世界に愛があるかぎり

シンジュ×ローズ+オパール

永久に

文:ナギ様


[ 1 ]

「あの時以来ですね。ここに来るのは」
シンジュは、隣に佇んでいるローズに話しかけた。
 「そうね。あの時の事は忘れられないわ」
 歩いていた足を止めたローズは、大きなお腹をさすりながら微笑んだ。
 「あの時にこの子が出来たのかは分からないけれど、あなたの紳士さがすっごく伝わったわ」
ローズは、思い出すようにゆっくりと目を伏せた。
 「それでもっともっと好きになっちゃったのよ?」
シンジュの前に回りこんだローズが、悪戯な瞳でシンジュを見上げた。
 一瞬瞳を大きくしたシンジュは、一つ咳払いをすると「オパールが待っていますよ」と少し乱暴にローズの手を取ると足を進めた。ローズにはそれが照れ隠しだと分かっていたので「はいはい」と返事をした。案の定、前を歩くシンジュの耳がほんのりと赤くなっていた。

 爽やかな風の吹く森の中、少し歩いていくと大きな木の屋敷が見えてきた。2人が玄関に着くと、屋敷の扉が開いてオパールが出迎えてくれた。
 「遅かったわね〜。どこで迷子になっていたのかしら?」
オパールはクスクスと笑いながらおどけて言った。
 「着いたのが森の入り口付近にある泉だったの」
 「移動の魔法は、使う者のイメージした場所に行くものだけど、メノウにとって、ここよりもその泉の方が印象強かったみたいね」
ローズとオパールの会話を、シンジュは複雑な気持ちで聞いていた。シンジュにとってもそこは思い出深いのだ。
 「立ち話もなんだからあがってちょうだい」
オパールはそう言うと、2人を森の香りのする屋敷へと招いた。

 「お腹大きくなったわねぇ」
オパールはお茶と焼き菓子をテーブルに並べると、目の前の2人に暖かい視線を投げかけた。
 「今8ヶ月目、日に日に成長していくの。自分の体で起こっている事が不思議で仕方ないわ」
 自分のお腹を優しく撫でている姿は、16歳とはいえ母親の顔をしていた。
いくら物知りのシンジュでも、生命の誕生は不思議で仕方がない事だった。発覚当初は目立たなかったローズのお腹も月日が経つにつれて膨らんでいく様子は、精霊であるシンジュにとっても神秘的な光景だった。
お腹の子の成長を体感できるのは女性だけというけれど、人間よりも優れた能力をもっているシンジュには、子供の心の鼓動や胎動、そして力が感じられた。
それがシンジュに嬉しさと幸せと、そして不安を与えていた。

すっかり空も暗くなり、食事を終えた3人はお茶を飲みながらくつろいでいた。
 「私お風呂に入ってくるわ」
よいしょっとローズが立ち上がった。
 「どっちのお風呂に入るのかしら?」
オパールがお茶を飲む手を止め訊ねた。
 「こんなにも天気がいいんだもの、もちろん露天風呂よ」
 「だったら私もついていきます」
すかさずシンジュが言った。オパールの屋敷の露天風呂は石造りでしっかりとした、とても立派なお風呂だった。ただ厄介なことに、そこへ行くには20分程歩いて行かなければならない。辺りを闇が漂う中、女性一人で行かせるなんて物騒な事、シンジュには出来なかった。ましてや今のローズは身重の体なのだから尚更だ。
しかし、ローズはかぶりを振った。
 「大丈夫よ。それくらい一人でいけるわ。シンジュもオパールさんからメノウ様のお話もっと聞きたいでしょう?シンジュは過保護すぎなのよ。少しは運動しないと産む時に力がでなくて難産になっちゃうんだから」
ローズは力強く言うと、部屋を出て行った。普段ならシンジュがイヤだと言っても強引にでも一緒に入ってしまうローズなのに・・・・。何か気に障る事でもしたのだろうか・・・・。シンジュは気になりつつも、拒否されたショックで一歩を踏み出す事が出来なかった。
 「何か、一人で考えたい事あったんでしょう。あなたがあげたお守りがあるんだから大丈夫よ」
オパールはシンジュの肩を軽く叩いた。シンジュはそうですねと力のない声で答えた。


