世界はキミのために

裏部屋U No.03

王と王妃のおもちゃ箱

オニキス、ヒスイ調教にチャレンジ!?


[前編]

モルダバイト城―真夏の夜。
離宮。パウダールームにて。

「今夜もお綺麗ですよ、ヒスイ様」

メイド長ローズが誇らしげに言った。
王に寵愛されるよう王妃を美しく磨き上げるのも重要な仕事のひとつだ。

ヒスイが他のメイドに肌を許さないので、今やローズが側近中の側近で。
エステティシャンの役目までこなしている。
そんな訳で、ローズは昼夜問わずヒスイに付き添っていた。

「オニキス様って、どんなエッチするんですか?」
「べつに普通だと思うよ」

二人はしょっちゅうこんな会話をしていた。
メイド達は皆、王オニキスに憧れと尊敬の念を抱いている。

ローズもそのひとりで。
オニキスの愛妻ヒスイから聞き出す話は、メイド達の間で格好のお喋りネタになる。

とはいえ、話下手なヒスイの口から、メイド達が期待するような話題はなかなか出てこない。
そこでローズは考えた。ネタがないなら作るまで、と。

「じゃあ、ヒスイ様は?どんなテクニックを?オニキス様を射止めるくらいだから、さぞすごいんでしょうね?」

まずは遠回しに、ヒスイにプレッシャーを与えるローズ。

「え?私???」
「まさかマグロなんてことないですよね?」
「・・・うん、まあ」

そう返答したヒスイの目が泳ぐ。

(ヒスイ様ってホント嘘つくの下手よね)

ローズは笑いを堪えながら。

「ヒスイ様、大人のオモチャってご存知ですか」

大きな宝石箱を出して、蓋を開ける。
中には、大人のオモチャの筆頭ともいうべきものが入っていた。

先日、メイド仲間と飲みに行ったところ、偶然性具を扱う店を見つけたのだ。
そこでしこたま買い込んできた。
当然、ヒスイに使わせるために、だ。

「わ・・・なにこれ・・・」

世間知らずのヒスイは、興味津々で。
熱心に、ローズの話を聞いていた。

「王と王妃が円満であることが、国の安定に繋がるんですから。夜の方もしっかり頑張ってください」

そうローズに言いくるめられ、奮い立つヒスイ。

「ん!わかったっ!使ってみるっ!」

 

離宮。夫婦の寝室にて。

「オニキス!見て見て!」

部屋に送り届けられたヒスイは、早速オニキスの前で宝石箱を開いてみせた。
中味は宝石ではなく、数種類のバイブとローションが入っている。

「・・・何だそれは」

わかっていて、あえて訊くオニキス。
するとヒスイは・・・

「何って、大人のオモチャでしょ?」

ローズにあれこれ吹き込まれたため、すっかり詳しくなっていた。

「使ってみようよ」と、わくわくした表情で“おどうぐH”をねだるヒスイ。

「・・・・・・」一方オニキスは・・・不服だ。両腕を組んで黙る。

(オレに何か不満でもあるのか?これは・・・あてつけか?)

「・・・没収だ」と、オニキスはヒスイからバイブを取り上げた。

「やだっ!返してっ!」

バイブを取り返すべく、ヒスイがぴょんぴょん跳ねる。が。
長身のオニキスとチビっ娘のヒスイ。
どんなに高く飛んでも届くはずもなかった。

「なんでだめなの?」

拗ねた顔でヒスイが見上げる。
はぁーっ・・・オニキスは深い溜息で。

「・・・だめなものはだめだ」

もちろん、このままでは終わらない。

 

翌日。AM11:50。

オニキスは各種申請の承認作業に追われていた。
午後からは視察の予定も入っている。
ゆっくり昼食を摂る時間もなかった。
そんな折。

「オニキス〜・・・」

ヒスイがやってきて。
オニキスに身を寄せると、横からネクタイを引っ張った。

「・・・仕事中だ」と、一度はヒスイを突き離すも。

「・・・・・・」惚れた弱味で、どうしてもヒスイを甘やかしてしまう。

オニキスは席を立ち、ヒスイと向き合うと・・・

「・・・夜までこれで我慢しろ」

そう言って、ヒスイの頬を両手で包み、たっぷりと口づけた。ところが。

「あ・・・んぅ・・・」
「・・・どうした?」

オニキスはヒスイの変調に気付いた。
唇も頬も異様な熱を帯びている。

「オニ・・・キス・・・わ・・・たし・・・あッ・・・ん」



※性描写カット



「・・・したいか?」

オニキスが尋ねると、ヒスイはこくり、頷いた。

カーテンを閉め、薄暗くなった室内。
そこにはベッドすらなく。
オニキスはヒスイを壁に寄り掛からせた。

「はぁ・・・ぁ・・・オニ・・・」
「・・・・・・」



※性描写カット

 

