世界に春がやってくる

短編(No.30)

サルファー×タンジェ


※タンジェ転入済設定。『世界に春がやってくる』(後日談含む)完結後のお話。
 更にカップル絵巻「No.22」(アキハバラのお話)を前提としてます。



ヒソヒソ・・・それは学校で。
タンジェはいつも以上に居心地が悪かった。
強すぎる正義感と、口うるさい委員長気質から、クラスでは浮き気味なタンジェ。
ちょっとした噂の的となっていた。

サルファーの恋人か否か。

不幸にも何も知らずに、サルファーに告白した女子がいて。
今日もまたひとり失恋。
王子様的美少年サルファーの振り文句はここ最近ずっと・・・


「同棲してる女がいる」

だ。なぜそこでタンジェの名を出さないのかと言うと、簡単な話・・・タンジェ本人に口止めされているからだ。

「おい。帰るぞ」

隣のクラスのサルファーは放課後になると迎えにくる。
転入当初から噂になっていた。
ほらやっぱり・・・という声が聞こえて。

「サルファー!あれほどクラスに迎えに来ないでと・・・」
「何でコソコソしなきゃなんないんだよ」

面倒臭そうに前髪を掻き上げ、お構いなしのサルファー。
人目を気にしているのはタンジェだけだ。

「学問の場で不純異性交遊は宜しくないですわ」

そう誤魔化してみたものの。
飛び抜けた美形のサルファーに対し、自分は・・・

(地味ですわ・・・)

シンプルな目鼻立ち、タンジェは純朴な父親似。
しかも目が悪く、眼鏡が手離せない。
口の悪い女子に

「たいして可愛くないのに」

と言われた事がきっかけで、外見のバランス・・・というものを気にする様になった。
とてもじゃないが、恋人宣言などできない。

「覚悟しとけよ。今夜は眠らせないからな」

・・・原稿描きで、だ。
甘い殺し文句もサルファーにかかればこんなものだ。
ふう・・・タンジェは浮かない顔で小さく溜息をついた。

「何モタモタしてんだよ」

乙女の悩み露知らず、サルファーが非情に急かす。

「あ、そうだ」

渋々タンジェが歩き出すと、今度は急に足を止め、言った。

「お前、先帰ってろよ。僕ちょっと実家に寄るから」



赤い屋根の屋敷。

「確かこっちに・・・」

サルファーは漫画の資料となる本を取りに戻った・・・のだが。

「何だ?アイツ」

屋敷の門前に不審な人物がうろついていた。
ピシッと7:3分けのヘアスタイル、縁のある眼鏡、そしてキャラT。
近付くにつれ、その正体は明確になっていった。

「お前・・・アザゼル?何してんだ?」
「サ、サルファー氏!?」

一級悪魔、オタク堕天使アザゼル。
首から一眼レフカメラをさげていた。

目的は・・・ヒスイだ。

アキハバラで出会って以来、普通の美少女では満足できなくなってしまったのだと訴えるアザゼル。

(よく居場所を突き止めたよな・・・)

その熱意だけは敬意を表する。

「やめとけよ。父さんに殺されるぜ?」

サルファーの脅しにも、アザゼルは屈しなかった。
ヒスイに相当入れ込んでいるようで・・・

「たとえセラフィムの花嫁であろうと・・・ブツブツ・・・」

美少女マニアの名にかけて、その姿を今度こそカメラにおさめたい。

「吾輩、花と散るであります!」

戦地に赴く兵士が如く、今にも屋敷へ突入しそうな雰囲気だが、踏み込んだところでコハクに潰されるのが目に見えている。
もうすでにアザゼルの気配に気付いているかもしれない。

「とにかくウチ来いよ」
「ウチ?ここではないでありますか?」



エクソシスト正員寮。

「あら、サルファー、お客様ですの?」

サルファーはアザゼルを現在の自宅へと連れてきた。

「こいつオタクのアザゼル」

コソコソ・・・ここに至るまでの状況を先にタンジェに説明。

「アマデウスを隠し撮り?それは許せませんわ!神がさぞお嘆きに・・・」
「だから、代りにお前が」
「は?」

サルファーは返事を待たずに、代理モデルとしてタンジェを前に押し出した。

「ほら、こいつ」

オタク受けの良いネコミミではある、が。
アザゼルはタンジェを見つめ、眼鏡を上下に数回動かした。そして一言。

「微妙ですな」
「いいからこいつで我慢しろよ」
「なっ・・・」
(なんてひどい言い草ですの!?)

