短編(No.18)
コハク×スピネル
※「世界に春がやってくる」の6年後を想定したお話です。
「あれっ?スピネル」
「パパ」
モルダバイト城下町にて。
知る人ぞ知る裏通りで偶然顔を合わせた二人。
お互い珍しく連れがいない。
単独行動だった。
「どう?一緒にお茶でも」と、コハクが誘い、スピネルが笑顔で応じた。
二人は今、表通りのカフェへ向かって歩いている。
「オニキスが妬くかな?」
コハクは意味深な含み笑いを浮かべ、16歳になったスピネルを見下ろした。
オニキスの遺伝子なのか、スピネルの背はかなり高い。
長く伸ばした黒髪。赤い髪留めは6年前から愛用している。
「・・・それにしても君はヒスイに似てるよね」
「うん。よく言われるよ」
(オニキスが夢中になるのもわかる)
しみじみとスピネルの姿を眺め、勝手に納得。
(これで男じゃなかったら今度こそイケたかもしれないのに)
魂のレベルでは息子と呼べるスピネルを改めて分析してみる。
(大人びてるなぁ・・・)
何事にも動じず、感情的になる事もない。
(性格はメノウ様に似ているのかと思ってたけど)
もっと堅実で慎重。
(メノウ様ほどヒトをおちょくる感じでもないし)
理知的で話のわかる子だ。
そう結論付けたところで・・・
「ママと一緒じゃないなんて珍しいね」
「うん。誘ったんだけど、ふられちゃったんだ」
ヒスイのランジェリーショッピングツアー。
そろそろ新作が店頭に並ぶ時期なのだ。
(胸元スケスケのネグリジェが欲しいんだよね〜・・・)
コハク、一気に妄想世界へと。
ショーウインドウに飾ってあったネグリジェ。
「あれ、いいね」と、話を振ったら、ヒスイに激しく反発された。
(でも、買ってしまえばこっちのものだ)
寝ている間に着せてしまえばいい。
(目覚めたヒスイは「もうっ!!お兄ちゃんのバカっ!!!」って怒る
だろうけど、怒った顔も好きだし。そのまま襲う!ムフフ・・・)
「やっ・・・おにいちゃ・・・だめっ・・・あ・・・」
「そんなこと言って・・・悦んでるよね・・・これ」
「も・・・おに・・・ちゃんの・・・えっち・・・」
「パパ?」
「え!?あ・・・」
「どうしたの?」
「な、何でもないよ、何でも・・・」
後ろめたい時はいつもこの台詞だ。
「・・・えっちな事考えてたでしょ」と、スピネルに指摘され。
「・・・バレバレ?」
「うん、バレバレ」
ははは!後はもう開き直って笑う。
「ところでスピネル」
「ん?」
『無理をして、その姿を保っているのは、オニキスの為なの?』
スピネルが一人で裏通りにいた理由。
手に持っている紙袋には、成長を遅らせる魔法薬が入っていた。
裏通りには魔導具や魔法薬を扱う店が数多くあるのだ。
「流石だね、パパ」
「・・・薬を使うのはあまりオススメできないけどな」
「うん。でも、成人する頃にはオッサンみたいになってると思うんだ、ボク」
オッサンというのは随分な例えだが、女物が似合わなくなるのは間違いない。
『もう少しだけ、オニキスに“花”を見せてあげたいんだ』
「実用性のない観賞用でも、ナイよりマシでしょ?」
「勿論、それだけじゃないよ。“一生にひとりの女の子”見つけてないし」
まだ自分も女の子として通学したいから、と言ってスピネルは明るく笑った。
「・・・・・・」
僕が、このことをオニキスに伝えれば、オニキスはすぐ止めさせようとするだろう。
(それでまた果てしなく悩んじゃったりして)
自分の口からオニキスに伝える気はない。
(スピネルが口止めしてこないのは、僕が言わないってわかっているからか)
「・・・親孝行だなぁ・・・君は」
スピネルの心意気に思わず頭を撫でて。
「うん。綺麗に咲いてるよ」
「ありがとう」
「でもね、オニキスは花見に興じる男じゃない。花の季節が過ぎても、変わらず君を愛すると思うよ」
「うん。わかってる」
「それなら・・・後は君の好きにするといい」
「ん!」
丁度カフェの前。
「さあ、ティータイムにしよう」
後日。赤い屋根の屋敷。
「お兄ちゃんっ!!何よっ!コレっ!!」
早朝からヒスイの怒鳴り声。
「うん。マーメイドをイメージしたデザインで・・・前衛的でしょ?」
モチーフは人魚。
従って、ヒスイの胸には貝二つ。
「胸の大きさがね、ぴったりだったんだ」
衝動買いしてしまった品だが、コハクは大満足。
「貝殻のブラジャーなんていやぁっ!!!」
「もうっ!!お兄ちゃんのバカっ!!!」
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