31話 求め合う時間
神の棲む天界と人間界は時間の流れが異なる。
現在の人間界では数時間のことでも過去の天界では数日が過ぎていた。
ヒスイは熾天使の神殿に留まり、オニキスは魔界の洞窟を拠点に、遊び半分のコハクと黙示録を巡る戦いを繰り返していた。
熾天使の神殿。
戻ってきたコハクの手にはいつも黙示録が握られていて、オニキスが苦戦を強いられているのがわかる。
「・・・・・・」
愛想良く迎えられる筈もなく、ヒスイは口を結んだまま。
「・・・食事を作れ、と言った筈だけど?」
墨汁を思わせる液体が純白のスープ皿に入っている。
黒と白のコントラストは見事だが、食べ物には見えない。
「これ、何?」
「ビーフシチュー」
人間界に材料の買い出しに行くところから任されていたのだが、ベジタリアンのヒスイが肉を手に取る筈もなく。
ビーフは入っていない。
「・・・キミ、自分で作ったもの食べた事ある?」
「な、なくはないけど・・・」
もうずいぶん昔のような気がする。
(見た目はちょっとアレだけど・・・)
“現在”のコハク達が残さず食べるので、それほど不味いものとは自分でも思っていない。
ヒスイは手渡されたスプーンで黒い液体を掬い、口へと運んだ。
「ぐふっ!!?」
(ま、まずい!?そんな・・・)
両手で口を押さえ、水場へ駆け込むヒスイ。
「どう?不味いでしょ」
ヒトに出す前に味見をするのは当然だ、と、コハクはそれを一口も食べずに捨てた。
料理の次は。
「掃除?むしろ散らかってるよね?」
「・・・・・・」
ヒスイが来る前は閑散としていた神殿が数日でゴチャゴチャに。
掃除と称して黙示録を探すヒスイの作戦だったが、途中から主旨がすり替わり。
「・・・余計な物は置かない主義なんだけど?」
人間界へ行ったついでにヒスイが仕入れてきた小物がバラバラ散らかっている。
コハクに叱られ、整理整頓に励んでみたが駄目だった。
「・・・キミってホントに使えないね」
グザッと心に突き刺さるコハクの嫌味。
「どういう教育受けてきたの?」
「・・・・・・」
花よ蝶よと、ヒスイを過保護に育てた本人に言われたくない。
(お兄ちゃんのバカっ!!バカ!バカ!)
「・・・うん。面白い。気に入ったよ」
急にコハクが笑い出した。
ヒスイはきょとんとした顔で見上げるばかり。
瞳に映るコハクの笑顔は現在で見るものとそう変わらないように思えた。
(お兄ちゃん・・・ホントに笑ってる・・・)
何がコハクのツボに入ったのかわからないが、笑って貰えれば嬉しい。
一緒になってヒスイも笑う。
(お兄ちゃんって・・・怖いのか優しいのかよくわからないけど・・・)
「やっぱり好き」
現在。赤い屋根の屋敷。
バンッ!
玄関の扉を蹴破る勢いでコハクが帰宅した。
窓から軽やかに帰宅・・・が常だが、今日は両手に紙袋を抱え。
武器はどこに置いてきたのか、その姿はまさに買い物帰り。
「コ、コハクさん??」
ジョールとルチルが見守る中、一路トパーズの元へ向かった。
トパーズは“現在”と“過去”を繋ぐ作業中。
全く動かず、傍目には瞑想をしているようだが、それでも刻々と魔力を消費していた。
「・・・・・・」
背後に近付くコハクの気配で目を開く。
「・・・状況は?」
「・・・思わしくない」
前神との相互関係上、介入こそできないが。
過去の様子はお見通しだ。
「一名追加ね」
背後から正面へ移動し、トパーズの目の前に紙袋を並べる。
瓶同士がガチャガチャとぶつかり合う音がした。
「はい。これ。魔力回復ドリンク」
「・・・・・・」
「ヤバくなったらコレ飲んで。即効性あるから」
「・・・・・・」
もう一名過去へと送るのは相当な負担ではあるが、圧倒的な強さを誇る過去の熾天使にオニキスが手を焼いている事も知っていた。
コハク本人に責任を取らせる・・・悪くない案だ。
世界より、ヒスイ。
ヒスイを取り戻さない限り、対黙示録に集中できない。
(そういう男だ。こいつは)
コハクの脳内7:3。
7割がヒスイ。3割が黙示録。
その割合は、離れている時間が長くなればなるほど8:2〜9:1と変化する。
(だったらさっさと連れ戻せ)
諦めと苛立ちが混ざり合う複雑な気持ちでトパーズは了承した。
「・・・わかった」
魔界の洞窟。
「・・・・・・」
コハクとの一戦の後は極力動かず、傷の回復に努めるオニキス。
よく知る気配を察し、微かに眉を動かした。
視線の先、闇に浮かぶ金髪。
