世界に春がやってくる

番外編(お題No.27)

リバース

“トパーズとヒスイのらぶらぶ親子話”“ジンとシトリンのエッチ&ラブラブ話”と、いう事で。Wデートしてみましたっ。




「ヒスイ、僕が帰ってくるまでここから出ちゃだめだよ?」
 
 
 
 
 
夫婦の部屋そのものが結界となった朝。
 
コハクがヒスイにそう言い聞かせた。
 
外からの侵入は許さない。
 
ヒスイが自分から外に出ない限り、有効な結界だ。
 
その中にヒスイを残し、これから外出しなければならなかった。
 
(今日はトパーズが休みだから・・・キケンだ!!)
 
エクソシスト教会の幹部ともいうべき特級クラスの会議。
 
一級クラスのヒスイも連れてゆくつもりでいたのだが。
 
(あんまりいい話じゃなさそうだしなぁ・・・)
 
裏側の・・・正義や善意ばかりではどうにもならない、オトナの話。
 
ヒスイの耳には入れたくない。
 
かと言って、家に残すとなると、トパーズと二人きりになってしまうのだ。
 
日曜日。ジストとサルファーは友人アレキ宅に泊まりで遊びに行っていた。
 
 
 
「すぐ帰ってくるからね」
 
 
 
コハクはその予定だったが、反して会議は長引く事になるのだった。
 
 
 
「うん。いってらっしゃい」
 
ふあぁ〜っ・・・コハクを見送り、ヒスイは欠伸。
 
何をするでもなく、ベッドの上でゴロゴロ。
 
「お兄ちゃんいないとつまんない・・・」
 
ファッション雑誌を捲るが、すぐに飽きてしまった。
 
今さっき別れたばかりだというのに、もう恋しい。
 
「お兄ちゃん、早く帰ってこないかな〜・・・」
 
 
 
 
 
 
 
同時刻。モルダバイト城。プライベートルーム。
 
 
 
現王ジンと王妃シトリンはそれぞれ鏡の前で身だしなみを整えていた。
 
お忍び・・・という程でもないが、今日は久しぶりに夫婦でデートなのだ。
 
しかも・・・
 
 
 
「兄上のところとWデートとは!気が利くな!ジン!」
 
 
 
愛しの兄に会うからか、シトリンはかなり浮かれていた。
 
早々にヒト化し、髪を梳き、洋服を選んだりして。
 
珍しい光景だった。
 
「そう言って貰えると」
 
企画した側としては嬉しい。ジンは笑顔で答えた。
 
本日のメインは演劇鑑賞。
 
劇団に所属している大学時代の友人から、今回初のモルダバイト公演という事で招待チケットが送られてきたのだ。
 
丁度4枚。うち2枚をトパーズに渡し、誰か誘って来いと告げた。
 
すると逆にトパーズから今日という日を指定してきた。
 
(誰を連れてくるか・・・決まってるよな)
 
高校教師として日々女子高生に囲まれていても、浮いた噂のひとつも出ない。
 
「何だかんだで結局ヒスイさん一筋って事だよな」
 
 
 
 
 
赤い屋根の屋敷。トパーズ。
 
 
 
「ち・・・結界か」
 
夫婦の部屋の扉を開けてみたものの、結界に阻まれ、そこから先に進めなかった。
 
結界自体は視界を遮るものではないので、うたた寝中のヒスイの姿は見える・・・しかし届かない。
 
「・・・・・・」
 
(餌で釣るか・・・)
 
 
 
コトッ・・・
 
 
 
「・・・ん?」
 
床に何か置かれた音で、うたた寝から覚めたヒスイ。
 
「あっ!!」
 
(バ、ババロア!?)
 
デザートの中でもとりわけ好きなチョコレートババロアがそこに。
 
(何でこんな所にババロアが・・・夢!?)
 
眠い目を何度も擦ってみる・・・嬉しい事にババロアが消える事はなかった。
 
プルンと褐色のボディ。
 
見た目からして美味しそうだ。
 
ちゃんとスプーンも添えられている。
 
ヒスイは唾を飲んだ。
 
(ほんの少し手を出せば届く・・・)
 
「でも・・・お兄ちゃんに出ちゃだめって言われてるし・・・」
 
だだし、その理由までは聞いていない。
 
(誰もいないから・・・いいよね?)
 
