世界はキミのために

裏部屋U No.02

SWEET HONEY LIFE

ヒスイ、妊娠!?その時オニキスは・・・


モルダバイト王オニキスは、この夜も王妃ヒスイを溺愛していた。

天蓋の下で重なる裸体。
オニキスが覆い被さるようにして、幼く華奢なヒスイの全身を包み込んでいる。

「ヒスイ・・・」

唇の輪郭を指でなぞり、そこに自分の唇をのせるオニキス。

「・・・ん・・・」

互いに唇を啄み合いながら、少しずつ舌を絡めてゆく・・・



※性描写カット


 
甘い・・・蜜漬けの生活。

 

※性描写カット


 
「ヒスイ・・・」
「ん・・・」

乱れた息のまま、最後は必ずキスをして。
幸せな・・・新婚の夜。

だが、オニキスにはひとつ気にかかることがあった。
傍らですやすや眠るヒスイを見つめ・・・

「・・・・・・」

(気のせい・・・なのか?)

ヒスイのお腹が若干ふっくらして見える。
そろそろ気のせいでは済まなくなってきた。
しかしヒスイは何も言わず、いつもと全く変わらない態度で・・・オニキスは判断に迷っていた。

ヒスイ、妊娠疑惑。

(やっぱり気のせいじゃないわ!!)

湯上り後のヒスイを凝視するローズ。

(これって絶対妊娠よね!!)

ここ最近、気になってはいたのだが。
ヒスイは何も言わず、いつもと全く変わらない態度で・・・ローズも判断に迷っていた。
しかしやはり・・・お腹が目に付く。

「・・・なによ」

ジロジロ見られるのが不快らしく、ヒスイは口を尖らせた。

「ヒスイ様、お腹が少し・・・」

ローズが言いかけたところで。

「別にっ!!ちょっと太っただけだもん!!」

ヒスイはムキになって否定した。

(太った!?)ヒスイの言い分にローズは唖然。

「とにかく主治医に・・・」
「いやっ!!」

ローズの手を振り払い、逃げるヒスイ。

「あ!ヒスイ様!?もう!!逃げ足だけは早いんだから!!」
 


オニキスやローズが気付くのであれば、城で働く人間の中にも当然気付く者が出てくる。

「王妃様、もしやご懐妊では?」
「いつ正式発表されるんだ?」

あちこちで妊娠説が囁かれたが、当の本人は

「太った」

の一点張り。
・・・城中が困惑し始めた。



「ヒスイ様の言動があまりに不審なので、父親が違うのではないかという噂まで流れてます」

と、ローズ。

「・・・・・・」

腕を組み、オニキスは軽く溜息をついた。

「オレから言っても構わんのだが・・・」

真偽を確かめようとすると、脱兎の如く逃げるのだ。
そして、この夜も・・・

「これだけ?」と、ヒスイ。
「・・・これだけだ」と、オニキス。

二人でベッドの上にいても、口づけを繰り返すだけで、先に進まないオニキス・・・不思議そうな顔でヒスイが見上げた。

「なんで?」
「・・・・・・」

(聞きたいのはこっちだ・・・)

お腹が・・・気になる。
身籠っているのなら、無理はさせられない。

「お前、妊・・・」

ぴくっ!ヒスイはいち早く反応し、わざとらしいくらいの大声でオニキスの言葉を遮った。

「私っ!ローズと寝るからっ!!」



・・・住み込みメイド長、ローズの部屋。

「ヒスイ様ぁ!!?」

真夜中に王妃が尋ねてくれば驚くに決まっている。
ヒスイは一晩泊めて欲しいと願い出た。

「・・・では、こちらへ」

王妃相手では断ることもできず、ローズはヒスイを自室に招き入れた。

「いいわよ。その辺に転がって寝るから。ベッドはローズが使って」
「そういうわけには・・・」(あ・・・)

