World Joker

短編(No.36)

三つ子



赤い屋根の屋敷、リビング。

お揃いの白いパジャマを着て、床に腰を下ろす三人。
 今夜、屋敷にはこの三人しかいない。
 兄弟水入らずで過ごせるよう、メノウ&コハクが取り計らったのだ。
それぞれ違う場所で生活し、顔を合わせる機会が少なくなってきた
三つ子のためのパジャマパーティなのである。

お揃いの衣装=パジャマと、お菓子と、ジュースが用意され。
 加えて、一通の手紙。
 「おじいちゃんが考えそうなことだよね」と、スピネルがクスクス笑う。
その手紙には・・・話のネタに困らないよう、“お題”がいくつか
記されていた。
 「早く始めようよっ!」ジストはやたらと楽しそうだ。


 【お題その@ 好きな女の子のタイプは?】


 「年下っ!」真っ先にジストが告白した。
 「ヒスイみたいにさっ!小さくて、守ってあげたくなるような
子がいいっ!いつもはツンとしてるのに、たまに甘えてきたり・・・」
 「ツンデレ、だろ」と、サルファー。
 「そうそう!ツンデレっ!ちょっと照れ屋で、怒った顔が可愛くて、
 本読むのと昼寝が好きで、髪が長くて、あと牙があって・・・」
それは、まさにヒスイだ。
スピネルは苦笑い。サルファーは呆れた顔で聞き流した。

 「女は丈夫で長持ちが一番に決まってるだろ」
お次はサルファーの主張だ。
 「美人はダメだな。趣味が合わない女も御免だね」
 家事が得意で、漫画に精通していて・・・などと色々言うが、
サルファーにはもう決まった相手がいる。
 条件を全て満たした、タンジェという素晴らしい婚約者が。

 「ボクは年上がいいな。よく笑う、おおらかな人がいい」
 背が高くて、子供好きで・・・と、スピネルも意外なほど詳細を語り。
 三人の好みは見事バラバラで。同じ相手を好きになるということは、
まずあり得ないということが判明した。


 【お題そのA 夜のオカズは?】


 「秘密」と、スピネルは、軽やかにかわし。
 「したくなったら、本番いくし」
サルファーは夢のない回答をした。10歳で童貞を捨てただけある。
 「ん〜と・・・」困るは、ジストだ。
 (オレはヒスイだけど・・・)
 初めてのオナニーから、現在に至るまでオカズはヒスイ一品。
 他に浮気もしない。
 (言えるわけないよな・・・)
スピネル、サルファー、そして自分にとっても、ヒスイは母親なのだ。
 「えっと・・・オレも秘密っていうか・・・」
ジストが気を回すまでもなく。
スピネルもサルファーも、ジストのオカズの正体は知っていた。
 「お前もさ、オナってないで、早く相手見つけろよ」
 相変わらず、辛口のサルファー。
 「学校でも教会でもしょっちゅう告白されてるのに、誰とも付き
合わないんだぜ」と、スピネルに告げ口する。
 「いいだろっ!べつに!オレはヒ・・・ヒヒヒ」
ムキになるジスト。
“ヒスイがいい”と言いかけて、無理矢理、不自然な笑いに繋げた。
ジストが隠すまでもなく。日頃の態度から、本命が誰かバレバレだった。
 「お前、そんなんじゃ一生童貞だぞ」
サルファーがトドメを刺す。
 「・・・・・・」(そうかもしんない・・・)
 何も言い返せないジストだった。


 【お題そのB 将来の夢は?】


 「漫画家」当然とばかりに断言するサルファー。
 続けて、スピネルが「ボクは普通の会社員かな。兄貴には教師やれ
 って言われてるけど」と、何気なく発言。
ところがそこで。
 「王位継がないのか?」意外そうにサルファーが言った。
 「え?ボク?」スピネルもまた意外そうに聞き返す。
 「だってお前の父さんって・・・」
かつてのモルダバイト王オニキスだ。
 従ってスピネルは、純粋な王家の血筋である。
 「でも・・・」と、スピネル。
 現時点で王座に就いているのは、婿養子のジンカイトだ。
その娘であるタンジェが王位継承権を持っている。
※モルダバイトの場合、継承権は男女平等。
そう、説明してから。
 「いずれ彼女と結婚する君が王位を継ぐのかと思ってた」
 漫画家も兼ねて、じゃ大変かもしれないけど・・・と、気遣いまで
見せるスピネルだったが・・・
「僕は婿養子に入るつもりはないぜ」
サルファーはバッサリ否定した。
 「・・・・・・」スピネル。
 「・・・・・・」サルファー。
スピネルはサルファーを。サルファーはスピネルを。
 次期モルダバイト王と思っていたのだ。


 (なんかこの二人、雲行きがアヤシイっ!!)BYジスト


 そしてサルファーは。
 「ジン義兄さん、相当ストレス溜まってるみたいだから、もう
 そんなに長くないかもしれないな」
と、毒を効かせつつ、スピネルに話を振る。
 「お前も覚悟しておいた方がいいんじゃないか」
 「だからそれは君が・・・」


 「喧嘩はダメだよっ!なっ!」


ジストが間に入り、二人の仲を取り持とうとするも・・・
「何、部外者みたいなこと言ってんだよ」と、サルファー。
 「たまたま姉さんが後を継いだから、こういう流れになってるん
 だろ。兄さんが後を継いでたら、お前が跡取り」
するとジストは、何一つ反論せず。
 「そっか!じゃ、オレやるよ!」と、言った。
 「二人が喧嘩するくらいなら、オレがやる!」
 「・・・無理に決まってるだろ。お前みたいな甘ちゃんに任せたら、
 一日で国が潰れる」ぼやくサルファー。
 「え?オレってそんなにダメ???」ジストが首を傾げる。
 「クスクス。ジストは優しすぎるから」と。
スピネルにはいつもの笑顔が戻り。




 『それなら代わりにボクがやるよ』
 『お前にやらせるくらいなら、僕がやってやるよ』



スピネルとサルファーのセリフが被る。
 「・・・・・・」スピネル。
 「・・・・・・」サルファー。
こうなるともうあとは笑うしかない。
 「クスクス。もうしばらく姉貴とジン義兄さんに頑張って貰おう」
と、スピネルがうまくまとめ。
 「そうそう!そのうちもうひとり産まれるかもしんないしっ!」
と、ジストが花を添える。
 「ま、そうだよな。いないんなら、作ればいいだけの話だろ」
と、サルファーも納得。



 引き続きクスクスと笑って、スピネルが言った。
 「いいよね。兄弟って」
 父親は全員違えど、母親はみな同じ。ヒスイの血で繋がっているのだ。
サルファーとジストは少々照れつつ・・・
「まぁな」「うん!オレもそう思うっ!」
そんな二人にコップを渡し、ジュースを注ぐスピネル。
 仲直りの乾杯、だ。
 「ボク達はまだジュースだけど」
お酒が飲める歳になったら。



また三人で、乾杯しよう。



+++END+++

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