「いただきま〜す」
 
ヒスイの右手が皿を掴んだ瞬間。
 
 
 
「よし。今日も馬鹿だ」
 
「え!?」
 
 
 
近くに潜んでいたトパーズに手首を掴まれ、結界から引き摺り出された。
 
「ちょっと、何・・・!?」
 
「これから出掛ける。3分で支度しろ」
 
「ええっ!?」
 
 
 
 
 
 
 
AM10:30。
 
モルダバイト城下。中央公園噴水前。
 
 
 
「兄上!母上!待たせた・・・んっ?」
 
 
 
待ち合わせ場所に先に来ていたのはトパーズとヒスイ。
 
だが・・・
 
「母上・・・その格好は・・・」
 
「何?」
 
「あ〜・・・いやぁ・・・」
 
半ば強引に連れてこられたにしてもひどい。
 
Wデートの場にヒスイが着て来たのは・・・ジストのおさがり。
 
成長期で、急に身長が伸びて着られなくなったものを、譲り受けたという。
 
着やすく、動きやすいので気に入っているのだとヒスイは述べたが、洗いざらしの白シャツに色落ち気味の膝丈オーバーオール。
 
その上、履き物は長靴だった。
 
生憎本日は曇り空。降水確率は50%。
 
長靴は納得できなくもないが、その割に傘を持っておらず。
 
「あ、傘忘れちゃった・・・」
 
(長靴履いてきて、傘忘れるか!?)
 
ジンも思わずツッコミを入れたくなった。
 
(ヒスイさんのボケっぷりも相変わらずだな。笑っちゃ何だけど)
 
普段はコハクのコーディネィトで身綺麗にしているが、ヒスイ自身は服装に無頓着。
 
前髪に寝癖をつけたまま・・・
 
「ちゃんと顔は洗ってきたわよ」
 
苦々しい笑いを浮かべるジン&シトリンを見上げ、ヒスイは言った。
 
 
 
 
 
「さぁ!母上!好きなものを買ってやるぞぉ!」
 
シトリンがヒスイの手をとる。
 
「とりあえずその服を何とかしよう!な!」
 
正装で鑑賞するほど堅苦しい舞台ではないが、ヒスイの服装がどうも浮いていて。
 
どういう了見か、子供服の店へ。
 
 
 
「シトリンとヒスイさんのデートみたいだな」
 
 
 
オレ達はオマケで、と、ジンが笑う。
 
(それにしても・・・)
 
二人仲良く手を繋ぐ、微笑ましい構図。
 
どっちが母だか娘だか。
 
(母娘逆に見える・・・)
 
 
 
「え〜・・・いいよ」
 
コハクがしこたま買い込む上、ジョールからのプレゼントも後を絶たない。
 
お洒落な洋服はそれこそ山のように持っている。
 
「あ、それよりも私が・・・」
 
こっち!こっち!と、今度はヒスイがシトリンの腕を引き・・・本屋。
 
「好きな本買ってあげるっ!」
 
「い、いやぁ・・・私は・・・本はちょっと・・・」
 
ヒスイにとって洋服がそうであるように。
 
シトリンにとっての本も無用の長物というものだった。
 
「いらない」のだが、ヒスイには強く言えないシトリン。
 
参考書を押し付けられそうになったところで、思わぬ展開に。
 
「今日はちゃんとお金持ってきて・・・あ」
 
傘に続き、財布も忘れたヒスイ。
 
更にもうひとつ、とんでもない忘れ物をしているのだが、それにはまだ気付かない。
 
 
 
「トパーズ、ちょっと貸して・・・」
 
「1時間、20%の利子だが?」
 
 
 
トパーズは、ぴらぴらとお札を1枚見せびらかして。
 
(なんという高利貸し・・・)
 
再びジンのツッコミ。
 
今日はひたすらツッコミ役だ。
 
 
 
「う・・・うん」
 
 
 
(でもたまにはシトリンに何か買ってあげたいし・・・)
 
恐る恐るヒスイが現金へ手を伸ばす。
 
「ヒスイさん、それならオレが・・・」
 
「いや!今日はいい!今度買ってくれ!」
 
また二人で出掛ければいいじゃないか!と。
 
シトリンが必死に説得し、ヒスイはギリギリのところで借金を免れた。
 
(兄上に借金でもしたら、骨の髄までしゃぶられてしまうぞ!)
 
