番外編(お題No.21)
見つめなおして
ローズとシンジュの娘プレナ登場♪
“ローズ×シンジュ&コハク×ヒスイinラブラドライト”と、言いつつ主な舞台は精霊の森です。
[前編]
「子供の前でベタベタするの、やめてください。教育上、良くありませんから」
貧乏王国。ラブラドライト。
シンジュの毒舌は今日も快調だ。
腕を組んで歩きたい、と手を伸ばしたローズに容赦なく言い放つ。
結婚して3年。
二人の間に産まれた子供は女の子で、名前はプレナイト。
ローズ譲りの桃色の髪。瞳はシンジュと同じ蒼。
「ととさま」
シンジュの腕に抱かれ、ご機嫌のプレナ。
すでにファザコンの片鱗をのぞかせていた。
「ととさまは忙しいのよ?こっちへいらっしゃい、プレナ」
一方不機嫌なローズ。
ガブッ!!
「・・・・・・」
差し延べた手を、他でもないプレナに齧られ、怒りのあまり声が出ない。
(かっ・・・可愛くないぃぃ!!!)
プレナは「ととさま」以外一言も口にしない、少し変わった子供だった。
泣くことも、笑うこともなく、ただシンジュにべったりとくっついている。
そんなプレナを心配する反面、シンジュはデレデレ状態で王政が忙しいにも関わらず傍に置きたがる。
・・・ローズは散々な目に合っていた。
「プレナを城下の保育園に入れる!?本気で言っているんですか!?」
「本気よ」
夫婦の対決。
二人揃っての久々の休暇だというのに、喧嘩が絶えない。
「プレナの面倒は私がみると・・・」
「そんな暇がどこにあるの?」
「それならせめて城の者に頼んで、目の届くところに・・・」
「城の者?どこにいるっていうの?」
「・・・・・・」
経費節減の為、大幅に人員を削減し、現在手の空いている使用人は一人もいない。
ラブラドライト城は皆、いっぱいいっぱいだった。
「もう一人雇えば・・・」
人員削減をしたのは自分だというのに、愛娘が絡むとあっさり矛盾するシンジュ。
この親馬鹿ぶりに、ローズの溜息は止まらない。
「そんなお金がどこにあるの?」
「それは・・・」
「私だってホントはもっと家族で過ごしたいと思うわよ。だけど、生きていくってことは、楽しいことばかりじゃないの。嫌なコトや辛いコトだってたくさんあるわ」
つまり、プレナのことは我慢しろ!と言いたいのである。
全く自分に懐かないプレナ。
可愛くないのは確かだが、シンジュとの間に産まれた子供だ。
それだけで、愛せる。
国に帰ってきてからというもの、働き通しで殆どかまってやれなかったことを正直悔いていた。
(だけどそれでも働かなきゃいけないの!だって・・・)
「・・・シンジュ、お祖父様が重大な話があるって」
ラブラドライトの“お祖父様”とは“王”のことだ。
実権を握っているのはシンジュとローズだったが、表向きの王はまだこの“お祖父様”だった。ローズに両親はいない。
ラブラドライトの貧乏生活に耐えられず、幼い頃揃って蒸発してしまったのだ。
「シ・ン・ジ・ュ・ちゃ〜ん。実はネ・・・」
「・・・・・・」
“お祖父様”はかなりの曲者で、ヒトコトで言えばバカ殿。気が触れているのかと思うくらい、妙なテンションなのだ。
「・・・は?国が担保に?」
シンジュは信じられないという顔で聞き返した。
「そ、期日までに返さないと、グロッシュラーの配下になっちゃうの、ココ」
「な・・・・」
“お祖父様”は暢気に鼻をほじっている。
「一国を買い戻すほどのお金を、あと一ヶ月でどう用意しろっていうんですか!?」
「知らな〜い。だってワシ、ボケてるし。ギックリ腰だし。早く引退したいんだよね〜。シンジュちゃん、後は任せたから。今日から王様ってことで〜」
「え!?王!?待ってください!!」
「ワシ忙しいのよ〜・・・王位継承は今ので終わりね、じゃっ!」
老人とは思えぬ逃げ足の早さ。
この“お祖父様”が相手では、ローズの両親でなくても失踪したくなる。
「・・・なんということだ・・・私が、王とは・・・」
貧乏王国ラブラドライトの新たな王が今、ここに誕生した。
「・・・で、どうするのよ?」
20歳にもならないローズと二人、国を背負わされ、頭を抱える。