「いいのか?」
「ん・・・」



※性描写カット 



ここからが、まさに男のみせどころで。

(・・・仕方があるまい)

ヒスイを調教するような真似はできればしたくなかった。
しかし。

(昨日といい、今日といい・・・)

ヒスイに芽生えた、大人のオモチャへの興味を早目に断ち切っておく必要がある。
と、オニキスは考え。

「・・・ヒスイ」
「う・・・ん?」
「よく見ておけ」
「醜いものだが・・・生憎これしか持ち合わせていない」



※性描写カット


 
「・・・これでは足りんか」

オニキスが言った。



※性描写カット



「オニキスの・・・だけで・・・い・・・」
「ヒスイ・・・」

その言葉を聞いて、ひと安心するオニキス。

「あ・・・オニ・・・」

右腕を床につき、左手でヒスイの肩をしっかり掴んで。
熱い唇を重ねる。

「ん・・・」

ヒスイもオニキスの肩に手を掛け。
ちゅっ。ちゅっ。
セックスのあとの愛情確認。

・・・その時。
扉が叩かれた。

オニキスの側近シンジュの声で。

「オニキス、そろそろ出発しないと間に合いませんよ」と、急かされる。

「・・・・・・」
(そうだった)

視察の仕事が残っていたのを思い出す。

「・・・すまん」

ヒスイにもう一度キスをしてから。
オニキスは立ち上り、ベルトを締めた。
かなり忙しない。

「いいよ、時間ないんでしょ」

肩で息をしながら、ヒスイが笑った。

「行ってらっしゃい」
「ああ、行ってくる」

弛んだネクタイを締め直しながら、早足で廊下を歩くオニキス。

(・・・何をやっているんだ、オレは)自身に呆れる。

(真昼間からヒスイを抱くとは・・・)しかも本気を出してしまった。

「・・・ありえん」

猛烈に反省するオニキスだったが・・・話は翌日に続く。

「オニキス!見て見て!」
「・・・・・・」
(なぜそうなる・・・)

調教、失敗。
昨日、あれだけ体に言い聞かせた筈なのに。
ヒスイは懲りていなかった。

「じゃ〜ん!」

得意になってお披露目したのは、ぴっかぴっかの・・・貞操帯。
バイブは諦めたようだが、メイド達に次なるオモチャを勧められ・・・今に至る。

「ここに穴が開いててね、ちゃんとおしっこできるんだよ!」

と、ヒスイは嬉しそうにしている。

「・・・・・・」

ピンクゴールドを基調としたステンレス製で、確かにデザインはキュートだ。
サイズも小柄なヒスイにぴったり・・・恐らくオーダーメイドの品だ。

「・・・・・・」
「でね、ここの鍵をオニキスにあげたら喜ぶかなって・・・あれ???」
「・・・・・・」

待っても、鍵が出てこない。
ヒスイは室内をうろうろし始めた。
しゃがんで絨毯を捲ってみたり。
背伸びして壺を覗いてみたり。
この行動は間違いなく・・・紛失物の捜索だ。

「・・・・・・」
(この女は・・・)

どうしてこう次々と問題を起こすのか。
オニキスは額に手をあて、深い溜息とともに言った。

「鍵を・・・なくしたか」
「うん・・・そうみたい」


[中編]


オニキスが捜索に加わり、夫婦二人で貞操帯の鍵を探す。
家具を動かしてみたり、床を這い蹲ってみたり。
一国の王と王妃が・・・何とも間抜けな光景だ。

「う〜ん・・・やっぱりない。どこに落としたんだろ・・・」

目につく場所は全部探したが見つからなかった。

「ヒスイ、こっちへ来い」
「うん?」

オニキスが手にしているのは・・・針金。
それで鍵を開けるつもりらしい。
貞操帯は、バストとヒップ、上下それぞれに鍵穴があり、ヒスイ曰く、無くした一本の鍵が兼用となっているとのこと。

「鍵開け?やったことあるの?」

と、瞬きするヒスイ。

「・・・あるわけなかろう」

生粋の王族であるオニキスが、コソドロのような真似をする筈がない。
ヒスイのおかげで、人生初のピッキングに挑戦する羽目になったのだ。
まさに苦肉の策だ。

「・・・・・・」

精神統一。
まずは下の鍵穴に針金の先を入れ。

カチャカチャ・・・カチャカチャ・・・
カチャカチャ・・・カチャカチャ・・・
カチャカチャ・・・カチャカチャ・・・

「・・・・・・」
(だめか・・・)

