番外編(お題No.23)
10月10日の世界
“子供達が集まった話”むしろ大人が出張ってる気が・・・。何の変哲もない運動会ギャグストーリー。※世界シリーズでは10月10日を「体育の日」とします。
October 10th。
熾天使と堕天使の激しい戦いが繰り広げられていた。
・・・運動会で。
「やるからには、当然優勝でしょ」
白組。PTA代表。熾天使コハク。
「優勝するのは我々デ〜ス」
赤組。PTA代表。堕天使サファイア。
この秋、特殊クラスで開催された親子運動会。
コハク率いるは、ジスト、サルファー。保護者としてトパーズも加わり。
サファイアが率いるは、アレキ、スピネル、転入したばかりのタンジェ、保護者としてオニキスが参戦。
PTAは全員気合の入ったジャージ姿だ。
「悪いけど、本気でいかせてもらう」
「ドウゾ〜♪こちらも本気ですカラ」
[午前の部]
シュシュッシュッ!!シュバッ!!バババッ!!
玉入れ。コハクとサファイアの対決に歓声が巻き起こる。
一人ひとつ籠を背負う形式で、敵の籠により多く玉を入れたほうが勝ち。
同じ競技に参加したジスト、サルファー、スピネルの三つ子と、サファイアの愛息子アレキ。熱くなっている親達を尻目に無難な戦いをしていた。
「「あ・・・」」
白組ジスト&サルファーと赤組スピネルの目が合った。
ニコッ!と笑いかけられ、ジスト&サルファーもニコッ!
玉を放る手が止まる。
「おい、スピネルは敵だぞ?」と、サルファー。
「でもなんか投げにくくない?」ジストが返す。
「・・・投げにくい」
「うん、投げにくい」
スピネルの性別は自分達と同じ“男”であることはわかっている。
わかっているが、自分達とはどこか違う気がして。
その見た目からも、男として扱えずにいた。
可愛らしい笑顔で手を振ってくるスピネル。
ほんわか気分で手を振り返す兄弟。
その間にも抜き足差し足で忍び寄ったアレキに玉を入れられている事に気付かず。
背中にズッシリと重さを感じ、振り向いた時はもう遅かった。
「あっ!!アレキっ!何やってんだよっ!!」
「ヒデェ〜!!!作戦かよっ!!」
コハクの健闘虚しく、総合結果、赤組勝利。
お次は騎馬戦。
敵騎手のハチマキを取れば取るほど得点が加算される。
騎手はジスト(白組)サルファー(白組)タンジェ(赤組)他。
そして、競技開始と同時に。
「はい」
ジストが自らハチマキを外し、タンジェに差し出した。
「え・・・?」
「女の子から無理矢理取るなんてできないよ」
「ジスト様・・・ああ・・・なんて・・・」
ジ〜ンと大感動のタンジェ。
「わたくしこそっ!!すべてを捧げますわ!!」
今・・・と、タンジェが自分のハチマキに手をかけたところで・・・
「きや・・・っ」
サルファーの来襲を受け、赤のハチマキはサルファーの手に。
「ジスト!何チンタラやってんだよっ!」
サルファーは容赦ない。
その手にはごっそりと赤いハチマキが握られていた。
結果、白組圧勝。
サルファーの活躍で、赤組と大きく点差を引き離した。
午前の部最後の競技。
それは・・・男達の聖戦。
PTAによる短距離走だった。
“足が速い”というのはひとつのステータスであり、特に運動会では際立って格好良く見えるものだ。
「お兄ちゃんっ!トパーズっ!」
選手としては不参加のヒスイがここで登場。
朝から競技に出っぱなしのコハクに代わり、お弁当係として立候補したのだ。
お昼の休憩時間を前に、やっと顔を見せた。
(よしっ!ここはひとつヒスイにイイトコ見せないと!!)
更なる愛情UPを目論むコハク。
だが、そう考えたのはコハクだけではなかった。
今こそヒスイにアピールするチャンス、と、静かな闘志を燃やし、肩を並べるオニキスとトパーズ。その他の参加者はもはや敵ではない。
「ハッキリ言って、僕は足にも自信がある。煙草を吸っている君には絶対負けない」
「弱い奴ほどよく吠える」
コハクが何を言おうが、トパーズは相手にせず。
「・・・・・・」
オニキスは無言で準備体操をしていた。
「位置について〜・・・」
競技開始の合図で、走り出す3人。が。
ブチッ!
「うわ・・・っ!!?」
間もなくコハクの靴紐が切れ、無惨に転倒。
「ざまあみろ」と、せせら笑うトパーズ。
(アイツ仕込んだな!!)
