18話 爆弾発言
扉が閉じた。
辺りはすっかり元通りだ。
村には負傷したヒスイと小さなシンジュだけが残った。
「はぁぁ・・・」
シンジュはヒスイを横目で見るとまた溜息をついた。
「傷口を」
そしてヒスイの傷口に手を翳すとあっという間に治してしまった。
指先の火傷まで。
「ありがとう。何だかよくわからないけど凄いんだね、シンジュって」
ヒスイは尊敬の眼差しでシンジュを見た。
「何言ってるんですかっ!!本当はこんなもんじゃないんですよ!私を誰だと思ってるんです?」
シンジュは凄んでみせたが、ヒスイより幼ない姿をしている上、何やら照れているようで少し頬が赤かった。
「さぁ・・・誰?」
ヒスイは首を傾げた。
「まったく・・・コハクは一体どういう教育を・・・」
シンジュはブツブツと文句を言いだした。
「!!お兄ちゃんのこと知ってるの?」
「お兄ちゃん?コハクが?そういうことになっているんですか?」
爆弾発言だった。
シンジュの言葉は明らかに二人の血の繋がりを否定するものだった。
ヒスイは飛び上がって喜びたい気持ちを抑えて答えた。
「うん!そういうことになってるの!」
「それで・・・コハクはまだこの世界に?」
シンジュの爆弾発言には続きがあった。
「この村の様子からすると、コハクの契約もそろそろ切れるはず・・・。ここはメノウ様の魔力によって一度は死んだ者達の魂が集められて作られた村です。18年で魔力が切れて、解放されるはずだったのですが、未練ある者が残ってしまったのですね。コハクも同じようなものですよ」
「その話・・・詳しく聞かせてくれる・・・?」
ヒスイは目の前が真っ暗になった。
「まさか・・・ヒスイ様・・・」
シンジュはここにきてやっと自分の爆弾発言に気が付いた。
「そう。何も知らなかったの。お兄ちゃんともずっと本当の兄妹だって思っていたし」
「・・・コハクはあなたに何も?」
ヒスイは力なく頷いた。
「・・・私は、コハクと違って嘘が下手ですから。はっきり言います」
ヒスイは俯いたままシンジュの言葉に耳を傾けた。
「コハクはメノウ様に召喚されたんです。20年の契約だと聞きました。それが、ヒスイ様の生まれる1年前の話です」
「契約が切れるとどうなるの・・・?」
「消えます。この世界から」
「き・・・える??」
「正確には元の世界に還るんです」
「嘘・・・そんなの・・・」
ヒスイは今まで聞いたどんなことよりショックだった。
体が震えて言葉が出ない。
「お兄ちゃんが・・・いなくなる?私の前から?そんなの・・・イヤ・・・」
「ヒスイッ!!」
その声にヒスイは胸の抉られる様な痛みを覚えた。
コハクの声だ。こちらに向かってくる。カーネリアンも一緒だった。
「ごめん。遅くなって・・・」
「あ・・・うぅん」
ヒスイは必死に声を絞り出して答えた。
「ヒスイ?」
コハクはすっかりいつもの調子に戻って、血の気の引いた顔をして俯くヒスイを心配そうに覗きこんだ。
「何かあった?服も汚れているし、靴にも血が・・・」
「これはっ!私の血じゃないからっ!!」
ヒスイはムキになって否定した。
「・・・・・・そう。なら良かった」
一瞬妙な間があいた。が、コハクはすぐさまほっとしたように微笑んで言った。
「コ〜ハ〜ク〜・・・」
シンジュがヒスイの後ろから姿を現した。
「やぁ、久しぶり。シンジュ」
コハクはそれほど驚く様子もなく軽いノリで答えた。

「どういうことか説明してもらいましょうか?」
「見てのとおりだけど?それにしても・・・随分若返ったね」
コハクはくすくすと笑った。
「ふんっ!!我々精霊は主人に恵まれないとこういうことになるんです!それより、聞かせてください!今の説明ではなくてあの時のです!」
「だって・・・メノウ様いなくなって、君消えそうだったから・・・」