王妃の自覚ゼロのヒスイに振り回される最中、ふと名案が浮かぶ。
したたかな微笑みで、ローズはベッドから枕を掴み取った。

「ヒスイ様」
「ん〜?」
「失礼します」

一礼の後、なんとローズは枕でヒスイに攻撃を仕掛けた。

「ひぁ・・・っ!!」

するとヒスイは咄嗟にお腹を庇い、蹲った。

「あ・・・」

つまりそこに“守るべきもの”があるということで。
枕をベッドに戻し、ローズは笑った。

「ヒスイ様」
「・・・なによ」

ヒスイはお腹を抱えたまま、耳まで赤くして俯いていた。

「おめでとうございます」
「・・・っ!!」

ローズに一本取られた。完敗だ。
“ぐうの音も出ない”とはまさにこのことで。

「どうしてオニキス様に言わないんですか」
「・・・・・・」

観念したヒスイは、ローズの質問に正直に答えた。

「・・・恥ずかしいから」
「恥ず・・・かしい?」

驚きの表情で聞き返すローズに。

「うん」

と、ヒスイは小さな声で頷いた。

(ハァァァーッ!!?そんな理由で!!?ヒスイ様って、どんだけ照れ屋なの!!?)


 
翌朝、食事の席にて。

「・・・・・・」

どうにも落ち着かないヒスイ。
妊娠説が濃厚になり、メイド達があれやこれやと気を遣い始めたのだ。
本人は認めていないというのに、食事から衣服までマタニティ仕様。
かえってそれに追い詰められ、この朝、ついにヒスイは・・・

「たくさん召し上がってくださいね」

と、続々並べられてゆくご馳走に対し、言ってしまった。

「ダイエットするからいいわ」
「ヒスイ様!?」

以下、ローズの心の叫び。

(まだ認めない気!?ここまできて何でダイエット!!?)

そんなことをすれば、妊娠中の体に障る。
ヒスイの暴走、ここで止めなければ大変なことになる、と。
真実を告げるべく、ローズが口を開いた時だった。

「・・・ヒスイ」

オニキスがフォークを置いた。
いつもと少し声のトーンが違う。

「こっちへ」
「・・・・・・」

ヒスイをバルコニーに連れ出すオニキス。
メイド達の目もあるが、構わずそこでヒスイを抱きしめた。

「!?オニ・・・キス?」

ヒスイ的に嫌な予感がする。

(言われそう・・・逃げなきゃ・・・)

「は・・・離してっ!」

一度はオニキスの腕を抜け、逃走に成功したかのように思えたが。

「・・・ちゃんと人の話を聞け」
「や・・・っ・・・」

手首を掴まれ、背後から捕獲されてしまった。

「・・・そんなに頼りない男か、オレは」

オニキスは再び強くヒスイを抱きしめ・・・そして。
ヒスイのお腹に手をのせ、語りかけるように言った。

「挨拶が遅れたな」

「オレが・・・父だ」
「なっ・・・なに言って・・・」

ヒスイは湯気が出るほど真っ赤になり、しどろもどろ。

「違うもんっ!!」

と、また否定した。が。
オニキスはヒスイに顔を寄せ、話を繋いだ。

「・・・そろそろ認めてくれ。オレのこともそうだが・・・」

『否定されてばかりでは、お腹の子供が可哀想だろう』

「!!」

オニキスの言葉にハッとした顔をするヒスイ。
“恥ずかしい”という身勝手な理由で、尊い命を否定したのだ。
真に恥ずべきは、妊娠したことではなく、それを隠そうとしたことであると気付く。

「・・・ごめんなさい」ヒスイはオニキスに詫び。

「ごめんね」お腹の子供に謝った。

続けて、

「ちゃんと言えなくて、ごめんなさい」

と、ペコリ。
ローズ率いるメイド達に向け、頭を下げた。

「ヒスイ様・・・」

(王妃がメイドに頭を下げるなんて前代未聞です・・・)

ここでも唖然とするローズ。
しかし、王オニキスはそれを止める様子もなく、温かな眼差しで見守り。

「もっと早くに気付いてやるべきだった・・・すまん」と。

ヒスイの頬を撫で、自らも謝罪した。
そのまま、人目も憚らずキスをして。

「・・・よろしく頼む」

オニキスが言うと。
ヒスイは迷いのない笑顔で大きく頷いた。

「うんっ!!」

「ヒスイ様が認めた!!」

他のメイド達と手を叩き合って喜ぶローズ。

(オニキス様・・・凄く嬉しそう)

厨房のコックや大臣達も集まり、城は一気にお祭りムードだ。
 

同日、王妃の懐妊が正式発表され。
国中が歓喜したのは言うまでもない。

その後・・・モルダバイトに新しい命が誕生した。


+++END+++

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