思いの外、複雑な構造になっているようで、手ごたえがない。
そうこうしているうちに、日付の変わる時刻に差し掛かり・・・
ふぁぁっ。ヒスイは欠伸。

「・・・・・・」

頑張りは報われず、だ。
オニキスはついに諦め。
針金を抜くと。

「ヒスイ」
「ん?」
「・・・このことは誰にも言うな。例えローズでも、だ」

愛妻の不祥事は表沙汰にしたくない。
下手をすれば、モルダバイトの歴史に残る珍事なのだ。

「うん、わかった」ヒスイは頷き。
「私、もう寝る。これじゃえっちできないし。明日また探すよ」

そう言って、くいくい、オニキスのシャツを引っ張った。
上を向いて目を閉じる。
“キスして”の合図だ。

ちゅっ。
オニキスがおやすみのキスをすると、ヒスイは一足先にベッドへと潜り込み。

「おやすみ、オニキス」
「・・・ああ」

オニキスも所用を済ませ、1時間後、ヒスイの隣で眠りについた。

それから2時間が経過した、真夜中のこと。

もぞもぞ・・・動き出したのはヒスイだ。

(やっぱりこのままって訳にはいかないわよね)

オニキスに気付かれないよう、そっとベッドを抜け出す・・・が。

「?」右足が動きについてこない。見ると・・・

「!?なん・・・」

大声を出しかけて、慌てて口を押さえるヒスイ。
右の足首に、ネクタイが巻きついている。
二本繋げたものだ。
その先は、天蓋の柱に結びつけられ・・・つまり、拘束だ。

「・・・こんな夜中に、ひとりで何処へ行くつもりだ?」

と、起き上るオニキス。

「オニキス、これなに・・・」
「・・・見ての通りだ」

ヒスイの行動パターンは把握している。
妙に諦めが良かったので、何かあると思い、先手を打っておいたのだ。
ヒスイは口を尖らせ、言った。

「コレ買ったところに行けば、鍵のスペアとかあるんじゃないかと思って。それがダメでも、製造メーカーを教えて貰えれば・・・図面とかあるはずでしょ?」

「・・・・・・」
(製造元、か。悪くない考えだ)

「それで、店の場所はどこだ?」

感心しつつ、オニキスが尋ねる。しかし。

「ん〜と、ペンデロークの多国籍市場って言ってた気がするんだけど・・・」

正確な場所も店名も不明。

「行けばわかると思って」

と、ヒスイは言うが、いつもの楽観的解釈で何の根拠もない。
希望は早くも潰えた。

「ローズなら、お店の場所知ってるよ?」
「・・・わかった。明日オレが聞き出す」
「じゃあ、これほどい・・・ん・・・」

ヒスイの顎を掴み、濃厚キスで黙らせる。
勝手に何処かへ行かれたらと思うと、おちおち寝てもいられない。

(毎晩こうしてやりたいくらいだ)

「・・・今夜はこのまま寝ろ」

 

翌日。

「どうでした?」

オニキスの顔を見るなり、メイド長ローズが身を寄せてきた。
オーダーメイドの貞操帯は、自信の献上品だ。
当然、評価が気になる。

「悪くなかった」

と、オニキス。
鍵の紛失を悟られないよう、会話に余裕を持たせ。
まずはローズの好きなように喋らせる。

「やっぱり、鍵を開ける瞬間って興奮します?」
「・・・ああ、確かにあれは興奮する」
「!!」

オニキスが下ネタに付き合うのは稀なことで。
ローズの目が輝く。

「じゃあ、じゃあ、昨晩は野獣のようにヒスイ様の体を貪って・・・」
「・・・まあ、そうだ」

店の場所を聞き出すため、とにかく今はローズに話を合わせるしかない。
半分自棄だ。
するとローズは調子に乗って。

「前から気になってたんですけど」

大胆な質問だけに、小声で。

「オニキス様って、一晩に何回くらいするんですか?」
「・・・・・・」

嘘を述べようが、真実を述べようが、メイド達の噂の餌食になることは間違いない。
オニキスは覚悟を決め。

「・・・ヒスイが望むだけ、何度でも、だが?」と、答えた。
「ヒスイ様が・・・望むだけ・・・」

呟くローズ。
想像して、ほのかに赤くなる。
毎晩オニキスに尽くされるヒスイ・・・正直ちょっと羨ましい。

(ヒスイ様は“普通”って言うけど、オニキス様ってエッチ上手そうだし)

憶測でしかないが、メイド達の間では評判だ。

「それで・・・だな」

オニキスは咳払いをひとつ。

「他のものも試してみたいのだが」

と、話を切り出した。

「!!」
(そんなに!?そんなに気に入って貰えたの!?)

