世界に春がやってくる

番外編(お題No.28)

ラブボディ

“メノウとヒスイが親子水いらずで温泉へ。男3人が心配でついて行く話”。若干異なりますが・・・男3人悶々温泉!

[前編]


「え?お父さんと二人で?」
 
「そ、駄目?」
 
 
 
 
 
父メノウから、温泉旅行に誘われたヒスイ。
 
「いいよ!いこっ!」
 
たまには親子水入らずで・・・というメノウの言葉に快く頷いて。
 
「じゃあ、お兄ちゃんに・・・」
 
「あいつの了解はとってあるよ」
 
(な〜んて。嘘だけど)
 
 
 
 
 
メノウの悪戯企画。
 
魔界で見つけた温泉に娘と、娘を愛する3人の男を招待する。
 
(俺が見たところ・・・)
 
 
 
コハクはトパーズに弱く。
 
トパーズはオニキスに弱く。
 
オニキスはコハクに弱い。
 
 
 
見事に3すくみの状態。
 
そんな男達の愛を試す余興を行う予定だ。
 
 
 
 
 
エントリーナンバー@
 
洗濯好きな男、コハク。
 
ヒスイの下着を洗うことが、至上の喜びである。
 
梅雨明けの、晴天。
 
軽めにえっちを済ませ、気分爽快だ。
 
ところが。洗濯を終え、室内へ戻ると・・・
 
 
 
 
 
(ヒスイが・・・いない!?)
 
 
 
 
 
リビングの然るべき場所に、然るべき姿がない。
 
「ヒスイ!」「ヒスイっ!」「ヒスイぃぃ〜!!」
 
ヒスイの名を呼びながら屋敷中を探し回ったが、いない。
 
(どこいったんだ!?)
 
「ヒスイが僕に黙っていなくなるなんて・・・」
 
そんな躾はしていない。
 
「・・・・・・」
 
(まさか・・・誘拐!?)
 
いてもたってもいられなくなり、コハクは屋敷を飛び出した。
 
愛用の剣を手に。
 
「・・・ん?なんだ、コレ・・・」
 
鞘に貼り付けられた一枚のメモ。
 
コハクの行動パターンを知り尽くしているメノウの仕業だった。
 
温泉の場所が記された地図と・・・脅迫文。
 
 
 
 
 
“ヒスイは預かった。返して欲しかったら、此処へ”
 
 
 
 
 
「ヒスイが・・・メノウ様に攫われたぁぁ!!」
 
 
 
 
 
 
 
エントリーナンバーA
 
仕事明けの男、トパーズ。
 
昨晩は家に帰れなかった。
 
徹夜で仕事を片付け、やっとの帰宅。
 
仕事の疲れを癒すには、ヒスイ虐めに限る、と。
 
習慣的に、トパーズはヒスイの姿を探した・・・が。
 
リビングの然るべき場所に、然るべき姿がない。
 
(・・・どこへいった)
 
不審に思いながら、とりあえず自室に戻る。すると。
 
「・・・・・・」
 
ベッドの上がこんもり。
 
夏用の上掛けにくるまった“何か”が視界に入った。
 
 
 
 
 
(・・・ヒスイ?)
 
 
 
 
 
どこででも寝る女。
 
たまに息子のベッドで昼寝をしている事がある。
 
この塊がヒスイなら。
 
「可愛がってやる」と、ニヤリ。
 
しかし。
 
上掛けを捲ると、正体は客用の枕数個だった。
 
(くだらない悪戯だ・・・ジジイめ)
 
仕掛け人はメノウであるとすぐに気付く。
 
コハクと同じ文面のメモが枕の上に置いてあった。
 
「・・・馬鹿馬鹿しい」が、面白そうだ。
 
 
 
 
 
「まあいい。付き合ってやる」
 
 
 
 
 
 
 
エントリーナンバーB
 
平和な休日を過ごす男、オニキス。
 
国境の町ペンデローク。郊外。
 
「オニキス、ママから手紙が来たよ」
 
「ヒスイから・・・だと?」
 
絶妙なタイミングでポストに届いた一通の手紙。
 
「・・・・・・」
 
(怪しい・・・)
 
