世界に春がやってくる

短編(No.32)

コハク×ヒスイ他

※『世界に春がやってくる』(後日談含む)後のお話となります。


 12月31日。
 大晦日の夜、赤い屋根の屋敷にて。



 「さ〜飲むよぉ〜!」
アクアが手にしているのはカロリーゼロのコーラ瓶。
 未成年であるアクアの飲酒を相方のコクヨウが認めなかったので、仕方なくではあるが。
 飲みと食事で盛り上がる女性陣。
アクア、シトリン、タンジェと見事な巨乳が並ぶ。
 少し離れた場所に貧乳のヒスイ。
カルピスを美味しそうに飲んでいる。
 取り囲むのはいつもの男達、コハク、オニキス、トパーズ・・・
 ちゃっかりジストもいる。
そこからまた少し離れた場所に、一族の長メノウ、ジン、サルファー、スピネル、コクヨウ。
 総勢13名による年末パーティだ。



 宴もたけなわ。

 「んじゃ、いっちょやるかぁ!!」
メノウの号令で全員が一ヶ所に集まった。
 「やるって何を?」ヒスイが尋ねる。
 「宴会っていったらコレだろ!」


 【王様ゲーム】


くじで当たりを引いた者が“王様”となり、“命令”を下すゲームだ。
○○が○○に○○する・・・といったような事を王様が名指しで命令できるという一族改訂版である。
通常は王様以外のくじにも番号がふってあり、その番号でランダムに相手が決定されてしまうのだが、ほとんどがカップルでの参加のため、特別ルールとなっていた。
ちなみにくじを作ったのはコハクだ。珍しく小細工はしていない。
 箱の中にハズレのボール12個と当たりのボールが1個。
 箱には腕が一本入るくらいの穴が開いていて、そこから順番にボールを取ってゆく方式だ。
 「へ〜・・・面白そう」
ヒスイを始め、主に女性メンバーがノリノリで。
 早速、王様ゲーム開始。
 一回目の王様は・・・
「あ、俺じゃん」=メノウだ。


 『んじゃ、コクヨウがアクアの頭を撫でる、ね』


 「クソッ!なんでこうなんだよ!!」
 強制参加させられた上、皆の前で王様の命令に従わなくてはならない。
 荒れるコクヨウに、コハクが手本を見せた。
 「こうやって真綿で包む様に、優しくね?」
ふわっとヒスイを抱きしめて、ナデナデ。
するとヒスイが嬉しそうに顔を綻ばせた・・・流石のテクニックだ。
 「ほらぁ〜・・・アクアにもやってぇ〜。王様の命令は絶対なんだから〜」
 「チッ!やりゃイイんだろ!!」
 「爪立てんなよ〜」ニヤニヤとメノウが見守る。
コクヨウは乱暴ながらもアクアを抱き寄せ、ササッと頭を撫でた。
 「コクヨ〜大好きぃ〜」
そのまま、アクアは人目も憚らず体を密着させ。
 「バッ・・・離れろ!!」
 「や〜だよぉ」



クソッ!畜生!を連発するコクヨウをよそに、二回目のくじ引きへ。
 「お、また俺だわ」再びメノウが王様になった。


 『んじゃ、サルファーがタンジェに愛してるって言う、ね』


 「・・・ま、ゲームだからな」
アホ臭いと思いながらも、尊敬する祖父メノウには逆らわない。
サルファーはタンジェの肩を掴み、瞳をじっと見つめ・・・
「愛してる」
 「あぁ・・・サルファー」
 (“愛してる”なんて初めてですわっ!!)
もう死んでもいいと思うくらいに。
ハートを鷲掴みにされ、タンジェに動悸、息切れ、眩暈の症状が現れる。
 (なんて素敵な年末ですの・・・)



そして3回目。「あ〜・・・また俺」と、メノウ。


 『んじゃ、シトリンがジンの顔を胸で挟む、ね』


 「おお!やってやるぞ!来い!ジン!」
 「んむっ・・・」
あまりに久々で・・・ジン、鼻血。
 「おい!しっかりしろ!ジン!」
こんな調子で、王様ゲームは盛り上がった。



 「俺ばっか王様じゃ、つまんないだろうからさ」
くじを引くのは一番最後・・・残り物でいいとメノウが言って。
 次なる王様は・・・
「え?また俺なの?」メノウ自身も驚く。


 『んじゃ、オニキスがヒスイの耳をいやらしく舐めて噛む、ね』


 「・・・・・・」ついに来たかという顔で黙り込むオニキス。
 「何言ってるんですか!メノウ様!」
コハクの苦情を聞き流し、メノウは“いやらしく”を繰り返し強調した。
 「え?ちょ・・・お父さんっ!?」
 「まぁ、まぁ、ゲームだからさ」
 「・・・すまん」
オニキスが耳元で一言謝罪。
 「んっ・・・」
それから何度かヒスイの耳を舐め・・・カプッ。耳朶を軽く噛んだ。
 「あ・・・」
 「あぁっ!!ヒスイィィ!!」
コハクにしてみれば悔しくてしょうがない。
 (次こそは僕が!!)
 闘志を燃やし、次なる勝負に挑む・・・が。



