パラレル<上司×部下シリーズ>

短編(No.19-3)

オニキス×ヒスイ


※「世界はキミのために」のパラレル現代ストーリーです。本編とは一切関係ありません。
(同級幼馴染み設定)


「そろそろするか」
「何を?」
「結婚」
「うん、いいよ」


中学1年の頃から付き合っているオニキスとヒスイ。
大学卒業と同時に、結婚。
この春の話だ。
そして数ヶ月。新婚生活を満喫している最中の事だった。

ベッドの中で。甘い汗をかいた後。
「私、働きたいんだけど」
唐突にヒスイがそんな事を言い出した。

「・・・・・・」
大学卒業の年、早々に結婚を申し込み、ヒスイには就職活動をさせなかった。
どんなに料理がまずくとも、やっぱり家にいて欲しい。

「近くでいい会社見つけたの。明日面接行くから」
「・・・・・・」

何もかもがイキナリ過ぎる。
本音を言えば大反対だが、自分の考えばかりを押し付ける訳にはいかないと思い、渋々・・・
「・・・子供ができるまでだぞ」
「うんっ!」



代々続く出版社に務めるオニキス。
後継者として勉強中の身、今は編集長をしている。
「編集長。そろそろ面接のお時間です」
オニキスに声をかけたのは入社10年目のベテラン社員インカ・ローズ。
総務人事を担当している。
会社の景気は上々で、雑誌の新創刊をするにあたり、中途採用の募集をかけた。
すでに多数の応募があり、面接官としてもてんてこ舞いの日々だ。
「今日のコが大本命です」
と、ローズが太鼓判を押す。
「入社テスト満点の強者です。しかもすっごい美人ですよ」
採用の意志がかなり強く、それを前提に面接して欲しいと言ってきた。
「そういえば編集長の奥様もすごい美人だって聞きましたけど?」
「ああ、そうかもしれんな」
他人事のように聞き流し、手元の履歴書に目を通す。
「!!?」
一瞬、息を吸うのも忘れて。
(ヒスイ!?)
3cm×4cm。見慣れた顔写真が貼付され。
略歴は中・高・大と専攻学科まで自分と同じ。
100点なのは当たり前、入社テストを作成した張本人なのだ。


「近くでいい会社見つけたの。明日面接行くから」


確かにそう言っていたが・・・
(あいつは何を考えて・・・)
面接の時刻が迫っていた。
はぁ〜・・・っ。
オニキスは妻の履歴書を手に深い溜息をついた。


応接室にて。
机越しに顔を寄せ合いヒソヒソ・・・

「お前、何しに来た・・・」
「働きに来たに決まってるでしょ」
コネは使っていない、と胸を張るヒスイ。
更に妻であることは一切伏せてくれと言う。
「赤の他人って事で」
「無茶を言うな・・・」

「どう?なかなかでしょ?」
黒のリクルートスーツに身を包んだヒスイ。
子供のような体型でも、案外似合っていた。
「悪くはないが・・・採用は・・・おい・・・」
ヒスイが両手を伸ばす。
オニキスの首に手を回し、引き寄せて濃厚キス。
「・・・っ・・・んっ・・・」
ついキスを返してしまい、引き際を失うオニキス。
キスにキスを重ね、気が付けばヒスイを腕にしっかりと抱いていた。

「・・・有り得ん」
(会社で何をやっているんだ、オレは・・・)
我に返ったところで、激しく落ち込む。
「・・・やめろ」
「え?」
「お前がいるとオレの風紀が乱れる。頼むからやめてくれ」
夫の哀願。しかし妻は応じない。
「やだ」
「何か欲しいものがあるのなら・・・」


