世界に春がやってくる

番外編(お題No.33)

PLAY ROOM

“ジストがアクアの子守りをする話”というか(汗)アクアがコクヨウと同棲を始め、残されたジストは・・・なお話です。CP絵巻「No.4」のサイドストーリーとなっております。


暖炉と絨毯。ヒスイ愛用の特大クッション。

そこは屋敷のリビングであり、子供達の遊び場でもあった。

 

兄、ジスト22歳。妹、アクア12歳。

 

ヒスイのクッションを拝借し、昼寝をしていたジストの元へアクアがやってきた。

「ジス兄ぃ〜、あそぼ〜」

昼寝といってもすでに寝飽きていて、目をつぶっているだけだった。
アクアの声にジストは飛び起き、喜んで誘いを受けた。



※性描写カット



アクアとは昔から下ネタ遊びばかりしている。
それは恥ずかしくも・・・楽しくて。

まさかこの日が最後になるとはジストも思っていなかった。

 

 

 

ある日のこと。

「アクアに好きなヤツがいたなんて、オレ、全然知らなかった・・・」

ショックのあまりジストはしゃがみ込み、銀の髪を掻き毟った。
任務で数日家を空けた・・・その間に事件は起きた。
誕生12年目にして、アクアは赤い屋根の屋敷から姿を消した。
どうやら意中の男と同棲を始めたらしいのだ。

「コクヨウって、ジイちゃんと組んでる獣だろ?」と、帰省中のサルファーが言った。

銀の獣、コクヨウ。ジストもサルファーもほとんど面識がない。
竜狼と呼ばれる希少種で見た目はかなり獰猛そうだが、首輪をしているため、メノウのペットと思っていたぐらいだ。言葉を話せることは最近知った。

「って、どこいくんだよ」
「勝負するんだよっ!」

ジストはいきなり立ち上がり、木刀を手に屋敷を飛び出した。

「アクアに相応しい男かどうか試してやるんだっ!!」

 

 

 

エクソシスト寮。
『国士無双』コクヨウの部屋前。

 

「よしっ!」

自身に喝を入れたジストが殴り込みをかける寸前、扉の向こうからアクアの甘ったるい声が聞こえてきた。

「ね〜、コクヨ〜、えっちしよ?」

ジストはほんの少し扉を開けて・・・中を覗き込んだ。
室内では裸のアクアがコクヨウを追い回していた。

「うるせぇ!こっち来んな!!」
「だって〜、アクア、コクヨ〜のこと好きなんだもん」

アクアの口が「好き」「えっちしよ」を何度も繰り返し。

コクヨウの体毛に顔を埋める・・・うっとりと、幸せそうに。
対するコクヨウも・・・

「帰れ!帰れ!」

と吠える割には尻尾がパタパタ動いていたり。

「なんだアイツ、まんざらでもなさそうだぜ?」

ジストの隣にはサルファー。
いつの間にか追い付かれていた。

「・・・・・・」
「勝負しないのかよ」

滅多に本気を出さないジストの真剣勝負が見られると思い、わざわざ後を追ってきたサルファー・・・横目でジストをけしかける、が。

「・・・そう、思ってたんだけどさ」

ジストは俯き、鼻を啜って。

「アクアが好きだって言ってるんだから・・・しょうがないよな」
「甘いんだよ、お前は、昔から」

サルファーにボロクソに言われながらも、潔く身を引く決意をし、ジストは寮を去った。

 

 

 

 

それから数日後。

赤い屋根の屋敷。キッチン。
夕食の準備をしているコハクの傍らで。

「父ちゃん・・・」
「ん?」
「オレまた弟か妹、欲しいな〜・・・」と、おねだりしてみる。
「そうしてあげたいのは山々なんだけどね」苦笑するコハク。

アクアがいなくなって一番寂しがっているのはジスト・・・それは知っていた。
しかし、すぐにOKできない理由があった。

「子作りと言っても、男は出すだけでしょ?あとは女性に任せるしかない。だからこそ、体のことを一番に考えてあげないとね」
「うん。うん」

ジストはコハクの話に深く頷いた。

「出産は魔力も体力も消耗するから・・・ヒスイは体が弱いし、無理はさせられないんだ」

コハク曰く、ヒスイはまだ休息中の体なのだそうだ。

「だから、もう少し待ってね?」

出産後、魔力と体力を回復するため何年も子供の姿で過ごすヒスイ。
その姿を見てきたからこそ、納得。

「うんっ!わかったっ!!」

ジストの快い返事。
だが、アクアがいなくなった直後なだけに、寂しさが拭えない様子で。

「そうだ、シトリンに頼んでみたらどうかな?」
「姉・・・ちゃんに?」

コハクの提案にハッとする。体の丈夫なシトリンになら安心して頼める、と。
ジストはキッチンから走り出た。

「オレっ!姉ちゃんとこ行ってみるっ!!」

 

 

 

そして・・・ジストは意気揚々とモルダバイト城へ乗り込んだ。

「姉ちゃんっ!ちょっとお願いがあるんだ」
「おお!!可愛い弟の頼みなら何でも聞いてやるぞ!!」

ところが、第2子をねだられたシトリンの返答は・・・

 