「・・・何とかするしかないでしょう」
生活に追われ、ロマンスどころではなかった。
もう1ヶ月以上セックスしていない上に、キスさえいつしたのかわからない。
(あぁ・・・もう・・・こんな生活、嫌・・・)
さすがのローズも泣きたい気分になる。
あのままモルダバイトで生活していれば・・・そんなことまで考えてしまう。
「だからって!このままセックスレスになってたまるもんですか!!」
ローズにとっては国の存続と並ぶ程、重要な問題だった。
机を叩いて立ち上がる。
「・・・ローズ・・・聞こえてますよ・・・」
シンジュの咳払い。顔が真っ赤だ。
会議の席。夫婦の事情が、皆に筒抜け。
笑い声と、同情の眼差しが寄せられる。
「あ・・・」
「・・・まったく・・・あなたという人は・・・」
精霊の森。
「あらぁ、いらっしゃい。久しぶりねぇ」
「こんにちは〜。仕事で近くまで来たんで、寄らせていただいたんですけど」
エクソシストの制服に身を包んだコハクが笑顔で挨拶。
精霊の森の番人、オパールに、だ。
「これ、お土産」
コハクの後ろから控えめに顔を出し、ヒスイが土産を手渡す。
「まぁ、悪いわねぇ〜。じゃあ、早速お茶にしましょうか」
「折角来たのだから、今夜は泊まっていきなさいな」
「お言葉に甘えて、そうさせてもらう?」
「うん〜」
懐かしいオパールのロッジ。
ここで結婚の約束をして、お互いのピアスを交換したのだ。
「あの時と同じ部屋を使うといいわ」
「ありがとうございます」
オパールの嬉しい心遣いにコハクの顔が綻ぶ。
「お兄ちゃん!あとで露天風呂いこっ!」
「くすっ。そうだね」
「あ、そうそう。今日はもう一組お客さんがくるのよぉ」
まるで旅館の女将。オパールは楽しそうに切り盛りしている。
「お客さん?」
ヒスイが訊ねると、オパールは苦笑いで答えた。
「そう、シンジュ達がね。ちょっと訳ありみたいなのだけれど」
「ヒスイ様っ!?」
「シンジュ!ローズ!」
思いがけない再会を皆で喜ぶ。
昔から変わらない長テーブルに腰掛けて、会食が始まった。
給仕に徹するオパールは残念ながら不参加である。
「え?スレイプニルを捕まえるの?」
そう言ったコハクの隣で、ヒスイも目を丸くしている。
「スレイプニル?」
ローズだけが話についていけなかった。
「スレイプニルはね、魔法の馬なの。脚が8本あって、空や海を駆けることができるのよ」
ローズの向かいに座っていたヒスイが前菜のサラダを食べながら説明した。
「どんな馬よりも早い、最高の乗り物・・・もぐもぐ・・・」
それ以上先を語れないヒスイに変わり、コハクが続く。
「それをグロッシュラーに献上する、と?」
「そうです。グロッシュラー王は神が生んだと言われる伝説の馬を、喉から手が出るほど欲しがっていると聞いたことがある」
「なるほど・・・交渉が有利になりそうだね」
シンジュとコハクの会話が続く。
「スレイプニルの住処は、森の洞窟を抜けた先に・・・」
「うん、あるね。僕も手伝うよ。挟み撃ちにしたほうが早いでしょ」
「え、いいんですか?」
「もちろん。君にはずいぶんお世話になったし。いいよね?ヒスイ」
「うん〜・・・もぐもぐ・・・」
野菜が大好きなヒスイは小動物さながらに葉っぱを頬張っている。
お酒が大好きなローズは食前酒をすっかり飲み干して・・・女二人は食事に夢中だ。
微笑ましいその姿にコハク達の表情も和らぐ。
「それで?いつ出発するの?」
「今夜捕獲作業をするつもりで来たのですが・・・」
「よし、じゃあ、このご馳走をいただいたら出発するとしよう」
「そうですね」
その道中にて。
「・・・今頃シンジュ達もしてるよ」
「ん・・・そうだね。こんなに星が綺麗なんだもん」
「邪魔しちゃ悪いから、ここで僕等も・・・」
洞窟を目前にして、ほんの数十分挟んだ休憩時間。
近くを散歩してくると言って、コハクとヒスイがそそくさと姿を消した。
「どうせアレですから。気が済んだら戻ってくるでしょう」
と、シンジュ。
手伝ってもらう立場なので、強くは言わないが、呆れているのが表情にも出ている。
(アレってアレよね!?あの二人って外でもするの!?)
