World Joker

番外編(お題No.33)

幸せは男次第?

“タンジェの暴走した妄想にサルファーがツッコむ話”・・・は最初だけで(汗)コハク贔屓のストーリーです。サルファー、タンジェは10代設定。全5話。


[ 1 ]


エクソシスト正員寮。

 

「はぁ・・・」

うっとりと、恋する乙女タンジェの溜息。

全20巻。読み終えた少女漫画の最終巻を胸に抱き、壮大なラブストーリーの余韻に浸る。

(サルファーと・・・こんな恋がしてみたいですわ)

外見は申し分ない。まさに王子。しかしいかんせんロマンスに欠ける。

サルファーは少女漫画に登場するような恋愛体質の男ではないのだ。

同棲して、肉体関係もそれなり・・・一応恋愛中だが、甘さ不足。

サルファーに少女漫画を見せ、仄めかすも・・・

 

 

「こんな男、実際にいるわけないだろ」

 

 

今日もバッサリ斬り捨てられる。漫画を描くくせに夢がない。

タンジェはがっくり肩を落とした。その時。

「いるよ」と、ヒスイ。

タンジェに借りた漫画を返しに来たのだ。

読書好きのヒスイは、タンジェに勧められ、漫画も読むようになった。

それで最近仲が良いのだ。

「どこにいるんだよ、そんな男」

ムッとした顔でサルファーが言い返す。

「お兄ちゃん」ヒスイは胸を張って答えた。

「漫画に出てくるどんな男の子よりカッコイイよ」

確かにコハクは恋愛体質だ。

極上の美形で。そのうえ、甘くて、優しくて・・・エロくて、ときどき意地悪だが、ヒスイへの愛にかけるエネルギーは半端ではない。

「まあ、父さんなら・・・」

敬愛するコハクを引き合いに出されたら、サルファーも納得するしかない。

「でしょ?」ヒスイは得意気な顔で頷くと。

 

 

「あ、そうだ。今回任務一緒なの知ってる?」

 

 

今回は・・・魔石回収の任務だ。

魔石とは、その名の通り魔力を宿した石で、魔獣や幻獣を宝石化させたものだ。

地方貴族が集まる仮面舞踏会で、そのいくつかがオークションにかけられるという。

仮面舞踏会に参加し、すべての魔石を競り落とすことが目的だ。

「でね、ジストの代わりをタンジェにお願いしたら、ってお兄ちゃんが」

ヒスイが言った。

「ジストはちょっと・・・学校の追試があって。その日はどうしてもダメだから・・・」

「わたくし?ええ、宜しいですわよ?」

 

こうして、コハク&ヒスイとサルファー&タンジェの4人パーティーが結成された。

 

 

 

出発当日。

 

汽車でアデュラリア地方に向かう一行。

車内の一室を貸し切り、2対2で向かい合わせに座る。

今回の任務でタンジェに声をかけたのには、もうひとつ理由があった。

「ホテルが男女別らしいんだ」と、コハクが話す。

広大な敷地の東側が男性専用の建物で、西側が女性専用の建物。

その中間にダンスホールがあるのだが、男女が行き来できないよう厳しく管理されているのだという。

「やった!」

それを聞いたサルファーはご機嫌だ。

つまり今夜はコハクと二人きり。女人立入禁止なら、ヒスイに邪魔をされることもない。

「・・・・・・」

一方ヒスイは不機嫌だ。

(お兄ちゃんと別々になるなんて・・・)

旅行気分だったが、がっかりだ。

「ヒスイのこと、お願いしていいかな?」と、コハクがタンジェに頼み込む。

タンジェもどちらかといえば面倒見の良い方なので、喜んでヒスイの世話を引き受けた。

「ええ!もちろんですわ!」

 

 

 

それから6時間後、4人は現地に到着した。

 

「・・・・・・」「・・・・・・」

駅を出て、女2人が絶句する。

そこは・・・雪国で。雪がしんしんと降っていた。

積雪により、地面も建物も真っ白だ。馬車を走らせることもできない。

そして何より・・・寒いのだ。

「ここからは徒歩だよ。準備はいいかな?」と、コハク。

帽子とマフラーと手袋・・・コハクの用意した防寒装備で出発だ。

「いくぜ。モタモタすんなよ」

サルファーは知っていたのか、白銀の世界にも動じず。

大雪の中、歩き出す4人・・・だったが。

間もなく、体力のないヒスイが遅れ始めた。

それに伴い、コハクも遅れる。

「ヒスイ、おんぶするからおいで」

「だ・・・だいじょうぶ・・・だもん」

とは言ったものの、ヒスイはすっかり息が上がっていた。

サルファーの前だと、ヒスイは特に強がる。コハクはお見通しだ。

悪天候の中、可愛いヒスイに無理はさせたくない。そんな気持ちから。

「言うこときかないと、お仕置きだよ?ヒスイ、おいで」

コハクはにこやかに、強行手段に出た。

「サルファー達は先に行ってて」

ヒスイを背負い、キャリーバッグを引くコハク。

傍から見れば、かなり無理な格好だ。

「父さん、僕、荷物持つよ」

見兼ねたサルファーが申し出た。

コハクからキャリーバッグを引き取り、背中のヒスイを一瞥。そして一言。

 