まさかの展開に、ローズは興奮。
とはいえ、そこはメイドのプロ根性で。努めて冷静に。

「は・・・それではすぐにご用意致します」
「いや、ヒスイと二人で行ってみようと思う。店の場所を教えてくれんか」
「!!」(
オニキス様が直々にオモチャ選び!?しかもヒスイ様まで連れてくなんて!!どんだけハマったの!?)

大スクープだ。興奮、極まる。

「・・・内密に頼む」

一応、オニキスが釘を刺す。
ローズは満面の笑みで。

「勿論です」

 

王という立場上、お忍びで町に出掛けるのも一苦労だ。

(あとはローズがうまくやるだろう)

お喋り好きが玉にキズだが、実に万能なメイドなのだ。
赤裸々トークで何とかローズを味方につけることに成功した。
しばらくは安心して城を空けられる。

オニキスは、ヒスイに黒のマントを着せ。
フードを深く被らせた。

「行くぞ。オレから離れるな」
「ん!わかった!」

二人はしっかり手を繋ぎ、裏門から出発した。

国境の町ペンデローク。多国籍市場。

文化交流という名目で、営業を許可しているため、各国の商人がこぞって出店しているエリアだ。
連日大賑わいのショッピング通り・・・その裏手に目的の店はあった。

『ポルノショップ』

堂々と看板が掲げられ、店の中にはありとあらゆる大人用玩具が陳列されていた。
バイブ・ローター・媚薬の類から、用途不明のものまで。
セクシーな下着や、貞操帯の見本もいくつか飾られている。

「わ・・・なんかいろいろあるよ!」

ヒスイは性懲りもなく店内を見て回り。
一方オニキスはよそ見することなく、まっすぐ奥のレジへ向かった。
だいぶ荒んだ感じの青年店主相手に、大まかな事情を話す・・・が。

「すいませんねー。こういう商売なんでー」

信用第一。
顧客情報は絶対に明かせないという。
スペアの鍵はおろか、製造元も企業秘密だ。

「・・・・・・」

ここまで来て、引き下がるつもりはない。
如何にして口を割らせるか、画策するオニキス。その時。
トントン、指で軽く肩を叩かれた。
振り向くと・・・すぐ後ろに不気味な男が立っていた。

仮面で半分顔を隠し、頬には蝙蝠のタトゥー。
誰が見ても警戒する風貌だ。
男は胸に手を重ね、深く一礼。
その態度は驚くほど紳士的だった。

「あー・・・その人ッスね、鍵開けの名人らしくて」

と、青年店主。
“鍵を失くしてお困りの方”対象に、この界隈で商売をしているのだという。

「鍵開けの・・・名人だと?」

 

 [後編]


「如何にもです」

と、男は返事をした。

「どんな鍵でもこれ一本で」

そう言って、ヘアピンをオニキスに見せる。
種も仕掛けもない、ごく普通のヘアピンだ。
ポルノショップ店主談では、結構な実績を持っているらしい。

「・・・・・・」

信用できる人物か、オニキスが見定めていると。
そこにヒスイがやってきた。

「誰、このヒト?」

オニキスの隣に立ち、視界を確保するためフードを外す。
そして。

「あ、サーカス芸人?」

ぽろっと、第一印象を洩らした。
すると男は。

「違いますよ。ウフフ・・・お茶目なマドモアゼルだ」
「じゃあ、何???」

ヒスイは不思議そうな顔で男を見上げ。男は自己紹介を始めた。
オニキスは、その様子を傍目で見つつ・・・

(すべてが本当ならば、願ってもない話だが・・・)

思案の末、口を開いた。

「・・・どんな鍵でも開けられると言ったな」
「ウィ、ムッシュ」

男が返事をする。
このやりとりにピンときたヒスイが、男の前でコートを開いた。

「これの鍵を失くしちゃって。開かなくて困ってるんだけど・・・ん?何?オニキス」

両腕でヒスイを懐に引き戻すオニキス・・・男を見据え、言った。

「ならば、鍵の開け方をオレに教えて欲しい」

驚いたのはヒスイだ。

「え?ちょっ・・・オニキスっ!?」

急遽弟子入りが決まったオニキスは男の店へ出向き。
ヒスイはポルノショップに預けられた。

「・・・・・・」
(何、この展開・・・)

再びフードを被ると、ぽとっ、中から飴が落ちてきた。

「?」
(さっきのヒトが入れてくれたのかな???)

