COUPLE WORLD

読切

珊瑚の夜

14才にして子供を欲しがる天才エクソシスト、メノウに無理矢理、妻にされてしまった吸血鬼のサンゴ(推定20才〜)のお話。
それが・・・巡る物語のはじまりだった・・・


[ 1 ]


『できないことをさがしているんだ』

これがメノウの口癖だった。
若干14歳の天才エクソシスト。
それだけに留まらず、白・黒魔術・召喚術・錬金術・紋章術どの分野でも天才としか言いようのない才能を持っていた。

「俺って何でもできるから」

たやすくエクソシストの頂点に立ち地位も名声も手に入れた。
天才ゆえにである。
そして、美形。明るい栗色の髪に翡翠色のぱっちりとした瞳。人形のような顔立ちだ。
そんな彼が唯一つ持っていないもの・・・。
それは“家族”だった。

「俺さぁ、早く自分の子供が欲しいんだ。俺の血を引いた子供。顔は似ていれば似ているほどいい」

メノウは得意の召喚術で強引に呼び出し、契約した天使、コハクにそう話した。
コハクは麗しい女性のような風貌しているが、性別は男だ。長い金髪を後ろで一つ結びにしている。

「それなら・・・早くメノウ様の子供を産んでくれる女性を探さないと」

コハクは入れたてのお茶をメノウの前に差し出した。
メノウはソファーに寝そべるようにしてくつろいでいたが、お茶がくると姿勢を正して、一緒に出されたクッキーをつまみながら言った。

「そうなんだよねぇ。でも俺、人間の女はやだなぁ。遊び相手には丁度いいけど」

コハクは驚かなかった。
メノウが持つ人間の女性に対しての嫌悪感の理由を知っていたからだ。
メノウは二度母親に捨てられた。

産みの親はメノウの能力を恐れ、3年で親を放棄した。父親はどこの誰だかわからない。
運良く拾われて1年ほど養われたが、その夫婦は自分たちの間に子供ができると、あっさりメノウを置き去りにした。
幼いメノウは彷徨い、精霊の森に迷い込んだ。
そこに棲む心優しい精霊達に育てられ、13で森を出た。

「まぁ、別に相手は人間でなくても支障はないと思いますけど」
「綺麗で、丈夫で、長持ちする生き物を召喚しようと思ってるんだ」
「召喚・・・ですか?」
「そ。だって俺天才だし。絶対うまくいくって」
「そうだといいですね」

コハクは和やかな顔で笑った。

  

「98・・・99・・・100っと」

メノウは殺した悪魔の数を数えた。
教会から請け負っている仕事は、悪魔を狩って、ひたすら狩って、その数を減らすことだった。
世界を悪魔の手から守るという名目で。

「100匹ぐらいなら15分・・・いえ、10分でいけますね」

コハクは美しい顔に似合わず、禍々しい装飾のゴツイ大剣を所持している。

「1日10分で報奨金がっぽりかぁ」

うしし、と白い歯を見せてメノウが笑った。

「悪魔にはとことん恨まれるけどね」
「まぁ、そうですね」

『どうってことないけど』

メノウとコハクは声を揃えて言った。

「本部に報告してきてくれる?本日のノルマ達成。って。お前ならひとっ飛びだろ」
「はい。行ってきます」

コハクはメノウの指示に従った。
普段は見えないようにしている翼を解放し、空へと飛び立つ・・・。

「いってらっしゃい〜」

メノウは上空に向かって手を振った。

  

「毎日これだけ殺ってたら、この辺の悪魔もそろそろ底をつくだろうなぁ。それにしてもコハクの奴・・・突然、悪魔を殺すのはやめたいとか言い出して・・・頭変になったんじゃないの?今まで散々殺っといてさ」

悪魔払いに従えていたコハクにボイコットされ、少々不機嫌になりながらメノウは今日も殺した悪魔の数を数えていた。
三日月が微かに地表を照らすだけの薄暗い晩である。

「98・・・99・・・あれ?」

一匹足りない。メノウはぐるりと見回した。
周囲は屍の山で見通しが悪い。いつもならコハクが天使の力で全てを塵に還してしまうのだが、今日は逃げられてしまった。

(俺が浄化してやるのも面倒臭いしなぁ。かといってこのままでも腐るだけだし・・・)

足りない悪魔と死体の処理について考えながらメノウは歩いた。

「・・・ん?」
(あれは・・・)

屍の間から銀色の塊が見えた。

(銀の吸血鬼!?)