 

「とんだお荷物だな、お前」

 

 

「な・・・」ヒスイが言い返そうとすると。

「ほらほら、怒らない、怒らない」

コハクは背中を揺らし、ヒスイを宥めた。

まるで小さな子供の相手をしているようだ。

しかも、かなり甘やかしている。

「・・・・・・」

見ていて・・・面白くない。サルファーは雪を掻き分け、パーティーの先頭を早足で歩いた。

「サルファー!?歩くのが早すぎませんこと!?」

 

 

 

チェックインを済ませ、男女別々のホテルに入る。

 

こちら、男性用ホテル。

 

やっとコハクと二人になれた。こんな機会は滅多にない。

(父さんと朝まで語り明かすぞ!!)

意気込むサルファーに、コハクはしょうが湯を勧めた。

「体が温まるから、飲んで」

「ありがとう、父さん」

こんな風にコハクと過ごせるなんて・・・夢のようだ。

日頃ヒスイに向けられている優しさが、自分に向いているのだ。

幸せを感じずにはいられない。

「そうそう、この雪なんだけどね」と、コハクが言った。

「うん。僕もおかしいと思ってた」と、サルファーが頷く。

サルファーは、任務に手を抜くことはない。

この地方の気候についても、きっちり下調べしてきていた。

「本来ここは温暖な気候で、雪なんか降らない筈・・・」

コハク特製しょうが湯を飲みながら、眉をひそめるサルファー。

「そうなんだ。もしかしたら・・・今回回収する魔石の中に、“Snowman”が混じっているのかもしれない」

Snowman=雪男。雪深い土地に棲む、精霊に近い生き物だ。雪を自在に操ることができる。

この吹雪は、魔石“Snowman”の影響である可能性が高い、と、コハクは説明した。

「父さんと一緒なら、どうってことない」

サルファーの強気な発言に、コハクは優しく笑い、暖炉に薪をくべた。

パチパチパチ・・・炎が燃える。

しょうが湯の効果で、サルファーの体はポカポカ温かくなってきた。

そして不覚にも・・・眠くなる。

投稿漫画の〆切に追われ、万年寝不足なのだ。今夜も例外ではなく。

「僕・・・父さんに話したいことが・・・色々あるんだ・・・聞いて・・・くれる?」

「もちろん」

コハクがそう答えた時には、サルファーは眠っていた。

「大きくなったなぁ・・・」

サルファーをベッドに運び、しみじみ思う。自分と同じ金の髪を撫で。

「おやすみ、サルファー。良い夢を」

(でもって僕はヒスイのところへ!!)

窓の外は猛吹雪となっていた。

雪交じりの風がビュービュー吹いている・・・が。

「ははは!こんなものは屁でもないね!」

笑い飛ばすコハク。男子禁制ホテルに忍び込む気満々だ。

熾天使の翼は強靭で、吹雪の中であろうと飛行可能なのだ。

コハクは誰にも止められない・・・

「今行くよ!!ヒスイ!!」

 

 

 

こちら、女性用ホテル。

 

キャスター付きのキャリーバッグ。

寝間着に着替えるため、ヒスイは荷物を広げた。

中にはコハクが揃えた宿泊グッズがびっしり詰まっていた。

ぬいぐるみやお菓子まで入っている。

ヒスイは、ネグリジェにガウンを羽織り、ルームソックスを履いて。

「アマデウス、よく似合ってらしてよ。とても可愛らしいですわ」

その姿を見たタンジェが絶賛する。

ちなみにタンジェは、ホテルに用意されたシルクのパジャマを着ていた。

「これ全部お兄ちゃんの手作りなんだよ!」と、嬉しそうにヒスイが喋る。

「これが手作り・・・!?」(すごいですわ・・・)

クオリティの高さに驚くタンジェ。加えてまじまじとヒスイを見た。

綺麗な顔立ちをしているのは勿論のこと、肌も髪も、ツルツル、ツヤツヤだ。

愛されて、大切にされているのがわかる。

「な・・・なに???」

「・・・・・・」

(おお・・・神よ!!この差は何ですの・・・!?)

漫画家志望のサルファーの手伝いで、徹夜する事も多く、髪はボサボサ・・・肌も荒れ気味だ。

(男性によって、こうも違うものですのね・・・)と。

初めて気付くタンジェだった。その一方で。

 

 

「・・・アマデウス?どうされましたの?」

 

 

ヒスイは・・・窓に張り付いていた。

(今頃サルファーがお兄ちゃんにベッタリ・・・)

そんなことを考え、悶々としている。

「・・・・・・」

(サルファーぁぁぁ!!!)かなり、恨めしい。が。

「・・・サルファーは昔から、お兄ちゃんのこと大好きだもんね」ひとり呟き。

(たまには・・・いいかな・・・)とも思ってみたり。

「・・・・・・」

(う〜ん、でもやっぱり・・・私もお兄ちゃんと一緒がいい・・・東のホテルに行っちゃおうかな)