ローズの覗き魂に火が灯る。
後で後悔することになるとも知らずに、軽い気持ちで二人を追った。
(・・・そりゃ、どんな美男美女だって同じよね)
ヒスイがコハクの膝に跨がって。
二人とも一応服は着ているが、傍らに脱ぎ捨てたパンツが一枚。
ヒスイはスカートを捲り上げ、コハクは半端にズボンを下ろして繋がっていた。
「んっ・・・」
キスをして、抱き締め合って、揺れる、腰。
「んっ!んっ!あ・・・おにぃ・・・ちゃ・・・」
あぐらを組んだコハクの上で密着する股間。
コハクの首に両手を回して、ヒスイが小さく喘いだ。
「はっ・・・あ・・・」
それから徐々に後ろへ反り返り、今度は両手を地面について、擦り感が強い体位へと自ら移行する。
「もっと・・・擦って欲しいの?」
「う・・・ん」
ヒスイの腰を掴んでいた手を離し、コハクも同じように反り返る。
結合部分を月光の下に晒し、お互いに腰を前後させて、迎合運動。
「んっ・・・うっ・・・ん」
更にヒスイの両脚を肩に担いで、激しくぶつけ合う。
パシパシ、ペタペタ、ピチャッ、クチャッ。
淫らに混ざり合った音が響き、聞いているだけでも濡れてくる。
(私・・・絶対欲求不満だわ・・・)
「ヒスイ・・・気持ちいい?」
「ん・・・アソコ・・・しびれてきちゃっ・・・た」
はぁ。はぁ。
「おにい・・・ちゃんは・・・きもち・・・いい?」
「うん・・・ココが・・・ヌルヌルしてて・・・すごく気持ちいいよ」
「あっ!あ!あっ!あぁっ!あっあぁんっ!!」
ひたすら性器の擦り合いに夢中になって。延々と続く喘ぎ声。
「あっ!あ!イイ・・・っ!あぁんっ!あっ!あんっ!あぁぁん!!あっ!あぁ・・・っ!あっ!は・・・はぁ・・・ん・・・あ・・・はっ・・・は」
(あ・・・ヒスイ様イッた)
声でわかる。
(それにしても人様のセックスを見て、こんなに興奮しちゃうなんて)
「くす・・・よく頑張ったね」
労いの言葉をかけて、ご褒美のキス。
「今、キレイにしてあげる」
ベトベトに汚れた部分をコハクが隅々まで舐め尽くす。
最後の仕上げはハンカチで、ヒスイの割れ目を優しく丁寧に拭き取った。
「おにいちゃ・・・ん・・・」
目を開けたヒスイが、嬉しそうに、恥ずかしそうに、笑う。
(いい顔してるなぁ・・・)
「いいな・・・あんなセックスしたことない」
じわっと、上も下も何だか湿っぽい。
そもそも口でしてもらったことがないのだ。
(シンジュは潔癖性だから、私のアソコを舐めたり、愛液を口に含んだりすることに抵抗があるみたいだし・・・)
どうも愛されている気がしない。
(こんなに濡れちゃったのに・・・どうしよ・・・)
「あ・・・そうだ!!」
唐突な閃きだった。
ローズの得意な幻術。中でも催眠術が一番。
もうこれしかないと、シンジュの待つ場所へ一路向かう。
「シンジュっ!!」
「何ですか?」
「見て」
「?」
中心に穴の空いた硬貨。そこに紐を通して吊したもの。
初歩的な道具ではあるが、使う人間によって効果に差が出る。
ローズはその催眠ツールをシンジュの目前で左右に揺らした。
「あなたはだんだんしたくなる〜・・・舐めたくなる〜・・・」
実直なシンジュは催眠術にかかりやすいタイプに思えた。
「・・・・・・」
蒼い瞳から光が消え、虚ろに。
(やった!かかった!)
「・・・舐めたい、でしょ?」
勝ち誇った笑みで、唆す。
ロングのスカートを捲ると、下着の上から見てわかるくらい濡れていた。
「・・・・・・」
どんっ!
「え・・・?」
(すごい効き目!?)