いかがわしい妄想がシトリンの脳内を駆け巡る。
 
 
 
 
 
「お前はオレの奴隷だ」
 
「あ・・・あぁんっ・・・トパーズ・・・やめ・・・」
 
 
 
 
 
体で借金返済させられているヒスイの姿が妙にリアルで。
 
(うぉぉ!!それはいかん!!)
 
両手で頭を抱える・・・妄想癖はコハク譲りである。
 
 
 
 
 
 
 
劇場へ向かう途中。
 
 
 
ここでもジンは親子逆転現象を目の当たりにした。
 
余所見の多いヒスイが人や物にぶつかりそうになると、トパーズが上から頭を掴み、方向を正す。
 
4人で歩いていて、そんな事が何度もあった。
 
親子逆転と言っても、トパーズにとってはそれ以上に意味のある関係で。
 
(なんて言うか・・・ヒスイさんって凄い美人だし、頭もいいけど・・・どこかヌケてる・・・)
 
“頭の悪い女は嫌いだ”が、昔からトパーズの主張であるが。
 
その実、駄目な女が好きらしい。
 
ヒスイにかまっている姿を見ると、そうとしか思えない。
 
(ヒスイさん、すいません!でもこれは決して悪い意味じゃ・・・)
 
ヒスイの失敗が毎回トパーズのツボに入っているのだと思うと、愉快で。
 
(やっぱり・・・好きなんだろうな)
 
鬼畜でも。意地悪でも。トパーズは愛を知っている。
 
(今日はめいいっぱい楽しんでくれ!)
 
勝手に盛り上がり、応援ムードが高まるジンだった。
 
 
 
・・・が。
 
 
 
 
 
演劇鑑賞の後、4人で入った喫茶店。
 
 
 
「演劇って面白いね!」
 
ヒスイは新たな楽しみを見出したようで、いささか興奮気味だ。
 
「今度はお兄ちゃんと一緒に観たい!」
 
 
 
「・・・・・・」(ヒスイさん、それはちょっとトパーズの手前マズイんじゃ・・・)
 
「・・・・・・」(母上ぇ!空気を読んでくれ!!それはマズイ!マズイぞぉ!)
 
 
 
ヒスイの口から「お兄ちゃん」が出る度、不機嫌になってゆくトパーズ。
 
お人好しカップル、ジン&シトリンはハラハラしっ放しだった。
 
 
 
 
 
 
 
喫茶店を出ると・・・外は、雨。
 
 
 
「じゃ、私達はこれで」
 
早くもヒスイが解散を切り出した。
 
「母上!?もう帰るのか!?」
 
「うん。またね」
 
シトリンが引き留めるのも聞かず、さよなら、と手を振って。
 
「いこっ!トパーズ!」
 
長靴のヒスイが走る。
 
強く降りしきる雨の中、トパーズを道連れに楽しそうだ。
 
「雨に濡れるの、嫌いじゃないし」
 
 
 
 
 
 
 
「シトリンもジンくんも私達といると気を遣うでしょ?」
 
 
 
 
 
 
 
「折角のデートなのに、勿体ないじゃない」
 
だからWデートはここまで。
 
残りの時間は二人で甘く過ごすべき、と。
 
「私達は、帰ろう」
 
(ブラジャーしてくるの、忘れちゃったし)
 
今になって気付く。
 
オーバーオールで前が隠れているので、どうという事はないが、濡れたシャツが肌に張り付き、乳首の輪郭がくっきり浮き出していた。
 
それよりも何よりもまず。
 
 
 
「お兄ちゃんが心配するから」
 
 
 
容赦なくここでも「お兄ちゃん」。
 
うんざりするほど、そればかりだ。
 
「・・・・・・」
 
「さ!帰ろっ!」
 
 
 
「・・・ただで帰すと思うか?」
 
「っ・・・ひゃっ!?」
 
 
 
ヒスイには背を向けられる事が多いので、いつも後ろからの抱擁となってしまう。
 
トパーズは、ヒスイのオーバーオールとシャツの隙間に手を入れた。
 
恒例の意地悪がてら、軽く揉んでやるつもりで。
 
 
 
「・・・お前」
 
「・・・っ!!」
 
 
 
ヒスイがノーブラである事に気付くトパーズ。
 
弱味を握り、ニヤリと口元が歪む。
 
「忘れちゃったのっ!!あ・・・ちょっ・・・」
 
トパーズはより強くヒスイを抱きしめた。
 
 
 
「・・・案外イケる」
 
「何が!?」
 
 
 
湿った服越しに、ヒスイの体温が伝わってくる。
 
濡れた睫毛と唇。
 
こうして見ると、色気が全くない訳でもない。
 
雨粒が滴る体同士、絡み合うのは気持ちが良くて。
 
 
 
・・・欲情。
 
 
 
トパーズが体を密着させる。
 
性的興奮を示す下半身の膨らみを押し当て、得意の嫌がらせ。
 
ヒスイがそれを受け入れないのは承知の上だった。
 
「何を・・・やめ・・・」
 
「・・・どうやらオレは“濡れフェチ”というヤツらしい」
  
(濡れフェチ!?そんなのあるの!?)
 