 

「タンジェに頼め!!」

 

 

シトリンは、自由で身軽な今の生活が気に入っていた。従って。

「そろそろ私も孫の顔が見たい!!」

あいつにそう言っておいてくれ!と、娘タンジェにバトンを渡す。

「わかったっ!オレっ!!タンジェのとこ行ってみるっ!!」

 

 

 

エクソシスト寮。
『風林火山』サルファーの部屋。

 

「お母様がそんなことを?」
「うんっ!オレも見たいっ!!」

今度はタンジェに熱烈おねだり。
対する、タンジェの返答は・・・

 

 

「サ、サルファー次第ですわ」

 

 

子作りの話をされ、照れているのか、タンジェはモジモジしながら。

「わたくしはいつでもその・・・」
「わかったっ!じゃあサルファーに聞いてくるよっ!!」

早速移動。
サルファーは寮内の大食堂にいた。

「サルファー!あのさっ!!」
「ハァ?何言ってんだよ」

鬱陶しそうな顔をしたサルファーに一蹴される。

「子供なんて面倒臭いだけだろ」

と、子供嫌いをアピールするサルファー。

「僕にはまだやりたいことが沢山あるんだよ」

子供の世話なんて御免だね、と吐き捨てる。
すかさずジストが言った。

「オレが育てるよっ!!」

お前の子ならオレの子も同然と、サルファーの肩を掴んで食い下がる。

「オレっ!子供大好きだしっ!!任せてよっ!!」
「やっぱり馬鹿だな、お前。そんなに欲しいなら自分で作ればいいだろ」

サルファーの言葉がグサリ、突き刺さる。

「う・・・そう言われてみればそうなんだけどさ・・・」

なにせ相手がいないのだ。

「誰でもいいだろ?その辺ので手打てよ」
「そういうワケにはいかないよっ!!一生にひとりなんだからっ!!」

ムキになってそう叫んだところで、ジストの夢は潰えた。
頼みの綱だったサルファーには全くその気がなく。
しばらくは、一族に新しい命が誕生することはなさそうだ。

 

 

「う〜ん。ヒスイみたいなコいないかな〜・・・」

 

 

帰り道、辺りを見回しても、そんな奇跡の出会いがある筈もなく・・・
ある筈も・・・

「・・・あっ!ヒスイっ!!」

ヒスイみたいなコ、ではなくヒスイ本人との出会い。
ヒスイは両手に大きな紙袋を下げ、ノロノロ歩いていた。

「ジョールのところに旅行のおみやげを渡しに行ったんだけど」

逆に土産を沢山貰ってしまったらしい。

「オレが持つよ」と、ジスト。

荷物を全て引き受け、ヒスイと並んで歩く。
ヒスイの歩調に合わせ、ゆっくりと。

「・・・ねぇ、ジスト」
「んっ?」
「アクア、いなくなって寂しい?」

ヒスイからの質問に少々驚きつつも、ジストは正直に答えた。

「うん」

するとヒスイは・・・

 

 

「じゃあ、お兄ちゃんに頼んでみれば?弟か妹が欲しいって」

 

 

「父・・・ちゃんに?」
「うん。お兄ちゃんがいいって言ったら、私産むから・・・ジスト?何笑ってるの??」

あははっ!!見事振り出しに戻り、ジストは大笑い。

「?何がそんなに可笑しいの?」

夕闇の中、ヒスイはきょとんとした顔でジストを見上げていた。

 

 

 

 

赤い屋根の屋敷。

 

「「ただいまっ!」」

ジストとヒスイが声を揃え、玄関を抜ける。

「おかえり」

まずはコハクの出迎え。広げた両腕にヒスイが飛び込む。

「ただいま!お兄ちゃんっ!」

 

ん〜・・・っ。ちゅっ!

 

ヒスイにおかえりのキスをした後、コハクはジストに視線を向け、旅の成果を尋ねた。

「どうだった?」
「オレ、やっぱり待つことにするっ!」

と、ジストは元気良く答え。

「ね、父ちゃん」
「うん?」

「何年先でもいいから・・・楽しみにしてていい?」

コハクは穏やかな微笑みで、しっかりと頷いた。

「もちろん」

 

 

 

ジストがリビングに戻ると。

 

「よっ!おかえり」

そこにはメノウがいて、トパーズとチェスをしていた。

「ふぁ・・・なんか眠い・・・」

続けて現れたヒスイも、ぽふっ!クッションに身を投げ。

 

(そっか!そうだよな!)

 

リビングにはいつも誰かしらいるのだ。
たとえそこにアクアの姿がなくとも、自然と家族が集まる大好きな場所であることに変わりはない。
ジストはヒスイの傍らに腰を下ろした。

(ヒスイ、産むって言ってくれたしっ!)

朗らかな笑顔で、少し先の未来に想いを馳せる。

いつか、弟か妹ができたら。
またここで一緒に遊ぶんだっ!



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