シンジュがいきなり押し倒し、乱暴に下着をずり下ろす。
ぴちゃ・・・
「あ・・・んっ!」
迷いのないシンジュの舌が触れ、溝に沿って舐め上げる。
「んっ・・・ふっ・・・」
ローズは腰を揺すり、長い二本の脚を大胆に広げて応じた。
「あ・・・」
(このままイカされちゃうかも・・・)
初めての快感にうっとりと酔いしれて・・・
「・・・っくしゅん!!」
夢の終わりを告げる音が鳴った。
[中編]
それは、ヒスイのくしゃみだった。
木と木の間。
両手で口を押さえて立っている。その上から更にコハクが抱きしめて、手を重ねているが、出てしまったものは戻せない。
「あ・・・ごめんね」
上からヒスイに被さったコハクが、精一杯の笑顔で誤魔化そうとしても、手遅れだった。
即効性のある催眠術は解くのも簡単で、手を叩く音やくしゃみですぐ正気を取り戻すのだった。
シンジュの動きがピタリと止まる。
「ん・・・私は・・・何を・・・え?」
目前に、妻の性器。
「う・・・うわぁぁぁ!!」
飛び退くシンジュ。
「あなたは一体何を!!!」
口内に残る生々しい味と食感に咽せる。
「ヒトの心を操ってこんな事をさせるなんて!!最低ですよっ!!」
シンジュは涙目で走り去った。
「どうしよう、おにいちゃん」
「とにかく僕がシンジュを追うから。ヒスイはここに残って」
こそこそと小声の相談をして、離れる。
「うん、わかった」
ちぅ〜っ。
こんな時でもお別れのキスは忘れない。
「・・・・・・」
ある意味でシンジュを泣かせることには慣れていた。
ローズは取り乱すことなく脚を閉じて立ち上がった。
「あの・・・ローズ・・・ごめん・・・」
思い返せば邪魔ばかり。ヒスイはすまなそうにローズを見上げた。
「・・・もう、いいです」
さっきまで自分も覗いていたという後ろめたさから、怒ることもできず、人前でボロクソに言われたのも恥ずかしい。
じんわりと悲しいものが浸透して、いつもの元気が出てこない。
「・・・ヒスイ様、少しその辺歩きませんか?」
早くこの場を離れて、気持ちを切り替えたかった。
ヒスイも素直に応じた。
「うん。いいよ」
宛てもなく歩いた先に広がる風景。
「ねぇ、見て!ローズ」
ヒスイが歓喜の声をあげた。
月を映した円形の泉。
高台にある為、見晴らしも良く、空が近く感じる。
鬱蒼と茂った森から抜け出た開放感のある場所だった。
こんなに素敵な所があったのかと、ローズも驚く。
精霊の森には何度も来ているのに、シンジュに連れてきてもらった記憶もない。
夏の終わり。まだ汗ばむ陽気だった。
「ちょうどいいわ」
人前で裸になることに抵抗がないヒスイが早速服を脱ぎ始める。
「ヒスイ様・・・もう少し周囲を警戒した方が・・・」
さすがにローズは慎重だ。
「ここは精霊の森よ?ヒトを襲う獣なんて、いるわけないじゃない」
と、ヒスイは全く耳を貸さない。
「ローズもどう?気持ちいいよ?」
「いえ、私は・・・」
断りかけたところでヒスイが言いにくそうに呟いた。
「アレ、ちゃんと流したほうがいいと思うけど・・・」
「・・・・・・」
(そういえば見られてたんだっけ・・・)
とんだ醜態。メイド時代なら耐えられないバツの悪さだった。
「・・・では、ご一緒させていただきます」
(やっぱり綺麗だなぁ・・・胸は相変わらず小さいけど)
心地よい冷たさの泉に浸かり、ヒスイを見る。
ヒスイがモルダバイトに嫁いできたばかりの頃、よく湯浴みをさせたことを思い出す。
態度が悪く、他のメイドでは手に負えなかったヒスイ。
いつの間にかローズが専任の世話係になっていたのだ。
そんな相手と肩を並べていることに苦笑いしながら、ポツリ。
「・・・いいなぁ・・・ヒスイ様のところは」
元来、他人を羨む性分ではない。
それでもこの時ばかりはそう思わずにはいられなかった。
「う〜ん・・・相手によってこうも違うものなのね・・・」
ヒスイが真顔で唸る。
「・・・・・・」
(こんなに恵まれたコもそういないわね)
産んだ子供はオニキス様に押し付けて。
何の苦労もせず、悠々自適。
いつも誰かに想われて。守られて。
(普通なら、こんなコ嫌いなんだけど)
「・・・嫌いじゃないのよね」
シンジュといい、ヒスイといい、一癖あるタイプに好感を抱く変わった趣味があるようだ。
「ローズ・・・?」
自分からよく話すローズが大人しかったので、やっぱり怒っているのかと、ヒスイが不安顔で覗き込む。
裸同士だからか、なんとなく打ち解けた気持ちになって、ローズはシンジュにも話したことがなかった思いを口にした。