先程までとは違い、長くはない。
そこに立っているのは、名前を持つ熾天使・・・
「コハク・・・」
オニキスの声が洞窟に響く。
それに呼応し、明るいコハクの声が返ってきた。
「すごい出血量ですねぇ〜・・・ええと、何回ぐらい・・・」
「・・・5回は死んだ」
「すいません。ははは・・・」
天界に転送されてすぐ、風に混じった血の匂いを辿ってきたのだという。
笑って誤魔化しながらとりあえず謝罪はするが、話題は即本題へ。
コハクの脳内8:2。
「でっ!?ヒスイは!!?」
「無事だ。今はお前の神殿にいる」
「“僕”の神殿!?まさか・・・ヤられちゃったりしてませんよね?」
「知るか、阿呆」
(過去の自分に対して随分な言い草だな・・・)
それから一拍置いて・・・
「・・・結婚指輪を・・・目の前で握り潰された・・・」
「“僕”に?」
「そうだ」
「あぁ〜・・・何やってるんだよぉ・・・」
“僕”の所業に、頭を抱え、落ち込むコハク。
「ホント馬鹿な奴・・・最悪だ・・・」
「・・・自分だろう」
オニキスも思わずツッコミを入れたくなって。
「そうなんですけどね〜・・・一番思い出したくない時代なんですよ」
「更に花を添えたな」
「はは・・・そう言っていただけると」
オニキスの皮肉にコハクが笑う。
「・・・アイツは強い。まともに戦っては、まず勝てない」
「まぁ、そうでしょうね・・・って、彼が死んだら僕も死んじゃうんでそれは困ります」
「・・・厄介だな」
「そうですね・・・」
「・・・・・・」「・・・・・・」
お互い無言で策を練る。
「とにかくヒスイを取り返さないと・・・」と、コハク。
脳内、ついに9:1。
早くヒスイを腕に抱きたい。キスをして繋がり合いたい。
どんな時でも下心満載だ。
ヒスイが腕の中にいること。何をするにもまずそれが大前提なのだ。
「アイツはヒスイを気に入っている。下手に刺激しない方がいい」
そのほうが安全だとオニキスは主張。
ヒスイ奪還を主張するコハクと早くも対立する。
「気が変わって、ヒスイの首でも絞めたらどうするんですか!?」
「アイツは気まぐれに殺しをする奴じゃない」
本人を差し置いてオニキスが断言。
「何言ってるんですか!?殺戮の天使ですよ!?そんな良心ある筈が・・・」
一方自分をボロクソに言うコハク。
しばらく言い争いが続いたが・・・
「・・・オレは精霊の森へ向かう」
それがオニキスの結論だった。
元・闇の精霊使い。
契約をしていた闇の精霊が少し前に老衰で常世を去り、現在はフリーであるが、オニキスとの契約を望む精霊はいくらでもいる。
その中でも戦闘力を重視するなら、やはり闇属性。
この時代なら現役であろう、かつての精霊と契約を交わすつもりなのだ。
「・・・そうすれば足止めぐらいはできる」
二人がかりなら黙示録を奪うことも可能だと、考えを述べる。
「・・・・・・」
正論、だとは思う。脳内がマトモな状態ならば。
(けど、何かあってからじゃ遅いんだ!!)
預けておける筈がない。
「・・・僕は神殿へ向かいます」
「そうか」
(ヒスイをうまく連れ出せるのなら、それに越した事はないが・・・)
コハク同士で温厚に事が運ぶとは到底思えない。
いつもの如く話し合いは決裂し、目標が分かれた。
後はそれぞれ選んだ道に進むだけ・・・だが。
「あ、その前に、血飲みます?」
これだけやられたら血が足りないでしょう、と。
貧血を見抜かれ、あまり嬉しくもない申し出を受ける。
しかし、栄養不足で再生に時間がかかるようになってきたのも事実で・・・
四の五の言ってはいられなかった。
同性であるコハクの血なら欲情どころかむしろ萎える。
今更気を遣う必要もない。
「・・・たっぷりいただくぞ」
「どうぞ。どうぞ。貧血には慣れてるんで」

手早く大量に摂取するため、一番太い血管を狙って噛み付くオニキス。
「・・・男同士って、ちょっと嫌ですね・・・」
「・・・それを言うな」
洞窟を出たコハクは眩しそうに菫色の瞳を細め、空を仰いだ。
「この時間“僕”はいない筈・・・」
(ヒスイを攫って・・・追いかけてくる程執着してたらまずいなぁ・・・)
ブツブツ言いながら羽根を広げ、コハクは魔界を後にした。
熾天使の神殿。
雲の大地に着地するや否や、視線はヒスイに釘付けだ。
姿を見る度、高鳴る胸。
それは家で日常生活を送っている時でも起こる現象だったが、今回はまた重症だ。
(ヒスイィィ!!無事で良かった!!)
