世界はキミのために

裏部屋U No.04

ヴァンパイアセックス



人間界で暮らす吸血鬼の間で、摩訶不思議な病が流行った。

内臓機能が、人間そのものになる病。
命に関わるものではなく、特に治療は必要としない。
数日で元に戻るが、中には稀に、人間女性特有の出血・・・生理の症状が現れることがあるという。

モルダバイト王妃のヒスイも、この病に感染していた。

『オニキスに避けられてるみたい』

「・・・と、ヒスイ様が拗ねてます」

メイド長ローズが、王オニキスにそう報告する。

「どうしたんですか?オニキス様らしくない」

ヒスイが発症して3日・・・仕事を理由に、同じベッドで眠ることを避けていたのだ。

「大昔じゃあるまいし、不浄のものだなんて思ってないですよね?」
「・・・逆だ」

オニキスが短く返答する。
公にはしていないが、オニキスも吸血鬼だ。
血の匂いにはことさら敏感であり、ヒスイの隣で息をするだけで欲情してしまうのだ。

労わるべき時期だというのに。
愛しい妻が流す神秘の血は、オニキスにとって魅力的すぎて、理性を保つ自信がない。
それが、ヒスイを避ける理由なのだが。

「こういう時、遠ざけられると女は傷つきますよ」
「・・・・・・」
(尤もだな)

ローズの進言を聞き入れ、オニキスが離宮に足を運ぶと。
天蓋付きのベッドの上、ヒスイは本を広げたまま、眠っていた。
銀の髪を撫でてから、頬にそっとキスを落とすつもりで、顔を寄せるオニキス・・・だが。

「・・・なに?」

そこでヒスイが目を開き、口づけを拒んだ。
かなり機嫌が悪そうだ。

「・・・・・・」
(隠しきれんか)

オニキスは溜息の後・・・

「忘れたか?オレは吸血鬼だ」

血に臆することはない。
こんな時でさえ、抱きたいと思ってしまう。
そう告げた。

「うん、それで?」
「・・・・・・」

ヒスイは瞬きをするばかりで、それ以上話が進まない。
オニキスはベッドに腰掛け、ヒスイの手を取ると、スラックスの股間部分を触らせた。
そこは熱を帯び、すでに変形している。

「これでわかったか」
「え〜と・・・したいの?」
「ああ。だがこれは聞き流せ」

勝手な男の都合だ、と、オニキス。
一方、ヒスイの答えは。

「いいよ。しても」
「忘れたの?私も吸血鬼だよ?」

ヒスイもまた血を介する行為に抵抗がないという。

「それにね、生理中って、エッチな気分になることあるんだって。ローズが言ってた」
「お前も・・・そうだと?」
「うん。そうみたい」

ヒスイはオニキスに抱きついた。
その仕草は無邪気で幼く、セックスをねだっているようには思えない。



※性描写カット



「いいよ、って言うまで、あっち向いてて。あっ!オニキスもちゃんと服脱いでねっ!!」
「ああ」

拳を口にあて、オニキスが笑う。
ヒスイといると妙に心がくすぐったくなる瞬間があるのだ。
それを愛と呼ぶことは、ずっと前から知っている。
オニキスは先に服を脱ぎ、ヒスイを待った。

「いいよ」

その声で振り向き、素肌の美しさに息を呑む。
ヒスイは後ろ向きで立っていた。

「・・・・・・」

うなじ、背中、お尻・・・オニキスの視線が流れる。

「ヒスイ・・・」

愛しくて堪らないその小さな体を、後ろから衝動的に抱きしめて。



※性描写カット



(病が去るまで・・・こうして共に・・・)

夜明けを迎えると、ヒスイの出血はぴたりと止まった。
無事、元の体に戻ったのだ。

「も・・・飲みすぎっ!」

ちょっと太ったんじゃない!?
と、声を荒げるヒスイ・・・照れているだけだ。

「すまんな、以後摂生しよう」

落ち付いた様子でオニキスが答える。
するとヒスイは赤い顔のまま横を向き。

「いいよ、別に」
「オニキスがデブでもハゲでも好きだからっ!!」
「安心しろ。禿げない家系だ。恐らく体型も変わらん」
「え?そうなの?」

ヒスイが、ちょっとがっかりしている風なのが可笑しくて。

「くく・・・」

年甲斐もなく、顔が綻んでしまうオニキスだった。

こちら、メイド長ローズ。

「オ・・・オニキス様ぁっ!?」

部屋から出てきたオニキスの姿に、らしからぬ動揺を見せた。

(何があったっていうの!?男前度、更に上がってるんですけどぉ・・・っ!!!)

顔立ちの良さは元々だが、慢性的な疲れが出ていた表情はすっきりとして。
血色が良い。

髪が少し伸びたようにも見える。
その艶っぽさに、うっかり悩殺されてしまいそうだ。

(生理中のセックスってそんなにいいの!?)

特に唇が・・・濡れているようで、異様にエロい。

「オニキス様、口元が・・・」

ローズが思わずそう言いかけると・・・オニキスは唇の端に親指を置き、静かに微笑んだ。

「ああ、ヒスイの血が滲み込んだのかもしれん」
「!!」
(ってそれ口でしたってコトですよね!?しかも生理中に!!)

何気ないオニキスの発言に、ローズはすっかり興奮してしまった。

(大人のオモチャの一件もあるし!!オニキス様って、絶対アブノーマルプレイが好きなのよ!!)
※誤解です。

「とにかくこれじゃあ、取り締まりが大変だわ」

と、ローズ。
その後、数日間に渡り、オニキスの吸血鬼フェロモンで骨抜きになってしまったメイドが続出したという。
それもまた・・・愛が紡いだ歴史の一幕。

 
+++END+++

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