「・・・私ね、夢があるんです」
「夢?」
「ラブラドライトを、精霊の国に」
「精霊の・・・国?」
「はい。自分の娘が半精霊だから、って訳じゃないですけど。もっといてもいいと思うんです」
「精霊と人間のカップルが、ってこと?」
「契約して主従になるのではなくて、愛情で結ばれるのもいいんじゃないかな〜なんて」
そこまで言って急に恥ずかしくなる。
自分でも、柄にもないと思うのだ。
「・・・昔はね、地上の空気が汚れていたから、天使や精霊は契約なしに留まれなかったの」
ヒスイは夜空を見上げて語った。意外なほど真面目な顔だった。
「でも、今は違うよ。光の雨が降ったから」
「ええ、そうですね。シンジュから聞きました」
ローズが相槌を打つ。
「コハクさんが天界と引き替えに地上の空気を浄化して、精霊も契約なしに森の外へ出られるようになったと」
「うん。その割には外で見かけないと思わない?」
「だからなんです。精霊達はキッカケが掴めないでいるんじゃないかって。ラブラドライトが第一の交流の場になって、少しでも私達人間に興味を持って貰えれば・・・」
「そのためにどうするの?」
鋭いヒスイの質問が飛ぶ。
「精霊はプライドが高くて、人間に偏見を持っているから・・・難しいわね」
(さっきまでアンアン言ってたくせに・・・)
その口から出る言葉は厳しい。
「コハクさんみたいに“世界”を変えることなんて私にはできませんが、自分の“国”を精霊の住み易いように変えることはできると思うんです」
「人間と精霊かぁ・・・そんな国があったら、面白いかも」
「普通に人間の男と結婚していたら、他種族のことなんて考えもしなかったと思いますけどね」
「他種族同士のカップルが多くなれば、それだけ考えるヒトが増えるってことだもんね。種族間の円満にいいかもしれないわ」
納得したヒスイが頷く。
「結局“愛”なんですよね。世界を繋いでいるのは」
ローズが恥ずかしげもなく堂々と愛を語ったので、ヒスイは笑った。
「うん。“愛”だね」
一方・・・
「最低なのは君のほうだ。アレじゃ浮気されても文句は言えないね」
コハクはすぐシンジュに追いつき、そう断言した。
キッと睨んで、シンジュが反論する。
「ローズが浮気などするはずがないでしょう」
「その自信はどこからくるの?“愛してる”と彼女がいつも言ってくれるからでしょ?君は、同じ言葉を彼女に返してる?」
「そんなことわざわざ言わなくとも・・・」
自分なりにではあるが、ローズの愛には応えているつもりなのだ。
「だめだなぁ〜・・・君は考えが古い」
「余計なお世話です」
「ハッキリ言わせてもらうけど、シンジュ、君は男としての役目を全く果たしていない」
「あなたのように舐め回せばいいとでも?」
「舐め回せば・・・って・・・あのね・・・」
息を吐いてコハクが髪を掻き上げる。
「セックスの方法のことを言ってるんじゃない。気持ちをどう伝えるかの問題で」
「・・・・・・」
「君はローズさんをどれだけ笑顔にしてあげた?最近の笑顔を思い出せる?」
「・・・・・・」
次々と投げかけられる疑問符。
畳み掛けるようにコハクに諭され、閉口するシンジュ。
沈黙の時間が流れて・・・
「ぷっ・・・まさか君とこんな話をすることになるとはね」
コハクが吹き出して、場が和む。
かつては共に戦った仲。
シンジュも段々と可笑しくなってきたようで、ふっと表情が和らいだ。
「あなたには敵いませんね」
「シンジュ、ひとつ極意を教えてあげる」
「何ですか」
『どうしていいかわからないなら、とにかく自分からキスをしてみるといい』
「ヒスイ様、髪、洗いましょうか?」
メイド時代の癖。
・・・では、なかった。確固たる下心から出た言葉だ。
(ヒスイ様には懸賞金が掛けられてるのよね)
王妃代役のメノウも、オニキスに双子が預けられたと同時に姿を消した。
3年経った今でもモルダバイト王妃の失踪騒ぎは続いている。
大臣達が王妃に、王妃の情報に、巨額の懸賞金を掛けたのだ。
(オニキス様は大臣達の気の済むようにと、この件に関してはノータッチなのよね)
と、言うことは。
ローズが情報提供者となってもバレる心配はない。
ちらっ。
(どさくさ紛れにヒスイ様の銀髪を毟って、モルダバイトに持ち込めば・・・)
相当な金になる。
美しいヒスイ。金ヅルだと思うと益々輝いて見えた。
(お金が手に入ったら・・・業者に頼んで城の雨漏りの修理をするわ!!)