ヒスイから、温泉旅行のお誘い。
 
 
 
 
 
“ここで待ってる”
 
 
 
 
 
たった一行のシンプルな走り書きと、温泉までの地図が記されていた。
 
くすくす・・・スピネルが笑う。
 
「行ってみれば?」
 
「・・・・・・」
 
紙面のそれは、ヒスイの筆跡を真似たメノウの文字で綴られ。
 
「・・・魔界、か」
 
ロクな事がないとわかっていても、惚れた弱みで体が動く。
 
待っているのは・・・ヒスイか。メノウか。
 
 
 
 
 
「とにかく・・・行ってくる」
 
 
 
 
 
 
 
・・・結果、男3人が魔界の温泉旅館で合流した。
 
 
 
 
 
魔界は実に様々なエリアに分かれており、醜悪な魔物がひしめく地獄のような場所もあれば、人間界に似た場所もあり、そこでは魔物が人間と変わらない暮らしをしていた。
 
観光名所として近頃評判の魔界温泉。
 
各界からの観光客を持て成す旅館は瓦屋根の渋い外観だ。
 
 
 
そして・・・ホトトギスの間。
 
指定された部屋まで3人一緒だった。
 
「・・・・・・」「・・・・・・」「・・・・・・」
 
気が早いことに、布団が三組敷いてある。
 
代表、コハク脳内。
 
(冗談じゃない、男3人で川の字なんて)
 
・・・と、他の二人も同じ事を思っていた。
 
誰が真ん中になるかで揉めるのは必至だ。
 
 
 
 
 
“まずはこれに着替えて”
 
 
 
 
 
メノウの手によって書かれたメモが今度は浴衣の上にのっていた。
 
「・・・・・・」「・・・・・・」「・・・・・・」
 
コハク。トパーズ。オニキス。揃いの浴衣で3人並ぶ。
 
もう誰も、何も、言いようがない。
 
「・・・ジジイ、何が目的だ」
 
ヒスイを攫ったメノウはまだ姿を見せず。
 
トパーズは煙草を咥え、ぼやいた。
 
腕を組み、オニキスも溜息を洩らす。
 
「メノウ殿の悪戯癖は何年経っても変わらんな」
 
最後にコハクが呟やいた。
 
「まさか・・・この機に仲良くしろなんてことじゃ・・・」
 
 
 
 
 
(((絶対無理だ)))
 
 
 
 
 
「僕はヒスイを探してきます」
 
(男3人で連んでる場合じゃない!とにかくヒスイだ!ヒスイ!)
 
ヒスイがいないと日常生活に大きな支障をきたすのだ。
 
(この旅館のどこかにいるんだ。何が何でも探し出す)
 
コハクは振り向きもせず、単身ホトトギスの間を後にした。
 
 
 
 
 
「・・・・・・」「・・・・・・」
 
部屋にはオニキスとトパーズが残された。
 
育ての親と、その子供。
 
「・・・どうだ?一杯やるか」
 
オニキスが好んで飲む銘柄のワイン。
 
何故か、それがちゃんと用意されていた。
 
二人きりで顔を合わせるのは本当に久しぶりで。
 
何年間も向き合う機会がないまま過ごしていたのだが、温泉旅館で、同じ浴衣を着ているせいもあってか、くだけた雰囲気だ。
 
浴衣でワインという妙な構図。
 
軽くグラスの縁を合わせてから、両者ワインを口へと運んだ。
 
ここまでの経緯や子供達の話題で意外な程話は弾み・・・談笑。
 
「トパーズ」
 
「はい」
 
 
 
 
 
「・・・ヒスイが、好きか?」
 
 
 
 
 
不意にオニキスの口から出た言葉が空気を一変させた。
 
「・・・・・・」
 
トパーズは閉口。愛のキャリアが違う。
 
自分が産まれる前からヒスイを愛してきたオニキスに、その質問をされるのが怖かった。
 
今にして思えば、そういう理由でオニキスを避けていたのかもしれない。
 
育てて貰った恩があるにも関わらず、しでかした数々の親不孝を自覚していた。
 
長い沈黙の後・・・
 
 
 
