世界に咲く花

番外編(お題No.18)

最後の居場所

「世界に咲く花」完結後。“オニキスがちょっぴり強引な男になってヒスイに迫る”お話。かなりオニキス贔屓。

[前編]

「・・・随分と騒がしいな」

緑の生い茂る森を抜け、赤い屋根の屋敷に近付く。

すると、オニキスの耳に赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。

ギャアギャア!ウワァァン!!

ジストとサルファー。

うえぇ〜ん!!

「・・・ヒスイ?」

そこに混じるヒスイの泣き声。

ただ事ではない。

オニキスは歩調を早めた。

   

「・・・・・・」

(いつかやるとは思っていたが・・・)

コハクVSトパーズ。

凌ぎを削る二人の親子喧嘩はついに悲惨な結末を迎えた。

同士討ち。

両者とも完全に石化している。

コハクがトパーズの胸ぐらを掴んだ格好のまま、全く動かない。

(トパーズの魔法が暴走したか・・・)

「うぇっ・・・おにいちゃぁん〜・・・トパーズぅ〜・・・」

最愛の夫と息子を一度に失ったヒスイの悲しみは深い。

「お兄ちゃんとトパーズがいなかったら・・・この子達どうするの!!?」

赤ん坊の世話は主にコハクとトパーズがしていた。

ヒスイは乳を与え、気が向いた時に遊んでやるくらいで。

赤ん坊が泣き出すとすぐコハクにバトンタッチ。

前回よりは幾分マシだが、家事が苦手なヒスイは子育てに向いているタイプとは言えなかった。

当然、途方に暮れる。

乳飲み子を3人抱えた未亡人状態だ。

 

運悪く、オニキスはその現場に足を踏み入れてしまったのだ。

 

「しっかりしろ。お前まで取り乱してどうする」

泣き喚くジストとサルファーを順番にあやすオニキス。

双子を育てあげた経験がモノを言う。

赤子の扱いにかけては達人の域だった。

「お前が不安がるからこいつらが泣く」

「だってぇ〜・・・」

ヒスイなりに二人を救おうと試行錯誤した跡があった。

一般に石化を解くと言われる魔法の粉や、魔道書が散らばっている。

「トパーズの・・・“神サマ魔法”みたいなの。だから、普通に石化を解く手順じゃだめみたいで・・・」

「・・・・・・」

すべてを超越する“神サマ魔法”では、オニキスもお手上げだ。

手の施しようがない。

  

「・・・ヒスイ」

「ん?」

いきなり顎を掴まれる。

そして、キス。

「!?」

慣れない感触・・・オニキスの唇が触れたのは久しぶりだった。

「ちょっと何す・・・」

ボソボソボソ・・・

ヒスイの肩を掴み、オニキスが耳元で作戦を明かす。

「・・・あ、それ、いいかも」

ヒスイはオニキスの体に両腕を回した。

それから石像のコハクをチラリ。

「お兄ちゃんっ!早く復活しないと、オニキスとイロイロしちゃうからねっ!!」

 

シーン・・・。

 

反応、ナシ。

 

ヒソヒソ・・・

「いつもならこれで・・・」と、オニキス。

「だよね〜・・・」ヒスイも納得がいかないという顔をしている。

 

“嫉妬心を煽り、自ら魔法を解かせる”

 

それはトパーズにも適用した作戦だった。

とにかく、どちらかの石化が解ければ、なんとかなる筈なのだ。

(・・・まだ刺激が足りないか)

「え?ちょっと??」

再び唇を寄せるオニキスに、ヒスイが躊躇う。

「・・・今更、だろう」

どのみち“異性”として認識されていない。

うんざりするほど付き合いも長く、お互いのことは知り尽くしている。

従って、緊張感もなかった。

オニキスは溜息混じりに笑って、少々強引にヒスイの唇を塞いだ。

「ん〜・・・」

長いキスの最中、ヒスイの視線がチラチラとコハクに注がれる。

 

コハクは・・・沈黙したままだ。

 

(お兄ちゃんのバカっ!)