我ながら健気な使い道。
「これだけ恵まれてるんだから・・・ちょっとぐらい・・・」
「ローズ?何か言った?」
「いいえ、何でも」
決意を固めて手を伸ばす。
「髪はお兄ちゃんに洗ってもらうからいい」
と断られても、意志は曲げない。
「!?ローズ!!あれ!!」
「え・・・?」
ヒスイの髪を掴む寸前のところだった。
「スレイプニルよ!!」
「先に我々でスレイプニルを捕まえてしまいませんか?」
ヒスイを探してウロウロしているコハクに、シンジュが言った。
「え、でもヒスイが・・・」
心配性はシンジュのほうなのに、ヒスイに関してはコハクのほうが過保護だ。
「大丈夫ですよ。ローズと一緒なら精霊に危害を加えられることはありません。まかりなりとも私の妻です」
「う〜ん・・・そうは言ってもねぇ・・・」
さっきまでの雄弁はどこへやら、言葉を濁すコハク。
「いつも腕に囲ってないで、たまには自由にさせたらどうですか。だいたいあなたは・・・」
シンジュの得意なお説教が始まりそうな雰囲気だった。
「わかったよ。君がそこまで言うんなら・・・」
早々に回避するのが後々の為だと判断し、コハクはそう返事をした。
「シンジュ・・・ひょっとして・・・焦ってる?」
「何がですか」
ツンとした横顔に微かな動揺。
「プレナちゃん?」
コハクはくすくすと笑って、シンジュを覗き込んだ。
「預けて来てるんでしょ?気になるよねぇ?」
「・・・あの子は私がいないと・・・」
「子煩悩なのは結構だけど、奥さんも大切にしなきゃだめだよ?」
「・・・わかってますよ」
引き続きコハクとシンジュ。
「あれ?」
「え・・・?」
洞窟を抜けたのはいいが、本来住処である場所にスレイプニルがいない。
「一頭もいないなんて、変だな」
「そうですね」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「何か・・・忘れてる気がしない?」
「・・・します」
「今、何月だっけ?」
「8月です・・・」
コハクもシンジュも思い当たったことがあるらしく、きまりが悪そうに頭を掻いた。
「あ〜・・・ひょっとして繁殖期?百年に一度っていう・・・」
「どうやらそのようですね」
「スレイプニルは賢い馬だけど、この時期は凄く気性が荒くなるから。無傷で捉えられるかどうか・・・。それよりもどこに行ってしまったかのほうが問題かな」
「たぶん・・・水場の近くだと思います。高台に泉があって、そこはよく幻獣達が利用するので・・・」
他国のスレイプニルも集まる“お見合いスポット”なのだと言う。
「・・・嫌な予感がする」
「私もです」
「急ごう」
「そうですね」
[後編]
ブルルル・・・ヒヒーン!!
嘶かれて、ビクッ!
もの凄い早さで空を駆けてきた馬は先客のヒスイ達に敵意剥き出しで、今にも襲ってきそうな勢いだった。
「ローズ!下がって!!」
咄嗟にヒスイが前へ出る。
「ヒスイ様!?」
そして、頭から突っ込んできたスレイプニルと組み合った。
「無理ですっ!そんな小さな体で!!」
「大丈夫、私、人間じゃないから」
ローズより自分のほうが強い。
そう言いたいのだ。
「ローズに怪我なんかさせたら、シンジュにお説教くらっちゃうわ」
「何言ってるんですか!?ヒスイ様が怪我なんてしたら・・・!」
それこそ大騒ぎだ。
前に出てくれた気持ちは嬉しいが、余計なお世話である。
そもそも自分が仕えていた相手に守られるのは癪だ。
人間だろうがそうじゃなかろうがプライドが許さない。
「私が囮になっている間に逃げてください!!」
「大丈夫だっていってるでしょ!こんな馬ぐらい!」
ドカッ!!
スレイプニルといい、ユニコーンといい、昔から馬とは相性が悪い。
ヒスイは思いっきりスレイプニルの足を蹴った。
ヒヒーン!!
「あっ!ヒスイ様っ!!」
「何よ」
「取引材料を傷物にしないでください!」
「あ・・・そういえば・・・」
ローズの注文を受けて、ヒスイは動けなくなってしまった。
スレイプニルの足。
8本あるうちの1本でも折ろうものなら、価値がぐんと下がってしまう。
無傷で捕獲する方法は何も考えていなかった。
(どうしよう・・・)
そこに訪れる、蹄の音。
後続のスレイプニル達だ。皆、鼻息が荒い。
「ローズ」
「はい」
「少しの間、引きつけられる?」
「はい、できます」
ローズは迷いなく答えた。
運動神経には自信がある。
(速さが自慢のスレイプニルにどれだけ抵抗できるかわからないけど)
ヒスイが組み手を解くとスレイプニルはローズに向けて突進した。
ローズはそれをかわし、他のスレイプニルを挑発、それからあえて足場が悪い所へ走り込んだ。
「・・・封印解除っ!」
ヒスイは首からぶら下げていたペンダントを掴んだ。
ポンッ!ポン!ポポン!
ローズを追っていたスレイプニル達が次々と消え、後にはなぜか卵。
「え?ヒスイ様!?」
ヒスイの右手には短いステッキが握られており、そこから発射される光の弾に当たったスレイプニルが卵へ還る。
「・・・魔法少女?」
ステッキは子供のおもちゃのようなデザインだった。
先に星が付いていて、ヒスイが魔法を発動させる度にクルクルと回るのだ。
(かっ・・・かわいい〜・・・何アレ!!)
