世界に咲く花

短編(No.07)

シトリン×トパーズ

※双子6歳当時のお話です。



 師走の或る雪の日。

 風邪で40℃の熱がでた。

 別に平気だ。
ふわふわして、逆に気持ちがいいくらいだ。
シトリンさえ、うるさくなければ。


 「あにうえ〜・・・」
トパーズのベット前を行ったり来たりのシトリン。
 「どうしよう〜・・・こんやは、おにきすどのがいなんだ〜」
 体温計を片手に、途方に暮れている。
 「“ぼうねんかい”でおそくなるといっていた」

 今年も終わりに近い。

オニキスは内輪の忘年会で夕方から外出していた。
お馴染みのメンバーが集まる恒例行事で、今年は赤い屋根の屋敷が会場だ。
帰ってくるのは朝方かもしれない。


 「あにうえのあたまが、ぱぁ、になったらどうしよう・・・」
 高熱が続くと稀にそういうことがあると、メイドの一人から聞いた事がある。
 自慢の兄の頭が、心配で、心配で、仕方がない。
シトリンは洗面器いっぱいに水を汲んできた。
そこにタオルを浸して、絞って、トパーズの額にのせる。
しんしんと、外は雪。
 冷たい水に触れるシトリンの指先は真っ赤になっていた。
 「・・・もういい。あっちへいってろ」
 高熱のあまり意識が朦朧としているトパーズ。
いつものように、追い払うための言葉が思い浮かばない。
 「あにうえ〜・・・」
はぁ・・・はぁ・・・
熱で息が上がる。
 「・・・・・・」
 苦しくない、何度もそう自分に言い聞かせた。
 体の調子が悪いときは特にシトリンやオニキスの優しさが身に染みて、嫌なのだ。

 「・・・シトリンのばか」
ぼんやりと、空色のパジャマが見える。
ブルーとピンクのセットでオニキスが用意したパジャマ。
シトリンがブルーを取ったせいで、自分が今着ているパジャマはピンクなのを思い出す・・・。

そこでトパーズの意識は途絶えた。



そして、バルコニーにでは。

 「かみさま〜・・・あにうえのかわりにわたしがびょうきになるから、どうか、あにうえをげんきにしてください」

 薄く雪が積もる中、パジャマに裸足。
シトリンは夏の暑さにも冬の寒さにも強く、病気などしたことがなかった。
トパーズの苦しみがわからないから、余計に不安が募り、何かしていないと落ち着かない。

どこにいるのかもわからない“かみさま”。
 灰色の上空を仰いで、とりあえず祈る。

 外気はそれこそ突き刺すような冷たさで。
それでもシトリンは部屋へ戻ろうとはせず、何時間も雪の世界に立っていた。

 自分が、風邪をひくために。


 「あじう゛ぇ〜・・・よがっだなぁ〜・・・がぜがなう゛ぉっで!」
 翌日、トパーズの熱は下がり、逆にシトリンが寝込んだ。
 鼻水ダラダラ。声ガラガラ。
にも関わらず、シトリンはにこにこしている。

“かみさま”に祈りが通じて、トパーズが元気になったこと。

それが何より嬉しいのだ。
 「・・・ばか」
 「ぞう゛だ。わだじはばかだから、ねづがでてもへいきだぞ〜・・・」
ゲホッ!ゴホゴホ・・・
「大人しく寝ていろと言っただろう」
 少々困った様子のオニキスが溜息。
 旧知の仲間に囲まれていても、子供達のことばかりが気にかかり、早々に引き上げてきたのだ。
すると、バルコニーでシトリンが倒れていた。
 倒れていた、というよりは眠っていただけなのだが、体には雪が降り積もり、遭難現場のようだった。

 「・・・あれでは風邪をひくのも無理はない」
シトリンに薬を飲ませ、寝かしつける。
ベランダにいた理由は追及しなかった。
 深夜熱にうなされたシトリンの譫言が、すべてを教えてくれたのだ。
 「・・・いい妹を持ったな」
 昏々と眠るシトリンの傍らで俯くトパーズの頭を撫でて、オニキスは そう呟いた。


 「ん〜・・・むにゃぁ〜・・・あじう゛え〜?」
 2時間も経たないうちに目を覚ましたシトリン。
 真っ先にトパーズの姿を探すが、どこにもいない。
 「大人しく寝ていろと言っただろう」
 先程と同じ言葉をオニキスが繰り返す。
 「おじぎずどの〜・・・あじう゛えは?」
その質問に笑いだすオニキス。
 「学校へ行った」
 「がっごう?だっであじう゛えは・・・」
 病弱を理由に学校へは行っていないはずだ。
わざわざ学校に行かなくても、高校の問題をスラスラ解く小学一年生なのだ。
 「あで?わだじの、ぜいぶぐがない・・・」
 学校の制服も、靴も、鞄も、帽子も全部消えている。
 「まざが・・・」
シトリンの代わりに学校へ行ったトパーズ。
 双子なので、まずバレることはない。
 「守りたいものがあるから、と言っていたぞ」
 驚きで目を丸くするシトリンの頭を撫でて、オニキスは再び笑った。
 「・・・いい兄を持ったな」



サクッ、サクッ、サクッ・・・

真っ白な絨毯の上、小さな足跡を残して。
シトリンの制服を着たトパーズが歩く。

 「・・・・・・」

 守りたいもの。

 (シトリンが皆勤賞を狙っていたことぐらい知っている)

 初めて履いたスカートは、とにかく足が寒い。

だけど。

 言えなかった“ありがとう”の代わりに。

 「・・・協力してやる」



+++END+++


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