短編(No.28)
トパーズ×ヒスイ
『たまには…』 文:ぷっつん様
ぎりぎり隠れているだけの下着、大胆にさらしている太腿。
そして、肌蹴たシャツから見えそうな胸元。
ようやく膨大な仕事を片付けて屋敷に戻ってきたトパーズは、リビングで寝こけているヒスイを見下ろして溜息をついた。
悩みのひとつもなさそうな能天気顔に。
(用心という言葉とは無縁だな)
ご自由にどうぞとばかりに鍵もかけず、ぐーすか爆睡できるのは大物なのか何も考えていないのか。
後者だろうな、と即結論。
だが、こんなチャンスは滅多にない。
エクソシスト協会に出向いたメノウとコハクは戻っておらず、屈み込んだトパーズは意地悪な笑みを浮かべた。
そして噛みつこうとした唇に触れる寸前で動きを止める。
コハクのシャツに包まれたヒスイは幸せそうで……
守られているかのように安心しきっていて……
何故か、躊躇。
起こしたくないような、このまま眺めていたいような。
理解しがたい感情に戸惑うトパーズをよそに―――先に動いたのはヒスイの方だった。
「おにぃちゃ……だぁいす…きぃ」
手を伸ばして服をきゅっと掴み、さらに幸せいっぱいの笑顔。
よりにもよってコハクと間違われたトパーズは渋い顔。
「馬鹿。オレはトパーズだ」
「トパ……ズの……いじわるぅ……むにゃ」
(こいつ、本当に寝てるのか?)
ちゃんと名前を呼んだまではいいが、後に続いた言葉が気に入らず。
デコピンを一発入れようとして、また直前で躊躇う。
(どうかしているな)
結局、デコピン不発で彷徨わせていた手は腕枕としてヒスイに提供。
サラサラと落としては再び手に取り、窓から入ってくる夕陽を反射して輝く銀の髪を弄ぶ。
どれくらいの時間、そうしていたのか。
「たまには……悪くない」
聞こえてくる静かな寝息に誘われ、自嘲気味に笑ったトパーズも目を閉じる。
むにゅ。「起きないですね」むにゅっ。
予定していたより打ち合わせが長引いてしまい、メノウを急かしてヒスイの待つ屋敷に戻ってきたコハクが、トパーズの頬を摘んだまま小さく息をつく。
「疲れてんだろ。寝顔は可愛いよなぁ」
「そう言えなくもないような……」
「たまには貸してやれば?」
「まぁ……何もしてないみたいだし」
曖昧なコハクの返事に、メノウはくすくす笑い出した。
彼らが見つめているのは熟睡中のヒスイと、ちゃっかり添い寝中のトパーズで。
だからこそコハクの心中が複雑なことも理解できたのだが……。
「夕食の支度手伝うよ。俺もう腹ペコ」
「そうですね」
メノウに続いてキッチンに歩き出したものの―――ぴたりと立ち止まったコハクは二人の傍に戻り、しゃがみ込んでトパーズの髪をくしゃくしゃにした。
「たまには……いいよね」
少しくらい余裕があってもいい。
この世界にたったひとり。
かけがえのないヒスイという存在を、大切に、幸せにしようと誓ったけれど。
泣かせる奴は容赦するつもりもないけれど。
今、幸せそうにヒスイは眠っている。
そのヒスイを守るように、腕の中に包み込んだトパーズの顔も安らいでいる。
だから……この時間は君のものだ。
目を覚ますまで……ヒスイの温もりは君に……。
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