なんとなく、無反応なのがくやしい。

愛が足りない気がする。

「・・・・・・」

ヒスイを腕に抱いて、複雑気分のオニキス。

見事に相殺。邪魔者は・・・いない。

ジストもサルファーも、新しいオモチャに夢中になっている。

それは・・・石になった、父親。

ぺちぺちと叩いてみたり、ぺろっと舐めてみたり。

ヒスイとオニキスが何をしていようが、お構いなしだ。

「ん・・・っ・・・」

3度目のキス。

オニキスも横目で確認するが、コハクもトパーズも微動だにしない。

「おい!いいのか!?」

声を掛けても返事がない。

あれほど、ヒスイ、ヒスイ、と言っていたのに。

好き勝手に取り合って、その挙げ句、これだ。

「・・・・・・」

(いっそこのまま・・・すべてを攫ってしまおうか)

そんな想いが脳裏を過ぎる。

(ヒスイも、子供達も)

「オニキス?」

オニキスの手がヒスイの胸元へ伸びた。

 

男の本能。

 

「ふぇぇぇんっ!」

「うぎゃぁっ!」

まるでそれを察したかのように、コハクの血を引く子供達が泣き出す。

「・・・やはり一筋縄ではいかないようだ」

苦笑い。少しホッとして、オニキスはヒスイから手を引いた。

「???」

オニキスがヒスイから離れると、泣き声はピタリと止み、頭を撫でてやると、今度はご機嫌に笑った。

「・・・メノウ殿に相談してみるか」

「でもお父さん・・・仕事で潜ってるし」

隣国クリソプレーズで発見された古代の地下迷宮。

そこに悪魔が出現するということで、教会から出張命令が下った。

「地下100階まであって・・・しばらく戻って来れないって・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・直接会いに行くしかないだろう」

一刻を争う事態という訳でもないが、静かすぎてどうにも落ち着かない。

「ん〜・・・そうだね」

「お前はここで待っていろ。オレが行ってくる」

「待って、それ、無理」

ひとりで子供3人の面倒は見られないと、胸を張ってヒスイが言った。

「・・・・・・」

「私も行く。はい、よろしくね」

オニキスにジストを抱かせ、自分がサルファーを抱く。

「・・・・・・」

 

「待っててね!お兄ちゃん!トパーズ!」

それぞれに“いってきます”のキス。

玄関扉に鍵を掛け、いざ出発。

  

 

クリソプレーズ。宿屋。

  

 

魔法陣を使用して移動時間を短縮しても、赤ん坊を連れての長旅は難しく、二人はすぐ休憩場所を探した。

「おやぁ、ずいぶん若い夫婦だねぇ〜」

女将の歓迎を受け、部屋へと通される。

関係をいちいち説明するのも面倒なので、否定はしない。

昔取った杵柄で、夫婦のフリは慣れたものだった。

「で、どうするの?」

ジストもサルファーもいつの間にかオニキスが抱いている。

ヒスイ曰く、「腕が疲れた」。

日頃いかにコハクが甘やかしているか一目瞭然だ。

「発見された地下迷宮はこの近くだ。2、3時間ならひとりで待てるな?」

「うん」

悪魔が出るという地下迷宮。

当然のことながらジストとサルファーは連れて行けない。

ヒスイが留守番に残るしかなかった。

幸いメノウが出発してからまだ日が浅く、それほど深くまで潜っているとは考えにくい。

「すぐに帰ってくる。心配するな」

“心配するな”はオニキスの安否ではなく、世話係の安否・・・自分で言っていて虚しくなる。

  

なぜ、こんな女が好きなのか。

  

いい子、いい子、と、コハクは愛でるが、一般の「いい子」とはほど遠い。

むしろ「変わり者」。愛想が悪く、思考回路は無茶苦茶で。

友達もできない。

そのくせ、無邪気で・・・照れ屋で・・・天然。

「・・・・・・」

つくづく悪女、だと思う。

それでも、やっぱり好きなのだ。

こうして巻き込まれるのが、嬉しい。

はぁ〜・・・っ。

毎回同じ結論・・・自分に呆れ、溜息。

 

深夜。

オニキスはヒスイを宿に残し、メノウのいる地下迷宮へと向かった。

 

・・・そこから少しずつ、歯車が狂い始める。

 

 

そして、地下迷宮。

 

(光る・・・苔・・・?)

明かりになるものを何も持っていなかったが、不自由はなかった。

岩壁にびっちり生えている苔。

それが発光している。逆に目を開けていられないくらい眩しい。

「・・・?」

(変わった種だな・・・初めて見る・・・)

光る苔らしきものは、階段を下るたびに数が減り、メノウのいる22階に到着する頃には丁度良い明るさになっていた。

「メノウ殿」

「ん?オニキス?」

 

 

「あはははは!!アイツ等ホントしょうがないなぁ」

オニキスから事情を聞いたメノウ・・・爆笑。

「ついにやったかぁ〜・・・ま、いつかやるとは思ってたけど」

笑いからくる震えが止まらない。

(考えることは皆、一緒か・・・)

