41話 土壇場の強運
「盟友サンイラッシャ〜イ♪」
サファイアの召喚呪文。
戦いが開始されてすぐだった。
コハク・サファイアに対するはオニキス・メノウ。
いきなり二対二の均衡が崩れる・・・
「お〜・・・ヘビモスじゃん。やるなぁ」
メノウが大きく空を仰いだ。
巨大象。ヘビモス。力自慢の魔界生物。
そのあまりの大きさに太陽の光は遮られ、辺り一面に影が落ちる。
「感心している場合じゃないですよ、メノウ様」
遥か上空、ヘビモスの頭上からコハクが飛び降りた。
ガチィン!!
「・・・お前の相手はオレだ」
振り下ろされた剣をオニキスが止める。
「ん、じゃオレは・・・」
バサッ・・・
メノウの目前にサファイアが舞い降りた。
(先にヘビモスをどうにかしてやろうと思ってたんだけどなぁ)
手が回らない。
サファイアは両手に細身の剣を一本ずつ持っていた。
(二刀流・・・か。まずは重力系の呪文でスピードを削らないと)
「そうはさせまセン♪」
剣を交差させ弾丸さながらの速度で突っ込んでくるサファイア。
「ちぇっ、やっぱだめ?」
重力系の呪文は詠唱に時間がかかる。
メノウは一歩下がってふぅっと長い息を吐いた。
霞がかった息が白い龍となり、大きく口を開け、サファイアの攻撃を飲み込んだ。
「・・・ヤリますねェ。人間技とは思えナイ」
「そりゃど〜も」
メノウが笑う。
ドシィィン!
ズゥウン!
背後でヘビモスが足踏みした。
(・・・このまま放っておくと何もかも破壊されちゃうだろうなぁ・・・)
白龍・・・所詮は霞。すでに消え去っている。
物理攻撃を一回だけ完全無効化する防御の魔法だった。
「余所見してるト死にマスヨ?」
サファイアが再び攻撃を仕掛けてきた。
「余所見させる為に呼んだんだろ」
「フフッ♪」
(オニキスも余裕なさそうだし・・・)
余所見ついでに確認。
激しい攻防が続いていた。
(ったくシトリン達は何やってんだよ・・・)
「・・・って・・・何だよコレ」
シトリン・ジンは都市郊外、ヘビモスの背後に位置する場所にいた。
“銀の悪魔”を追う旅に同行し、ここ最近は4名で行動していた。
住民を説得し、避難させる大役を終えたばかりだった。
「ジン!行くぞ!戦いだ!!」
意気揚々とシトリンが叫ぶ。
元々好戦的な性格だ。猫になっても変わらない。
「戦いって・・・何と??」
ジンの火付きの悪さも相変わらずだ。
なかなかエンジンがかからない。
「何をボヤッとしている!コレだろう!」
ニャッ!とシトリンが前足を突き出す。
「だからコレ・・・何なの?」
大きな山二つ、ヘビモスのお尻だった。
「何だかよくわからん!」
シトリンが堂々と言い切った。
「しかし何となく敵っぽいだろう?」
「敵っぽい?それだけで攻撃するのはちょっと・・・」
渋るジンに苛立つシトリン。
「こうすればわかる!」
ガブッ!!
“敵っぽいモノ”にシトリンが噛み付いた。
ヘビモスにしてみれば虫に刺された程度。
尻尾でパシッと叩く・・・シトリンが吹き飛んだ。
「!!シトリンっ!!大丈夫か!?」
「アタタ・・・ほら、敵だろう?」
さぁ!攻撃しろ!とシトリンがせかす。
「攻撃しろって言われたって・・・こんなのに勝てるわけ・・・」
(オレが普通の人間だってこと、忘れてないか?)
「とにかく!メノウさん達と合流するのが先だ!」
この調子では命がいつくあっても足りない。
ジンはシトリンを抱え上げ、ヘビモスの脇を走り抜けた。
「メノウさんっ!」
「おっ、やっと来たか」
「すいません。遅くなっ・・・ん?」
メノウはサファイアとの戦いでボロボロになった杖をヘビモスに向けた。
「じゃあ、君アレ」
「え?」
「コハクを抑えられるのはオニキスしかいないし、オレはサファイアと戦ってるし」
容赦なくメノウが言い放つ。
「・・・・・・」
(結局戦うことになるのか・・・アレがオレの担当・・・)
パォォン!!
ドスン!ドスン!
