世界はキミのために

裏部屋U 短編(No.02)

クリスマスストーリー




12月。
クリスマス直前のある日のこと。

「え?サンタクロース?」

息子にその存在を問われたヒスイの目が泳ぐ。

「い・・・いるよ」
「ホント?プレゼントくれるの?」

 絵本で読んだ、と、スピネルが言って。

「うん!何が欲しい?私がサンタクロースに頼んであげるっ!」

と、ヒスイ。

「ママ、サンタクロースと知り合いなの?」
「え?ま・・・まあ・・・ね」

純粋で聡明な我が子の質問に若干後ろめたくなりながらも。

「何でもいいの?」
「うん!何でも!」

私に任せて!と、胸を叩くヒスイ。
サンタクロースの話題にスピネルが食い付いてきたのが嬉しかったのだ。
ところがこのあと・・・

「だったらボク、兄弟が欲しいな」
「ええっ!?兄弟!?」

予想外のおねだりに、ヒスイは動揺。

「ボクね、サンタクロースにお願いしようと思って・・・」

プレゼントを入れて貰うための、巨大な靴下を見せられ、ヒスイは何も言えなくなってしまった。

「そ・・・それじゃ、私からサンタクロースに話しておくから・・・」
「うん!」



その夜、夫婦の寝室にて。

「ど・・・どうしよう、オニキス」
「・・・安請け合いするからだ」
「今夜して、明日ポコッと産まれないかな」
「・・・無理に決まっているだろう」
「そうよね・・・」

はぁ〜っ・・・珍しくヒスイが溜息。
サンタクロースの件で真剣に頭を悩ませている。
何故そんなにこだわるのか、オニキスが尋ねると。

「夢はひとつでも多い方がいいじゃない」

と、ヒスイ。
サンタクロースなんて、今しか信じられないものでしょ?

「・・・夢を信じさせてやりたい、と?」
「うん。でも・・・」

ヒスイとて、わかっているのだ。
今日明日でどうにかできるものではないと。

「とりあえず、はい」
「・・・何だ、これは」

オニキスはヒスイから得体の知れない錠剤を受け取った。

「一応、できることはやっておこうと思って。催淫強壮剤」

子作りのため、いつもより頑張って貰わないといけないから、と、ヒスイ。

「飲んで。私も飲んだから」
「・・・知らんぞ。どうなっても」

ヒスイの無茶に付き合うのもまた・・・愛。
オニキスはそれを口の中に放り込んだ。



※性描写カット
 


 翌日。

「う〜ん・・・」

 一晩中、脚を開いていたせいで、ヒスイの歩き方はどこかぎこちない。

「大丈夫か?」

ヨロヨロと歩くヒスイに手を貸すオニキス。
薬を使おうが使うまいが、ヒスイへの愛は変わらない。
オニキスはヒスイを労い、その唇にキスをした。

「・・・子供に“何が欲しい?”って聞くのは、10カ月以上前じゃなきゃだめね」

キスを終えたヒスイが真顔で言うと。
ぷっ。オニキスは吹き出し。

「ああ、そうだな」

そして・・・12月25日。
母と息子の会話。

「ママ・・・これなに?」

と、スピネル。
不可解なものが靴下に突っ込まれている。

「なにって・・・サンタクロースのプレゼントだよ?」

ヒスイは目を泳がせながら。
スピネルの“兄弟”と言い張った。
それは・・・手縫いの人形で。

なにせ不器用なヒスイが作ったもの・・・ゴミ捨て場から拾ってきたようなボロ具合である。
縫い目から綿が飛び出し、早くも腕がちぎれそうだ。
ボタンの目も、片方が取れかかっている、が・・・

「そのうちこれが人間になるのよ!」

と、ヒスイはまたとんでもないことを言って。

「えっと・・・人間になるまで1年くらいかかるかもしれないけど・・・待っててね?」
「うんっ!ありがと、ママ」

 同じく・・・12月25日。
父と息子の会話。

「あまりヒスイをからかうな」

と、オニキス。

「サンタクロースは空想上の人物であると、先日教えたと思うが?」
「くすくす・・・だってママ、面白いんだもん」

スピネルは、綿と布でできた“兄弟”を抱きしめて笑った。

「今度はね、この人形が人間になるんだって。くすくす」
「・・・・・・」
(下手な嘘を・・・)

ヒスイは一体どれだけ子供に夢を与えたいのか・・・

「でもボク、ママ大好きだよ?パパもでしょ?」
「ああ」

スピネルの言葉に、笑みがこぼれる。
空回りしていても、ヒスイの愛はちゃんと伝わっているのだ。
オニキスはひとつの想いを胸に、

「勿論だ」

と、頷いた。

(来年のクリスマスには・・・)

ヒスイの嘘が、誠となるように。

(頑張ってみるか)



+++END+++

ページのトップへ戻る