シンジュはいつもの落ち着きを無くし、そわそわとしていた。
ローズが出て行ってから、すでに2時間は優に越えていた。いくら離れているとはいえこんなにもかかる訳がないのだ。
 「ちょっと見に行ってきます」
シンジュは言うなりすごい早さで部屋を出て行った為、オパールも慌てて後を追った。
オパールが息を切らせながら風呂場の中に入ると、シンジュが呆然と立っていた。
そこにローズの姿はなかった・・・・。
 「・・・ここへ来た形跡はないわね・・・。床が濡れていないわ・・・」
 呆然としているシンジュとは裏腹に、冷静に周りを見ていたオパールが言った。
 「じゃあどこへ行ったんですか!」
シンジュが叫んだ。いつも冷静なシンジュが取り乱している。オパールは驚きを隠せなかった。
 「ここへ来る途中でなにかあったとしか・・・」
オパールの言葉を最後まで聞く前に、外へと飛び出していた。
 「おまえたち!ローズの居場所を今すぐ探せ!!早く!!!」
シンジュの叫び声と共に、辺りに漂っていた小さな光達が一瞬で四方八方に散っていった。
 周りに光が無くなると、シンジュはその場に力なく膝をついた。
 「ローズ・・・。どこへ行ってしまったのですか」
シンジュが作ったお守りのロザリオがあるといっても万能ではない。あれは精霊や動物が敵意を表さないっていうだけの物であって、事故や人為的な事には効果がない。
 身重の体で・・・。あの時ムリをしてでもついて行けばよかった。メノウ様の時みたいに、あんな思いはしたくないのに・・・。
オパールは、どう声をかけていいのか分からなくて、ただ見ている事しか出来なかった。


シンジュは、精霊達が情報を持って戻ってくるのを今か今かと待っていた。一分一秒が長く感じられてイライラする。
 「必ず見つかるわよ。精霊達を信じましょう」
だから少しは落ち着いてとオパールは優しく声をかけた。
 依然膝をついたままの姿勢で地面を見ているシンジュの姿に、見ているこっちも痛々しかった。
 「もしかしたら他の者がなんらかの利益の為にローズをさらって行ったのかもしれない・・・」
シンジュが下唇をかみ締めながら搾り出すように言葉をつむぎ出した。ローズは貧国とはいえ一国の王妃であり、さらには次代の世継ぎを身ごもっている。一国を揺るがすには格好の獲物なのだ。「ここは精霊の森なのよ?悪人は入れないわ」
オパールが、まさか...という顔でシンジュをみて言った。
 「精霊使いは雇う事が出来るのですよ!主の為とあらば、忠誠心の高い精霊使いならここに入り人をさらうという事を悪いとは思わない。それが人です!」
 人間は名誉だの主の為だのと綺麗事を並べては殺戮を繰り返す。力を貸して静まったと思えば、またすぐ争いが繰り返されるのを幾度となく目にしてきた。目の前の欲に眩み、正当性を掲げて自分達は悪くないと思ってしまっているから非道な事でも出来てしまう。そしてやられたらやり返すの繰り返しでいつの時代、たとえ表面上に表れていなくても因縁や欲望が張り巡らされている。
なぜ平和に過ごす事が出来ないのだろうか・・・。なぜ力を合わせて悪魔と戦うのではなく、同族で奪い合いをしようとするのだろうか。そして狙うのは自分達より立場の弱い者・・・。そこが人間は・・・と思う所であり、シンジュには解せない所でもあった。
そう思っていた所で、シンジュは動きを止めた。
 「・・・・いいえ、人間だけではありませんでした」
 「シンジュ?・・・」
 突然動きを止めたシンジュの声には抑揚がなく、まるで思っている事を知らず知らずのうちに言ってしまったという様子で、不安になったオパールは尋ねる様に名前を呼んだ。だがシンジュはそれっきり何も語ろうとはしなかった。
シンジュは昔の自分を思い出していた・・・。
 私も、メノウ様の命令とあらばなんでもする。人間だけではなかった・・・。
それは悪魔を狩っていた過去、言われるまま目の前のモノを倒していた。自分の働きで主が喜び、そして必要としてくれる事が何よりの喜びである自分は、人間のそれと変わらないのではないか・・・・と。メノウ様が精霊に命を落とされそうになれば、同族であろうとも手加減はしないはずだ。たとえ相手を消滅させる事になったとしても・・・。
 「私も・・・」
 「ん?」
 押し黙って微動だにしなかったシンジュが放った一言に、オパールは顔を上げた。
 「・・・私も・・・人間と変わらないですね」
 「違うさ」
そんなシンジュの言葉に、オパールはかぶりを振った。
 「君を含め精霊は主と認めた人を裏切らないだろ?だが人間は違う。忠誠を誓っていてもね」
 普段とは違うサバサバとした言葉使いで言い切ると、オパールは乱暴に髪をかき上げ近くの石に腰掛けた。
 「お前も精霊なんだ。あいつらを信じてやりな」
 「はい・・・」
 「それにね、自分や周りが正しいと思ってやった事でも他からみたら、それは悪かもしれない。事をどう捉えるかによって状況は変わるのよ。だから何が正しくて正しくないのかなんて本当は誰にも分からないのよ。自分にとって何が一番なのか、それを見失わない事が大切だと思うわ」
 普段の言葉使いになったオパールの髪が、風にさらわれさらさらと舞っていた。それを眺めながら、シンジュはオパールの言葉を繰り返していた。
 私にとっての一番の優先事項・・・
 ・・・メノウ様・・・
シンジュはギュッと目を閉じた。