誰に指導を受けたのか、ポーズもちゃんと決まっている。
真剣なのか、ウケを狙っているのか、判断に迷うが笑いが止まらない。
「コレがないと魔法が暴走しちゃうのっ!」
頬を染めて、ヒスイが口を尖らせる。
「お父さんがくれたの!私の趣味じゃないもん!」
メノウの発明品。そして振り付けはコハクだ。
「古代魔法で・・・結界の一種なの」
あちこちに転がる卵。鶏卵と見分けがつかない。
「割ればスレイプニルが出てくるよ」
「そう・・・なんですか?」
(なんてメルヘン・・・)
これ以上笑っては、と思ってもツボを突かれて表情が緩む。
(絶対コスチュームとかありそう)
コハクが作らない筈がないと思うのだ。
「あれ?僕等の出番・・・ナシ?」
上空からコハクが急降下。
一方シンジュは木々の間を抜けて現れた。
「お兄ちゃん!」
ヒスイは丸裸のままコハクに飛びつき、コハクはすぐ自分の上着を脱いでヒスイに着せた。
「大丈夫?」
「うんっ!」
ちゅっ。
とにかくまずは再会のキス。
両手でヒスイの頬を包み込み、コハクが優しく囁く。
「ヒスイ、何があったか教えてくれる?」
「うん、あのね・・・」
「・・・どうぞ」
ローズとは目を合わせず、シンジュが上着を差し出す。
「シンジュ・・・さっきは・・・」
渡された上着に袖を通すより、シンジュの機嫌が気になる。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
少しの沈黙の後。
「シンジュ、あの、ご・・・!!?」
ローズの言葉をシンジュのキスが止めた。
「・・・どうすれば、あなたを笑顔にすることができますか」
ドキッ。
真剣な眼差しでそう訊ねてきたシンジュが可愛くて。
一気にムラムラ。
男女逆な気もするが、これでいい。
「じゃあ、えっちしよ?」
「・・・はい」
あらためて、自分を見つめなおしてみれば。
一時でもヒスイを羨んだことが、気の迷いとしか思えない。
コッチの方が好きなのよ。
揉まれるより、揉みたい。
舐められるより、舐めたい。
絶対変だとは思うけど。
他所と比べることないじゃない。
パシャッ・・・
石鹸を泡立てて、シンジュのペニスを包み込む。
オパールのロッジ。
露天風呂へは行かず、屋内風呂を拝借。
檜造りの広い浴室で愛し合うことにした。
「・・・さ、楽しませて?」
「あ・・・っ・・・」
軽く擦るようにして洗い出す・・・すぐにモコッと勃起した。
「う・・・うぅ・・・」
同時にシンジュの頬が上気する。
「ふふ・・・可愛い・・・」
先端部分は特に念入りに。
「うっ・・・あ・・・」
勃ちあがったペニスを左手で強く握り、右手を股間の奥へ。
「動いちゃ駄目よ」
指先でアナルまで撫で洗い。
「あっ!やめ・・・」
(そう!コレなのよ!!悶えなさい!!)
ヌルヌル。シコシコ。
「くっ・・・うっ・・・」
泣き出しそうなシンジュに背伸びをしてキス。
「あ・・・あぁ・・・」
浴室に響くのは、シンジュの喘ぎ声。
片方の乳首を指で摘んで。
もう片方を吸って転がす。
両手で掴んで愛撫をすると、ない胸でも感じるらしく、可愛らしい声をあげるのだ。
マグロ状態でも敏感なシンジュ。
「あら?もうこんなに固くなってるわよ?」
「うっ・・・」
言葉攻めにも素直に反応するので、楽しくてたまらない。
勃起を掴んで裏側を舐めると、それ自体がビクンと手の中で蠢めいた。
「シンジュ・・・足開いて」
シンジュの太股に手を添えて、両脚を持ち上げる。
思い描いた通りの淫らな姿勢に興奮が増す。
「・・・愛してるわ、シンジュ」
ローズは大きな口を開けてしゃぶりついた。
(私、フェラだったらヒスイ様にも負けない)
自分のテクニックに酔いながら。
ぐちゅ。ぐちゅぅ。
音をたてて、頬が膨らむ。
「あっ、あ、ローズ・・・」
シンジュの腰が反って、浮いた。
裏向きにしたペニスを片手で押さえて、べろり。
舌先で割れた先端を舐め擦る。
「あっ・・・イ・・・やっ・・・」
いつしかソレはシンジュの所有物とは思えない程、赤っぽく、太く、膨張して。
「・・・我慢しないで、出ちゃいなさい」
(全部、飲むわ)
「んっ・・・!くっ・・・ぅ・・・!!」
「んく・・・っ・・・」
ぽってりとしたローズの唇から溢れだし、顎を伝い落ちていく精液。
口の中で萎んでゆく様が愛しくて、咥えたまま、離したくない。
「さ、もう1回よ」
