パラレル<学園絵巻>

短編(No.21)

オニキス×ヒスイ

※パラレル現代ストーリーです。本編とは一切関係ありません。
オニキス:売られた喧嘩を買っている内に、総番長。ヒスイとは幼馴染み。親公認の付き合いをしている。
ヒスイ:いつもオニキスと一緒にいるので、舎弟から「姐御」と呼ばれている。(本人は嫌がっている)
コハク:武闘派の生徒会長。一目惚れしたヒスイに告白するがふられる。そこで秘策・・・

[ 1 ]

ヒスイの部屋。


「んっ!んっ!はっ・・・ぅ!」


両脚をオニキスの腰に絡め、ヒスイが喘ぐ。
高校生活にも慣れた17歳。
ヒスイはまだ小学生のような体つきで。
それでもしっかりと性器を濡らし、オニキスのペニスに愛液をたっぷりと絡めて。
擦られる快感に溺れていた。

「あっ・・・あぁぁんっ!」


一方オニキスは年齢よりも大人っぽく、落ち着いて見えるが、今は・・・乱れている。

「・・・っ。ヒスイ・・・っ」

ヒスイを導く献身的な腰使い。
突いて尽くすオニキス。

「んぁっ!」
「・・・・・・」

正常位で公平に絶頂を迎え、強く抱き合ってから離れる。
ヒスイの中心部、捏ねて散った愛液をオニキスはティシュで丁寧に拭き取った。
「ん・・・ありがと」
ヒスイは少し照れながら足を閉じて。
今度は逆にオニキスのペニスに被っているコンドームの片付けを手伝う。
少しずつ角度を無くしてゆくペニスに直に触れ、優しく包み込むようにティシュで拭った。

「ヒスイ」
「うん」

見上げて、見つめ合って、キス。
だいたいいつもそんな流れだ。

「今日泊まっていくでしょ?」
と、裸のままベッドの上でゴロゴロしているヒスイが言った。
「おじさん達は?」
服を着ながらオニキスが聞き返す。
「夫婦で温泉旅行。3泊4日でのんびりしてくるって」
「そうか」
「オニキスに来て貰えって。番犬代わりに」
「・・・・・・」
(番犬・・・)
ヒスイを守らなければならない立場だというのに、
こんな事をしていてよいものか・・・込み上げる罪悪感。
「くすくす・・・そんな顔しなくても、お父さん全部知ってるよ?」

隣同士に住む二人。

ヒスイがオニキスの部屋にいるか。
オニキスがヒスイの部屋にいるか。

どっちかなのだ。

「・・・近々改めて挨拶する」
将来の事を踏まえて。オニキスは真剣そのもの。だが。
「何それ」
今更とヒスイに笑い飛ばされる。
「・・・・・・」



「そろそろ服を着ろ。課題をやるぞ」
「ん〜・・・」
学年2位のオニキス。3位のヒスイ。
デートは図書館かお互いの部屋。
することは勉強かセックス。


「課題終わったらお風呂入ろ」
「そうだな」



翌朝。


玄関に鍵を掛け、門から出てくる二人の前に。

「オニキスさんっ!姐御っ!」

ボロボロになった舎弟の一人が転がり込んできた。

「し、下っ端の1年が全員やられました」
「なんだと?」


校庭へオニキスとヒスイが駆けつけた。

「会長っ!?」ヒスイが叫ぶ。
「やあ。おはよう」

爽やかな笑顔で拳を鳴らす、超美形の生徒会長コハク。
不動の学年1位であるが、武闘派。
恐ろしく喧嘩が強く、不良をシめるのはお手のものだ。

「・・・ウチの者が何か?」
ヤクザの組長さながらに、舎弟の屍(※死んでません)を背に睨みを利かせるオニキス。
「いやぁ・・・煙草を、ちょっとね」
校内禁煙を主張し、コハクが睨み返す。
「それは・・・こちらの管理不行き届きだ。すまん。手間を取らせた」
今後厳しく言い聞かせると付け加え、総番オニキスは頭を下げた。が・・・


コハクの視線はヒスイ一直線。
オニキスの事などもはや眼中にない。


「キミが来るのを待ってた」
コハクはいきなりヒスイの手首を掴んで。
「え・・・ちょっ・・・会長っ!?」
「おいっ!何を・・・」
オニキスの制止を振り切り、強引に突き進むコハク。
「こっちは平気だからっ!オニキスはそっちっ!」
引きずられながらも、のされた1年を気遣うヒスイ。
「・・・・・・」
ヒスイの言うように舎弟の安否を確かめる必要があった。
コハクは手加減をしない喧嘩をすることで有名だったのだ。
裏界隈では。