「だけど・・・ここは大人の余裕?を見せた方が・・・」

ヒスイはブツブツ言いながら、窓を開けたり、閉めたり。行動が不審だ。

「ア・・・アマデウス???」心配したタンジェが傍に寄る、と。

コンコン。コハクが隣の窓ガラスを叩いた。

 

 

「お兄ちゃんっ・・・!!」

 

 

即、部屋に迎え入れ、コハクの体についた雪を払うヒスイ。

「お待たせ、ヒスイ」

「お兄ちゃぁんっ!」

暖炉の前で抱き合い、キス。ヒスイはコハクの首に両腕を回し、コハクはヒスイの髪を撫でながら、唇と舌を重ねた。

(なんて素敵なんですの!!!)

恋愛漫画の一コマのような二人の姿にタンジェはいたく感動し・・・

(わたくしも・・・!!)

と、猛吹雪の中、飛び出していった。

「サルファー!!只今参りますわ!」

 

[ 2 ]



暖炉前。


 

※性描写カット

 
 

再びこちら、男性用ホテル。

 

「父・・・さん?」

サルファーが目を覚ました時、コハクは部屋にいなかった。

「・・・・・・」

行き先は、すぐにわかった。

「また、あの女か・・・」

(父さんは・・・何があってもあの女を一番に選ぶもんな)

 

 

「・・・ちぇっ」

 

[ 3 ]



サルファーは一時口を尖らせたが、またすぐいつもの顔に戻った。

ふん、軽く鼻を鳴らす。

「僕だって、もう子供じゃないからな」

今日に限ってのことではないのだ。これまで幾度となく繰り返されてきた。

「だけど、どうしたって・・・父さんのこと嫌いにはなれないんだ」

コハクに対する思い入れが強いため、ヒスイばかりが憎くなる。

こればかりはしょうがない。とはいえ、子供の頃に比べれば、随分客観的でいられるようになった。

コハクをヒスイに奪われても、少し脱力するぐらいで済む。

そして、サルファーは気だるそうに瞳を伏せた。長い睫毛の影が落ちる。

「・・・つまんないの」

しんとした室内で、ポツリ愚痴った、その時。

 

 

「サルファー!!わたくしが参りましたわ!!」

 

 

男性用ホテルの部屋にタンジェが飛び込んできた。

雪交じりの冷たい風も一緒に吹き込む。

コハクが去った後の、がらんとした空間に、入れ替わりで現れたタンジェ。

大吹雪の中、わざわざサルファーに会いにきたのだ。

コハクがヒスイに会いに行ったのと同じように。

それはまさに、愛の成せる技だ。

「・・・・・・」

サルファーは声もなく。瞬きをしてタンジェを見ていた。

「サルファー?どうしましたの?」

タンジェは窓を閉め、髪についた雪を払いながら言った。するとサルファーは。

「・・・馬鹿じゃねーの。なんで来たんだよ」

「あの・・・コハクさんが部屋にいらして・・・アマデウスがとても喜んでらしたので・・・」

段々恥ずかしくなってきたのか、タンジェは赤い顔で俯き。

「同じことをしたら・・・その・・・サルファーも喜んでくださるかと思いましたの」

「・・・あっそ」と、サルファー。正直、悪い気はしない。


※性描写カット



(来て・・・良かったですわ・・・)

行動を起こせば、それに見合った結果が出る・・・こともある。

そして今、最高にハッピーな気分だ。

(幸せは・・・もしかしたら、自分次第なのかもしれませんわね)

 

 

 

 

一方、こちら。女性用ホテル。バスルーム。

 

 

 

「88、89、90・・・」

 

湯船の中でヒスイの体を抱きしめ、数を数えるコハク。

ヒスイの体が芯から温まるのを待っているのだ。

「おにいちゃ・・・も・・・でたい〜・・・」

「熱い、逆上せそう」と、ヒスイが訴える。が、ヒスイの体のことは、コハクの方がよく知っている。

「もう少し温まろうね?」

背後から回した両腕でしっかりとヒスイの体を包み込み、お湯から逃さない。

「あといくつ?」と、ヒスイ。

「30、くらいかな」

「ヴぅ〜・・・」

「女の子は、体冷やしちゃだめでしょ。だから、我慢、ね?」

コハクは、ヒスイにそう言い聞かせ。

「ん・・・」

後ろから、赤く火照ったヒスイの頬に、ちゅっ、とキス。

うなじに、ちゅっ。肩にも、ちゅっ。

ちゅっ。ちゅっ。ちゅっ。キスをし出すと止まらない。

(うん、でも・・・)←コハク、心の声。

エッチをするとき。しないとき。

一応、けじめはつけるようにしている。※グダグダになってしまうことも多々有り。

しないときは、しない。

そうでないと、ヒスイが落ち着かず、そわそわしてしまうのだ。

(今日はもうしないぞ、うん)

ちなみに明日の朝は・・・する予定だ。

 

 

「は〜い。よく我慢できました」

 

 