トパーズのエロスに翻弄されるヒスイだったが・・・
 
 
 
 
 
「離して!こういうコトしていいのはお兄ちゃんだけなんだから!!」
 
 
 
 
 
「・・・・・・」
 
オニキスと並ぶ勢いで失恋記録更新。
 
今日もこっぴどくフラれたところで。
 
 
 
 
 
「忘れ物、届けにきたよ。ヒスイ」
 
「お兄ちゃんっ!!」
 
 
 
 
 
雨の日らしく、徒歩で。
 
珍しく、温厚に、コハク参上。
 
帰宅してすぐヒスイの“忘れ物”に気付き、傘と、財布と、ブラジャーを持ってやってきた。
 
書き置きのメモに、シトリンとジンの名前が記されていたので、いささか余裕をもっての登場だ・・・が、無論腹は立っている。
 
「・・・ソコ、離れて」
 
今日の妨害アイテムは、傘。
 
トパーズを追い払う目的で激しく突きを繰り出す。
 
「さ、ヒスイこっちへ・・・んっ?」
 
(シャツが透けてる!!)
 
ヒスイの濡れ姿に、異様な興奮を覚えるコハク。
 
“濡れフェチ”がここにも。
 
(これは盲点だった!!微妙にエロだ!!)
 
チラリズムに似た焦らしのエロス。
 
 
 
・・・即、欲情。
 
 
 
「お兄ちゃん?」
 
「あ、何でもないよ。何でも・・・ごくっ」
 
新たなエロスの発見。
 
無断でヒスイを連れ出された怒りはそれで中和された。
 
「ヒスイ・・・」
 
「ん?」
 
雨水で潤った髪を撫で、キス。
 
「このまま・・・傘ささないで帰ろうか」
 
「ん!」
 
天然のシャワーをたっぷり浴びて。

 こっそり、帰宅後のエッチの誘い。

「ん!」
 

 
 
「傘は君が使うといい」
 
「今更いるか」
 
濡れた前髪を掻き上げ、トパーズが吐き捨てた。
 
コハクに差し出された傘は無視で、どこへともなく去ってゆく。
 
「トパーズ!?ちょっ・・・」
 
息子の行く先を気に懸け、ヒスイが手を伸ばす。
 
「・・・トパーズだってもう大人だ。大丈夫だよ」
 
後を追わせてなるものかと、コハクが両手でヒスイを捉えた。
 
細い手首を掴み、体ごとすっぽりと自分の腕の中に納める。
 
 
 
「さ〜・・・帰ろうね、ヒスイ。ああ、それとも・・・」
 
 
 
 
 
今すぐここで、えっちする?
 
 
 
 
 
 
 
モルダバイト城。プライベートルーム。
 
 
 
 
 
シトリンが機嫌良くシャワーを浴びている。
 
早々の解散となってしまったが、満足したようで。
 
「Wデートの礼だ」と。
 
久々のエッチ。
 
(なんて幸運・・・)
 
ヘタレ好青年でも、男の端くれだ。
 
期待に胸を躍らせ、ベッドでシトリンを待つジン。
 
ところが・・・
 
 
 
「待たせたな!ジン!」
 
「シトリン?あれ?」
 
 
 
シャワーを済ませたシトリン。
 
神々しい巨乳を拝めるかと思いきや・・・
 



※性描写カット




 
(コハクさんに話したら、笑われるだろうな、これ・・・)
 
実直なシトリンが意図的に反対の役割に挑むとは考えにくい。
 
・・・と、すれば。
 
 
 
 
 
 
 
シトリン・・・君は大きな勘違いをしている。
 
(ハッキリ言えないオレも悪いんだけど、やっぱりこれって・・・)
 
 
 
 
 
 
 
“逆”じゃないかな・・・。
 
 
 
 
+++END+++


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