これは大物だと、メノウはにやりとした。
本来悪魔が忌むべき銀色の髪をした吸血鬼は、かなり高い位に属しており、その特殊な能力ゆえ、他の吸血鬼とは一線を画している。

(ちょうどいい暇つぶしになりそうだ)

「・・・殺るか」

メノウは魔道士用の杖で自分の肩をとんとん叩いた。
そうして相手をよく見定めようと目を凝らした。

(・・・何してるんだ?)

視線の先に意外な光景が広がる。

「じっとしていて。今傷口を塞ぎますから・・・」

銀の髪の主は女性だった。
清楚な・・・とびきりの美人だ。

「くうぅ〜ん・・・」

メノウが仕留め損ねた一匹を膝に抱いている。子犬のような姿をしているが、成長すれば人を喰い殺す魔獣になる。

(介抱してる・・・?悪魔が悪魔を・・・?)

「そういえば・・・」

最近よく聞く、噂。
夜の戦場に現れては傷ついた兵士を癒す女。

(白銀の聖母だなんて言われてるけど、正体は悪魔じゃん。馬鹿だなぁ、みんな)

小馬鹿にした笑いを浮かべつつも、メノウは女の行動に興味をひかれた。
女は小さな魔獣をひと撫でし、回復呪文を唱えた。

「!?」

しかしそれは傷の回復を促す光の属性のものではなく、相手の傷を自分が引き受けるという闇の魔法だった。
女は魔獣の傷をすべて引き受け、体中を傷だらけにしならが微笑んだ。

「もう大丈夫ですよ。さぁ、おゆきなさい」

フーッ!と魔獣が毛を逆立てた。
メノウがすぐ側まできていた。

「あ〜ぁ。キミのせいで今日のノルマ達成できなかったじゃん」
「・・・・・・」
「キミ、代わりに死んでくれる?」
「・・・いいですよ。あなたのお好きなように」

女は顔をあげてメノウを見た。優美な顔立ちとは違和感のある緋色の瞳をしている。

「・・・名前、なんていうの?」
「・・・サンゴです」
「ハーフなの?」

正当な“銀”の一族は髪も瞳も銀色のはずだ。

「・・・いいえ」

サンゴは瞳を伏せた。

「・・・俺のこと知ってる?」

瞳を伏せたままサンゴはゆっくりと頷いた。

「覚悟はできています。抵抗するつもりもありません。ですが・・・この子のことはどうか見逃して・・・」

サンゴは、メノウに怯える魔獣を後ろに庇いながら言った。

「・・・ぷっ」

出し抜けにメノウが吹き出した。

「?」
「変なやつ!」
「??」
「いいよ。今日のところは。なんか殺る気失せた」

メノウはサンゴを囲む屍の山に、ポケットから出した聖水を振りかけた。
そして首からさげたロザリオを高く掲げ、短い呪文を唱えた。

「・・・・・・」

サンゴは狐につままれたような顔をしてメノウの様子を見ていた。

(血も涙もない史上最悪のエクソシストだってきいていたけれど・・・)

「魂の浄化を・・・」

悪でも魂を浄化すれは生まれ変わることができるという。迷信だ。

「ああ、これ?邪魔になるでしょ?」

当たり前の事をしただけだと、メノウは笑った。
99体の屍は跡形もなく消え去っていた。

「・・・ねぇ、一緒にこない?」
「え・・・?」

メノウはサンゴの細い手首を掴んだ。
サンゴの気持ちなどお構いなしに、強引に手を引いて、屋敷へと連れ帰った。
メノウの屋敷は森の奥にあった。結界が貼られていて常人には見えないようになっている。
ボイコットをしたコハクが主人の帰りを察して玄関に明かりを灯した。

「おかえりなさい。ようこそ」

コハクはメノウがいきなり吸血鬼を連れ帰っても全く動じず、にこやかに歓迎の意を表した。

「さぁ、どうぞ」






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