 
 
「・・・すみません」
 
 
 
 
 
肯定の謝罪。
 
「なぜお前が謝る?」
 
オニキスは微笑みを深くして、恋愛の自由を諭した。
 
「何も気兼ねする事はない」
 
愛しても。愛しても。報われない者同士。
 
「・・・歓迎する」
 
オニキスにしては珍しく、少々強引に、乾杯。
 
それからこう語った。
 
 
 
 
 
「コハクは、ヒスイの為なら全てを捨てる覚悟ができている男だ」
 
 
 
 
 
「オレには・・・それができるかどうかわからん」
 
捨てるには・・・愛しいものが増え過ぎた、と。
 
温かい視線がトパーズに注がれる。
 
「すでにこの時点で、コハクには敵わないのかもしれんが・・・」
 
 
 
 
 
共に、足掻いてみるか。
 
 
 
[中編]



注がれたワインを一気に飲み干し、軽く一礼の後、トパーズは部屋を出た。

(疲れた・・・)

 

 

許す愛。

 

 

これだからオニキスには頭が上がらない。

愛もクソもないコハクといる方が断然気が楽なのだ。

城で暮らした18年間、オニキスには怒られた事も、殴られた事もなかった。

 

 

一度だけ。ヒスイを犯した時を除けば。

 

 

今は養父オニキスの元を離れ、実父コハクの元、殴り殴られる日々だ。

オニキスと違い、コハクはすぐに手が出る。

 

「見〜ちゃった」

 

そのコハクがトパーズのすぐ近くに立っていた。

ヒスイ発見に至らず、で、一人だ。

「ふ〜ん。オニキスのこと苦手なんだ」

「・・・・・・」

オニキスの「共に〜」発言に対し、コハクが述べた。

「僕だったら、その場で潰すね」

優美な微笑みだが、相変わらず口から出る言葉は嗜虐で。

「・・・・・・」

オニキスとコハク・・・つくづく対照的だ。

物事の考え方が根本的に異なるのだ。

コハクが恋敵ではオニキスもさぞ苦労するだろう。

今更ながらに同情するトパーズだった。

 

 

“好き”でも苦手なオニキス。逆にコハクは“嫌い”でも苦手ではない。

 

 

従って、屋敷での生活は何気に快適だった。

「口で言ってわからないなら、殴るし。特に君は」

コハクは拳を鳴らし、笑った。

「これからも、ね」

 

 

ところで・・・とコハクが続けた。

 

「どう?気分転換に」

何のお誘いかと思いきや・・・卓球。

ヒスイ捜索中に偶然見付けた広間に卓球台が置いてあった。

ラケットと玉も揃っている。

「ヒスイが見つからなくてイライラしてたんだ」

ここはひとつ健康的に運動で発散しようという提案。

 

カッカッカッ・・・

 

「・・・・・・」「・・・・・・」

お互い話す事もなく、黙々とラリーが続く。

いまいちスッキリしない。

メノウの魔法に妨害され、愛しいヒスイの消息が掴めず。

(近くにいるのは間違いないのに・・・)

強力な結界で隠蔽保護されてしまっていた。

 

 

「思った通りの展開だな」

中継用の水晶玉を覗き込み、メノウが笑う。

同じ旅館内ではあるが、ずっと離れた場所から。

男達に悟られないよう、細心の注意を払う必要があったが、天才の名は伊達ではなく、今のところ順調だ。

「んじゃ、まずはこいつらからいくか」

「ね〜・・・お父さん、お土産買うとこあるのかな〜?」

何も知らないヒスイは親子温泉旅行を満喫・・・

計画の一端を担う事になるとは思ってもいなかった。

 

 

 

 

「よっ!やってるね」

「メノウ様!」

 

