんとヒスイが、ぬか床の前でイチャイチャしてるっ!?)
たまたま目撃してしまったジストは、気恥ずかしさから咄嗟に身を隠した。
「・・・・・・」(兄ちゃん・・・いいな・・・)
正直かなり羨ましい。
「・・・オレも、ぬか床やってみようかな」
(そしたらヒスイ、一緒に掻き混ぜてくれるかな・・・)
同日夕方――モルダバイト城下。米屋の店先にて。
「へっ!?アクアっ!?」
偶然の出会いに、ジストが驚きの声をあげる。
「ジス兄〜?こんなとこで何してんのぉ?」
「アクアこそっ・・・」
「ん〜?アクアはねぇ〜、ぬか床つくろ〜と思ってぇ〜」
結局、あのあと、コハクとぬか漬けの話で盛り上がってしまったのだ。
「実はオレもっ!!糠買いに来たとこなんだっ!」
――こうして、ぬか床作りは、一族の間で瞬く間に広まり。※タンジェ、ジン他多数参入※
方々から、ぬか漬けを献上されたヒスイは、ついに飽きてしまうのだった・・・
+++END+++