「ひ・・・っ!」
そこで押し殺した悲鳴。ローズだ。
「へ・・・編集長が・・・新入社員と不倫っ!!?」
まだ面接の段階だというのに、“新入社員”扱い。
人事としては採用決定ということだ。
「・・・・・・」
いくら編集長とはいえ、大学卒業したてのオニキスよりずっとキャリアの長いローズ。
適材適所の采配で、会社に貢献してくれている優秀な社員だ。
誤魔化すには相手が悪かった。
「違う。騒ぐな。・・・妻だ」
「お、奥様ぁ〜!!?」
「はじめまして」
オニキスとの関係を秘密にしておきたかったヒスイも、観念してペコリ。
ローズに軽く会釈をした。

それからすぐにオニキスへ、どさくさ紛れのご挨拶。



「よろしくお願いします。編集長」


それから数日後。週末の夜。


「あ・・・ちょっ・・・んうっ!」
「・・・もう1回だ」
オニキスの指先が再び求めて。
二度目のセックスが始まる。
「あ・・・ん」
ヒスイの体を抱き寄せ、オニキスが迫る。
全身を上から覆い、使うのは口と両手。
オニキスはヒスイの乳房を両手で優しく揉みながら、尖った乳首をたっぷりと吸った。

徐々に唇をずらしてゆき、途中下腹部に頬ずり。
ヒスイの下の口にもキスをする。
それから舌で延々と愛撫。
口を動かしながら、両手を伸ばし、再び乳房を包み込む。
「ん〜・・・んっ」
じんわり広がる快感に自然とヒスイの脚も開いてゆく。
ぴちゃ・・・っ
舌で丁寧に愛液を掻き出し、掬い取って、飲む。
「んんっ・・・あ・・・あぁ・・・」


「んっ・・・わたしも・・・しよっ・・・か」
「いや、いい」



昔から自分のペニスをヒスイに咥えさせるのには抵抗がある。
こうして自分が尽くす分にはいいが、尽くされるのはどうも苦手で。
後背位もあまり好きではなかった。
ヒスイの要望がない限り、自分からはしない。


ヒスイと初めてセックスをしたのは17の時。
自分のものにしたという満足感。
それ以上に、真っ白なものを汚してしまったような後悔の念を抱いた事を覚えている。
数え切れない程性行為を繰り返してきた今でも、なんとなくそれを引きずっていた。


射精時は正面からヒスイを抱きしめていたいし、挿入して擦るより、ヒスイの体を愛撫している方が好きだ。



「ん・・・も・・・オニキス・・・」
前戯が長すぎると文句を言われ。
堪えきれなくなったヒスイが挿入を望んだところで応じる。

ヒスイは女で自分は男なのだから、結局こうするしかない。
逆らえない性。大切に想えば想うほど、どこかいつも苦しくて。
「んっ・・・あんっ!」
「・・・・・・」
ヒスイの膣内は温かく、ヌルヌルと亀頭を刺激する。
この快感を否定することはできないが、淡い罪悪感がつきまとい、眉間に皺が寄る。


「あっ・・・!ううんっ!!」
一方ヒスイは性に忠実で、怖がることなく奥まで晒し、空け渡す。
お互いキスもセックスも初めての相手。
経験した回数は同じでも感じ方は全く違っていた。



「・・・焦ってるでしょ、子供つくろうとして」
「・・・・・・」
「いつもこんなに深追いしてこないもんね」

「そんなに辞めさせたい?」
その通りなのでオニキスは何も言えず。

「できる訳ないよ。ピル飲んでるもん」
「な・・・んだと?」
突然のヒスイの告白に、茫然とするオニキス。
「・・・いつからだ」
セックスの余韻はすっかり冷め、猛然と怒りが込み上げてきた。
ヒスイには振り回されっ放しだが、これほど騙された気分になった事はない。


「結婚してから。オニキス、避妊しなくなったでしょ」
「それは・・・」


確かに学生時代は避妊をしていた。
責任を取れる立場になるまでは、当然の事として。

ヒスイの言うように、結婚をして避妊をしなくなったのは・・・


(いつ子供ができてもいいと思ったからで。ヒスイも同じ気持ちだと思っていたのに)