メノウは卓球場に姿を現した。

「僕のヒスイをどこに隠したんですか!」

“僕の”を強調しつつ、すかさずコハクが詰め寄る。

「まぁ。まぁ」

宥めても効果はないとわかっているが。

「お前等さ、魔界の温泉って始めてだろ?」

勿体ぶって、なかなか本題に入らないメノウ。

ちゃっかり自分も浴衣だ。

「何でここが観光名所か知ってる?」

様々な効能を持つ種類豊富な天然温泉が売りだが、その中のひとつに・・・

「“禊ぎの湯”ってのがあるんだ」

“禊ぎ”とは、“身を濯ぐ”という意味を持つ。

「禊ぎの湯に入ると、処女に戻るんだってさ」

「え?」

ゆっくり瞬きをして聞き返すコハク。

トパーズも反応を示した。

 

処女のヒスイ・・・イメージが各自の脳裏に浮かぶ。

 

ヒスイを処女に戻せるとしたら。コハク思考。

トパーズに介入された過去を清算できる。

それがなくなれば・・・普通の親子に戻れるんじゃないか?

初めての相手は当然僕だし。

今度こそ僕が200%ヒスイを独占できる。

他の誰にも触らせない。

 

 

ヒスイを処女に戻せるとしたら。トパーズ思考。

ヒスイの体から、コハクのペニスを追い出して。

親子としてじゃなく、男と女として始める。

約束の10年は過ぎているし、攫うついでに処女をいただくのも悪くない。

今度こそオレが200%ヒスイを独占する。

他の誰にも触らせない。

 

 

横目と横目で交差する視線。

 

(トパーズが何を考えているのか知らないけど)

(こいつが何を考えているか知らないが)

 

((早いもの勝ちだ!!))

 

 

「・・・で?ヒスイはどこに?」

我先にとコハクが尋ねた。

「ついさっきまで俺といたけど、土産買いに・・・って、おい」

 

メノウの話を最後まで聞かずにスタートダッシュするコハク&トパーズ。

 

思った通りの反応で。

「あはは!引っ掛かった!」

お腹を抱えてメノウが笑う。

何かにつけてよく笑う・・・メノウは笑い上戸だ。

(やっぱ面白い奴等だなぁ)

「んじゃ、始めるか」

 

 

エントリーナンバー@コハク。

(土産物屋!!もらった!!)

さっき覗いた時はいなかったが、旅館内施設の位置はバッチリ把握している。

「ヒスイ・・・っ!!」

「えっ!?お兄ちゃんっ!?」

(見つけたぁぁ!!)

再開の喜びに浸りたいところを堪え、トパーズに追いつかれる前に、禊ぎの湯を目指す。

「ヒスイ、お兄ちゃんと温泉入ろう。それからいっぱいえっちしようね〜」

怒濤の勢いでヒスイを抱き上げ、走る。

「待って!お兄ちゃんっ!これまだお金払ってないの・・・っ!!」

ヒスイの手には、買い物カゴ。

中には未会計の土産物の数々。

「万引きになっちゃうよっ!!」

当然店員も追ってきた。そこでコハクが一言。

 

 

「すいませんっ!後から来た銀髪眼鏡の男が払いますから!!」

 

 

 

露天。禊ぎの湯。

 

 

「ここが・・・禊ぎの湯?」

 

案内板の指示に従いやってきた。

温泉旅館の裏手から階段をずっと下った先、海原が一望できる絶景に面して、それは長方形・・・横に長く広がっていた。

周囲は板張りで、それこそプールのような温泉だった。

人間界とは時差があり、ここではもう日が沈みかけていた。

辺り一面、夕焼けの色に染まっている。

季節は同じ初夏だが、年間を通し魔界の平均気温は低く、今も少し肌寒い。

傍にヒスイがいなかったので、コハクは環境の変化を気に懸けている余裕もなく、ヒスイを奪還した今、やっと自分のいる場所を認識した。

 

「さ、ヒスイ、脱いで・・・」

早速禊ぎの準備に取り掛かる。

コハクはヒスイの体に手を伸ばした。

「・・・ん?」

(そういえばコレ、お揃いじゃないか!!)

ヒスイは同じ旅館の浴衣を着ていた。

(可愛いぃぃ!!)