「それで、元に戻す方法なんだが・・・」

オニキスはやれやれといった表情で腕を組んだ。

「トパーズの使う魔法は俺達じゃどうにもなんないだろ」

「・・・・・・」

「それこそ“神”に縁がある奴じゃないと」

「・・・ジスト、か」

「ん〜・・・まぁ、ジストに限らずコハクとヒスイの子なら“神”の血は濃い訳だし、3人のうちの誰かが、何とかするのを待つしかないんじゃん?」

 

 

「・・・と、言う訳だ」

オニキスから事情を聞いたヒスイ・・・茫然。

明け方の宿屋にて。

「え・・・じゃあ、いつになるかわからないってこと?」

ジスト・サルファー・スピネル・・・子供達の気まぐれ待ち。

状況を理解できる歳になるまで、数年。

運が良ければ今日かもしれないが、それこそ数年先になる可能性もあるのだ。

「あっ!そうだ!スピネルっ!」

スピネルとなら普通に会話ができるはず。

「ね、スピネル、起きて」

しかし、ヒスイがいくら話しかけても、いつもの聡明な声は返ってこなかった。

「そんなぁ〜・・・おにいちゃぁん〜・・・トパーズ〜・・・」

「・・・とにかく、これ以上ここにいても仕方がない。屋敷に戻るぞ」

 

 

ちゅっ。ちゅ。

物言わぬ石像達に“ただいま”のキス。

そんなヒスイの姿は痛々しいものがあった。

この状態が数年続くとあれば、尚更。見ていられない。

一番に望むのはヒスイの幸せ、なのだ。

泣き顔や沈んだ顔は見たくない。

「・・・・・・」

(なんとかしてやりたいが・・・)

思いつく方法は一つしかない。

しかも完全な憎まれ役。

「・・・・・・」

はぁ〜・・・っ。

「・・・ヒスイ」

「ん?」

「・・・やるぞ」

 

 

オニキスが提案したのは最初と同じ方法で、今度は子供達を煽るという。

「母親の身が危なくなれば、何とかしようとするだろう」

それに賭けたい。

「手荒な手段だが・・・」

「ううん。平気。やる」

確認するまでもなくオニキスのことは全面的に信用している。

ヒスイは二つ返事で応じた。

白昼堂々の情事。

ジストとサルファーを並んで座らせ、目の前で抱き合う。

・・・演技だ。

「・・・・・・」

背中のチャックを下ろして、ゆっくりとヒスイの服を脱がせる。

小さく華奢なヒスイの体・・・幼女趣味ではない筈なのに、未成熟な感じのするこの体が愛おしくて堪らない。

まずは肩に口づける。

それから、首筋と、鎖骨。

 

オニキスが正気を保っていたのは、ここまでだった。

 

「ん・・・っ」

キスを繰り返し、大きな手の平でヒスイの乳房を包み込む。

「え・・・っ?あれっ?オニキス?」

胸を掴まれたヒスイが慌てる。

(でもオニキスだし。演技に熱が入ってるだけ、だよね??)

万が一でも、スピネルがいる。

実の父親を吹き飛ばすくらいだ。

最悪の事態は免れる筈・・・ヒスイはそう考えた。

(とりあえずこのまま様子を・・・)


[後編]



「・・・・・・」

貴重な陶器を撫でるように慎重なオニキスの愛撫。

艶やかなヒスイの肌にオニキスの指が這う。

(やっぱり・・・ちょっと変じゃない??)

ずっと無言、なのだ。

「ね、ねぇ、オニキス?」

強引に押し倒されて、仰向け。

「ひや・・・っ!?なにっ!?」

体の入口を指で撫でられた。

「・・・濡れてない、な」

そこでオニキスの声。

「!?」

(オニキスが変!!絶対変っ!!なんで?いつから??)

「オニキスっ・・・やめ・・・」

どれ程いじられようと、コハクにしか反応しない。

そういう体になっている。が・・・

「濡れないなら、濡らしてやる」

指に代わって、オニキスの舌が触れた。

これまでの油断から、両脚をしっかりと掴まれ、閉じることもできない。

(えぇぇぇ!!?)

