世界に春がやってくる

番外編(お題No.36)

迷える子羊と鬼畜神父

“ジスト×トパーズのほのぼの親子話”に、こじつけて(笑)サンタクロースはいるかいないか〜をテーマにしたクリスマス小説です。登場する三つ子の設定年齢は15歳くらいかな、と。



街がクリスマスムード一色に染まる、12月のとある日曜日。

 

ジスト、サルファー、スピネルは、ツリーの飾り付けに使うオーナメントの買い出しに来ていた。

ひと休みしよう、と、スピネルの提案で入ったカフェ。

話題はやっぱりクリスマスだ。

「サンタクロースのプレゼントが毎年楽しみでさっ!」と、ジストが顔を綻ばせる。

毎年靴下に入っているプレゼントは、普通の店では買えないような品ばかり。

ツボを押さえた、ナイスチョイスなのだ。

「そんなの当り前だろ」と、サルファー。

「サンタクロースは父さ・・・」

そこまで言って、眉を顰め。

「・・・お前、まさかまだサンタクロースがいるって思ってる?」

「うん!ヒスイも“いる”って言ってるしっ!」

「・・・あのバカ女」サルファーが舌打ちすると。

「ヒスイはバカじゃない」ジストがすかさず反論した。

「現実的に考えろよ。一晩で、世界中の子供にプレゼントを配るなんて、できる訳ないし。この歳で信じてる奴なんかいないだろ」

「そんなことないよっ!!」

 

 

「お前が信じてるのは、サンタクロースじゃない。あの女だろ」

 

 

鋭すぎるサルファーの意見に。

「っ・・・!!」

何も言い返せず、唇を噛むジスト。

「どうでもいいけど、お前、あの女の名義で通帳作ってるだろ。それちょっと変態入ってるぜ?」

更にそう畳み掛けられ。降参寸前だ。

「う・・・」

その件に関しては、自覚がある。頼まれてもいないのに、こっそりヒスイのために貯金をしているのだ。

「えと・・・ヒスイには言わないで・・・くれる?」

「ここ、お前の奢りな。あと、サンタクロースはいないってことで」

「!!奢るのはいいけど、サンタクロースはいるよ!!」

「いない!」「いるっ!」

「いないって言ってるだろ!昔から頑固だな!」

「いるって言ってるだろっ!昔から夢がない!」

するとそこで・・・

「兄貴に訊いてみたら?」と、見兼ねたスピネルが発言した。

「教師やってるんだし、教えてくれるんじゃないかな。一番正しい答えを」

次の瞬間、ジストは支払伝票を手に立ち上がり。

「うんっ!そうするっ!!」

 

 

 

教会敷地内の、礼拝堂懺悔室。

 

エクソシストが、神父・シスターとして、当番制で駐在している。

本来、罪を告白するところだが、顔が見えないとはいえ、同僚同士・・・お悩み相談室と化すことも多々ある。

「今日は兄ちゃんが神父のはず・・・」

途中、図書館に寄って、サンタクロースの絵本を借りた。

直接面会し、トパーズに教えを乞うつもりだ。

ジストが、裏の出入口に回った、その時。

「サンタクロースはいるんだってば!」と、ヒスイの声。

(ヒスイ!?)

こちらはこちらで、サンタクロースがいるかいないか、口論になっているようだった。

扉に耳を寄せるも、声を抑えているのか、ほとんど聞き取れない。

 

以下、トパーズとヒスイ。

 

「私、知ってるのよ。サンタクロースの正体・・・」

ヒスイは胸に手をあて、いつになく真剣な顔をしていた。

「ほう、言ってみろ」

椅子に腰掛け、脚を組むトパーズ。

ヒスイは、他言無用と何度も念を押し、周囲の無人を確認してから。

トパーズの肩に両手をのせ、耳元でこう打ち明けた。

「サンタクロースはね―」

 

 

「実は、お兄ちゃんなの」

 

 

「・・・・・・」

サンタクロース=コハク。ヒスイにとっては、確かに真実だが。

ソリに乗って空を駆け。世界中の子供にプレゼントを配る架空のサンタクロースと、コハクを何故か同化させてしまっている・・・これは重症だ。

「・・・・・・」

(阿呆な勘違いを、妙な具合にこじらせやがって)

「こういうのって、ほら・・・正体がヒトにバレたりするとアレでしょ?」

「バレるとどうなる?説明しろ」

「だからっ!もう変身できなくなっちゃうっていうか・・・」

「・・・・・・」(変身?バカ言え)