バケツに雑巾。手には箒を持っているヒスイ。
それが少々謎だが。
「ヒスイ・・・っ!」
「お・・・にいちゃん?」
「うん。おいで」
「お兄ちゃんっ!!!」
開かれた両腕に飛び込む。
「お兄ちゃぁんっ!!」
近くにいるのに甘えられなかった反動で、ぎゅうぅっ・・・抱きついて離れない。
「よしよし・・・遅くなってごめんね」
ヒスイの頭を撫でて。キスをして。抱き上げて。
そのままヒスイを神殿から連れ去った。
(“僕”が知らない場所まで移動する。多少の時間稼ぎにはなる筈だ)
それは、現在で一家が住む村。
過去に一度壊滅した村をメノウが買い取り、再生させたのだ。
「わ・・・ウチにヒトがいるよ!」
ヒスイの言う“ウチ”とは村全体を指す。
赤い屋根の屋敷はまだなかった。
一応逃亡者なので、人目につく前に宿屋へと身を隠し。
精霊の森に向かったオニキスの話をして。
「ヒスイ・・・ごめんね」
「え?何が?」
「指輪・・・」
「オニキスから聞いたの?」
「うん・・・」
ヒスイの手を取り、左手の薬指に口づける。
それから強く抱きしめて。
「・・・嫌な奴だったでしょ、僕」
「うん」
ヒスイに即答され、ガックリ脱力。
言い訳のしようもなく、後はただ謝るしかないと口を開く・・・が。
ヒスイの言葉には続きがあった。
「でも・・・好きだよ」
(ヒスイィィ!!)
コハクは天にも昇る気持ちになって、ヒスイを更に強く抱きしめた。
感激のあまり脳内は10:0。
今はヒスイの事しか考えられない。
「ヒスイ・・・」
「ん?」
「アイツに変な事されなかった?」
自分に向かってアイツと言うのもおかしいが、他に言いようがない。
「平気。ここのお兄ちゃん全然えっちじゃないし」
身ぐるみ剥がされ、取り調べを受けたが、そんな雰囲気にはならなかった。
(ああ・・・そうか)
落ち着いて思い返してみれば確かにそうだ。
「この頃は・・・全然興味なかったんだ」
抱擁を中断し、ヒスイと向き合う。
身を屈め、慣れた角度で顔を寄せ、ゆっくりと・・・唇を重ねた。
『・・・キスも。セックスの仕方も。ヒスイとしたいから覚えた』
「お兄ちゃん・・・」
間近でそう囁かれ、真っ赤になるヒスイ。
目も合わせられない程、照れて、俯いて。
求め合う時間。
「んっ!んっ!あっ・・・あぁ・・・」
古びたベッドの上で。
コハクが顔を近づけると、自然にヒスイの脚が開く。
ふっくらした大陰唇。
左右に開き、トロッと垂れる粘液を見て幸せに浸るコハク。
精液の匂い・・・一回目のセックスを済ませて間もない。
(良かった〜・・・ホントに嫌われたんじゃないかと)
内心拒絶されるのではないかと心配していたが、ヒスイ自ら大きく脚を開いて応じたので、たっぷりと子宮に精子を浴びせた。即行の一回目。
続けて二回目。
肉粒を横から舌で舐め擦り。
「ふ・・・にぁ・・・んっ!!」
強く吸いながら、ヒスイの膣口に指を入れる。
人差し指と中指。
そして薬指をアナルに差し込んで、愛撫。
「あんっ・・・お・・・にいちゃん・・・っ」
ヒスイの下肢が悦楽に揺れる。
中心部は二本の指では物足りないらしく、ジュクジュクと愛液を溢れさせ、コハクの指に絡んでは無言の催促をする。
「・・・ん?足りない?じゃあ・・・」
ヒスイのカラダは当然ペニスを期待していた。
けれども、挿入されたのはペニスだけではなく。
「おにっ・・・ちゃ!?あ・・・くっ!!」
驚きでヒスイのカラダが跳ねる。
不意に開かれてゆく膣口に違和感を覚えるヒスイ。
「ヒスイのココはね、凄いんだよ」
甘く、少し意地悪な響き。
「ほら・・・こんなに開く」