「ちょっとぉっ!!どうなってるのよっ!!コレぇ!!」

ジストもサルファーもギャアギャア泣いている。

それなのに。

「お兄ちゃんっ!!固まってる場合じゃないでしょっ!!」

コハクを怒鳴り散らす間にも、オニキスの舌が、辺りを湿らせてゆく。

「オニキスがっ!!壊れちゃったのよっ!!」

 

 

 

・・・そうだ。壊れた。

 

ヒスイの声が遠くに聞こえる。

 

体が・・・いうことをきかない。

口が・・・勝手なことを喋っている。

 

違う。こんなことをしたいんじゃない。

 

「く・・・」

 

気付くのが・・・遅かった。

地下迷宮の光苔。

あれは・・・満月の光に似て、狂気を呼び起こす作用があるらしい。

理性を殺し、欲望に忠実に。

『ヒスイのトコに戻るなら気をつけたほうがいいよ』

別れ際の忠告。

メノウはいつも説明が足りない。

 

 

子供達は、ヒスイの相手がいつもと違うことに抗議しているのだ。

泣き声はどんどん大きくなる。

(もっと・・・泣いて・・・父親を・・・呼べ・・・早く・・・)

 

オニキスの理性と呼べる部分は、体の奥に追いやられ、微かな叫びをあげるのみ。

 

「・・・っ・・・オニキスっ!!」

溜まりに溜まった、行き場のない想いが、凶悪なカタチで勃ち上がっていた。

愛おしいヒスイの溝に埋まろうと、意志を持って動く。

両脚の自由を奪われ、あらわになった股の間。

開脚の中心部。

そこに愛液があろうが、なかろうが、突き破るのは簡単で。

 

オニキスの先端が割れ目を擽った。

 

「!?スピネルっ!!今よっ!!」

いつもの調子で吹き飛ばして!と、ヒスイは我が子に命じた。

 

シーン・・・。

 

「え?あれ?」

(なんで?結構ピンチなのに・・・)

どうもスピネルの様子がおかしい。

「!!あっ・・・やっ・・・!!」

凹と凸。

窪みに感じる尖った肉感。

(嘘でしょ・・・こんなの・・・)

2度目の強姦に直面し、ついにヒスイが泣き出した。

「う゛〜っ!!!」

じたばたと暴れて抵抗する。

 

「・・・・・・」

 

 

 

・・・だめだ。絶対にだめだ。

 

泣かせるものか。

愛しているんだ。

 

オレは・・・ヒスイの笑っている顔が好きだ。

 

傍にいるのは、守るため。

傷つけるためじゃない。

 

このままヒスイを犯すぐらいなら、舌を噛み切って死んでやる。

 

 

 

「オニキス・・・?」

ポタッ・・・

「え・・・?」

オニキスの動きが止まった。

そして・・・口から大量の血が溢れる。

「きやぁぁぁっ!!!オニキスっ!!!」

 

 

 

「・・・落ち着いて、ママ」

ポウッ・・・温かな光がオニキスを包む。

吸血鬼のヒスイでも驚く大量出血だったが、光の中でちゃんと止血されていた。

「彼は死なないよ。ママの眷族だから」

「あ、そっか」

「パパ達の石化も・・・明日には解けるから」

「ホント!?」

「うん・・・じゃあね」

(よくわからないけど・・・スピネルが何とかしてくれたみたい)

「・・・できるんなら・・・もっと早く助けてよ・・・」

スピネル・・・マイペース過ぎるのが玉にキズだ。

 

 

「・・・・・・」

理性と共にオニキスが目覚めた。

「大丈夫?」

「・・・すまない」

血に染まったヒスイの体。

丸裸のままオニキスを覗き込んでいる。

ジストとサルファーは泣き疲れて、ぐっすりと眠っていた。

「まさか舌を噛むなんて・・・そこまで思い詰めなくても・・・ぷぷっ」

オニキスの極端な行動に笑い崩れるヒスイ。

「・・・・・・」

笑われてしまったらそれまで。

真剣そのものだったのが、今になって恥ずかしくなる。

「・・・ありがと。いつも」

「・・・いや・・・」

変わらないヒスイの笑顔。

ギリギリのところではあったが、壊さずに済んで良かったと、心底思う。

「・・・何度だって死んでやる」

お前のためなら。

そう告白して、また笑われる。

「オニキスは私の眷族なんだから、死ぬ訳ないじゃない」

「・・・気持ちの問題だ」

オニキスは自棄になって言い切った。

どれほど愛の言葉を連ねても、ヒスイにはかわされてしまう。

重度の“コハク依存症”ではあるが、一対一で向き合えば、頭のいい女なのだ。

「私、もう4人産んでるし。よっぽどの物好きでなきゃ、そんなこと言えないわね」

「そうだな。オレは相当な物好きらしい」

誰が見たってそう思うだろう。

自分でも身に染みている。

 

 