生徒会室へ連れ込まれるヒスイ。


「あなたと付き合う気はないって言ってるでしょ!!」
「彼と別れろと言ってる訳じゃない。僕と友達になって欲しいだけだよ」



『私、男女の友情って信じない主義なの』



男友達はいらないからとヒスイはスッパリ断った。



その頃。生徒会室前では。


舎弟を叩き起こし、オニキスは慌ててヒスイの後を追ったが、扉には鍵が掛けられていた。
扉を蹴破って乱入したい気持ちを必死に堪えウロウロ・・・

すると。

「あれ?オニキス?」
何食わぬ顔でヒスイが出てきた。

「大丈夫か?」
「何が?」

進級してすぐコハクに告白されたのだという。
ヒスイはあまり自分の事を話さない。
その為、オニキスはヒスイとコハクが面識ある仲だとは思ってもおらず。ショックだ。

「それで・・・?」

(いかん、これでは・・・)
嫉妬心丸出しで、質問責めをしている自分に気付く。

「断ったよ。オニキスいるし」
「そうか・・・」

露骨にホッ。

「・・・帰るか」
「ん!」
「今日はオレの家へ来るといい」
「おばさん達は?」
「法事で地方だ。今日は帰らない」
「そっか。じゃ、いこっ!」



オニキスの部屋。

ベッドの上。
舌で触れる度硬くなっていく愛しいヒスイの肉粒。
掘り起こし、夢中になって吸い付くオニキス。

「あんっ・・・!!」


高校2年。初めてヒスイと違うクラスになった。
それがきっかけで、性行為に及んだ。

(少し・・・焦っていた・・・)


離れた場所で。他の男から。
ヒスイが女として認められてしまう前に。
そう、思った。


「・・・ニキス。オニキス・・・ってば」
回想に囚われ、まさに無心。
ヒスイの膣のまわりを舐めて。舐めて。舐めまくる。
「そんなに舐めなくても・・・っ・・・も・・・くすぐったい・・・よぉ」
ペロペロとオニキスの舌が動く。
セックスの愛撫というよりは、もっと純粋なものを思わせる舌使いで、愛情を示す。


(オニキスって・・・前世、犬!?)



「はぁ・・・んっ・・・」

くちゅくちゅと湿った愛液の音。
慣れない二人には刺激が強く。
すぐに性器同士で繋がりたい衝動に駆られた。

「もう一箱使っちゃったんだね。最後の1コかぁ・・・」

完全勃起した若いペニスに、オニキスがゴムを被せているところを覗き込んで、ヒスイが笑う。

挿入の合図にキスをすると、両脚を大きく開いて。

「いいよ」
「ああ」

そこへ吸い込まれるように、オニキスはゆっくりと腰を沈めた。

「んぅ・・・オニ・・・キス」
「ヒスイ・・・」



翌日。

驚くべき事件が起きた。
生徒会長のコハクが転校。
突如学園から姿を消したのだ。

しかしその翌日。

更に驚くべき事件。
コハクの双子の姉を名乗る美人が、ヒスイのクラスに転入してきたのだ。

「で、ビックリしちゃった。会長そっくりなんだもん。おちゃらけた性格も」

屋上で一緒にお弁当。
早速ヒスイがオニキスに報告した。

「・・・・・・」
(双子の姉・・・)
ヒスイは全く疑っていない様子だが。
入れ違いというのが既に怪しい。

「でね、友達になったの」
「友達・・・だと?」

友達を作るのが下手で、何かと孤立しがちなヒスイが口にした“友達”。
「明日から一緒にお昼食べたいって言うんだけどいい?」
「駄目とは言わんが・・・」


「ヒスイ〜」
屋上の出入り口で名を呼ぶのは、噂の超美人。
呼ばれたヒスイが駆けてゆく。
もうすっかり懐いていた。
(一体どうやって手懐けた・・・)
オニキスは呆れて物も言えない。
ヒスイの頭を撫でて・・・ニヤリと歪む、金髪美人の口元。
(間違いない。絶対アイツだ)