 「あっ!戻ってきたみたいだわ!」
その声にシンジュは、すぐさま顔を上げた。そこには光の玉が数体ゆらゆらと頼りなげに浮かんでいた。
 「見つかりましたか!」
シンジュの剣幕に一瞬驚いたのか、光の玉はビクッとして小刻みに震えたが、少しずつ語り始めた。
 「迎えにいってらっしゃい」
 一部始終を聞き終え、オパールはシンジュの肩に手を置いて言った。
 「そのつもりです」
シンジュは少しイラつきながらぶっきらぼうに返事を返した。
 「女性は繊細なのよ?彼女、悩んでいたみたいだし、その悩みを取り払ってあげるのもあなたの役目よ」
シンジュは分かっていた。彼女が悩んでいた事、その原因が自分であるだろうという事も。
 分かっていながら、彼女と話す機会を持とうとはしなかった・・・。
 「分かっていますよ。言われなくても」
その返答に苦笑いを浮かべたオパールは、羽織っていたマントをシンジュに手渡した。
 「ちょっと冷えてきたから、持って行ってね。私はここで暖まっていくから」
 行ってらっしゃいとシンジュに手を振ると、それを合図にシンジュは暗い森の中へと姿を消した。
 「まったく。なかなか素直にならないんだから。さあ、みんなお疲れ様だったわね」
 精霊達にお礼を言って解散させると、やれやれと年寄り染みた愚痴を言いながら、それでも嬉しそうに露天風呂の中に入っていった。


 空には大きな満月。本当なら満点の星空だろうが、満月の光に隠れてしまってあまり見えなかった。ローズはかくれんぼをしている星を見つけながら、お風呂へ続く道を歩いていた。昼間とは違う少しだけ冷気を纏った風がローズの髪をすくっていく。ローズは持ってきていた肌触りのよい白のショールを羽織った。本来なら暗い道でも満月の光と、先ほどから彼女の周りを飛行する無数の小さな光が足元を照らし、ローズは難なく歩く事ができていた。
ふと思い出した事があった。以前ここに来た時に、シンジュが言っていた事・・・。
『そうですね。あの泉はとても綺麗ですよ。特に月の出ている夜は・・・・』
 何故か寂しそうに言ったシンジュが気になっていた。
 心の内を話そうとしないシンジュ。
 今もそう・・・。
 変わらない・・・・。
あの時の顔が、最近のシンジュと重なる。
そして今日も泉を見ていた。あの寂しそうな目で・・・。
 「行ってみようかな・・・・」
なにも分からないと思うけれど、それでも、もしかしたら彼の考えてる事が何か分かるかもしれない。
ローズがきびずを返すと、小さなロザリオが彼女の動きに合わせて胸元で踊った。


どれくらい歩いたのだろう。子を身ごもってからと言うもの周りが過保護過ぎて、体を動かしていなかった為に鈍っていた体が悲鳴を上げ始めていた。
さらには、お腹がだんだんと張ってきて、少しの距離を歩くのも億劫だった。
 近道だと思って歩いてきた道も、途中で無くなるし、どこを歩いているのか分からなかった。もう、泉にたどりつける自信がない。帰れる自信も・・・・。
 「私・・・なにやってるんだろ・・・」
 大切な命を宿しているのに・・・。
 近くの木に寄りかかるように座り込むと、なんだか無性に悲しくなってきて、熱いものがこみ上げてきた。気がつくと何かが頬を流れていた。
すると、足元をふわふわと浮いていた光達がローズの顔の辺りをくるくると漂いだした。
 励ましてくれているのかな・・・。ローズは思った。それに、微かだけれど、何か聞こえる・・・。
ローズはそっと耳をすました。

――――・・・・・・・し・・い――――
 ――――かなしい?――――
 ――――泣かない・・・人・・――――
 ――――もうすぐ・・・ね――――
 ――――・・・光の・・・子――――
 ――――たの・・・・しみ――――

「あなた達の・・・声?」
この子を授かってから、シンジュが言っていたのだ。
もしかしたら、お腹の子の力がなんらかの形で君に表れるかもしれない・・・と。
しかし、自分にはなにも起こらないだろうと思っていたから最初は驚いたローズだったが、お腹の子のお陰で少しだけだけど力のない自分でも精霊達の存在が分かって嬉しかった。
そして、自分を慰めようとしてくれているこの小さな精霊達の気持ちが、すごく嬉しかった。
 「そうね。もう少し。でもねシンジュが・・・最近うわの空っていう事・・・よくあるのよ。時々、辛そうな顔をして・・・やっぱり・・・・ムリしてるんじゃないのかなって・・・思うの・・・」
 一滴の雫が膝の上に載せていた手の甲に、小さな小さな水溜りを作った。
ローズの周りをクルクル回る精霊達。聞いているのか分からないけれど、ローズは語るのを続けた。誰でもいいから聞いて欲しかった。
 「彼は、心の内を話してくれないの・・・・」
 子供を授かって、プロポーズされて・・・。お互い近づけたと思っていた。
けれど、結局は変わらずに、彼の本心もよく分からないまま・・・・。
あんなにも人と関係を持つ事を嫌っていたシンジュ。それなのに無理やり関係を持ってしまったから・・・。だから、日に日に大きくなるお腹を見て嫌な気分に・・・後悔させてしまっているんだわ。
どうして自分は、シンジュを誘ったりする時にはあんなに強引になれるのに、どうして引き際の時は強引に押し切れないのだろう。
あんなシンジュを見るくらいだったら、一人で帰った方がよかった。
 子供を授かって嬉しいのに、今は無性に悲しくてギュッと目をつむると、ローズの手の甲にはまた新たな水溜りが出来た。