「とにかくこれはオレが預かる。もう飲むな」
と、オニキスがピルを取り上げた。
副作用の心配はない薬だとわかっていても、知らぬ間に妻に服用されていては不快極まりない。
「そんなに嫌なら、しなければいいだけの話だ」



仲違いをしたまま、一ヶ月。
「・・・・・・」
ヒスイは校正の仕事に就いていた。
人見知りの激しい性格からか、周囲とお喋りする事もなく黙々と取り組んでいる。
家でのヒスイはセックスをしようがしまいがいつもと変わらない態度で。
いつしか自分だけ腹を立てているのが不毛な気がしてきた。

「お前は・・・オレと結婚して良かったのか?」
オニキス自身は、幼馴染みのヒスイを恋人とし、妻とすることに、全く迷いがなかった。
「?うん。良かったよ。それがどうかした?」
「・・・・・・」
あっさり。
あれやこれやと考えるのはいつも自分だけなのだ。


「そうそう、あのね!お給料貰ったの!」
「そうか、よく頑張ったな」


「でねっ!こっちっ!」
普段使われていない部屋へと連れていかれるオニキス。

「じゃ〜ん!」
そこには天体望遠鏡。
「な・・・」
次から次へとヒスイには驚かされてばかりだ。
「オニキスにあげるっ!!」
「お前・・・まさかその為に・・・」
「うん。昼間翻訳の内職してたんだけど、なかなかお金が貯まらなくて。働きに出た方が早いかな、って思ったの」
専門の研究施設などで使われるもので、50万近くしたという。



天体望遠鏡は二人共通の、子供の頃からの夢だった。


“いつか二人で買おう”


そう約束を交わしたが、いつしか夜空を見上げるよりも楽しい事を覚えて。
曖昧になってしまった、夢。



「私なりのケジメっていうか。オニキスにいつも貰ってばっかりだから」

「ピルはもう捨てていいよ。赤ちゃんできたら、いざって時すぐ働きに出られないと思って注意してただけだし」
ヒスイの言う“いざって時”とは、まさに今回。
「期間限定の三割引だったのよ。お給料日ギリギリで買えて良かったっ!」
目標を達成した今となってはピルも無用のものだと言って。
「どうせすぐ辞めちゃうんだからオニキスのとこでいいかなって、はい」
と、ヒスイが手渡したのは、辞表。
「子供ができるまで、なんて嘘ついてごめんね」
「まったく・・・お前というやつは・・・」



ピンポーン。
不意にチャイムが鳴り。

「宅配便です」
「宅急便?何だろ・・・」

判子を持ったヒスイが玄関へと駆けつける。
「丁度いいタイミングだ」
その後ろでオニキスが口元を隠し、笑いを堪えていた。


「な・・・」
今度はヒスイが驚く番だった。


「何で同じモノ買ってるのよっ!!」
「お前が喜ぶと思ってな」

「・・・・・・」
「・・・・・・」

あはは!
くっくっくっ!

「同じ事考えてたんだぁ」
「そのようだ」



三割引の天体望遠鏡が二つ並ぶ。

「・・・ま、いっか。ひとつは私達で使って、もうひとつは子供にあげれば」
「そうするか」
「うんっ!」




愛しい気持ちが溢れて。
抱きしめるだけじゃ足りない。
キスをしても足りない。

(ああ、だから、セックスをするのか)

今までだってそうだったはずだ。
男と女で良かったじゃないか。
心も体も繋がり合える事を、もっと喜ぶべきだろう。



「ヒスイ」
「んっ?」
耳元で体を求めてみる。
「ん!いいよ!」
満面の笑みでヒスイが答えた。



オニキスはヒスイを抱き上げ、ベッドへ向った。



「ね、オニキス、今幸せ?」
「・・・最高に幸せだ」

+++END+++


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