「ね、ヒスイ、彼に挨拶したいんだけど、いい?」
「ん!じゃあ、私、先に教室戻ってるね」

ヒスイはオニキスに手を振って屋上を去った。



その、屋上で。

総番のオニキスと元生徒会長のコハクが向き合う。
「男だと全く相手にされないから」
聞かれる前に自己申告するコハク。
「君が“幼馴染み”なら、僕は“親友”になる。女として・・・ね」
「・・・・・・」
「今は君のものかもしれないけど、卒業する頃には僕とヤッてる」
天使のように華やかで美しい顔立ちだが、口から出る言葉は、下品だ。
「・・・・・・」
せっかくできた“友達”をヒスイから奪うのは気が引ける。
(だからといってこのまま野放しにするのも・・・)
迷うオニキス。
(まったく・・・とんでもない奴に目を付けられたな・・・)

はぁ〜っ・・・。

ほとほと溜息が出る。

「まぁ、しばらくは女同士の友情を深める事にするから」
明日からよろしく、と。
コハクが握手を求め、仕方なしにオニキスが応じる。



そしてここに、新たな三角関係が誕生した。



[ 2 ]



期末テストの結果が貼り出された。

一位オニキス。二位ヒスイ。
これまで万年一位をキープしていたコハクが転校した事で順位が繰り上げになったのだ。

「・・・・・・」

オニキスは明らかに不満足。
不服たっぷりな眼差しをある女生徒(※正しくは女装生徒)に向けた。

今はアンバーと名乗る、コハク。

アンバーはオニキスの視線を無視し、何食わぬ顔で傍らのヒスイを褒め称えていた。

「ヒスイって頭いいんだね」
「そんなこと・・・アンバーは何位だったの?」

成績は下の上くらい。
勉強が苦手なのだと、白々しく捏造するアンバー。

「ね、ヒスイ。夏休み勉強教えてくれない?」
「うんっ!いいよ!」

いつも自分と仲良くしてくれる“親友”の役に立てるのが嬉しくて。
ヒスイは大きく頷いた。

「じゃあ約束ね」
「うん!」

「・・・・・・」
目の前で指切りを交わすヒスイとアンバー。
黙って見ているしかないオニキスは、すっかりしかめっ顔だ。


下校時。


「オニキス、最近機嫌悪いね。何かあったの?」
「別に・・・」
「アンバーってね、一人暮らしなんだって。夏休み泊まりにいく約束しちゃった」
次から次へとオニキスを見舞う不幸。

「!?泊まり・・・だと?」
「うん」

男の家に泊まりにいくなど、彼氏的には許せない。
許していい筈がない。
「あいつは・・・」
「友達の家に泊まりにいくの初めてだから楽しみっ!」
アンバーは男なのだと、真実を告げる前に遮られ。
「・・・・・・」
浮かれているヒスイ相手に何も言えなくなってしまう。

更に。不幸はそれだけに留まらなかった。


オニキスの部屋。


「え?海外に?」
「ああ、3週間だ」

大学教授である父親の研究を手伝うアルバイト。
高校一年の時からずっと続けていた。
今年の夏休みはかなり本格的になると話は聞いていたが、
まさか海外まで連れて行かれる事になるとはオニキス自身も思っていなかった。

「3週間・・・長いね」
「・・・すぐだ」

ヒスイを不安にさせないよう、強くそう言い切って。
肩を抱き寄せ、キスをする。

「・・・帰ったら好きな所に連れて行ってやる」
「うん。あ・・・」

オニキスは制服の上からヒスイの胸に触れ、セックスの意向を伝えた。


手の平で乳首の先端を撫でるように。
小さな膨らみをゆっくりと・・・揉む。
「んっ・・・」
発育不良なカラダでも女は女。
愛撫には素直に応える。
ぷくっと尖ったヒスイの乳首を、オニキスはすぐさま口へ含んだ。
「あんっ・・・も・・・」
薄いピンクの乳輪に沿って、円を描く舌先の動き。
クルクル。ペチャペチャ。丹念に舐め上げる。
「はぁ・・・っ・・・」
乳首は先端よりも側面を刺激した方が悦ぶ・・・すべてヒスイのため、忠実に実行するオニキス。
ちゅっ。ちゅくっ。
「んっ・・・ぁ」
強めに吸い付き、そのまま吸引し続けて。
口の中、乳首をぺロペロと舐め転がす。
「・・・はぁん」
ヒスイは胸を突き出しながら、甘い声を洩らした。
蝉の声に混じって、オニキスの耳へと届く。
感じてくれているのだと、益々夢中になって。
女性器に留まらず、あらゆる場所へと舌戯を施す。