このタイミングで靴紐が切れるよう、何か細工をしたに違いない。
「・・・けど、甘いよ?」
ブチッ!
「!?」
コハクが不敵に口元を歪ませた瞬間、トパーズの靴紐が切れた。
体勢を崩したトパーズも転ぶ。
「同じ事考えてたってのが癪だけど、君に僕の前は走らせない・・・ん?ああっ!!」
ライバルを一人潰したものの、もう一人、ダークホースがいた。
オニキスが・・・遙か先を走っている。
(しまった!)
もう、視線しか届かない。
「・・・・・・」
(まったく・・・あいつらは何をやっているんだ)
3人いると2人が潰し合うので、割合役得のオニキス。
(話にならんな・・・)
「オニキスって足速かったんだね〜」
一位でゴールしたオニキスの元へ、感心した様子のヒスイが寄ってきた。
「敵ながら、天晴れだわ」
「いや、昔はもっと速かったんだが・・・年だな」
軽く汗を拭い、勝利者の謙遜。
ジャージ姿でも、キマっていた。
「お兄ちゃんっ!トパーズっ!大丈夫!?」
心配した様子のヒスイが、救急箱を手に駆けつける。
コハクとトパーズは揃って失格。
点数は一気に赤組へ傾いた。
(このままイイトコ無しで終わらせてたまるか!!)
コハクの執念・・・トパーズも意外なほど頑張りを見せた。
綱引き、球転がしで巻き返し、白組若干リードで、午前の部が終了した。
昼食タイム。
「みんなっ!お弁当持ってきたよっ!!」
待ちわびた勝利の女神の差し入れ・・・の筈が。
ヒスイは弁当箱らしきものを持っていなかった。
大きな魔法瓶をひとつ抱えているだけだ。
「ヒ・・・ヒスイ?あの・・・これ・・・」
おかずを温めて弁当箱に詰めるだけで済むように揃えておいたのだが・・・
「ち・・・余計なことしやがって」
トパーズが思いっきり舌打ち。
ジストは絶句。
サルファーはヒスイの手元を見るや否や「僕、アレキと食べる」。
赤組の休憩場所へ走って逃げた。
(冗談じゃない。地獄を見てたまるか)
魔法瓶の中味はペースト状。
コハクが用意したお弁当のおかずをミキサーで粉砕したものが入っていた。
(何でいつもドロドロ料理なんだろう・・・何コレ、岩海苔??)
ヒスイに対して怒る気はないが、これからコレを食べると思うと武者震いがしてくる。
「手早く食べられた方がいいと思って」
(派手に焦がしちゃったのよね・・・)
コゲを誤魔化す為に、全部まとめてミキサーへ。それが真実。
“火”との相性が昔から悪く、温めるだけだというのに、うっかり焦がしてしまったのだ。
更に匂い消しで、目についたものを手当たり次第足してみた。
専用のスプーンをそれぞれに手渡して。
「はい、召し上がれ」
「・・・・・・」コハク。
「・・・・・・」トパーズ。
「・・・・・・」ジスト。
(ヒスイがオレ達のために作ってくれたんだっ!!)
「い、いただきますっ!!」
ぱくっ!
(おお!ジストが先にイッた)
ジストの愛の深さに、コハクも目を見張る。
(よしっ!僕もイク!)
ぱくっ!
「・・・・・・」トパーズも無言で続いた。
(((おえぇぇ〜!!!)))