[ 2 ]


ガサガサッ
後ろの方から木々を分け入ってくる音が聞こえてローズはビクッとなった。
 自然とお腹を抱えるように恐る恐る後ろを振り返ると、そこには息を切らせて大きく肩で息をしているシンジュがいた。
 「シ・・・ンジュ・・・」
ローズは大きく瞳を開いて固まっていたが、ようやく涙声でその一言を搾り出した。
 「あなたは大バカ者です!!どれだけ心配したと思っているのですか!!!!」
 開口一番それだけを一気に言うと、シンジュは眉を寄せ瞳を揺らした。それでもローズの目を逸らさずに見据え、一歩一歩2人の距離を縮めていく。
そして、木の根元で動けなくなっているローズの肩に触れると、シンジュは力強く抱き締めた。その力強さにシンジュがどれだけ心配していたのかが分かって、ローズは堰を切ったように声を出して泣いた。

 「落ち着きましたか?」
グズグズッと鼻を鳴らしているローズの髪を指ですきながらローズの顔を覗こうとすると、すぐにシンジュの胸に埋めてしまう。
 「そんなに泣くと目が腫れてしまいますよ?」
 核心に触れたいシンジュだったが言い出せず、当たり障りのない事を言ってしまう。
 「私かわいくないからいいもん・・・」
 「私は好きですよ。あなたの顔。以前言いましたけどね」
 「周りは綺麗な人ばかりだもんね。珍しいんでしょ?私の顔」
シンジュはこの時ばかりは、昔の自分を呪った。
かといって、コハクみたいに気の利いた言葉を言える訳でもない。
 「人間の中では、かわいい部類に入ると思いますが」
 考えて言った言葉に、ローズは何も反応しない。
 機嫌を損ねさせてしまったのだろうかと、シンジュは不安になったが、ローズが「ありがとう」と一言いってくれてほっと胸を撫で下ろした。

どれくらいそうしていたのだろう、目を瞑ってシンジュに体を預けていたローズは、「あっ」というシンジュ声に驚いて顔を上げた。
 見上げたシンジュの顔が、みるみると青ざめていく。
 「どうしたの?」
その変貌ぶりに不安になったローズは、シンジュの袖をぎゅっと掴んだ。
 「ローズ・・・。血が・・・・」
 「あっ・・・・」
ローズは冷静に自分の体を見た。白のワンピースは黒く汚れ、枝などでひっかけたのだろうか、服は所々破れ、肌には引っかき傷が無数に出来ていた。
 特に右腕がひどく、傷口からはいまだ血が流れていた。シンジュは無言でローズの腕を取ると、治癒の魔法をかけた。
 「こっちへ来て下さい。泉がありますから」
 泉と聞いてローズは一瞬体を強張らせた。シンジュはそんなローズの背中にマントを羽織らせると肩に腕を回してローズの体を抱き寄せ、ゆっくりと歩きだした。