入浴後、ヒスイの頭にタオルを被せ、ご褒美のキス。

舌を入れないよう注意しながら、ほんの少しだけ、濃度を上げる。

「ん・・・おにいちゃ・・・」

するとヒスイは照れて、とろんとした顔になり。

(可愛いなぁ・・・)

それを見たコハクが微笑む。

(こういう時間も大切にしないとね)


「ね、お兄ちゃん」

ヒスイは甘えっ子全開でコハクに抱きついた。

「うん?」

「サルファー置いてきちゃって・・・怒ってないかな」

「大丈夫だよ。僕と入れ替わりでタンジェが向かったから」

「え?そうなの?」(そういえば・・・タンジェがいないような・・・)

今になってやっとタンジェの不在に気付くヒスイ。

「お兄ちゃん、はじめからそのつもりでこっちに来たの?」

「うん。こうして過ごす方が彼等にとっても良いと思ったからね」

「今頃えっちしてるかな?」と、ヒスイ。コハクは笑って。

「うん。してると思うよ」

 

 

 

それぞれ、一番好きな相手と。

甘く幸せな夜を過ごす。

 

 

 

しかし、あくまで任務中・・・不測の事件が起きても不思議ではない。

それは、夜明け間近のこと。

「んぅ・・・さむ・・・」

寒がったヒスイが、コハクの懐でモゾモゾ動き。

「ヒスイ?」コハクが目を覚ます。そして―

 

 

「・・・なんだ、これ?」

 

 

窓も、カーテンも、床も。目に付くもの全てが、凍っている。

ベッドの上は辛うじて無事だったが、すぐそこまで凍結が迫っていた。

「ヒスイ、起きられる?」

キスを与え、ヒスイを目覚めさせるコハク。

「んぁ〜・・・おにいちゃ〜・・・ぁ?」

ヒスイは寝惚け眼を擦り、起き上った。

「どうしたの???」

「うん、ちょっとね」

コハクはヒスイの肩を抱き、「見て」と部屋の中を指差した。

 

 

「・・・え!?なにこれっ!!」


 
[ 4 ]



完全なる、氷の世界。

 

外の吹雪は止んでいた。恐ろしいほど静かだ。

動きを失くした景色は、まるで時間が止まったかのように見える。

「なんか・・・芸術的だね」と、白い息を吐くヒスイ。

美しいといえば、確かに美しい。しかし、極寒。生きるには過酷な環境だ。

ヒスイを腕に抱え、コハクが言った。

「とにかく着替えよう」

エクソシストの制服をはじめとする、教会支給の衣類は、あらゆる事態を想定し作られている。この状況下でも問題なく着用できた。

「これでよし・・・っと」

コハクはまずヒスイに制服を着せ、背中のファスナーを閉めた。

「ね、お兄ちゃん、これって魔石のせい???」

「間接的には、そういうことになるかな」

「間接的?」

「うん。主を持たない魔石に、ここまでの影響力はないからね」

なにせ辺り一帯がすべて凍りついているのだ。強い魔力が作用している。

「もしかしたら、僕等以外に魔石を狙う者が現れたのかもしれない」

 

 

 

 

コハクとヒスイ。サルファーとタンジェ。

4人はホールの扉の前で合流した。

どうやら無事なのは、人間ではないこの4人だけのようだ。

「これはどういうことですの!?」

しきりにタンジェが不審がる。が。

「説明聞く暇なさそうだぜ」

扉を開けたサルファーが長斧を構えた。“敵”を見つけたのだ。

ホールフロアに、全長1mほどの雪だるまがずらりと並んでいる。

一見ファンシーだが、各個体が魔力を帯びていた。

「・・・・・・」(これが?)「・・・・・・」(敵なんですの?)

半信半疑ながら、ヒスイはステッキを、タンジェはサーベルをそれぞれ構え・・・

そこでコハクが前に出た。それから後ろを振り向き、ヒスイを見て。

「ここは僕らが引き受けるから。タンジェと魔石の回収をお願いできるかな」

ヒスイを戦いに参加させるより、その方が安全と踏んだのだ。

「うんっ!!」

こうして男女別になり、ヒスイとタンジェはホール奥の別室へ向かった。

雪だるまの軍隊がぴょんぴょん跳ねて女性陣を追う・・・が。

コハクが回り込み、大剣をひと振り。百体近くまとめて消し去った。

サルファーも薪割りの要領で、次々と雪だるまを片付けていったが、コハクとの処理能力の差を痛感する。

「雪だるまのくせに凶暴なやつらだな」

動きが異様に早く、捕らえるのに約1秒。その間に、コハクは軽く10体斬る。

しかも・・・雪だるまの腕とおぼしき木の枝が、刃に劣らぬ切れ味で。

枝がしなる度、ホールの壁や柱に深い切れ目が入った。くらったら大怪我だ。

枝が伸びたり縮んだり。

上下バラバラになって飛んできたり。

頭上をくるくる回ったり。

「あー!もー!お前等鬱陶しいんだよ!」怒るサルファー。

斬っても、斬っても、数が減っている気がしないのだ。

これだけ体を動かしているのに、寒い・・・それも気に食わない。

「適当でいいよ。奥に行かせなければいいだけのことだから」と、苦笑いのコハク。

「このホールのどこかに、本体がいるはずだ。ヒスイ達が戻ったら、こっちから仕掛ける」

 