でも愛してるよ・・・ヒスイ。
赤組。休憩場所。
「今日はいつもと違うって言うから楽しみにしてたのに〜!!」
立派なお重を覗き込み、アレキが半べそをかいている。
「今日ハ、天プラですヨ。お塩をつけて食べると良いデス♪」
ガマガエルの天プラだった。
「・・・・・・」
(ここも似たり寄ったりか・・・)
遠巻きに眺めていたサルファーは向きを変えた。
(スピネルの所へ行ってみよう)
オニキスが保護者だ。一番まともかもしれない。
だが、しかし。
「ね・・・姉さん」
「おう!サルファー!お前もこっちへ来い!」
そこにはシトリンの姿。
娘の勇姿をひと目見ようと、公務の合間を縫ってやってきたのだ。
ご丁寧にお弁当まで作って。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
オニキスとスピネルは難しい顔をしている。
サルファーも同様、シトリンの料理の腕前を知っているだけに、笑えない。
「さぁっ!タンジェ!母の愛を受け取れ!仲良くみんなで食べるんだぞ」
「お母様・・・」
厚く礼を述べ、何も知らないタンジェが弁当の蓋を開ける。
「こ・・・これは!!?」
一面、真っ黄色。
卵焼きしか入っていない。
「私の好物だ!!」
シトリンが胸を張る。
「これだけは自信がある。さぁ、食え!!」
ボリボリボリ・・・
「・・・・・・」オニキス。(ヒスイよりはマシかもしれんが・・・)
「・・・・・・」スピネル。(姉貴・・・人はいいんだけど・・・)
「・・・・・・」サルファー。(くそ・・・なんでこうなるんだよ)
そして・・・
「・・・お母様、申し上げにくいのですけれど」
「何だ?」
「卵の殻が大量に入っておりましてよ?」
ボリボリ、ジャリジャリ音がする。
「そ、そうか?おかしいなぁ・・・」
「お母様、おダシは?」
「ダシ?」
「・・・お料理のほうも勉強不足のようですわね」
ぎくり、と、シトリン。嫌な流れだ。
「ようしっ!午後の競技には私も参加するぞ!早速エントリーしてくる!」
脱兎の如く。シトリンは卵焼き弁当を置去りにして、逃げた。
[午後の部]
午後の部、開始。
まずは二人三脚ならぬ三人四脚。
「父ちゃん、オレ、腹痛てぇ〜・・・」
早くも昼食の影響で、ジストがリタイア。
代わりにヒスイが参加することになった。
白組は・・・コハク、ヒスイ、トパーズ。
赤組は・・・オニキス、タンジェ、シトリン。
「よぉ〜い!スタートっ!!」
パンッ!空砲が鳴った、が。
「ヒスイ、もっとこっち寄って」
「バランスが悪い。こっちへ寄れ」
ヒスイの体が左右に揺れるばかりで一向に前へ進まない3人。
「こっちだってば」
「こっちだ」
「ちょっとっ!痛いってばっ!!もう始まってるよっ!!」
「白組が負けてもイイのっ!?」
ヒスイの一言が効いて。
「よし!ここはお互い百歩譲るとして」
コハクが横目で促すと、トパーズも頷き。
「「いくぞ!」」
ズサッ!
はじめの一歩で見事転倒。
その後もコハクとトパーズのテンポが致命的に合わず、最下位。
オニキス、タンジェ、シトリンチームがダントツ1位だった。
赤組と白組の得点が並んだ。
最終種目は・・・障害物パン食い競争。
「・・・なんだけど、僕ちょっと体調が・・・」
いよいよ来た。コハクがお腹を抱えている。
「君、代わりに・・・」
と、話を振ったついでにトパーズを見ると、コハク以上に顔色が悪く。
「だめだ・・・腹が痛い」
苦しそうに息を吐いた。
「・・・食中毒だ」
「・・・・・・」
ここはサルファーが出場するのが順当だが。
「何で僕がこの女の尻ぬぐいしなきゃなんないんだよっ!!」
お昼に卵焼きしか食べていないので、お腹も空いて苛々が増す。
(あんなの食べたらあたることぐらいわかってたハズだ)
「それなのに・・・ジストも父さんも兄さんも食べた・・・」
(この女が作ったやつだから)
そう思うと益々くやしい。
「・・・お前出ろ」
「え?」
運動は苦手!と主張するヒスイを無理矢理スタートラインに並ばせる。
「負けたら許さないぞ!みんなお前のせいだっ!!」
「わかったわよ!走ればいいんでしょ!走ればっ!」
隣に並ぶは、赤組のシトリン。
「母上が出るのか!?」
「そう。わざと負けたりしないでね」
気の優しいシトリンならやりかねないと思うのだ。
誰が見たって体育会系シトリンの勝利。
ところがなんと、ヒスイが先を走っている。
地面に貼られた網を抜けたり、平均台の上を通るのは小柄なヒスイの方が有利だったのだ。
けれども・・・
「・・・・・・」
ヒスイが足止めをくらった。
パン食いゾーン。
飛んでも、飛んでも、紐で吊されたパンに届かない。
トップでここまで来たはずなのに、次から次へと抜かれて。
「母上・・・」
巨乳が仇になり、網抜けに苦戦していたシトリンも追いついた。
シトリンは簡単にパンを咥え取り。
先を行こうとするが、やっぱり気になって。
(母上を置き去りにするのは忍びない)
「・・・なに?同情ならいらないわよ」
くやしそうにパンを睨むヒスイ。
先に行けとシトリンをせっつくが・・・
「わ・・・」
「ほら、取れ」
シトリンはヒスイを抱き上げて。
はむ・・・っ!
