World Joker

番外編(お題No.35)

恥ずかしい話

主人公不在?“家族で暴露大会(誰か恥ずかしい事をばらされる)話”です。


アクア、15歳の誕生日。

 

赤い屋根の屋敷裏庭では、野外パーティの準備が着々と進んでいたが、招待メンバーはまだ全員揃っていない。
今居るのは、一族の長メノウと、コハク、ヒスイ、ジスト、スピネル、オニキス・・・そして、コクヨウ。
シトリン、サルファー、タンジェ、カーネリアンも加わる予定だが、トパーズは仕事で欠席だ。

 

開始を待ちきれずにコーラの瓶を開けたのは、本日の主役、アクア。

「ね〜、なんか、面白い話なぁい?例えばぁ〜、誰かの恥ずかしい話とかぁ〜」

それで時間潰しをするつもりらしい。

「そんじゃ、いっちょ聞かせてやるか」

孫を喜ばせるべく。
名乗り出たのは、メノウだ。
普段から神出鬼没なだけに、その口から誰の暴露話が飛び出すか、予測不能だ。
周囲に緊張が走る。

「ま、今日はアクアの誕生日だし」

アクアに纏わる話をひとつ。
と、メノウは回想昔話を始めた。

 

 

 

アクア、生後半年―リビングにて。


 

※性描写カット
 

 

 

「―で、俺は確信したワケ。こいつは大物のエロになるって」

「じいちゃん!?なんで知ってんのっ!?」ジストもびっくりだ。

「企業秘密ってヤツ?」と、人差し指を唇に指を乗せるメノウ。

ヒスイは顔を真っ赤にして「もぉぉぉっ!!お父さんっ!!」と、怒鳴った。

忘れたくても忘れられない羞恥体験を、赤裸々に暴露されてしまったのだ。
けれども、怒っているのはヒスイだけで。周囲は笑うか呆れるかだ。

「見てたのに、なんで止めてくれなかったの!?」

ヒスイが烈火の如くメノウを責めるも。

「“恥ずかしい話”は、多い方が楽しいじゃん。ほら、こういう時とかさ」

メノウ理論、炸裂。

「だよね〜」

賛同したアクアが、メノウにコーラの瓶を手渡し、乾杯。

「おじ〜ちゃん、ナイストークだっだよぉ〜、ねぇ、ママぁ?」

ヒスイを見て、ニヤリ、笑う。

「っ〜!!!!知らないもんっ!!」

勝ち目がないと思ったのか、ヒスイは屋敷へ逃げ込んでしまった。

 

「そうそう、あの事件あと、ヒスイに物凄く怒られたんですよ」

隣にいたオニキスに、コハクもまた、楽しそうに語る。

「当然だ」と、オニキス。(しかし・・・)

どんなに“恥ずかしい話”だとしても。
親と子の思い出には違いない。

「何か、ないか?」

不意にオニキスがそう尋ねたのは、シトリンとトパーズに聞かせてやれるような話があれば―と、思ってのことだった。

「初めての子供だろう。思い出のひとつくらいは・・・」
「逆に聞きたいくらいですよ」

と、コハクは笑ったが。

「ああ、そういえば・・・」

シトリンとトパーズが生まれた日のことを話し出した。
視線は、少し先のメノウに向いている。

 

「あの日、メノウ様と僕でヒスイの出産に臨みました。最初は、ヒスイが僕の子供を産んでくれるのが嬉しくて、浮かれてたんですけど」

そこまで言って、息を継ぐ。

「まっさらな生の塊を目にした時、一瞬ね、どうしていいか迷っちゃったんですよ」
「・・・・・・」
「数えきれないほど人を斬った手で触ったら、汚れてしまいそうだったから。そうしたらメノウ様が、僕の手を取って、こう言ってくれたんです」
「いいじゃん。お前の子供なんだから。遠慮なく愛してやればいいんだよ」

 

 

 

『死と生を知る手―俺は悪くないと思うけどな』

 

 

 

「メノウ様のあの言葉がなかったら、僕はたぶん、自分の子供を・・・ヒスイの子供を、腕に抱くことができなかった」
「・・・・・・」
「今となってはこれも“恥ずかしい話”ですけどね、っと、全員揃ったかな?」

コハクは会場を一望し。

「それじゃあ、ヒスイを迎えにいってきます」

 

 

 

 

 

【エピローグ】

 

パーティ会場から離れ、一族所有の村を散策するオニキス。
モルダバイトは、時代と共に刻々と変化を遂げているが、この村は何十年経っても変わらぬ風景を残している。
公園のブランコに至るまで、コハクの手入れが行き届いているのだ。

「・・・・・・」

庭には年中花が咲き誇り。
菜園は毎年豊作。
ヒスイはいつだって満たされて、幸せそうにしている。

「・・・あいつは元々、生かして、育てるのが上手い」

気付いているのか、いないのか。
オニキスは、ひとり笑って。

「死と、生を知る手・・・か。だが今は―」

死よりも、生を・・・知る手だろう。

 

 
ページのトップへ戻る