 

 

「お兄ちゃん!魔石集めてきたよ!!」

タンジェと協力し、厳重な金庫を抉じ開け、根こそぎ奪取。

ヒスイは、その両手に魔石をどっさりのせ、走ってきた。

「ヒスイ!そんなに走るとあぶな・・・」

ヒスイの姿を目にした途端、コハクの剣技が鈍る。

「わっ・・・とと」

「ヒスイ!!」

転びそうで、転ばず。やたらとコハクの気を引くヒスイ。

それを見たサルファーがイラッとする。

(転ぶなら転べよ!!!)

そう心の中で悪態をつく、と。

「わ・・・!!!」

本当に、ヒスイは滑って転んで、魔石をバラ撒いた。

「ヒスイ・・・っ!!」

凍った床の上で、べちゃりと潰れているヒスイ・・・そこを目掛け、雪だるまが一斉に攻撃を仕掛けてきた。

無数の木製トライデントにより串刺し・・・だが、コハクがいる限り、ヒスイが痛い目をみることはない。

「ヒスイ!!」

SPが如く、ヒスイの前に飛び出すコハク。刹那の間で、枝を斬れるだけ斬って。

防ぎきれなかった鉾先は、すべて左腕で受けた。

「お兄ちゃん!!大丈夫!?」と、心配そうな顔をするものの・・・ヒスイの視線は、コハクの傷口から流れ出す血に釘付けとなり・・・ごくり、喉が鳴る。

「・・・父さんが怪我してるのに、なんで“おいしそう”みたいな目で見てんだよ。あの女は」

八つ当たりで、鬼のように雪だるまを斬り捨てるサルファー。

「仕方ありませんわ。アマデウスは吸血鬼ですもの」

タンジェも参戦し、雪だるまに斬りかかる。

「・・・・・・」(なんだよ・・・あれ・・・)再び、サルファー。

見るとコハクは、ホッとしたような笑顔で。

傷口から流れ出す血をヒスイに舐めさせていた。

それから、散らばっている魔石を一個拾い、高く掲げた。

 

 

 

「これを壊されたくなかったら、姿を見せてくれないかな?」

 

 

 

「・・・・・・」

最初の呼び掛けに答えはなかった。

「握り潰すくらいわけないんだけどね」

更にコハクが言って、指に力を入れてみせる、と。

「フフ・・・そこまで言うなら仕方ないね」

男のものと思われる声がどこからともなく聞こえてきた。

雪だるまが二列に並び、道を作る。

間にレッドカーペットが敷かれ、その上を歩いてくる男がひとり・・・

毛皮のコートにサングラスという出で立ちだ。

男は4人の前で歩みを止め、大袈裟なアクションでサングラスを外した。

 

 

「雪男界のスーパーアイドル、“スノープリンス”とはミーのことさ!!!」

 

 

「・・・・・・」(すげぇバカっぽいの出てきた)

サルファーが軽蔑の眼差しを向ける。

 

自称:スノープリンス。種族:Snowman

解説:色白で背が高く、クリーム色の髪、瞳はスモークグレー。掘りも深く、睫毛も濃い。前髪がふわっとして、全体的に柔らかな印象だ。美形には違いない。ただし。

極度のナルシストであるため、自分より美しい者は認めない・・・視界に入らない・・・つまり、無視。そんな特性を持っている。

 

「・・・・・・」登場早々、口を閉ざすスノープリンス。焦点が定まらない。

なぜなら・・・コハク・ヒスイ・サルファーは、揃って、超がつくほどの美形で。

スーパーアイドルの面目を保つため、視界から排除するしかなかったのだ。

そんなスノープリンスの目に唯一留まったのは・・・猫耳娘タンジェ。

「ユーの地味なフェイス!!ミーの美しさを引き立てる!!実にナイス!!」

瞳を輝かせ、タンジェの手を握る。と、サルファーがムッとしたようで。

後ろからスノープリンスの襟首を掴み、乱暴にタンジェから引き離した。

 

 

「お前の相手は僕がしてやるよ」

 

[ 5 ]
 


婚約者のタンジェを、自分が侮辱する分にはいいが、他人に侮辱されるのは不愉快。

そんな俺様愛で、スノープリンスの正面に立つサルファー。

プイッ!

スノープリンスは顔を背け、頑としてサルファーと目を合わせようとしない。

「おい、無視すんなよ」

理由を知らないサルファーが益々ムッとし、スノープリンスの胸ぐらを掴んだ。

プイッ!プイッ!プイッ!