「・・・ありがと」
「いや、親子は助け合わねば。さあ、共にゆこう!」
「うんっ!」
手を繋ぎ、走り出す母娘。
同時ゴール。
運動会は、赤白堂々引き分けで幕を下ろした。
「くすっ。結局引き分けか」
白組PTA代表コハク。
妻と娘が仲良くゴールで・・・満足。
悔いはないと告げる。
「勝負ハまた来年デスネ〜」
赤組PTA代表サファイアも引き分けを快く受け入れた。
「運動会かぁ・・・殺し合いをするより面白いね」
「エエ♪」
「いい時代になった。今じゃ剣より包丁を握っている時間の方が長いし。血の匂いなんて忘れてしまいそうだよ」
コハクが声をあげて笑い、サファイアも相槌を打つ。
「ワタシもデ〜ス」
運動会終了後。
「アレキも来いよっ!父ちゃんと兄ちゃんがご馳走作ってくれるってっ!」
腹痛から復活したジストがアレキを誘い。
「サファイアさんも一緒に」
と、サルファーがサファイアを誘う。
(カエル以外のものが食べられる!!)
赤い屋根の屋敷へ行けば、美味しいお菓子を振る舞って貰えるのだ。
しかも今日は夕食のご招待だ。いつも以上に期待が膨らむ。
「ママ〜・・・」
必死におねだりするアレキ。
「ン〜・・・今日ダケですヨ?」
「わぁ〜い!!」
ところが・・・
「アレキ?すごい汗かいてるけど・・・暑いの?」
親友のジストが覗き込む。
「う、うん」
(コハクさんが苦手だなんて、ジスト達には言えないよ〜・・・)
初めて会った時からそうだった。
コハクの半径2m以内に入ると、冷や汗が出るのだ。
アレキの中に記憶としては残っていない、過去の出来事・・・
コハクに首を切り落とされた経験から、ヨルムンガルドの本能が怯えている。
おやつにつられて遊びに行くと、決まって後悔するのだ。
「アレキもほらっ!味見!味見!」
空腹に耐えかねたジストとサルファーが味見と称してつまみ食い。
これまた嬉しいお誘いだが、二人の傍らにはコハクが控えていた。
「アレキくんもどう?味見」
食中毒による腹痛を引きずりつつも、穏やかな笑顔のコハク。
「う・・・」
(だめだっ!!やっぱり怖いっ!!)
蛇に睨まれた蛙とは自分の事だと思う。
「おい!どこいくんだよ!?」
ご馳走を前に逃げ出すしかないアレキの背中。
サルファーが呼び止めても遠ざかってゆく。
「なんだ?あいつ・・・」
同じ頃、屋敷の浴室では。
ゴシゴシゴシ・・・
猫に戻ったシトリンの体を熱心に洗うヒスイ。
「おぉ〜・・・気持ちイイぞぉ〜」
極楽、極楽、と、シトリンはご機嫌だ。
「よしっ!交代だ!次は私が洗ってやるぞ!母上!」
「いい。お兄ちゃんに洗ってもらうから」
「・・・・・・」
ヒスイのノリが悪いのはいつもの事で。
何でも“お兄ちゃん”なのだ。
「あ〜、今日は楽しかったな」
「うん、まぁ」
「兄上、よく運動会に参加したな。学校行事など大嫌いだというのに」
「うん。ジストがいるから」
「そうだな・・・」
何気なくヒスイの口から出た言葉も、シトリンの耳には重く響く。
兄上と母上はもう“親子”にはなれないだろう。
だったら、兄上の分まで、私が“母”と呼ぼう。
「母上、私な・・・」
ヒスイの膝にスリスリ。
猫の姿だと素直に甘えられる。
ヒスイもあまり抵抗を感じないようだった。
「・・・愛して欲しくば、まずは自分が愛する事だと思うんだ」
「・・・・・・」
「兄上は・・・それが少し難しかったのかもしれんが・・・母上?」
「話・・・聞いてるか??」
「んぁ?」
深く俯いたヒスイは・・・うたた寝をしていた。
「久しぶりに運動したから眠くなっちゃった・・・」
ふあぁぁ〜っ・・・
「大丈夫だよ。今は、ちゃんと愛してる」
「そうだな」
(母上のことも、ジストの事も・・・というか・・・)
ウトウトしているヒスイが話を聞いていたかどうか、かなりアヤシイ。
(ひょっとしたら話が噛み合ってないんじゃ・・・)
「・・・まぁ、いいか」
ふぁあ〜っ。
再びヒスイの大あくび。
「今日泊まっていけば?どうせ部屋余ってるし。タンジェも一緒に」
「そうさせてもらうか!親子三代、川の字になって寝よう!母上!真ん中にしてやるぞっ!!」
張り切るシトリン。
しかし最後はやっぱりこれなのだ。
「いい。お兄ちゃんと寝るから」
+++END+++