それでも一度きりで終わらせる気はなかった。
女の肝心な部分は欲情しっぱなしで、まだ何の刺激も受けていないのだ。
しかし。
「無理です」
きっぱりとシンジュが答える。
「・・・と、言いたいところですが、今夜はもう少しだけ付き合います」
「ほんと!?」
そう聞き返したローズは、とびきりの笑顔だった。
「ええ」
「あっ・・・シンジュ!?」
「えっ・・・あ・・・」
万年ヤル気不足のペニスが勃起。
ローズが手放しで喜ぶ。
「でもなんで急に・・・」
「・・・久しぶりにあなたの笑顔が見られて嬉しかったんですよ」
シンジュは照れた顔で、観念したように本音を告げた。
「ねぇ、シンジュ・・・私のこと、好き?」
「・・・・・・」
露骨な誘導尋問にはひっかかりたくない男ゴコロ。
一体どんな顔をして「好き」「愛してる」と言うのだろう。
そんな時。
コハクの言葉がぐるぐると脳内を巡る。
(流石に・・・いい事を言う)
“愛を伝えること”をコハクがいかに完璧に遂行しているか、隣にいるヒスイを見れば一目瞭然だ。
(少しぐらいは、見習っても・・・)
ふうっ、と呼吸を整えて。
折角の笑顔を曇らせてしまうのは惜しいから。
「・・・この身体には、あなた以外触れることを許さない」
「え・・・?」
シンジュの口から出た信じられない言葉に、心臓、バックン。
ローズは何度も瞬きをしてシンジュを見つめた。
「・・・で、どうですか」
わざとらしい咳払いで照れ隠しするシンジュ。
「最高の殺し文句だわ!」
舞い上がる、心。
抱きついて。頬寄せて。
愛の言葉のストックが足りないことをほんの少し悔いながら。
やっぱりいつもの。
「好きよ、シンジュ。大好きっ!」
精霊の森。
『スレイプニルは僕等が必ず連れ帰るから、君達は先にオパールさんのロッジへ戻って』
そう申し出たコハク。
「いいムードだったもんね」
ヒスイも二人を後押しした。
「そうそう。今頃、檜のお風呂でイイコトしてるよ」
くすくすくす・・・
夫婦揃って悪戯に笑う。
「ね、ヒスイ、魔法使う時、ちゃんとポーズ決めた?」
「決めたよ?だってアレやらないと絶対失敗するって、お兄ちゃんが・・・」
「そう!アレは絶対やらないとダメなんだ」
(くぅぅ〜・・・生で見たかった〜・・・)
“魔法少女ヒスイ”が最近の萌えなのだ。
コスチューム付の妄想が止まらない。
クルクルと回る星。フリフリからパンツ、チラ見え。
(う〜ん・・・イイ感じだ・・・ヒスイ・・・)
「お兄ちゃん?」
「あ、何でもないよ、何でも・・・」
コハクがそう答える時は大抵やましいことを考えている。
「僕等も今度はちゃんとベッドでしようね」
「うんっ!早く終わらせて帰ろう!お兄ちゃん!」
と、言ってもスレイプニルをすべて卵にしてしまった張本人。
必要な1個の他は、割って戻さなければならない。
割って、宥めて、森へ帰す。
骨が折れる作業だ。
「・・・ごめんね。やりすぎちゃった・・・」
「くすっ。いいよ。怪我がなくて良かった」
ちゅっ。と、軽く額にキスをして。
「さあ、頑張ろう」
「うんっ!!」
後日。ラブラドライト。
「グロッシュラー王は武力行使を好むタイプではありますが、頭まで筋肉という訳ではない」
ラブラドライトの王として、単身グロッシュラーに乗り込んたシンジュ。
スレイプニルと引き替えに、交渉は無事成立したと王妃ローズに報告した。
「配下にする価値もない国なのですよ、ここは」
「そうね。私も逆の立場だったらそう思う」
「今は・・・ですけどね」
莫大な借金がチャラになったという都合の良い話ではない。
返済期限が10年延びただけだ。
「グロッシュラー王は、ラブラドライトが国として機能するまで数十年かかると考えているようですが・・・10年あれば充分です」
「10年・・・」
「ええ。その頃にはグロッシュラーも手出しできない国になっている」
強気なシンジュの発言。ここぞと言う時は頼もしい。
(けどそれって、借金踏み倒すってこと?)
「変えますよ、ラブラドライトを」
「そうね、一緒に」
この国は、きっと変わる。
日々よい方向へと。
それでも。
私達の関係はいつまでも変わらないものであって欲しい。
そう願いながら、ローズは沈んでゆく夕日を見送った。
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