激しい攻防・・・サルファーが右側から覗けば左側を向き、左側から覗けば右側を向くスノープリンス。本当に、話にならない。

「・・・感じ悪いな、お前」

スノープリンスはヘの字に口を結んでいる・・・どうしてもサルファーと口を聞きたくないらしい。

「・・・いいぜ、お前がその気なら」

ついにサルファーが武器を構えた。無理矢理でも戦いに持ち込む気だ。

「・・・・・・」

スノープリンスはサングラスをかけ直し。

「レッツ!ゴー!!」で、雪だるまの軍隊を動かした。

総動員で、サルファーへの集中攻撃だ。

「っ・・・くそ・・・!!」

雪だるまの相手はともかく、スノープリンスの登場から、気温は更に低下していた。息をするのも辛い・・・この寒さは初体験だ。

「サルファー!今わたくしも・・・っ・・・は・・・」

助太刀しようと武器を構えるタンジェだったが、寒さで手が震える。

思うように体が動かないのだ。するとヒスイが柱の裏側に回り。

「ア・・・アマデウス?」

「ちょっと待ってて。援護するから」と、歌を歌い始めた。南国を連想させる情熱的なメロディー。

柱の裏に隠れたのは、コハク以外の者に、歌っているところを見られるのが恥ずかしいからだ。

「ふしぎ・・・ですわ」

タンジェが呟く。ヒスイの歌声に耳を傾けると、体が内側から温まってきた。どんどん力が沸いてくる。

コハク・サルファーにも同等の効果が現れていた。

 

こちら、スノープリンスと交戦中のサルファー。

素早さが上がり、手数が増える。雪だるまの撃破数もうなぎのぼりだ。

(体が軽くなった・・・あの女の歌が効いて・・・?)

ヒスイの歌唱魔法は教会内でも定評がある。

(ふぅん、ちょっとは役に・・・)

サルファーがヒスイを見直しかけた、その時。

 

 

ふ・・・くしゅんッ!!

 

 

くしゃみで歌が途切れ、同時に効果が切れた。

「!!!」

一気にサルファーの体が重くなる。あまりの落差に戸惑い、動きが鈍ったところに・・・スノープリンスの攻撃。突然巨大化した足がサルファーの腹部を蹴り上げた。そのまま天井に衝突だ。

「ぐふ・・・ッ!!!」

「サルファー!!!」

タンジェが叫ぶ。熾天使の体は丈夫にできているので、たいしたダメージはないが。

「・・・ってぇ」

(普通ならこんな攻撃避けられるのに・・・)

ヒスイの失敗のとばっちりだ。

(あの女は、どこまでヒトをイラつかせるんだよ!!)

「ヒスイ!!!」コハクが厳しい声を上げた。

(そうだ!お前なんか父さんに叱られればいいんだ!!)←サルファー、心の叫び。

ところが。

 

 

「大丈夫!?風邪ひいちゃったんじゃ・・・!!?」

 

 

コハクはすべてを投げうってヒスイに駆け寄り。

額と額を重ね、熱を測ると、自分の上着を脱いでヒスイに着せた。

「・・・・・・」サルファー、絶句。

(父さん、変だよ・・・そこ、怒るとこだろ?)

過保護すぎる・・・この両親には昔から振り回されっぱなしだ。

「いいよ!お兄ちゃんだって寒いでしょ!?」遠慮するヒスイだったが。

「平気だよ」と、コハクは笑い。「あとで温めて?」そう、ヒスイに耳打ちした。

「ん・・・」

ちゅっ。戦いの真っ最中。戦場のど真ん中で、キスを交わす2人。

「・・・なのになんで、攻撃されないんだよ」と、サルファー。

「それだけ力の差が歴然としているということですわ」と、タンジェ。

ヒスイとイチャつく一方で、コハクが周囲を威嚇しているのだ。

目に見えないプレッシャー。スノープリンスは別の理由かもしれないが、雪だるま達は怯え、コハクに近付こうとしない。

サルファーもタンジェも鳥肌が立った。

「父さん・・・やっぱりすごい」

その呟きが聞こえたのか、コハクはサルファーに視線を向け。

「見せてくれる?君の力を」と、片目をつぶった。

「うんっ!!」

コハクに声をかけられ、サルファーのモチベーションが上がる。

(あの女に頼った僕が馬鹿だった!!)

ヒスイの歌よりも、コハクの言葉の方が、サルファーにとって力になるのだ。

期待には、応えるしかない。

「温存しとこうと思ったけど、あれ使うか」

ポケットから赤ペンを取り出す。

呪文効果を持つ、特殊なインクが詰められたペンだ。

サルファーはそのペンで、長斧の柄に小さな龍の絵を描いた。

たちまちそれが具現化し、炎の龍となって。長斧に巻き付く。

ボォォォ!!燃える音と共に、斧刃が赤黒く変色した・・・それだけ高温になっているのだ。

赤いインクを滲み込ませることで、対象物を炎の属性へと変える・・・色魔術。

「へぇ・・・」コハクが感心すると。サルファーは益々ノッてきて。

「お前等みんな、蒸発させてやるよ」

スノープリンスと雪だるまに向け、グレードアップした長斧を振り翳す。その時。

 

 

ドンッ!!