「・・・・・・」
(どうしろっていうんだよ〜・・・)
荒れ狂う巨大象。
素晴らしく非日常的な光景。
「目を狙え!」
肩に乗ったシトリンが指示する。
「・・・・・・」
ジンはヘビモスの真っ正面から弓を放った。
パキッ。

狙いは正確だった。
が、運悪く瞬きの瞬間で、瞼に弾かれてしまった。
乱れ撃ちをしてみても全く歯が立たず、ヘビモスの皮膚に当たった矢はことごとく折れて散った。
(やっぱこんなモンだよな〜・・・)
「おい!ジン!影縫いの呪文を覚えているか!?」
「影縫い!?あ!」
その手があった。
人間のように1本では済まなくても、可能性としては充分だ。
ジンは以前コハクから伝授された影縫いの呪文を唱えながらヘビモスの影を射った。
1本、2本、3本・・・9本・・・・13本。
地鳴りが止まる。
「やったな!」
シトリンとジンは抱き合って喜んだ。
「あっ・・・あぶな・・・」
オニキスと剣を交えていたコハクが口走る。
「何か言ったか?」
オニキスはコハクの視線を辿った。
その瞬間。
ヘビモスの長い鼻がブンッ!と振り上がった。
影を縫いつけられ足の動きは止まったが、鼻はまだ健在だった。
長い長い象の鼻。
ジン目掛けて大きくスイングしてきた。
「ジン!!」
「え?」
オニキスが注意を促した時には遅かった。
バシィンッ!!!
「わぁぁ〜!!」
ジン共々シトリンも強打され、遙か彼方へと飛んでいく・・・
「シトリン!ジン!!」
オニキスはコハクとの戦いを打ち切り二人の救出に向かった。
(・・・やばいな。一旦引かないと・・・)
孫達の危機。メノウも戦いに集中できない。
こうなってしまうと状況は圧倒的に不利だった。
「イイですヨ?深追いハしまセン。私達ハ邪魔ヲされなければイイだけデ、戦うかどうかはアナタ方が決めるコトですカラ」
先読みしたサファイアがあざとく微笑んで言った。
「・・・んじゃ、お言葉に甘えて」
メノウが身を翻す。
向かうは当然シトリン達が飛ばされた方角だ。
「・・・お前は大人しくしてな」
通りすがり・・・ヘビモスの脇で呪文を唱える。
「スバラシイ♪」
メノウが通り過ぎた後、大地を揺るがす巨大象は手の平サイズまで小さくなっていた。
「“天才”の名はダテじゃないデスネ〜」
サファイアは拍手でメノウを見送った。
「ぅ・・・大丈夫・・・か?」
シトリンが目を覚ました場所は牧場だった。
運が良いとしか言いようがない。
二人は堆く盛られた干し草の上に落下した。
衝撃は殆どなかった。
「骨は折れてニャいな?」
「・・・大丈夫だ。驚くほど」
あれだけ激しく打たれたのにどこも痛くない。
(これってまさか・・・“精霊の加護”?)
土壇場の強運。昔からそうだった。
(普段は割とツイてないんだけどな・・・)
ジンとシトリンは干し草からの脱出を試みた。
モゾモゾ・・・
「お〜い、生きてる?」
「無事か」
後を追ってきたメノウとオニキスが干し草の山に声をかけた。
「あっ。はい、大丈夫です」
ガサゴソ・・・
ジンがひょっこり顔を出した。
続いてシトリンも干し草からひょこっと顔を覗かせる。
「おっ、元気そうだなぁ〜。ホント君達は運がいいね」
オニキスがジンを、メノウがシトリンを、それぞれ引っ張り出した。
「ハッキリ言って俺達は強い。たぶん、これ以上強くなれないってくらいに」
メノウの言う“俺達”。メノウ自身とオニキスを示していた。
「アイツ等を出し抜くには君が強くなるしかないね」
「え・・・オレ・・・ですか・・・?」
本音を言えばこれ以上人間離れしたくない。
ジンは露骨に気のない返事をしてしまった。
「私が戦えれば・・・」
シトリンが落ち込む。
猫の唯一の難点は鎌を振るえない事だった。
「・・・わかりました。やります」
“守りたい”
俯く猫シトリンを見てふとそう思った。
強くなる為に何をするのかはわからない。
「しっかり鍛えてやるから」と、メノウが意味ありげに笑う。
(ムキムキになっても!マッチョになっても!シトリンの分までオレが!)
妙な決意を固めるジン。
「・・・人間の強さ、見せてやりなよ」
特技。激励。メノウはジンの背中を叩いて楽しそうな笑い声を響かせた。