「あれ?それ・・・」

「・・・・・・」

理性を取り戻したはずなのに、勃っている。

愛する女の笑顔と肉体を見れば当然の反応。

しかしそれは良心的なもので、ヒスイを突く気は毛頭ない。

が、直視されてしまうのは耐え難いものがあった。

「・・・あっちを向いていろ」

「・・・・・・」

「ヒスイ?」

突然伸びるヒスイの手。

「!?何を・・・」

「・・・どうすればオニキスが幸せになれるのか、17年も前から考えてるんだけど」

普通に話をしながら熱い肉棒を両手で握る。

きゅっ。

「・・・っ!!」

一握りだった。

手コキとは全く異なる、単純な刺激。

にも関わらず。

出して・・・しまった。

吹き上がること、噴水の如く。

濃度は超一級。

歳月を経て、積もりに積もった想いが、白い液体となって発散されていく。

「・・・く・・・」

「結局わからないままで・・・ごめんね」

ヒスイの手に降り注ぐ精液。

慣れている風なのが、切ない。

「シャワー、先浴びて。服、用意しとくから」

 

 

 

「すっきりした?」

「・・・ああ」

スッキリした。色々な意味で。

ここまできたらもう開き直るしかない。

順番にシャワーを済ませ、やっと一息ついたところだった。

テーブルに向かい合わせで座り、お茶を啜る。

「・・・前にね、ローズと話をしたことがあって・・・」

インカ・ローズ。

かつてオニキスの右腕としてモルダバイトで働いていた、スゴ腕のメイドだ。

「オニキスの命を奪って・・・再び与えたのなら、普通は結ばれるはずなんだって。ホラ、あの子ハッキリ言うでしょ?」

思い出話にくすくすと笑う。

「なんでオニキス様を選ばないんですか!?って、耳にタコができるぐらい言われたわ」

「・・・そうか」

オニキスも笑いを洩らす。

「でも私・・・お兄ちゃんじゃないとだめなの」

「・・・わかっている」

(甘えているのはオレのほうだということも)

 

「・・・旅に・・・出ようと思う」

 

 

 

行き先は告げない。

 

想いをすべて吐き出したから。

 

今なら、前を向いて進めるかもしれない。

 

“幸せ”は、もうすでに貰っているのだ。

 

あとは新しい生き方を見つけるだけ。

 

 

 

「うん。いいんじゃない?」

モルダバイトはシトリンが継ぎ、その夫であるジンカイトが行政を引き受けるということで話がまとまっている。

「ジンはすでに帝王学が身に付いている。教えることもない」

「へぇ・・・そうなんだ」

正式な王位継承はまだ先だが、大部分の引き継ぎは済ませていた。

「王様じゃないオニキスかぁ・・・どうなるんだろうね」

「・・・オレにもわからん」

視線を交わし、笑い合う。

「で、いつ出発なの?」

「王位継承が済んだら、すぐにでも」

「・・・わかった」

 

 

 

一ヶ月後。

 

「・・・なぜお前達がいる・・・」

「?だってオニキスが旅に出るって言うから」

ヒスイ、コハク、トパーズ、ジストにサルファー。

見送り、という格好ではない。

ばっちり旅支度を整えていた。

「いやぁ〜・・・家族旅行も久しぶりなんで、丁度いいかな〜と」

コハクの口調は浮かれている。

「家族旅行・・・だと?」

強いて言うなら、傷心旅行。

ヒスイを忘れるための旅だったのに。

(一体どういう語弊が・・・)

明らかにヒスイの解釈がおかしいのだ。

(それを承知の上で便乗してきたな・・・こいつ・・・)

何食わぬ顔をしているコハク。

すべてお見通し、という態度が相変わらず気にくわない。

 

 

「はい、よろしく」

そして気が付けば、腕にサルファーを抱いている。

ジストはトパーズが抱いていた。

「で、僕がスピネルを」

と、コハクがヒスイを抱き上げた。

「もうっ!お兄ちゃんってばっ!」と、怒るヒスイは嬉しそう。

見慣れたいつもの光景だ。

「ね?丁度いいでしょ?」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

さすがに考えることが狡い。

オニキスもトパーズも、コハクと言い合う気力すらない。

何を言っても負かされる。

言葉では絶対コハクに勝てないのだ。

「さぁて、どこに行きましょうか?」

はぁ〜っ・・・。

やっとスッキリできたのに。

「・・・また、溜まる・・・」

「大いに結構」

ぼやくオニキスにコハクが微笑む。

「無駄な足掻きはやめたほうがいい。ここがあなたの居場所だ」

「・・・嫌な奴だな」

「よく言われます」

 

 

あなたにね。




+++END+++


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