そこに突然、ヒスイの手が伸びて。

「!?何を・・・」
オニキスの黒髪をくしゃくしゃに掻き乱した。

「だってオニキス、犬みたいなんだもん。もしかしたら頭撫でられるの好きかなって思って」

(犬・・・)
あまり褒められている気はしないが、言われてみれば思い当たる事ばかり。
ヒスイのカラダに触れていると、どこもかしこも無性に舐めたくなって。
匂いを嗅ぐのも大好きだ。
しかもそれは今に始まった事ではなく、子供の頃から現在に至るまで変わらない性癖だった。
「・・・・・・」
ヒスイの手の動きに、なんとなく抵抗できないまま。
撫でられっ放しになって。
髪はボサボサ。寝起き時よりも乱れている。

「嬉しい?」
「・・・ああ」

そう認めてしまうのも男として癪だが。

(この手を・・・失いたくない)

ライバルの姿が脳裏を過ぎって。
嫉妬心が性欲を煽る。

「・・・犬でも、雄だ」
「わかってるよ・・・あっ・・・う・・・」

深い愛情を込め、ペニスを根元まで挿入。
ヒスイの膣内はもうたっぷりと濡れていた。



失いたくないから・・・突いて、繋ぐ。


「あっ!あっ!ああっ!あぁ!オニ・・・キス・・・っ!」
「く・・・ヒスイ・・・」



そして・・・夏休み。


初日から3週間の旅が始まる。

「いってらっしゃい!」
「・・・ああ。いってくる」

オニキス最大の不安要素は、ヒスイの隣に立つアンバー。
私服でも女性用のワンピースを着用している徹底ぶりだ。
見送りの帰りに二人でショッピングをするのだと言って、今はヒスイと一緒に手を振っている。

「いってらっしゃ〜い」

アンバーは素晴らしく上機嫌で、最高に愛想がいい。
“もう帰って来なくていいから”
声にこそ出さないが、口はそんな動きを見せていた。


ヒスイが父親と話をしている隙に。


「ヒスイに手を出したら・・・」
オニキスが総番長の威厳でアンバーを睨む。
だが、力による牽制は全く意味を成さなかった。
「喧嘩を売るには相手が悪いと思うよ?番長サン」
憎々しい微笑みでアンバーが切り返す。

「ヒスイを賭けるならいつでも受けて立つけどね」



「・・・・・・」
すぐだ、などと言ってはみたものの、この状況で3週間はさすがにまずいと思う。
しかし、出発直前で何ができるかといえば・・・
(ヒスイを信じるしかない)
この先、いつも一緒にいられるとは限らないのだ。
(これしきで駄目になったりするものか)
と、最後には強い気持ちで。
オニキスは飛行機へ乗り込んだ。



「あ〜・・・行っちゃった・・・」
努めて明るく振る舞っていたヒスイも、オニキスが視界から消えると同時に笑顔を失い。溜息。

出番とばかりに、アンバーがヒスイを覗き込む。

「・・・寂しい?」
「うん」
「・・・3週間なんてすぐだよ」
「ん・・・」
「私もいるし・・・ね?」
「んっ!そうだね!」
「さあ、気分転換に買い物していこう」
「うんっ!」


それから10日後のお泊まり会。
狼になる予定でヒスイを自宅マンションへ連れ込んだアンバーだが、突破口が見つからないまま夜が更けていた。
じゃれて。はしゃいで。ヒスイは眠ってしまって。
アンバーはベランダでひとり喫煙中だった。
学校では吸わないだけで、喫煙歴は長く、本来は不良をシめる立場ではない。

「ちょっと頑張り過ぎたかな・・・」
外泊許可を得るため、何度もヒスイの家へ足を運び、ヒスイの両親からも“親友”として認められ、信頼を得た。
ヒスイの母親は、娘の“初親友”を祝い、赤飯まで炊いて喜んだ。
親友の地位が確固たるものになりすぎて、逆に壊しにくくなってきたのだ。
(まずいぞ・・・これは・・・)


男だとバレたら。


「ヒスイを・・・失う?」
(何、弱気になってるんだ。僕らしくない・・・・)



「アンバーって煙草吸うの?」
「!?」

てっきり熟睡していると思っていたヒスイが、パジャマ姿で隣に並ぶ。
慌てて煙草の火を消すが、残った煙を吸い込んだヒスイがケホケホと咽せたので。
「ごめん・・・やめるよ」
反射的に禁煙宣言しまった。

「寂しいの?」
「え?あ、うん」

“寂しさを紛らわせるために喫煙している”とヒスイは解釈し、アンバーもつい肯定してしまったが、言われるまで考えた事もなかった。

「じゃあ、もう煙草はいらないよね。私がいるから」
「あ・・・うん」
「今度は家に泊まりにおいでよ」
「・・・そうさせてもらおうかな」
「うんっ!!」

(参ったなぁ・・・)
無邪気すぎて、手が出せない。

(一人暮らしが寂しいなんて思ったことなかったけど)