 森の入り口にある泉は、月の光を水面いっぱいに受けてキラキラと輝いていた。銀色に輝く時もありローズはしばし見とれていた。それは泉に近づくにつれてそこに住まう魚の鱗で光が反射したのだと分かった。
シンジュはローズを泉のほとりへ連れて行くと、小さな精霊達を遠ざけると何度となく繰り返した魔法を唱えた。
 一瞬だけ夜とは思えないほど、まぶしくなりローズは目を瞑った。
 「今のはなに?」
 「見えない為の結界ですよ。血を洗わないといけないですし、傷を治さないと痕が残ってしまいますから」
そう言いながら、ローズの服に手をかけ脱がせていく。
 盗み見たローズの頬が少し赤くなっていた。いくら見えないと分かってはいても、野外だという事がローズに羞恥心を与え頬を染めさせていたのだ。
 「はずかしい?すみません・・・。でも少しガマンしてください」
ローズは消え入りそうな小さな声で「うん・・」と答えた。
シンジュは、ローズの服を脱がし終わると顔の傷から治療を始めた。
 「シンジュ?寒くないよ・・・」
どうして?という顔で、ローズは不思議そうにシンジュを見た。さっきまでの肌寒さが嘘のように、暖かかった。
 「火の魔法を周りにはったのですよ。大切な体ですからね」
シンジュはローズにやさしい笑顔を向けると、一つ一つローズの傷を消していった。一つの傷も逃さぬ様に。
しゃがんで足についた最後の傷を消し終わると、シンジュはローズを見上げた。シンジュになされるままに一糸纏わぬ姿で立っているローズが、少し恥ずかしそうにシンジュを見つめ返した。後ろに満月を背負った彼女は、誰よりも綺麗だと思った。
 「ローズ・・・」
シンジュがオパールに借りたマントを両手で広げると、ローズがゆっくりとその腕の中に入ってきた。
その体をマントごとやさしく抱きしめると、ローズの背中を優しく撫でた。
そして、ローズに話し始めた。自分の思っていた事を・・・。
 「ローズ・・・。私は人間の事をなんとも思っていませんでした。それは知っていますね?精霊は、特に高位の精霊は他者と交わらなくても子を成す事が出来ますから」
 「それは・・・知らなかったけど、シンジュが人と交わる事に関して嫌悪していた事は知ってた・・・。あれだけ言われれば・・・ね。でも、知ってて私はあなたにつきまとっていた。だって好きなんだもん。でも・・・最近のシンジュが悩んでいたの知ってる・・・。それは、この子の事でしょ?」
ローズはお腹に手をあてて寂しそうに言った。
 「えぇ・・・」
シンジュの肯定に、ローズは無意識のうちに小さなため息をついていた。それは、ローズにとって予想していた通りの事だったけれど、正面きって言われると胸が痛んだ。
 「もう無理しなくていいから、メノウ様の所へ戻って・・・」
さっきやっと落ち着いた涙が、また溢れだしてローズの頬をぬらした。ローズはその涙を拭う事もしないで、ただただシンジュを見つめ続けていた。
 「な・・・なにをいっているのですかっ!」
 「だって!・・・だって最近のシンジュずっと悩んでる。人間と一緒になる事をあんなに嫌がってたのに、私・・・無理やり関係もって、あげくに妊娠よ?」
 言葉を区切ってシンジュを見つめても、シンジュは微動だにせず、見つめ返してくる。
 「曲がったことがキライなあなただから、私にプロポーズしてくれたんでしょ?でもね、私はあなたの自由を奪う気もないし、悩んでいるあなたを見ているのも嫌なの・・・。子供は、私が責任を持って育てるから。一人でも大丈夫よ・・・だからメノウ様の所へ帰って。それに、マスターを一人残して置くのは変でしょ?」
ローズは、自分の考えていたことをやっと口にした。
シンジュを見ていてずっと思っていたこと・・・。ローズはシンジュの事が、本当に好きだった。ずっと一緒にいたいし、離れたくないのが本音だった。だから今までは、見てみぬ振りをしてたけれど、悩んでいる時の沈んだ顔を見てしまうと心が痛んだ。だから離れた方がいいのよ・・・。離れた方がシンジュの為になるんだから・・・。でも、やっぱり離れたくない。
 言った後でも、ローズの心は葛藤していた。
 気持ちの整理が出来なくて、苦しくて体に巻かれたマントをギュッと掴んだ。
シンジュは、下を向いてしまったローズの顔を両手で包み込んで自分のほうを向かせ、親指で目から溢れた雫を拭った。
 「私には、帰る気は微塵もありませんよ。例え、あなたに嫌われたとしても」
 「私がシンジュを嫌うわけないじゃない・・・」
ローズの小さな抗議に、シンジュの瞳がやんわりと細められた。
 「それに、今の私はあなたとメノウ様が同時に危険な目にあったとしたら、必ずあなたを優先して守りますよ」
 「ど・・・どうして!?だってメノウ様はあなたのマスターじゃない!」
 「自分の妻と子供を優先して守らない夫がいますか?メノウ様なら分かってくれますよ。それに、コハクがいい例でしょう?」
オパールには精霊が主を裏切らないと言っていたが、例外もあるとシンジュは思った。
 「メノウ様は一人で戦う事が出来ますがローズは違う。私が守らなければ誰が守るのですか?」
 「私・・・。そんなに弱くないわ。だって、母親になるんだもん」
シンジュの問いにローズは強く言った。そうでもしないと、責任感が人一倍強いシンジュは自分の元を離れようとはしない。妻と子供というのは、そういう責任から出た言葉・・・。ローズは引き下がらなかった。
いつになく頑固なローズに、シンジュは苦笑いを浮かべた。
 「弱くなって頂かないと私が困ります。あなた達を守りたい」
 「それは責任感じているからでしょ」
まだ涙を浮かべている瞳がシンジュの目を射抜いた。
モルダバイトでローズにプロポーズした時に言っただけではローズの心配を取り除けなかったのか・・・。シンジュは後悔した。ローズがそう感じても仕方がないと思うほど、自分はその後、言葉を紡いであげていなかったのだ。シンジュは心臓が締め付けられる気がした。
 「自分にとって何が一番なのか、それを見失わない事が大切だ。オパールに言われた事なのですけど、自分にとってメノウ様は主で、尊敬する人であり、大切な人です。メノウ様がいればあとはなにもいりませんでした。でも、今は違う。今の私にとって一番は・・・、ローズ、あなたです」
 事実メノウ様が亡くなったと思った時は、自分の力の無さを呪い、世界がどうなってもいいとさえ思った。
じゃあ、ローズを失ったとしたら自分はどうなるのか・・・。想像がつかない。
それ程、ローズという存在がシンジュの心を独占していた。
それを伝えたい。シンジュは、言葉を噛み締めながら、一言一言言葉を続ける。少しだけ照れながら、それでも視線を逸らさずに。
 「あなたという人が・・・・好きなんです」
 彼女に気持ちが届く様にと願いながら、シンジュは言った。
そして微動だにしないローズの頬を軽くつねると、微かに震える麗しい唇に唇を寄せた。
 「その言葉・・・ずっと・・待ってた」
またも嗚咽を漏らし始めてしまったローズだったが、必死に何か言おうとする。シンジュはやんわりとそれを制した。
もう一度口付けをする為に・・・。
まるで2人を祝福する様に、2人の周りを無数の光が舞っていた。
そっと唇を離した2人は、目線が交差した途端真っ赤になって俯いた。
 何回もしているというのに、まるで、初めての口付けの様な恥ずかしさがあった。
 「もう絶対離さないんだから」
 「私もですよ」
ローズは、嬉しすぎてシンジュの胸にもう一度体を預けた。