ただでさえ小柄なヒスイの膣には大きいペニスだというのに。
ペニスに沿って左右に二本ずつ。
計四本の指が添えられて。
ヒスイが見た時にはもう、尋常ではない太さのものが収まっていた。
「えぅ・・・っ!!」
ヒスイは大きく仰け反って。
「う・・・くっ!」
快感で息が詰まり、喘ぐ余裕すらない。
視覚的衝撃から軽く痙攣まで起こして。
「ちょっとびっくりしちゃったかな?」
「あ・・・あ・・・ぁ・・・」
「・・・大丈夫。すぐ慣れるよ」
ペニスと両手両指がヒスイの中なので撫でてやることもできないが、ヒスイを安心させるため、上から何度も唇を吸って、カラダが馴染むのを待った。
「う・・・うぅ・・・ん・・・」
より太く大きいものを受け入れるため、愛液の量も増し、徐々に準備が整えられてゆく・・・
「小さいけど、ちゃんと入るんだ」
コハクの声が遠くに聞こえた。
下半身ばかりが過敏になり、その他の感覚が鈍くなっていくのがわかる。
「動かすよ?」と、言われてちゃんと頷けたかどうかもわからない。
「んっ!ふぅ・・・っ!!」
ペニスで奥を刺激され、添えられた二本の指が膣壁を押し広げる。
「うっ・・・んっ・・・ぁ!!」
コハクの腰とペニスと指が同時に前後し、ヒスイの膣内に強烈な刺激を与えた。
コハクが腰を落とす度、途方もない快感に泣いて喘ぐヒスイ。
セックスはコハクが徹底的に主導権を握る。それが至極当然。
何をされてもヒスイは服従。コハクに逆らう事はない。
「ヒスイ・・・イイよ・・・凄く」
腰を振る度、指までヌルヌルと圧迫されて、コハクもまた快感だった。
できるだけ奥まで到達しようと、勢いをつけて突き貫く。
手の甲の厚みまで加わり、更に広がる膣口。
「やっ・・・ぁ・・・あっ!!」
もうそれでヒスイは限界。
いつもよりずっと短い時間で快感の頂点へ昇り詰めた。
「あっ!!だ・・・め・・・んっ!!」
はぁっ。はぁ。はぁ。ふぅ。
疲れ果てたヒスイのカラダに続きを要求するのも酷なので、ペニスも指も一時撤退。
「おにぃちゃ・・・ごめ・・・」
「いいよ。少し休んで」
愛液の染み込んだ指を舐めてから、その手でヒスイの頭を撫でて。
「ごめんね。キツかった?」
「ううん・・・ちょっとびっくりしたけど気持ちよかった」
と、ヒスイから感想をもらってホッ。
勃起したままのコハクを待たせる間、「口でする」と言ってヒスイがペニスを頬張った。
その姿はエロチックというより、純粋に可愛い。
はむ。はむ。きゅむっ。
あどけなさが抜けない口元。
たまに力加減を間違えて、牙があたり、チクッとするのがかなりの快感だ。
「ヒスイ・・・いい子だね・・・」
中出ししたいので口内発射はしないよう堪える。
「そういえば・・・」
勃起したペニスから血を吸われ、死にかけた事があったなぁ・・・などと懐かしい思い出に浸りながら至福の時を過ごしていた、が。
(・・・いる)
窓の外に、もうひとりの気配。
(やっぱり追いかけてきたか・・・)
「おにいちゃん・・・そろそろ・・・」
ペニスを口から出し、ヒスイが見上げている。
危険な状況・・・だが、続行の意志は揺るがない。
「大丈夫?」
「ん!」
ペニスの大きさに自信がない訳ではないので、今回は指添えを行わず、極太一本でヒスイを導く。
(その目でしっかり見るといい・・・)
「あはんっ!!おにいちゃ・・・おにい・・・っは・・・」
聞き慣れたヒスイの喘ぎ声。
その音調が・・・心地良い。
(やっと見つけたんだ・・・)
自分を求めるヌメった暗がりに突き込みながら。
(幸せなんだよ、僕は)
「あっ・・・うぅんっ!!」
(頼むから協力してくれ・・・)