無駄な想像力が働き、とんでもない合併症まで起こしていた。

「とにかくっ!この時期は、サンタクロースがいるかいないか、訊きにくるコが多いの!」

総帥セレナイトのはからいで、12月だけ教会の礼拝堂を一般開放しているのだ。

そのため、迷える子羊達が外から続々とやってくる。

「質問されたら、“いる”って答えて」と、ヒスイ。

「クク・・・偉そうなことを言っているが」と、トパーズが笑う。

「ひぁっ・・・トパ・・・っ!?なにす・・・」

ヒスイを膝の上に乗せ、耳を甘噛み。それから一言。

「そもそも、お前は“子供”か?」

「えっ!?」

(そ・・・そういえば・・・私、一応“お母さん”よね・・・)

「え・・・あれ???」

サンタクロースにプレゼントを貰う資格があるのか・・・悩んで、黙る。

ちょうどそこに。

「兄ちゃん?」

ジストが、遠慮がちに、扉の隙間から顔を覗かせた。

ヒスイの手前、気まずかったが、トパーズに絵本を見せて。

「サンタクロース・・・いるよなっ?」と、尋ねた。

対する、トパーズの回答は。

 

 

「この本に書いてあるような、サンタクロースはいない」

 

 

「フィクションだ」容赦なく、宣告。

「あっ!!」という、ヒスイの抗議の声を手で塞ぎ。

「夢を守ってやる歳でもない」と。

トパーズは、絵本を置き去りに走り去るジストを見送った。

 

 

 

「はぁ・・・」

ヒスイと共通の夢に破れ、俯き歩くジスト。

しばらくして、その視界に、金色の猫が現れた。

「あれっ?姉ちゃん?」

「おお!ジストか!!」

混雑する街中で、思いがけない出会いだった。

「どうした、浮かん顔をして」

「うん・・・」

ジストは、猫シトリンを抱き上げ。

サンタクロースがいるかいないかで、身内※ごく一部が、諍いになっていることを話した。

「・・・そうか」

猫シトリンが、腕の中から見上げる。

「私もな、信じていたぞ。サンタクロースは絶対にいる、と」

しかし、学校では、“サンタクロースは存在しない”派が多数・・・

「そこで、今のお前のようにな、兄上に訊いてみた」

「姉ちゃんも?」

「ああ、兄上は何でも知っているからな」

「兄ちゃんは、そんとき何て言ったのっ!?」

 

 

『サンタクロースの正体は、人間の大人だ』

 

 

「人間の大人は皆、サンタクロースがいないことを知っているから、サンタクロースになれる―兄上はそう言った」

 

 

12月25日。

サンタクロースにプレゼントを貰ったら。

近くにいる大人に聞こえるように、大きな声で言えばいい。

「サンタさん、ありがとう!」

 

 

「・・・我々のサンタクロースは、オニキス殿だった。私は、嬉しかったぞ」

「そっか!」(オレのサンタクロースは、父ちゃんだったんだ!センスいいはずだよなっ!)

笑いながら、子供の夢から醒めるジスト。

サンタクロースを信じている限り、誰かのサンタクロースにはなれない。

皮肉な理・・・だけれども。

「兄ちゃんの言った通りだ。オレわかったよっ!絵本に書いてあるようなサンタクロースはいないけど、好きな人を喜ばせたい気持ちがあれば、誰でもなれる―」

 

 

「サンタクロースは、きっと世界中にいるんだ」

 

 

「ふ・・・そうだな」

猫シトリンは、体を伸ばし、ジストの頬を舐めた。

「姉ちゃん、オレ決めたよ!サンタクロースになるって!まずは父ちゃんに、これまでのお礼を言わなきゃなっ!」

「ん?あ、ああ、そうか?」

おかしな展開になってきた気がしないでもないが。

「まあ、頑張れ」

「うんっ!!」

 

 

 

そして・・・12月25日。ヒスイの靴下には。

 

「あれ?プレゼントが2個???」

(もう子供じゃないから、貰えないんじゃないかと思ってたけど・・・)

なくなるどころか、増えている。

「う〜ん・・・」

首を傾げるヒスイを、ジストとコハクが笑顔で見守っていた。

「・・・ま、いっか」

ヒスイは、ふたつのプレゼントを腕に抱き。

 

 

「サンタさん、ありがと!」

 
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