包みを開き、飴を口に放り込むヒスイ。

「オニキス、夕べ鍵開けられなかったの、そんなに悔しかったのかな」



それから・・・半日が過ぎ。
やっとオニキスが戻ってきた。

「すまん、遅くなった」
「ふあぁーっ」

ヒスイの返事は欠伸だ。
暇つぶしに、と、店主が貸してくれた成人向け雑誌も見飽きてしまっていた。

「もう遅いし、泊っていこうよ」

と、ヒスイ。

「止むを得ん」

オニキスが頷く。
ポルノショップ上階には、ラブホテルが併設されていた。
バス・トイレ・ベッド・・・一通り揃っているが、簡易な作りで、壁は薄い。

「入ったからには、するしかないよね」

意気込むヒスイ。

「・・・まあ、そうだが」

直営店だけあって、部屋の棚には大人のオモチャが豊富に用意されていた。

「・・・使うか?」

オニキスが尋ねると。ヒスイは首を横に振り。

「こういうの、男のヒト好きって聞いたから、オニキスもそうなのかと思ったけど、違うみたいだし」

ポルノショップの商品にオニキスが全く興味を示さなかったことが決定打となり、ヒスイもやっと理解した。

「私、胸ないし。子供みたいな体だってみんなに言われるし。だからこれで補おうと思ったんだけど・・・」

そう、自身のコンプレックスを明かす。

「・・・・・・」
「オニキス?ひぁ・・・」

ヒスイの頬に口づけるオニキス。
それから両腕でヒスイを抱きしめ。

「言わんとわからんか?」
「?」
「この体に不満など、ない。そんなものがなくとも、オレには充分魅力的な体だ」
「は・・・恥ずかしいこと・・・いわないでよ・・・」
「言わせているのはそっちだろう」

オニキスは抱擁を深くした。

「ヴ〜・・・」

照れて、言葉に困るヒスイ。オニキスの胸に赤い顔を埋め。

「鍵、開けてくれる?」
「ああ」

カチャカチャカチャ・・・ピンッ!

ピッキングをマスターしたオニキスは、昨晩とは一転、見事な手捌きだ。
免許皆伝の証として受け取ったヘアピン1本で、いとも簡単に貞操帯を開錠してみせた。

ベッドの上、裸で抱き合う二人。
人肌の感触に、お互い眩暈を覚える。



※性描写カット



上体を伏せ、ヒスイが呟く。
その様がなんともエロティックで。

「・・・・・・」

勘弁してくれ、と、思う。
ヒスイは率直な感想を述べているだけだが、天然の男殺しだ。



※性描写カット



「は・・・ふぁ・・・えっちって・・・なんでこんなにきもちいいのかな・・・すきなひとと・・・する・・・から・・・んっ!!」
「黙っていろ」

と、ヒスイの口を手で覆うオニキス。

「これ以上、煽るな」

 

※性描写カット



オニキスの首に両腕を回し、

「こんなにくっついてたら、またしたくなっちゃうよ?」

と、笑うヒスイ。

「ふ・・・構わん」

オニキスはもう一度ヒスイとキスを交わし。
それから、ヒスイの耳元で囁いた。

「お前が望むだけ、何度でも、だ」

ラブホテルで一夜を明かし。
翌日、二人はペンデロークを発った。
貸切馬車に乗り込んで、揺られること3時間・・・ヒスイは常時ご機嫌な顔で外の景色を見ていた。

マントの下は、オニキスが選んだ空色のワンピース。
貞操帯の代わりに買って貰った。
それがとても、嬉しい。

「元はといえば、鍵をなくした私が悪いんだけど・・・」

オニキスに視線を移し、ヒスイが言った。

「楽しかった、なんて言ったら、怒る?」

「いや」

苦笑するオニキス。
怒る筈がない。
ポルノショップに行ったり。
鍵師に弟子入りしたり。
ラブホテルに泊まったり。

充実した1日だったと思う。
ヒスイと一緒でなければできない冒険だ。
トラブルメーカーには違いないが、結局そこが愛しくもあるのだ。

(何ということはない)

ヒスイのどんな失敗もカバーできるよう、男を磨くだけのこと。

「あ!見えてきたよ!」

ヒスイが指差す、モルダバイト城。
メイド長ローズが首を長くして待っているに違いない。

「ああ、帰るぞ。城へ」
「うんっ!帰ろっ!」

こうして、鍵紛失事件は終息を迎えた。
真相は誰にも知られぬまま、ヒスイの名誉は守られ。
反面、“オニキスが大人のオモチャにハマった”という噂がメイド達の間で流れたという。

鍵の行方は・・・いまだ謎である。

 
+++END+++

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