イズ×ジョール
永遠の居場所
文:ハルヒナノ。様
※短編(CP絵巻No.15)イズ×ジョールのその後のお話です。
麗らかな、緑の風。
ほんのりあわい光が、大きく広がる木々の葉の間から零れて、なにやら黙々と手を動かすジョールに優しく降りかかる。
「・・・・・出来た!!」
突然大きく声を上げ、手に持っている金色の花模様のレースを自分の目の前にかざす。
「ああ〜。これでやっとあのドレスが完成する!」
自分の部屋のトルソーには、この間作ったばかりの翡翠色のドレスが着せてある。
ヒスイさんにプレゼントする予定のドレス。
自分でも満足いくほどに、美しいラインに仕上がったドレスなのだが、そのドレスにどうしても、似合う細かい模様の入ったレースが見当たらなかったのだ。
「やっぱり、自分で編んでよかった。・・・さすがにちょっと寝不足だけどね」
ジョールは、眼鏡をはずし、うっすらとクマの出来た目元をやさしく押さえた。
「う〜〜〜〜〜ん!!」
力いっぱい両手を空に伸ばす。
すると、木々の葉からこぼれた光が、彼女の左の薬指にキラリと反射した。
「・・・・綺麗・・・」
そっと、その指を自分の胸元に引き寄せ、
「・・・イズさん」
ガラスの指輪にそっと囁いた。
その拍子に、自分の胸の鼓動がわけもなく、早くなっていくのがわかる。
ふとした瞬間に、イズさんのことを思ってしまう。
そうして、自分で困ってしまうほどすぐに会いたくなってしまう。
「・・・へんな私。殆ど毎日あっているのにね・・・・」
ジョールはそうつぶやいて、後ろにある大木の幹に、そっともたれた。
さすがに仕事中は、忙しく彼のことを思い出すことは、少ない。
でも、仕事が終わって自室に帰ってから寝るまでの時間。
イズさんに会いたくて、たまらなくなる。
一人で居ることが、なんだか急に落ち着かなくなる。
そんなソワソワした気持ちを押さえ込む為に、ついつい趣味の洋服作りに精をだしてしまうのだ。
どうしちゃったんだろう?私。
あのバタバタした教会での出来事から、なんだか訳もなく不安になったり、寂しくなったり、・・・走ってでもイズさんの側に行きたくなる。
そうして・・・・。そこまで考えてジョールは、火のついたように突然顔を真っ赤にして、あわてて自分の頬を両手でパン!とはたいた。
「ばかばかばか!」
恥ずかしい。でも・・・・。包まれたくなる。
あの大きな広い胸に・・・・包まれたくなる。
イズさんは、大きい。身体だけでなく、心も、優しさも、あの眼差しも、彼のすべてが・・・。
このもたれている大樹のように、森そのもののように・・・。
とても温かく大きくて安らげて。その大きな温もりに、いつもいつも包まれたくなる。
「わたしって変なのかしら・・・」
ジョールはそうつぶやいて、そっと目を閉じた。
チッチチチ。ピチュ。チチチ。
静かな森に小鳥たちの声が響く。
「だめ!・・・。じょーる。おきる」
自分の肩に、頭に止まる小鳥達に、イズはそっと声をかけた。
大樹にもたれるように膝を横に折り曲げ座り、零れ落ちたレースもそのままに、ジョールが眠っている。
こんな無防備な彼女の姿は珍しい。
少し頭を斜めに傾け、きっちりまとめられた髪形が少しくずれ、
艶やかな黒い髪が白い顔にはらりとかかっている。
「・・・きれい・・・」
そんなジョールの真正面、大きな身体を小さく折まげ、じっとイズは微笑みながら眺めていた。
早くここに来るつもりだったのに、急に小さな仕事が入りいつもより、ここにくるのが遅れてしまった。
いつだって、すぐにジョールにあいたいにいきたいのに・・・。
あわてて飛んできてみたら、まるで緑の森に溶け込むようにジョールが静かに眠っていたのだ。
あんまり綺麗で、この景色を壊したくなくて、かれこれ30分ほどじっとジョールを見つめている。
こわしたくない。・・・・・でも・・・。
「ねえ。さわってもいい」
見ているだけでは物足りない。だって、こんなに綺麗・・・。
イズはそっと顔にかかるジョールの髪を彼女の耳に掛けた。
と、その拍子にジョールの頭が揺れて、倒れそうになる。
「!」
イズは素早く片手でジョールを支え、そのまま自分の腕の中に彼女を包み込んだ。
「ん・・・」
瞬間ジョールは顔を歪め小さな声をだした。
「・・・」
起こしてしまったかと、イズの顔が曇る。
が、再びジョールは、規則正しい呼吸を繰り返した。
「・・・・」
ほっとし、腕の中で安らかな寝息を立てるジョールをイズは優しく見つめる。
彼女の身体は柔らかくて、ちょっと力を入れると壊れそうだ。
でも・・・・。片手でゆっくりジョールの頬を撫でる。
「じょーる」
自分の胸が恐ろしいほどばくばくしているのをイズは感じる。
出来るだけ優しく起こさないように、そっと彼女に触れる。
薄桃色の頬。きっちり閉じられた、瞼。
すっと綺麗にのびている鼻梁。
少し厚めだが、品良く整っている唇。
彼女に触れると確かめてみたいことがある。
腕の中のジョールは熟睡しているらしく、全く起きる気配がない。
イズはそっと、薄桃色の頬に唇を寄せた。
「・・・あまい」
やっぱり、ジョールはあまい。
それだけでは物足りず、瞼、鼻梁、額・・・唇。
優しく口付けていく。
「・・・・・おきて」
起こす気がないような小さな声でジョールを起こす。
じゃないと、あまくて、あまくて・・・。とまらない。
彼女のすべてがあまいのか・・・たしかめたくなる・・・。
遠い意識の彼方で、自分が待っていたものに包まれた気がした。
それはとても温かく、優しくてそして大きい。
緑の匂いと、色に輝いて、なんて、なんて優しい。
ああ!
なんて気持ちいいんだろう。
まるで森そのものに包まれてるような・・・・・。
まるで、あの人に包まれるような・・・・・。
緩やかに目覚めたジョールの目の前に、その人は微笑みながら、姿をあらわす。
「・・・・い・・・・イズ・・・さ・ん」
「じょーる」
絡み合う視線。当たり前のように合わされる唇。
目を閉じても感じる緑とやさしい光。
ああ。
ここが永遠の居場所。願うのは・・・・・
「「あいしてる」」
あなたと二人で・・・。
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