世界に咲く花

短編(No.06)

シトリン×トパーズ

※「世界に咲く花」の48話まで読んでいないと思いっきりネタバレしちゃいます。


にやぁ〜。

 柔らかい猫の体をしならせてシトリンが部屋に入ってきた。
 「兄上!聞いてくれ!!ジンの奴が!!」
トパーズの姿も確かめず、愚痴爆発。
どうやらジンと喧嘩をしたらしい。

 「・・・・・・」
 睡眠の妨げ。
トパーズは不機嫌な顔で起き上がった。
 寝癖がすごい。
 「あ・・・、すまん、寝ていたのか」
タイミングが悪かったことをやっと悟ったシトリン。
 「・・・何か用か」
ギロリと睨まれる。怖い。
 「あ〜・・・いや・・・用というか・・・」
シトリンは言葉を濁した。
 考えてみれば、トパーズが愚痴に耳を貸してくれる筈もなく、ましてや仲裁など絶対にしてくれないだろう。
 相手を間違えた。
コハクの所に行くべきだった・・・とシトリンは内心後悔した。

 (アイツといえば・・・)
コハクの顔を思い浮かべる。
 (母上を巡って兄上と派手に戦ったようだな)
つい昨日の話だ。
コハクとトパーズの喧嘩が始まると、ヒスイは城に避難してくる。
 「もう勝手にやってれば?って感じ!」と、どちらか(勝者)が迎えに来るまで帰らない。
 昨日はシトリンの部屋に入り浸りだったのだ。
 朝早くにやってきて、帰ったのは日が暮れてからだった。
 (しかも迎えにきたのがアイツということは・・・兄上、負けたな・・・)
 別の話題を探すも、トパーズの逆鱗に触れそうなものばかり。

 「あっ!兄上はっ!もう城には戻って来ないのかっ!?」
 「戻らない。ここのほうが気楽でいい」
 両家で散々モメた末、ジンが婿に入ることになって、モルダバイトの後継者問題も解決した。
 結婚式は、来春盛大に執り行われる予定だ。
 「・・・母上と一緒にいたいから?」
 幸せ惚けか、避けようとしていた話題にうっかり戻ってしまった。
 (し、しまった・・・母上の話は・・・)
 恐る恐るトパーズを見上げる・・・
「・・・そうだ」
 「!!」
 (兄上・・・そんなに母上のこと・・・)
トパーズが正直に返答することなど今までなかっただけに、シトリンは強く心打たれた。
 「・・・銀の血族は近親結婚が当たり前だと聞いた。私は“母上”が“義姉上”になっても構わんぞ!・・・頑張れ!」
 「・・・バカか、お前。ある訳ないだろう。まぁ、アイツが死ねば話は別だが」
 鼻で笑って、シトリンの尻尾を掴む。
ブラーンと逆さ吊り。
 「ニヤッ!!?ニャンダ??」
 「・・・お前、何故猫のままなんだ?折角猫又にしてやったのに」
 「あ〜・・・いやぁ〜・・・べつに〜・・・深いイミはないぞぅ〜」
 語尾が伸びる時は嘘をついている。
 「・・・まぁいい」


コトン・・・
猫シトリンの前に平たいミルク皿が置かれた。
 「ホラ、飲め」
 中には新鮮なミルクがたっぷり。
もともとミルクが大好きなシトリンは、トパーズのもてなしに感激した。
 (おおおおぉぉ〜!!兄上がっ!!私に飲み物を出してくれるとはっ!!)
 嬉しい!嬉しい!嬉しいっ!
 尻尾をブンブン振って皿のミルクを舐める。
 一滴残さず、ぺろりと。
 「ああ!旨かった!!ありがとう!兄上!!ヒック!!」
 突然しゃっくりが出た。それに伴い体も熱い。
 「ん・・・?あれ・・・?」
 頭もボーッとしてきた。
 「そうか、旨かったか。マタタビミルク」
トパーズが両腕を組んでにやりと笑う。
 「!!!」
 (盛られた・・・のか・・・)
コテッ。
 足元がふらつき、シトリンはひっくり返った。
 「・・・何故、猫のままなんだ?」
 酔っ払い状態のシトリンに先程の質問を繰り返す。
シトリンはすっかり口が軽くなっていた。
 「むニャ〜・・・私とアイツは同じ顔だから・・・兄上が不愉快になるかと・・・」
 「・・・本当にバカだな・・・。不愉快な顔なら嫌という程見ている」
トパーズは自分の顔を指した。
コハクに・・・似ている。
 「・・・下らん気を遣うな。オレ達はアイツの呪いから逃れられない」
 「そうだにゃぁ〜!兄上も同じ顔だにゃ〜!一緒だにゃぁ〜!嬉しいにゃぁ〜・・・」
コロコロと転がってご機嫌なシトリン。
 酔いが相当回っている。すぐに寝息が聞こえてきた。

 「母娘揃って見事なバカだ」
 苦笑いで猫のシトリンに手を翳し、変身能力を発動させる・・・一糸纏わぬシトリンの姿が甦った。
 「う〜ん・・・あにうえ〜・・・オニキスどの〜・・・・ジン〜・・・」
シトリンの寝言。
 婚約者であるジンの名前が3番目というのがおかしくて、トパーズの表情が緩む。


ずっと遠ざけてきたシトリン。
“神”となった今、血への渇望は消えた。
もう“食料”には見えない。

それなら・・・傍に置いても大丈夫だろう。

 「・・・お前には散々救われたからな」

トパーズはそっとシトリンの頭を撫でた。


 「ただいま〜」
コハクと買い物に出ていたヒスイが帰ってきた。
お土産を持って、真っ先にトパーズの顔を見にくる。
 「あ・・・ごめん、取り込み中?」
トパーズとシトリンを交互に見て、えっちな妄想。含み笑い。
 「・・・待て」
 勝手に機転を利かせ、部屋を出て行こうとするヒスイを背後から捕獲し、耳を噛む。
 「・・・シトリンとお前は違う」
 「・・・うん。わかってる。いいなぁ、シトリンは。大事にされてて」
 「・・・嫌味か?それは」
 「うん。嫌味」
 「・・・お前はお前の役目を全うしろ」
 「えっ・・・ちょ・・・こらっ!」
ワンピースのスカートの中に、トパーズの指が滑り込む。
 「やっ・・・ぁ」
ヒスイは両脚をぴったり閉じて抵抗した。
 「シトリンが起きちゃう・・・よっ!」
 「別に構わない。見せてやれ」
 「もうっ・・・!お兄ちゃん呼ぶからねっ!!」


・・・壊したい、ヒスイ。

・・・守りたい、シトリン。

 相反する、感情。

 明らかに種類の違うものではあるが。

たぶんどちらも・・・“愛”なのだろう。

                          
+++END+++


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