いつもの萌発作。

その時。

「ね、お兄ちゃん!これ、ジストのお土産にどうかなぁ?」

トパーズ、シトリン、スピネル、サルファー、アクア・・・

ヒスイの口から次々に子供達の名前が出た。

買い物カゴには全員分の土産。

ヒスイは無邪気な笑顔で、そのひとつひとつをコハクに見せた。

「でね、これがお兄ちゃんの分だったんだけど・・・お兄ちゃん?」

「・・・・・・」

 

 

愚かな夢から醒める瞬間。

 

 

(そうか・・・ヒスイは・・・“母親”なんだ)

 

頑張って6人産んだ体をリセットする事は、ヒスイに対しても子供達に対しても物凄く失礼なんじゃないか?

途中イレギュラーがあったって。

愛し合った思い出がたくさん詰まった、愛しい体だ。

 

いつもはやってしまってから反省するのだが、今回は事前に気付く事ができた。

(良かった・・・取り返しのつかない事をするところだった)

今日もまた愛しくて愛しくて堪らなくなって。

ぎゅ・・・っ。ヒスイを抱き締める。

込み上げる愛情は性欲へと変換されて。

禊ぎの湯、前。

プールサイドのような場所に並んで座り、景色を眺める。

・・・より先に、ヒスイの肩を抱き寄せ、キス。




※性描写カット




「あ・・・おにぃちゃ・・・ん・・・おん・・・せん・・・は?」

「この温泉は熱くて火傷しちゃうから、やめよう」

「今、思い出した」と、付け加え。

「時間によって温度が変わるんだ」と、こじつける。

「そ・・・うなの?」

「うん。ごめんね」


※性描写カット


「うっ・・・んっ!!」

ヒスイは深く俯き、一段と頬を紅潮させた。

 

 

「今日はそのくらいにしとけ〜」

 

 

「メノウ様!?」

ここでメノウが登場する意味がわからない。

驚くコハクをよそに「今日はえっち禁止」と、娘を回収するメノウ。

ヒスイの処女に男達がどう行動するか見定めたかったのだ。

父親としては、処女如何に拘らず、ありのままの、今のヒスイを愛して欲しい。

コハクはヒスイを処女に戻さなかった。

それを確認できた時点で終了だ。

とにかく後がつかえているのだ。

「え?え?お父さん??」

男3人に対し、ヒスイは1人。

どうしたってフル稼働になってしまう。

「メノウ様!?」

「ちゃんと説明するから、お前はこっち来いよ」

間もなくトパーズがここに現れる。

ヒスイを禊ぎの湯の前に残し、コハクを連れ撤収。

「メノウ様・・・これどういう事なんですか?まさか・・・」

「そのまさか」

(さ〜て、あいつはどうするかな?)
 
 
 
[後編]



エントリーナンバーAトパーズ。

「クク・・・見つけたぞ」

「トパーズ!?」

「・・・脱げ」

ヒスイの浴衣の帯を掴んで捕獲。

禊ぎをさせるため脱衣を強要した。

「やっ・・・ちょっ・・・!そうだっ!トパーズにもお土産あげるからっ!!」

ヒスイは慌てて傍らの買い物カゴを引き寄せた。

“熱くて火傷する温泉”には入りたくない。

誤った理由から、勘弁して欲しいと哀願するヒスイ。

「・・・・・・」

土産といっても、代金を支払ったのはトパーズだ。

その上、ヒスイが差し出したのは・・・

 

 

おっぱいチョコ。

 

 

ホワイトチョコレートを乳房の形に加工したものだ。

先端のピンク部分はイチゴ味となっている。

一口サイズの個別包装で透明な円柱形の入れ物にたくさん詰まっていた。

「・・・お前、オレを何だと思ってる」

「え?だって、好きでしょ?」

ヒスイなりに真剣なチョイスだったらしい。

「・・・本物よこせ」

押し倒し、浴衣の上から掴む胸。

たいした膨らみもないが。

「・・・バカ」

「ひあっ・・・こらっ!やめっ・・・!」

じたばたと藻掻くヒスイを押さえ込む。

ギリギリまで追いつめて困らせるのが・・・楽しい。

見事に歪んだ愛で、ヒスイ虐めに没頭・・・そして、思う。

 