シンジュと本当に両思いになれたローズだったが、腑に落ちない事があった。
 自分達の事がイヤで悩んでいた訳ではないのだ・・・・。
 「じゃあ何を・・・」
 悩んでいたの?とローズは思った。無意識の内に言葉が漏れてしまった。
それを聞いたシンジュが「ん?」と首を傾げた。
 「あ・・・。シンジュが何を悩んでいたのかな・・・と思って・・」
ローズは聞いてもいいのか不安になりつつも言った。でも知りたいのも事実だった。
 「不安なんです。私の様な最高位の精霊が人間と交わって子を生すという前例が、私が知っている範囲では無いのです・・・。もしかしたら、私が生まれる前にあったのかも知れませんが・・・」
 本当に不安らしく、その話題を口にしたシンジュの顔が陰った。
 「そうなんだ・・・。でも、精霊と人間のハーフはいるじゃない。大丈夫よ」
 明るく言ったローズとは対照的に、シンジュの表情はかわらなかった。
 「いえ、そういうのではなくて・・・。精霊は生命を得た時点ですでに力を持っているのです。それが不安なのですよ…」
 「あっ、それは私も感じたわ。だって、精霊たちの声が聞こえてきたんだもの。あれは絶対この子の力よね」
 「そうですね。それ位だったらいいんですよ・・・」
そういって目をそらしたシンジュに、ローズは不安を感じたが、シンジュの次の言葉を静かに待った。
 「もしも、なんらかの事情で子供の身に危険が及ぶとなった場合、防衛本能で力を使う時があるのですが、まだ自分の力を制御出来なくて力が暴走してしまう事があるのです。それは、お腹にいる状態でもありえる事で・・・。その場合は母親が、精霊や力のある者であれば、その暴走を食い止められるのですが、あなたは特別な力を持たない、普通の人間…もしかしたら・・・」
ローズを抱いている腕に自然と力がこもってしまう。シンジュは言いながらも胸が苦しくて仕方がなかった。
 「あなたを失いたくないのです」
その言葉を吐き出したら、さらに苦しさが増して熱いものがこみ上げてくる感じがして、ローズの肩に顔を埋めた。
 「あなたの事を好きになって、その分不安に思う事も増えました。種族が違う分、障害も多い。辛いのもわかっているんです。でも・・・、あなたと離れたくない」
 「シンジュ・・・」
シンジュの声が震えていた。ローズは答える様にシンジュの背中に腕を回した。
 「私だってそうよ。やっとシンジュの気持ちが分かって、この子と3人で楽しく過ごしたいもの。だから死なないし離れない。それにね、なにかあったらシンジュが守ってくれるでしょ?」
シンジュがいれば大丈夫。ローズは確信していた。
 「当たり前です。命に代えても」
 未だにローズの肩に顔を埋めているシンジュだったが、その言葉に力強さがあった。
 「シンジュが死んじゃったら意味ないでしょ」
ローズが少し笑いの含んだ声音で言った。
 「楽しみなの。生まれてくる子が、男の子なのか女の子なのか、髪は何色なのか、どの辺りがシンジュに似ているのかなって」
 「それは、私もずっと考えていました」
その言葉に、やっと顔をあげたシンジュに笑顔がもどっていた。
 「私は、ローズ似の女の子がいいです」
 「女の子だと一緒にショッピング出来たりするけど、シンジュ似の男の子もいいわね」
 「いいえ。女の子です」
 「じゃあ賭けてみる?」
きっぱりと言ったシンジュに、ローズは悪戯っぽく片目を瞑った。
 「もちろんです」
 「じゃあ負けたら買い物一日付き合ってよね」
お腹が大きくなるにつれて、人ごみで長時間滞在する事が困難になってしまい、お預け状態だったのだ。お腹の子のも色々みてみたいというのもあった。
 「わかりました」
シンジュは快く承諾した。本音を言えば、賭けじゃなくてもいつでも付き合うつもりなのだ。
ただ、以前の習慣がずっと続いているのだが、どちらが勝ってもそんなに変わりはなかった。それでも続けるのは2人の共通の趣味の一つだったし、その時間をいつまでも大切にしたかった。
 「そろそろ戻りましょうか。オパールが心配しているでしょうから」
 「うん!後であやまらないと」
ローズは申し訳ないという顔でシンジュを見た。
 「服は・・・。これを着て下さい」
おもむろにシンジュは自分の上着を脱いでローズに渡した。シンジュの上着は少し丈が長かった為ローズには丁度よかった。
 「寒くない?」
 上半身裸になってしまったシンジュの腕を摩った。
 「大丈夫ですよ。屋敷に戻ったらお風呂にはいりますから」
 「私も一緒に入るわ!」
ローズのいつもの言葉が出たのは本調子に戻った証拠だった。シンジュは嬉しくなり、ローズの腰を引き寄せ触れるだけのキスをした。