 「やべっ、また俺じゃん」メノウが頭を掻く。
すまなそうな顔をしたものの、すぐにニヤリとして。


 『んじゃ、トパーズがヒスイに跪いて、手の甲にキスをする、紳士的にね』


 「・・・ジジイ」
トパーズは怒り爆発、割り箸真っ二つ。
 「ゲームだって!割り切れよ」
 普段やらないようなことをやらせるのが目的なのだ。
 楽しそうに笑うメノウに背中を叩かれ、トパーズが歩み出る。
 「・・・・・・」
 「ト・・・トパーズ?」
ヒスイの前で片膝を付くトパーズ。
 「おおお!」何故か傍目で見ているシトリンとジンが興奮している。
 「ヒスイに何を!!」
 暴れるコハクを取り押さえるのはオニキスだ。
 「落ち着け、ゲームだ」
トパーズはヒスイの手を取り、甲にそっと口づけた。どこまでも、紳士的に。
 「やればできんじゃん!」
 「ジジイ・・・見てろよ」
ゲームの借りはゲームで返す、と、燃えるトパーズ。



ところがところが。

 「あはは!引いちゃった」怒濤の王様、メノウ。
“命令”にも慣れたもので、間髪入れず言った。


 『んじゃ、ジストがヒスイの頬に好きなだけキスをする、ね』


 「えっ!?いいのっ!?」
 突然舞い込んだ幸運に、菫色の瞳を輝かせる。
ジストは恐る恐るヒスイの傍に寄り・・・チュッ。
そのあとすぐ真っ赤になって。
 「一回でいいや」と、照れ笑いした。
 (あ〜・・・幸せ〜・・・)
 「じいちゃんっ!ありがとっ!!」



 「んじゃ、俺はそろそろ抜けるわ」
 遊ぶだけ遊んで、メノウは撤退。
そして・・・最後の王様となったのは。
 「僕です」コハク、堂々宣言。
 (くぅぅ!ついにやったぞ!!)
その手にはしかと王様ボールが握られていた。
 「じゃあ・・・」
 今こそ逆襲の時と、邪悪な微笑みで命令を口にしかかったところで。
 「っと、時間だ」
 時刻は24時ちょっと前。
 「これは君に譲ろう」
コハクは王様ボールをジンに持たせた。
 「コハクさん?」
 「たまにはシトリンに“命令”してみるのもいいんじゃないかな?」
にこやかに鬼畜の片鱗を覗かせる。
 (コハクさんって、いつもは優しいけど、根はソッチの人だしな)
コハクの正体を知っているジンは、王様ボールの使い道も思い浮かばないまま、深く頭を下げた。
 「ありがとうございます」




 「お兄ちゃん?」
 「さ〜、行こうね、ヒスイちゃん」
 「え?行くってどこに?」
 訳も分からず引き摺られていくヒスイ。
コハクは企みあり気な笑顔で年末の挨拶を述べた。



 「それでは皆さん、良いお年を〜」



ヒスイを連れ、忙しなく出発・・・勿論空路だ。
 「・・・・・・」
 寒空の下へ強引に連れ出されたヒスイの身を案じ、オニキスはメノウに尋ねた。
コハクの悪友的存在のメノウなら知っていると思ったのだ。
 「あいつは何をする気だ?」
 「年越しエッチ」
あっけらかんとメノウが回答した。
 「なんかさ、除夜の鐘に合わせてヤるとか言ってた。次から次へとよく思いつくよなぁ、あいつ」
 聞いた時は死ぬほど笑った、と、肩を竦める。
 「・・・・・・」
オニキスは呆れて声も出ない。
 煩悩を打ち消すと言われる除夜の鐘で性行為に臨むとは。
 (あいつの考えることは全くわからん。まさしく煩悩の塊だ)




コハクはヒスイをしっかりと腕に抱き、除夜の鐘がよく聞こえるスポットへ向かっていた。
 上空から、次第に小さくなってゆく屋敷の明かりを見つめ、ヒスイが言った。
 「楽しかったね」
 「はは・・・そうだね」
 王様ゲームを除けば、そう言えなくもないが。
コハクの笑いは微妙だ。
 「変だよね」
ヒスイが白い息を吐く。
 「ん?」
 「ヒトが大勢いるところは嫌いなのに、なんか、居心地良くて」
 「くすっ。それはね、“家族”だからだよ」
 「家族・・・そっか!家族っていいね!お兄ちゃん!」
 「うん、そうだね」
 (可愛いなぁ・・・)
 除夜の鐘と共に何をされるか知らず、あどけなく笑う。
 「ヒスイ・・・」
あまりの愛しさに度々涙が出そうになるのだが、ぐっと堪え、空中で
長い長いキスをして。

 「・・・108回、頑張ろうね、ヒスイ」
 「?」(何だかよくわからないけど・・・)
とりあえず、返事は笑顔で元気良く。


 「うんっ!」



+++END+++


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