 

この体が愛しい。

この体に残した罪が愛しい。

 

 

自分だけのものにしてしまいたい気持ちはあれど、一緒に罪まで消したいとは思わない。

“ヒスイを処女に戻す事は、罪から逃げるに等しい”と、トパーズは考えた。

「・・・やめた」

「へ?」

(罪は・・・この体に重ねる事にする)

トパーズの密かな決意を以て。

「だが・・・出張料はいただくぞ」

冗談なのか本気なのか、次に狙うはヒスイの唇。

強く顎を掴み、強引に奪おうとするが・・・

くしゅんっ!

「・・・・・・」

ヒスイの口からくしゃみが出た。

くしゅんっ!くしゅんっ!くしゅんっ!!

トパーズが唇を寄せる度、飛び出すくしゃみ。

「お前・・・喧嘩売ってるのか・・・」

「な、なんか鼻がムズムズして・・・でもキスは・・・しちゃだめ・・・くしゅっ!」

「・・・・・・」

ことごとく、ムードをぶち壊すヒスイ。

「このバカ・・・」

「え・・・?」

トパーズは舌打ちの後・・・ヒスイの頬にキスをして、離れた。

「・・・残りはツケだ」

 

 

「はい!!終了!!」

トパーズを突き飛ばし、ヒスイを回収したのはコハクだ。

「お前が邪魔するから・・・」と、背後でメノウがぼやく。

「ヒスイが蹂躙されるのを黙って見てろって言うんですか」

「蹂躙って・・・大袈裟だろ」

乱入しようとするコハクを抑えるのに手一杯で、二人の様子を見られなかったメノウ。

メノウを振り切るのに手こずって、二人の様子を見られなかったコハク。

お互い文句を言いながらの登場となった。

「メノウ様の企画に無理があるんでしょ」

「・・・おい、ジジイ」

トパーズも仕込まれていた事に気付き。

「全部嘘だな?」

「その通り」

メノウは堂々と嘘を認めた。

「そんなアホみたいな温泉あるわけないだろ」

オニキスに順番が回る前に暴かれてしまったが、幸いここにオニキスはいない。

 

 

(嘘?アホみたいな温泉??)

紅一点のヒスイは全く意味がわからず、男達が何をそんなに揉めているのか、首を傾げるばかりだっだ。

(結局何なの?この温泉・・・)

 

 

 

メノウとオニキス。

仕切り直しで、少し時間を置いてからの再開だ。

まずは“禊ぎの湯”捏造話。

コハクやトパーズをまんまと嵌めた話術で、甘く誘惑する、が。

「わかった。ヒスイには控えるよう伝える」

「え?それだけ?」

「それだけだが」

オニキスは“禊ぎの湯”の効能に食い付かなかった。

「処女に戻る必要がどこにある?」

処女でも、そうじゃなくても。

「ヒスイはヒスイだ」

(・・・大人だなぁ・・・こいつ)

昔からオニキスはからかい甲斐がない。

「お前さ、独占欲とかないの?」

一際顕著な男二人の後なので、メノウにしてみればかなり物足りない。

「独占欲も何も・・・ヒスイはオレのものではないだろう」

オニキスは苦笑いでメノウの話を軽く流した。

(・・・ま、いっか)

とりあえず公平にヒスイとの時間を演出してみる事にした。

「お父さん?また??」

ヒスイには有耶無耶したまま、オニキスとの合流地点まで誘導。

そして。

 

 

エントリーナンバーBオニキス。

「あれっ?オニキスも来てたの!?」

「・・・ああ」

やはりあの手紙の差出人はメノウだった。

と、いう事は。

(何か企んでいるな・・・)