[ 3 ]

その後

シンジュに連れられローズがオパールの屋敷に着いたのは、日付が変わった後だった。
 遅くなったにもかかわらず、オパールは暖かいお茶を用意して待っていてくれた。もちろんオパールにも怒られてしまったが、その心使いが、ローズにはうれしかった。
シンジュが屋敷のお風呂を暖めに席を立つとオパールはローズに語った。
ローズが戻ってこなくてシンジュがどれ程慌てたのか・・・・。
 「ホントびっくりしたわぁ。あのシンジュがよ?すごい勢いで飛び出して行くわ、大声で精霊を怒鳴り散らして探させるわ、なかなか見れるものじゃないわね」
うんうんと言いながらオパールは言った。
シンジュが怒鳴り散らす・・・・。グチグチネチネチと説教をする事はあるけれど・・・・。
 想像がつかない・・・。それ程心配させちゃったのね・・・。
ローズは心の底から反省した。
 「でもね、あなた達の顔は憑き物が取れたみたいに晴れやかだわ」
オパールは嬉しそうに言った。
 「もやもやが無くなったの。キレイさっぱりね。後は元気な赤ちゃんを産むだけよ」
シンジュの気持ちが分かった途端、こんなに気持ちが軽くなるなんて思わなかった。
これからもずっとシンジュと一緒にいられる。そう考えるだけで笑顔になれちゃうんだもん。
 「好きになった人に答えてもらえるって素敵な事よね。それに、あんなカッコイイ人そうそういないし」
ローズは先程の事を思い出してうっとりとしていた。
 「あの慌てぶりは、相当あなたに惚れてるわよ」
コホンッ
 クスクスと笑い出したオパールの後ろで咳払いが聞こえてきて、2人は慌てて後ろを見た。
そこにはむすっとしたシンジュがいた。
 「あ・・・。私そろそろ部屋に戻るわ〜。お二人ともごゆっくり〜」
オパールが逃げるように部屋から出て行った。
 部屋に残ったのは、むすっとしたシンジュとおろおろしているローズ。
ローズは心の中でオパールを呪った。
シンジュの気持ちを題材にしたのがまずかったのかも・・・。
あの顔は絶対怒っている。絶対気まずいしぃ〜〜〜。
 「あ・・・、私のほうがシンジュの事ずっとず〜〜と惚れてるんだから」
これは事実だろうから言ってみる。すると渋い顔をしていたシンジュがぷっと吹き出した。
 「はぁ〜?」
ローズには訳が分からなかった・・・・。
 「照れ隠しですよ。オパールにバレてしまいましたからね」
 「もぅ。いじわるね」
 心臓に悪すぎる。私の気持ち絶対わかってないわ!
まだ笑っているシンジュにローズはぷくぅとほっぺを膨らました。
シンジュは無表情でツカツカとローズに近づくと、その膨らんだほっぺをおもむろに両手で潰したものだから、ローズの口からブーッという音と共に勢いよく息が吐き出された。
それを見てまた笑い出すシンジュ。
 「なにするのよっ!!」
 「一度やってみたかったのです。すみませ・・・くくっ」
 全身で怒りをあらわにしたローズに対し、謝りはしたものの笑いがとまらないシンジュは声を殺して笑っていた。
 「シンジュにこんな一面があるなんて知らなかったわ」
 「表情が豊かになったと言って下さい」
シンジュは、笑いつつも目尻に溜まった涙を拭きながら、脱力したローズを見た。
 「さぁさぁ、お風呂が冷めないうちに入りましょう」
シンジュは言いながら、ローズの背中に手を回すと廊下へと促した。