 

 

ホールに銃弾が撃ち込まれた。

誰にも当たらなかったが、これにより、戦いは一時中断。

ホール入口に、猟銃を持った男が立っていた。

顎髭を生やしたワイルド系だ。ダークグレーの長髪を後ろで束ねている。

顔立ちは良いが、雪焼けで肌は浅黒かった。

逞しい体つき・・・高濃度の男性フェロモンを漂わせている。

モルダバイトではあまり見かけないタイプの美形だ。

ちなみに、ホールにいるメンバーの中では一番年配に見えた。

「OH!!マイ、マネージャー!!!」

男に向け、嬉しそうに両手を広げるスノープリンス。だが。

 

 

ドンッ!!

 

 

迷いなく発砲する男。そして命中。スノープリンスはその場でひっくり返り、動かなくなった。

「・・・・・・」×4。

謎の行動だ。突然現れたその男が、敵か味方かわからない。

「ちょっと話させてくんねーかな」

男はボリボリ顎を掻き、自ら“タイガーアイ”と名乗った。

「こちらも色々聞きたいことが」

コハクが一歩前に出て話に応じる・・・が。

「・・・あんた、男?すげー美人だね」

「・・・・・・」

今度は空気が凍りつく。

(お兄ちゃんが、また変な男のヒトに狙われてるっ!!!)

ヒスイはコハクの後ろから顔を出し、タイガーアイを睨んだ。

い〜っ!!!と牙を剥いてみせる。ヒスイなりの、しょぼい威嚇だ。

「よしよし」コハクはヒスイの頭を撫でながら。

「男ですよ。れっきとした、ね」

タイガーアイは「そーか、そーか」と、頷き。次の瞬間、コハクに銃口を向けた。

 

 

「だとしたら、あんた、撃っても死なねー類だろ?」

 

 

「試してみたらどうですか?」コハクは微動だにせず、にこやかに言った。

「ん〜・・・」タイガーアイはしばらく考えたのち。

「ここで撃ったら、死ぬのは俺だな」と。

潔く猟銃を捨て、軽く両手を上げて笑った。

「穏便に話し合いといこうや」

「そうですね。それが賢明だ」

「まず誤解のねーように言っとくが、俺ぁこいつのマネージャじゃねーから」

スノープリンスが勝手にそう呼んでいるだけで、実のところ単なる幼馴染らしい。

話はまずそこから始まった。

 

2人は他国の豪雪地方の出身で、雪男と人間が共存している村からやってきた。

“スノープリンス”とは雪男の中で最も強い魔力を持つ者の称号であり。

エクソシスト的解釈をするなら、(特)魔クラス。

ソレがコレであることは間違いないらしい。

「3ヶ月ほど前に、村の雪男どもがごっそり狩られちまってね。女の2人組だった。そいつらがまー、女とは思えねぇ強さでよ、まいったわ」

煙草を吹かし、ボヤくタイガーアイ。

狩られた仲間が魔石となって売りに出されるということを風の噂で聞き、スノープリンスと共に駆けつけたのだという。

「ん?」と、そこでコハク。何か、引っ掛かる。

「あなたの村に現れた・・・そのうち1人はナイフ使いの女性じゃないですか?」

「なんで知ってんだ?」

「あ、もしかしてウィゼ!?」と、ヒスイも思い出す。

アンデット商会は・・・相変わらずのようだ。

 

「ちょっと大人同士の話があるから」と。

コハクは、ヒスイ・サルファー・タンジェから離れ。

タイガーアイと2人で向き合った。

「・・・返してくんねーかな」と、タイガーアイ。

「無論、タダでとは謂わねぇよ。これで、うまいこと収めてくんねーか?」

タイガーアイがコハクに差し出したのは・・・一升瓶。

「地酒・・・ですか」(ん?これは・・・)

幻の銘酒。市場に出回らない品で、どれだけ金を積んでも、縁ある者しか口にできないと語り継がれる代物だ。持ち帰れば、総帥セレナイトもさぞ喜ぶことだろう。

「・・・・・・」(うん、悪くない取引だ)

もとより、魔石は返すつもりだったのだ。

アンデット商会が、魔石業界に参入していることがわかっただけでも収穫だ。

雪男を仲間とするタイガーアイ。悪用される心配もなさそうだ。

コハクは魔石“Snowman”5個をタイガーアイに手渡した。

「まぁ、あとはこっちで適当にやっときます」

「わりーね」

「ところで、このお酒はあなたの故郷で?」

「ん?ああ、気に入ったら来てみるといい。ちと遠いがな」

タイガーアイはそう言って、例の地酒と村への地図をコハクに手渡した。

タイガーアイ・・・話してみると、案外気さくな人物だった。

今後も、魔石“Snowman”回収の旅を続けるという。

 