ヒスイのいない明日の夜は、寂しいと思うかもしれないな。



「アンバー。一緒に寝よ」
人見知りが激しい分、懐くと猛烈に可愛いヒスイ。
(“急いては事をし損じる”と言うし、しばらくはこのままでいいかな・・・)

「明日も勉強頑張ろうね!アンバー」
「うん」



出発の日から3週間後。空港。
父親より一足先に帰国したオニキスとヒスイは念願の再会を果たした。


「オニキスっ!!おかえりっ!!!」
「ヒスイ・・・っ」
国際電話で1週間に1回は話をしていたが。
3週間も離ればなれになったのは産まれて初めてだったので、お互いそれ以上は言葉にならず。
ただじっと抱き合って。

「ヒスイ・・・」
「オニキスっ!」

コハクを盾に、その裏でキス。
「・・・・・・」
引きつり気味の笑顔で見守るコハク。
二人の絆を見せつけられ・・・虚しい。
(いいヒトのフリって疲れる・・・)

「土産だ」
キスを終え、オニキスが取り出したのは翡翠の指輪だった。
それをヒスイの左手の薬指に通す。
付き合いが長いだけあって、サイズはぴったりだ。
「現地でいい石を見つけた」
さも偶然を装うが、夏休みに入る前から決めていた事だった。

旅先で父親にも話した。


自分達はまだ高校生で、これから進学、就職と、結婚までは先が長い。


それでも。今、誓っておきたい。


また離れる事があっても。
ヒスイの薬指に気持ちを残してゆきたいから。


この指輪を。


「え・・・あの・・・ありがと」
照れて、戸惑うヒスイ。
指輪の意味に少し迷っている様子で。
「・・・できれば・・・・婚約指輪と思って欲しい」
オニキスがそう告げると、ヒスイは幸せそうに頬を染めて。
「うんっ!」


空港で将来を誓い合った二人は手を繋ぎ、歩き出した。
そこで初めて気付く。
(む?何だこれは・・・)
握ったヒスイの右手。
手の平に何かが当たった。
「・・・・・・」

「あ、私トイレ」
女子トイレの標識を発見したヒスイが一時離脱。

「やっと気付いた?」
ヒスイの右手の小指に可愛らしいデザインの細い指輪。
アンバーはそれを“ピンキーリング”と言った。
「ホントは左手の薬指にプレゼントする予定だったんだけど」
女同士でそれはおかしいと一蹴された。
それはまぁ、仕方がないと思う。
しかし、それ以上に。


『左手の薬指は空けておきたいの』


「って、断られたんだ」
これは正直かなりのダメージだった。


「ヒスイ・・・」
オニキスが名を呟く。
アクセサリーの類をヒスイが欲しがる事は今まで一度も無かった。
(何も言わずに・・・待っていてくれたのか・・・)


「と、言う訳でまだ何もしてないから。今日のところは退散するよ」
この流れでは、もはや自分の出番はないと踏んで。
「ま、こんな日もあるか」
ヒスイが他の男のものだという事を承知の上で好きになった。
辛いのは当たり前。切なくなっていても仕方がないと思う。
(帰って対策を練ろう。うん)
「ヒスイに宜しく。じゃあ」



(略奪愛って結構シンドイな・・・)

足が無意識に喫煙所へと向かうアンバー。
おもむろに煙草を口に咥えたが、着火直前にヒスイとの約束を思い出し、潔く箱ごと全部捨てた。
「・・・やれやれ。まずは禁煙からか」



「お待たせっ!」
戻ってきたヒスイの薬指には捧げた指輪がしっかりと。
右手でキラキラしているものが、少々気に食わないが・・・幸せだ。

「あれ?アンバーは?」
「用事があると言って先に帰った」
「帰った?後で電話してみよっと」
「ああ、そうするといい」

再び手を繋いで歩き出す。
夏休みはまだ、半分近く残っている。
「後はずっと一緒だよ」と、ヒスイが言って。



「ああ、そうだな。どこへ行きたい?」
「ん〜とね。オニキスの部屋っ!」


+++END+++


第二弾!季節は夏です。
逆転の三角関係がテーマなので、勝者は常にオニキス。
だからといってコハクが諦める訳ではなく、本編同様清算できない三角関係が延々と続きます。


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