ヒトの気も知らないで!と泣きたくなってくる。
しかもアザゼルは

「萎えた」

と肩を落とし、

「本日は退散するであります」

で、サルファー宅を後にした。
それは学校で蓄積されたダメージに上乗せされ、タンジェを暗い気持ちにさせた。

「・・・・・・」
「あいつジャンル違うからさ」

と、サルファー。アザゼルは、貧乳、ロリ、ツンデレ愛好家なのだ。
発育の良いタンジェとは正反対のタイプを好む。

「サルファー・・・」
「何だよ」
「こうなるのがわかってらしたのではなくて?」
「そうだけど」
「ひどいですわ!」

ひどく馬鹿にされているように感じて。心底悲しくなる。
ところが、女心の読めないサルファーはタンジェの両腕を掴み、強引にキスをした。

「・・・いいだろ、別に。お前は僕のものなんだから。どう使おうが僕の勝手だ」
「な・・・」

サルファーの手が次に掴んだのは、タンジェの豊満な胸。
いつもならこれでセックスに至るが・・・

バシッ!

サルファーの手を振り払い。
タンジェは、怒りと、それ以上の悲しみに満ちた表情で言った。

「わたくし!出かけてまいります!」
「あっ・・おい、今夜は原・・・」

ツカツカと靴底を踏み鳴らし、部屋を出ていくタンジェ。
逆にサルファーがムッとする。

「何怒ってんだよ!訳わかんねー!!」



その夜、タンジェは寮へ戻らず。
翌日、学校にも来なかった。
寮に帰っても、やっぱりいない。

「・・・何だよ」

不貞腐れた顔で郵便物をチェックする・・・と。
投稿漫画の結果通知が届いていた。
サルファーは封を切った。

「・・・やった!!」

雑誌掲載には至らずだが、今までで一番いい結果。
落選ばかりだったサルファーには大きな喜びだった。しかし。

「これ見ろよ!」

思わず声を張り上げたが・・・返事はない。
今日に限って、喜びを分かち合う相手がいないのだ。
たった一日のことでも、タンジェいないとひどく不便で。

「ちぇっ・・・」



その日の夕方。サルファーはモルダバイト城の前に立っていた。
タンジェを迎えに来たのだ。
王妃シトリンの弟なので、出入りは顔パスだ。
大抵タンジェは屋外の稽古場にいる。
そこまで移動すると、思った通りタンジェはそこにいて。
城の人間に無理矢理稽古をつけようとして逃げられたところだった。

「サ、サルファー!?」

まさかサルファーが来るとは思っていなかったので、タンジェは驚き立ち尽くし。

「ほら、これやるよ」
「な・・・何ですの!?」

数年前、鍵を受け取った時と同じように。
サルファーの手から何かが放り投げられた。

「こ・・・これは・・・」
(指輪!?)

「女って、そういうの喜ぶんだろ?」

「しとけよ」

学校でいちいち説明するのも面倒だから、と。左手の薬指を指した。
サルファーの薬指には同じ指輪。ペアリングだ。

「・・・わたくしパッとしませんわよ?」
「何が?」
「顔が」
「はぁ〜?何だよそれ」

意味不明、とサルファーはバッサリ切り捨て。
タンジェの顔立ちに特に不満はないと言った。

「僕は美人が嫌いなんだよ」

褒め言葉にはなっていない。けれども・・・

「ああ!!サルファー!!」

それで感動してしまうタンジェだから、二人はうまくいく。
モルダバイト城を取り巻く緑の一角で。
瞳を潤ませたタンジェが、サルファーに飛び付いた。
勢いでそのままサルファーを押し倒す。

「お前って結構、力、強いよな」
「軍人ですもの」
「元だろ」

本気になれば、サルファーの方が力はずっと強いが、そこは男の心得で。


※性描写カット


「サ・・・ルファ・・・もっと・・・ぁ・・・あ」

快感に酔いしれ、身を委ね・・・そして。

「あ!」

ドンッ!!

・・・突き飛ばされる。

「やべっ!今日週刊少年チャッピーの発売日だった!!」

週刊少年チャッピー・・・今一番人気の漫画週刊誌だ。

「早く買わないと売り切れる!!」

サルファーは素早く立ち上がり、ポカーンとしているタンジェに言った。

「ほら!何モタモタしてんだよ!行くぞっ!」
「・・・ええ!今行きますわ!!」

サルファーの掛け声に反応し、タンジェも起立。
夕陽を背に、輝かしい笑顔で走り出す。

えっちより、漫画。
漫画大好きサルファー。

そんなあなたが・・・好きですわ。


+++END+++


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