こうして、無事交渉が成立し。

タイガーアイはスノープリンスを引き摺り歩き出した。

ズルズル、毛皮の襟を引っ張って。

ヒスイ・サルファー・タンジェの前を通り過ぎる・・・

「その方・・・大丈夫なんですの?」

タンジェが声をかけると。

「あー、こいつこんなんじゃ死なねーから」

タイガーアイはさらっとそう答えた。

「“スノープリンス”のくせに、こいつ阿呆だから」

何かと面倒な性格なので、しょっちゅうこうして黙らせているのだという。

・・・一同、納得だ。

「ほんじゃ、俺らは退散するわ」

タイガーアイは笑いながら手を振った。白い歯が、やたらと眩しい。

「こいつのこと、心配してくれてあんがとな、嬢ちゃん」

 

 

 

 

スノープリンスが退場すると、すべての魔法が解け、真冬から一転、うららかな春となった。本来の気候に戻ったのだ。

目玉商品が紛失したことで、オークションは中止になったが、一行の手元には“Snowman”を除いた魔石が5つと、幻の銘酒が一升。任務完了だ。

コハクはちゃんと春物の服を用意していて。

「着替えておいで」と、ヒスイ・サルファー・タンジェにそれぞれ手渡した。

アクセサリーから靴まで、どれも有名人気ブランドの袋に入っている。

「素敵ですわ!」新品の洋服に喜ぶタンジェ。

「ありがとうございます!」と、コハクに頭を下げる。

「お兄ちゃん、ありが・・・」続いて礼を述べようとするヒスイだったが・・・

「アマデウス!わたくしが着せて差し上げますわ!!」

浮かれたタンジェに腕を引かれ。

「え・・・ちょ・・・わ・・・おにいちゃぁん〜・・・」

コハクに手を伸ばすも届かず、ホール右奥の個室へと消えていった。

「女の子同士、お洒落しておいで」

コハクは苦笑いでヒスイを見送った。

 

そして、数分が過ぎ。男性陣は着替えを終え、ホール左奥の個室から出てきた。

あとはヒスイ達を待つばかりだ。

「ねえ、父さん」

「ん?」

サルファーの言葉にコハクが耳を傾ける。

「あの女さ、いつもああなの?」

あの女=ヒスイのことだ。ヒスイのおかげで、今日は散々な目に遭った。

「そうだよ」何の気なしにコハクが答える、と。

「父さんの足、引っ張ってばっかだよな」

サルファーがそう吐き捨て。コハクは笑い出した。

「ははは!いいんだよ、ヒスイはあれで」

そうなるように育てたのはコハクなのだ。しっかりされては、むしろ困る。

笑顔のコハクとは対照的にサルファーは拗ねた顔で。

「だってあいつ、父さんがいないと何もできないし」

「逆だよ」

「え?」

 

 

「僕がね、ヒスイがいないと駄目なんだ。ヒスイがいないと、何もできない」

 

 

そう言って、ふたたび笑うコハク。

「ヒスイがいるから、料理して、洗濯して、買い物して・・・ヒスイの喜ぶことをしようと考える。ヒスイがいなかったら、きっと何も考えないし、何もしない。それはもう死んでいるのと同じことだ」

「父さん・・・」

「僕は、ヒスイがいないと生きられない」

「・・・・・・」(なんで僕が赤くなるんだよ)

まさしく、溺愛。聞いている方が恥ずかしくなる。

サルファーは何も言えなくなり、ポリポリ頬を掻いた。

 

 

「お兄ちゃんっ!!」

 

 

やっと着替えを終え、ヒスイが個室から飛び出してきた。

カーディガン+キャミソールのツインニットにふわふわのシフォンスカート。

あとに続くタンジェはストライプのシャツワンピースだ。

色つきのリップを塗っただけだが、2人ともずいぶん印象が変わっていた。

いかにも“女の子”という感じなのだ。

それぞれスプリングコートを手に持って。はち切れんばかりの笑顔だ。

「だからね・・・」コハクは、そんなヒスイを見つめたまま話を続けた。

「これは当たり前のことなんだけど」

 

 

 

愛する人が、毎日幸せであるように。

 

 

 

「尽くすよ、これからも」

そう言い残し、コハクはヒスイを迎えに行った。

駆け寄ってくるヒスイを抱き上げ、「すごく似合ってる」と、頬にキス。

「お兄ちゃん!ありがと!」

コハクの腕の中にいる、ヒスイの嬉しそうな顔といったら。

いつもながらに・・・憎い。※サルファー目線。

「でもやっぱり、父さんはカッコイイな」

(あんなにダメな女を、こんなにも深く愛することができるなんて)

ヒスイに比べれば、タンジェの方が断然好きだ。

そのタンジェを見ると、モジモジ・・・何か言って欲しそうにしている。

「・・・・・・」

(なんて言えばいいわけ?可愛いぜ、とか?)

そんな歯の浮くようなセリフは吐けない。

サルファーはタンジェの前まで歩き。

「・・・ま、いいんじゃね」

すると。タンジェの頬がさくら色に染まり。

ヒスイと同じように、とても嬉しそうな顔をした。

「・・・・・・」(ふぅん・・・)

こういうことか、と、理解する。
コハクに近付けたようで、サルファーも嬉しくなった。

 

 

 

愛する人が、毎日幸せであるように。

 

 

 

「僕も・・・」

(ちょっとだけ、父さんの真似、してみようかな)

 
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