世界に咲く花

短編(No.29)

ジン×シトリン

※ジンとシトリンが初エッチに至るまでのお話です。


モルダバイト城下。中央通り。


「ジン?ジンじゃない!久しぶりね」
きっちり化粧をした大人の女性が近付いてきた。
年上の元カノ。昔、付き合っていた相手だった。
「また可愛がってあげるわよ?」
「冗談はよしてくれ」
昔話と共にそんなやりとりが続く中、不機嫌な猫が一匹。


それは、朝の散歩に出掛けた時の事だった。


「昔、付き合ってたんだ」
ジンにとっては過去の・・・完全に終わった話。
だからこそ気兼ねなく言えた。
「ほぅ・・・そうか」
「シトリン、それであの今夜・・・」
そろそろエッチに挑戦してみないか?と、意を決し、口を開いたジンだったが・・・
「シトリン?」
愛しき猫はスタスタ先を行く。
抱き上げようとしても、スッとかわされ。
「悪いが、ひとりにしておいてくれ」
そうしてシトリンは、猫走りで去ってしまった。
「どうしたんだ??急に」



オニキスの住処。モルダバイト城、離れの宮殿。


「オニキス殿〜・・・いないのか・・・」
いつ遊びに来てもいいと言われていた。が、生憎オニキスは不在だった。
「シャワーを借りるぞ」
シトリンはヒト型に化け、熱い湯を浴びる事にした。
気分転換の為だ。
(何だこのモヤモヤ・・・)
知っている感情。それは、嫉妬。
オニキスに恋をしていた時、嫌という程味わった・・・けれどもここ最近はすっかり忘れていたものだった。
「・・・・・・」
(ジンにだって、過去の恋のひとつやふたつ・・・)
今更、ジンの恋愛遍歴が気になる。


「・・・私はなんて嫉妬深いんだ」


自己嫌悪の溜息をひとつ。
「う〜む」
シャワーを止め、じっと処女の体を見る。
まだジンに体を許していない。
何だかんだと理由をつけては逃げていた。
「べ、別に怖くなどないぞ。私は国でも三指に入る戦士で・・・ブツブツ」
強がりを言いながら、三角地帯に指を伸ばす。
「どこだ?ここか?」
自分の体であっても、未知の場所。
探って見つけた中央の窪み、その先へ。
「おぅっ・・・んっ!」
興味深い快感を追及したくなり、その場に座り込むシトリン。
「ここにアレが入るのか?」
そこはまだ指先を少し挟んだきり、左右の肉はピッタリ閉じていた。
「しかし母上だって・・・あんなに小さいのに全然平気そうだし」
シトリンは真顔で自問自答を繰り返した。
「それに比べればどうだ!?入るだろう、コレくらい!!」
奮起し、ググッ・・・指を深く入れてみる。


「あっ・・・」


「わ、私は何という声を・・・」
快感を思わず口走り、赤くなる。
「お・・・意外と入るぞ」
女性器を自ら弄ること10分。
思ったより痛くない。段々自信がついてきた。
「んっ・・・うむっ・・・まあ、こんなものか」
右手の中指を第二関節まで埋め、シトリンはご満悦。
すっかり上気した顔で、鏡を覗き込む・・・と。
「のぁっ!!」
「・・・・・・」
オニキスの姿が一緒に映っていた。
唖然とした表情で、そこに立っている。
常に冷静沈着な男であるが、さすがに動揺の色が見えた。
「・・・・・・」
(こういう時、男親はどうすれば・・・)
とにかくまずは、裸のシトリンに背を向ける。
その背中にシトリンは大慌てで弁解した。
「こ、これはだな・・・!!」
「・・・何か、悩みがあるのなら相談にのるが・・・コハクの方が良ければ・・・」


(うぉぉ!!オニキス殿に妙な気を遣わせているぞ!!)


「待ってくれ!違うんだ!!」
何が違うのか自分でもわからないが、オニキスは初恋の相手だ。
何とかフォローをしておきたい。
見なかった事にして濡れ場を離れようとするオニキス。
シトリンはもう必死で、裸のままオニキスに抱き付いた。
「待ってくれ!!これはその・・・ん?」


「シ・・・トリン?」


先程のオニキス並に驚いているジン。
その構図はまるでシトリンがオニキスに迫っているようでもあり、当然思う。
エッチの許可がいつまでも出ないのは・・・
「まだ、王の事好きなんじゃ・・・」
湧き上がった疑惑がポロッと口から洩れてしまった。
「あ!!ごめ・・・」
すぐ気付いて謝るが、シトリンにしてみれば心外で。
複雑な女心に拍車がかかる。
「実家に帰らせて貰う!!」
ポンッ!猫に戻り、高速ダッシュ。
「シトリン!!まっ・・・」
後を追ったが、あっさり見失ってしまい、戻ってきたジン。
「王・・・あの、今のって・・・」
オニキスは口元を隠して笑うばかりで、答えはなく。
「まあ、頑張るんだな」
祝福の試練。ほんの少しの意地悪。
「王〜・・・」
ほとほと困った様子のジンを見てオニキスは言った。