「そ・れ・で、18年もこの私を石に封印したわけですか・・・」
シンジュは怒りにわなわなと震えている。
「力、戻ったでしょう?何度か人手に渡ってしまったけど、君はメノウ様の血にしか反応しないだろうと思って・・・」
「放って・・・おいた・・・と」
シンジュはコハクを鋭い視線で睨んだ。
「うん・・・まぁ・・・」
コハクは視線を上のほうへやりながら答えた。
「でもちゃんと契約できたんだから良かったじゃないか。ね?ヒスイ?・・・大丈夫??」
「うん。大丈夫。ちょっと疲れただけだから・・・」
ヒスイは精一杯の力で微笑んでみせた。
「・・・・・・」
シンジュはその様子を黙って見ていた。
「・・・無理すんな」
カーネリアンが見るに見かねて、ヒスイの肩を抱いた。カーネリアンも子供の姿をしていたがヒスイよりかなり背が高かった。
「少し家で休んでいこう、ね?ヒスイ」
コハクがそう提案した。
「お兄ちゃん、おんぶしようか?」
「いい」
ヒスイはコハクとは目を合わせずにそっけなく答えた。
「あ!そうだ!!カーネリアンに伝えたいことがあったんだ!ね、こっちきて・・・」
ヒスイはカーネリアンの腕を引き、家に向かう道から外れた。
「お兄ちゃんとシンジュは先に行ってて。すぐ行くから」
「え?でも・・・」
「女同士の話があるのっ!だからお兄ちゃんはきちゃだめっ!」
「いいのかい?」
「何が?」
「愛しの兄上と感動の再会だろ?」
「茶化さないで」
ヒスイはカーネリアンの冗談を軽く流し、自分が屋敷で見た事を話した。
「これからちょうど屋敷に行くんだし、調べてみたら?ちょっと危険かもしれないけど・・・手がかりがあるかもしれない」
「わかった。ありがとよ」
カーネリアンは素直に聞き入れた。
「でもさ、アンタ本当に休んだほうがいいよ」
「え?そう?」
ヒスイは気丈に振舞っているつもりだったが、自分で思っているほど上手く笑えていなかった。
「コハクも心配してる。あいつにそんな心配かけんなよ・・・ただでさえ・・・」
「もうすぐ消えてしまうんだから?」
ヒスイは射るような瞳でカーネリアンを見た。
「アンタ・・・それ・・・」
「・・・これからお兄ちゃんに確かめるから。邪魔しないでね」
「・・・わかった。じゃあ、私から・・・」
カーネリアンはそう言ってヒスイの耳元で囁いた。
「ヴァンピールの女はね、20歳で成人して大人の姿になるのが普通なんだけどさ、実は好きな男と寝ればいつだって大人の体になれるんだよ」
「そういうこと・・・だったんだ・・・」
ヒスイの乾いた心に水が染み渡った。
「わかった・・・。お兄ちゃんが前に言っていた言葉の意味が・・・」
「あいつ何て?」
カーネリアンはヒスイの肩に腕を回し、からかうような口調で言った。
「いつでも大人にしてくれるって。私が望むなら」
ヒスイは頬を紅潮させた。
「ヒュウ♪やる気じゃん。あいつ。ああみえてもやっぱり男だね」
「私・・・行くね。ありがと。カーネリアン」
ヒスイは少し元気を取り戻した。今度は本物の笑顔でカーネリアンに手を振って走り出した。
「がんばんな・・・ってコラ!ヒスイ!屋敷までちゃんと案内しなっ!先、行くなって!!」
そのあとをカーネリアンが追う。ヒスイは止まらない。
追いかけっこをしながら二人は屋敷の門をくぐった。
コハクは屋敷の前で待っていた。背中にシンジュをおぶっている。
「シンジュ、復活したててまだ本調子じゃないんだ。しばらくは力を使うと眠ってしまうことがあるかもしれないよ」
コハクは優しくヒスイに言った。
「さぁ、中で休もう」
「あのね・・・お兄ちゃん」
ヒスイはコハクの服のすそをツンツンと引っ張って呼び止めた。
「ん?」
「話したいことがあるんだけど・・・あとでお兄ちゃんの部屋に行っていい?」
「・・・いいよ」