オパールの屋敷の内湯は、露天風呂に比べたら少し狭いのだが、2人で入る分には申し分ない広さだった。
 扉を開けると、暖かい湯気が出迎えてくれた。
 「あ〜生き返るぅ」
ローズはう〜〜んと体を伸ばした。向かい合って座っていたシンジュがその姿をみて微笑んだ。
 「シンジュが傷を癒してくれなかったら、すっごくしみる所だったわ。ホントありがと」
ローズがぺこりとお辞儀をした。
 「ううん。それよりも、迎えにきてくれてありがとう。もう黙って行ったりはしないわ。心の底より反省しています」
ローズは申し訳なさそうに言った。
 「そうして下さい。私も生きた心地がしませんでしたから」
 「はい」
 返事をしたローズは、向きを変えてシンジュの胸に背中を預けた。シンジュは後ろから腕を回すと、お湯から出ているローズの肩に、手酌で静かにお湯をかけてあげながら、そういえばと切り出した。
 「あの時、ローズはどこへ行こうとしていたのですか?」
 「えっ・・・とね。泉へ行こうとしたの。気になってた事があったから・・・」
ローズはバツが悪そうだった。
 「泉ですか・・・・」
 「だって、泉をみたシンジュが、すっごく寂しそうな顔してたから!最近悩んでた事と関係があるのかもっておもっちゃったの!」
ぽつりといったシンジュに、ローズは慌てて言葉を付け足した。
 「あの泉には、いい思い出がありません・・・」
 「あっ・・・」
 後ろを振り返ったローズの目に、あの寂しそうな顔が映った。やっぱり聞いちゃいけなかった事だったんだ・・・。
 「ごめんね・・・」
ローズは後悔した。
 「いいんですよ、謝らなくて。あの泉はですね、メノウ様とサンゴ様の思い出の場所なのですよ」
 秘め事ですけどね・・・・。少し照れながらシンジュは付け足した。
 「秘め事・・・・」
ローズはなんと言っていいのか分からず、ただその言葉を反芻した。
 「そうです。その度に先程の目くらましの魔法を使っていたのですよ。挙句の果てには、ヒスイ様とコハクまでも・・・ね。私は便利屋ではありません!」
 思い出したのか、シンジュは少し震えていた。もちろん怒りから沸きおこるものだった。
 「・・・大変ねシンジュも」
ローズはシンジュの気持ちになって想像したら、かわいそうになってきた。
そんなところ見ちゃったら、蛇の生殺しじゃない!!
・・・・と。
 精霊であるシンジュにとって、性行為は別段どうでもいい事柄なのだが、ローズは見当違いの事を思った。
 「まぁ、自分で言うのもなんですが、私はメノウ様を心から慕っていましたから、取られたような・・・。そんな感じがして、寂しかったんですよ。ヒスイ様の時も、それを思い出してしまって・・・。それに、ヒスイ様は明らかにですがメノウ様も・・・・、私よりコハクの方が上だったみたいですし・・・・」
その声が、すごく頼りなげに聞こえて、ローズは必死になって言った。
 「私は、シンジュがいないとダメ。誰でもないあなたじゃなきゃイヤなの」
ローズはシンジュの手をぎゅっと握った。
 「ローズ・・・」
 必死に言うローズの気持ちがシンジュの胸に染み渡る。
こんなにも自分の事を必要としてくれる人が、現れるとは思わなかったんですよ・・・。
 「たしかに、あの場所は辛い思い出があります。でもねローズ、今日からは幸せな思い出でいっぱいの場所に変わったんですよ。あなたと本当に気持ちが通じあえた場所だから」
そう言ったシンジュの顔は晴れやかだった。それを見てローズはうれしそうに目を細めた。
 「ねぇシンジュ。今度その泉に行く時は、気持ちだけじゃなく、体も通じ合わない?」
シンジュの太ももに手を這わしながら、ローズがいつもの悪戯な瞳を投げかけた。
 「自分の為に、あの魔法を使うのも悪くありませんね」
シンジュがクスッと笑ってローズの髪に唇を寄せた。
 「2人の思い出の場所、もっともっと作ろうね。あっ、もう少ししたら『3人の』になるかな」
ローズはクスクスと笑った。本当に嬉しそうに。
そんなローズを見てシンジュも笑顔になる。
これからも、ずっと笑っていてね。
その願いを込めて、ローズはシンジュにキスをした。


+++END+++


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