「愛していると伝えれば、愛していると返ってくる。こんなに幸せな事があるか?」


「ちなみにオレは、返ってきた試しがない」
・・・と、笑えない冗談。それから。
「迎えに行ってこい」
ジンを送り出す。
「ジン」
「はい」
「シトリンを宜しく頼む」
「はい!!」


「“こんなに幸せな事があるか”か。王が言うと重みが違うなぁ・・・」
(うまくはぐらかされた気もするけど)
オニキスは笑っていた。
「疑う程の事でもなかったのかも・・・」
シトリンは朝からどうも機嫌が悪い。
エッチの話をしたのがまずかったのかもしれないと後悔しつつ、ジンはシトリンの実家に向かった。



赤い屋根の屋敷。

消えたシトリンを追って、ジンは屋敷の扉を叩いた。
すると・・・ヒスイがちょこんと現れた。
やっぱり今日も小さい。
産まれたばかりの赤ん坊の世話で男性陣は忙しいらしく。
オニキスも先程までここにいたのだ。
「お忙しいところすいません、あの・・・」
「シトリン?来てないよ」
「でも実家に帰るって言って・・・」
「実家?マーキーズじゃないの?」
「え?」


(実家って・・・オレの実家かよ!!)


「ケンカでもしたの?」
じっ・・・ヒスイが見上げる。
「はぁ・・・その・・・」
ジンは言葉を濁した。
「じゃあ、こっち。マーキーズまで送るわ」
裏庭にヒスイが開通させた魔法陣があった。
「ジンくんの家の近くに繋がってるから・・・早く仲直りしてね」
「ありがとうございます!!」
ヒスイに見送られ、ジンはいそいそと魔法陣の上へ。
「あ、ジンくん」
「はい?」
「シトリンの事、よろしくね」
「はいっ!!」



マーキーズにて、シトリン。

熾天使の翼で大邸宅に忍び込む。
婚約者なので玄関から入っても良かったのだが、大勢の使用人に迎えられるのも煩わしく。
こそこそと、泥棒のような動きでジンの部屋に侵入した。
今朝の一件以来どうも気が晴れない。
その上、ジンに誤解をさせたままだ。
愛故の憂鬱に身を委ね、シトリンはジンのベッドでゴロゴロ・・・それから間もなくして。

「ジン様!?」

使用人の声が聞こえたかと思うと、ジンが部屋へ走り込んできた。
「シトリン!!」
「ジン!?」
「ごめん、オレ・・・」
「いや。私の方こそ謝らねば」
シトリンは、ベッドの上で正座をし、頭を下げた。
「すまん。その・・・これは嫉妬というやつで」
今朝の一件について話し、菫色の瞳を伏せるシトリン。
「昔の事だとわかっているが・・・なんとなく悔しいんだ」
「シトリン・・・」
思わぬ不機嫌の理由に驚くジン。
(オレばっかり・・・って思ってたけど、まさか嫉妬してくれるなんて・・・)
嫉妬は、愛の証明。
何とも嬉しい気分になって。
ジンはベッドに腰掛け、シトリンの手を握った。
「彼女は、オレの友達と結婚して今は子供もいる」
「そ・・・そうなのか?」
「うん。それにオレだって、シトリンのファーストキスが王だった事根に持ってるし」
あらゆる事に年中嫉妬しているのだと告白し、バツが悪そうに笑う。
「ジン・・・」
「・・・キス、してもいいかな?」
ジンの言葉に、シトリンが頷いて。


正直者同士のキス。そして。


「煮るなり焼くなり好きにしろ!!」
覚悟を決めたシトリンは、ベッドで大の字に。
「そんなに自棄にならないでくれ」
シトリンの言動にジンは噴き出した。
「たぶん・・・オレはそんなに怖くないよ」
上からもう一度キス。
ジンの右手がシトリンの胸に触れた。


「・・・お手柔らかに頼む」
「任せて」


シトリンの肌を吸う・・・眩暈がするほど甘い。

(好きな女の子とセックスするのは当たり前の事なんだけど・・・)


それがこんなに嬉しいなんて。
君に会うまで、知らなかった。


「シトリン・・・」
恥ずかしくて、普通は言えない。
けれども今日は、オニキスの言葉を思い出して。
幸せを、確かめてみたくなる。


「・・・愛してる」
「ああ、私も・・・」


愛してる。



+++END+++


ページのトップへ戻る