無論、覚悟はしていた。

ヒスイに出会えたのだから、嵌められたとしても悔いはない。

「うわぁ・・・綺麗っ!」

コハク、トパーズ、メノウに振り回され、ヒスイはこれまで魔界温泉の景色を楽しむゆとりがなかった。

オニキスとの時間でやっと一息つけたという感じだ。

そこで初めて気付く。

今までヒスイが海だと思っていたのは、砂漠だったのだ。

高く昇った月の光を受け、白銀に輝いていた。

「魔界の砂漠は空の色を映し出す。原理は人間界の海と似ている」

「へぇ・・・そうなんだぁ。不思議だね」

「ああ、そうだな」

二人は何事もなく禊ぎの湯前を通過し、砂利の敷かれた小径を歩いた。

数歩先を行く、ヒスイの後ろ姿。

コハクの手入れが行き届いたヒスイの髪は、白銀の砂漠より眩しい。

「・・・・・・」

 

 

(オレが・・・ヒスイの体に残せるものは何もないが)

 

 

体に残せないのなら、せめて心に残るように。

 

 

(たまには・・・口説いてみるか)

「ヒスイ・・・」

「ん?あっ!見て!」

視界右には白銀の砂漠と丸い月。

その反対側は、漆黒の空と無数の星屑。

たまに星が流れたりして。

天体好きのヒスイは感激し、そのひとつを指差した。

 

 

「そういえば、いつ天文学者になるの?」

 

 

足を止め、オニキスを振り返る。

「王様じゃなかったら、なってみたかった、って言ってたでしょ?忘れちゃった?」

「・・・忘れる筈が・・・ないだろう」

何十年も前に交わしたささやかな会話をヒスイは覚えていて。

当たり前のように言うものだから・・・嬉しくて。

静かに情熱が呼び覚まされる。

(今夜は口説きそびれたが・・・)

 

 

「・・・また、星でも見に行くか」

「うんっ!」

 

 

くしゅんっ!

ここでまたヒスイのくしゃみ。

どうやら風邪の引き始めのようだ。

「寒いか?」

「ん・・・平気」

そう言いつつも、鼻を啜るヒスイ。

「・・・・・・」

浴衣一枚なので、いつものように貸してやれる上着もなく。

他にできる事といえば、冷たくなったヒスイの手を包んでやるくらいで。

 

 

寒がるヒスイをコハクのように温めてやれない事が、もどかしい。

 

 

「・・・旅館に戻るか」

「うん。そうだね」

 

 

(・・・全てを諦めた訳ではない)

 

 

「オニキス?」

強くヒスイの手を握り、誓う。

 

 

長い刻の中で、好機が巡ってきたら。

その時は・・・このぬくもりを全身で。

 

 

 

 

「なるほどな〜・・・」と、メノウ。

水晶玉の前で、感慨深げに呟いた。

一人一人の行動をそれぞれ3つの水晶玉で観察していたのだ。

離れた所から“禊ぎ”の様子を見つつ、ヒスイ回収に向かう寸法だった。

結果的にコハクとトパーズには嘘を見抜かれてしまったが、企画は大成功。

「こいつら・・・」

タイプは全然違うけど。

「揃って“今”のヒスイを愛してる」

 

 

これなら・・・安心だ。

俺に何かあったとしても。

 

 

 

 

「余興はこれで終わり、ってコトで」

目的達成で、大きく伸び。

メノウは4人が待つロビーへと移動した。

旅館に到着してからというもの、悪戯企画の準備で忙しく、温泉に入っていなかったのだ。

「んじゃ、入るか!」

「うんっ!」

先頭を行くメノウの後にヒスイが続く。

「あ、僕も」

当然とばかりにコハクも。

「・・・ついでだ」

トパーズまで参加表明し。

「・・・・・・」

オニキスだけは乗り切れない感じだったが・・・

「いいじゃん。ここ混浴だし」

メノウの言葉に後押しされ。

「お前がいないと3すくみの法則が成り立たないからさ」

「3すくみ?何だそれは・・・」

「まぁ、いいから!いいから!」

メノウは楽しそうに笑って。

 

 

「お前等、腰にしっかりタオル巻いとけよ?」

 

 

父と娘と、男3人。

いざ、温泉へ。

 

 

仲良く・・・悶々と。

 
 +++END+++


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