60話 ラブリーテイル
・・・と、ほぼ同時に迷路を抜けて現れたのは。
「オニキス!!」
「ヒスイか」
身を寄せ合う二人。周囲にはやたらと甘い香りが立ち込めている。
高い壁で囲われているため、シュガーランド内部の様子はよくわからないが、大きな観覧車が見えた。
しかし今はそれよりも。
「お前・・・」
垂れ耳犬コスプレ姿のヒスイに言葉を失うオニキス。
なぜそんなことになったのか理由を尋ねると、トパーズの名が挙げられ。
神のアダルトグッズであることが判明する。
「・・・・・・」(親子だな)
コハクもトパーズも、持ち前の高い能力を発揮する方向性がおかしい。
本人達は否定するが、似た者親子である。
「ねぇ、オニキス」と、ヒスイ。
近辺に誰もいないことを確認してから、オニキスにお尻を向け。
「この尻尾、抜いてくれない?」
自分で引っ張ったくらいではビクともしないのだ。
痛みもなく、重さも感じないが、異物感はある。
背に腹はかえられない状況だった。
「思いっきり引っ張ってみて」
ヒスイは近くの木に両手で掴まり、抜かれる体勢を整えた。
「大丈夫なのか?その・・・」
その先は声に出しにくい。
神のアイテムに正攻法が通用するのか疑問に思いながらも。
「・・・痛かったら言ってくれ」
「ん!」
オニキスはヒスイのお尻に左手を添え、右手で尻尾を引っ張った。
ぐっ・・・ぐいっ・・・
「んっ・・・ん・・・」
声を殺し、俯くヒスイ。尻尾は、抜けそうで抜けない。
「んっ!!あ・・・!」
引っ張る度、その根元で、乾き切っていないローションの音がくちくちと鳴り・・・卑猥だ。
「・・・・・・」
オニキスも内心かなり困っていた。
ある意味、吸血後の欲情を我慢するより辛い。
「あっ・・・うぅぅんっ!!」
よほどキツいのか、ヒスイが頭を振って。
「・・・・・・」
(こういう事を普通男に頼むか?)
ヒスイが普通じゃないことはわかっているが・・・男として完全に度外視されている気がして虚しくなる。
一方ヒスイは。
「っ・・・あ・・・はぁ」
(な、なんか、さっきから変なところに擦れて・・・)
アナル挿入はどちらかといえば苦手で、性感帯というほどでもない筈なのに。
コハクのペニスを思い出してしまう。
(おにぃ・・・ちゃん)
途端に恋しくなって。
「ん・・・おにぃ・・・」
堪らず口走った、その瞬間。
「あ・・・」
とろっ・・・愛液らしきものが内腿を伝い。
まさかこんなことになるとはヒスイも思っていなかったのだ。
さすがにこれは恥ずかしく、ヒスイは顔を真っ赤にして。
「ごめっ・・・!!も、いいっ!!」
「・・・・・・」
無言のまま、尻尾から手を離すオニキス。だが。
「オニキス?」
「・・・じっとしていろ。このままでは困るだろう」
ヒスイの内腿に顔を寄せ、愛液の流れを堰き止めるべく、素肌にそっと舌をあてがった。
「っぁ!!」
コハクのものではない感触に驚き、ヒスイの体がいつも以上に大きく震える。
「なに・・・す・・・」
その時だった。
シュガーランドの正門から、見覚えのある二人組が出てきた。
「クソッタレ!!毎日毎日ヘマばっかしやがって!!見ろ!おかげでこのザマだ!!」とウィゼ。
「糞は垂れておらぬ。良いではないか。我は気に入った」と、テルル。
アンデット商会の営業部長とダメ社員の二人は、どうやらスタッフとして駆り出されたらしく。
シュガーランドの趣旨に合わせたものなのか、メルヘンでやたらとピラピラした制服を着ている。
警戒したオニキスは行為を中断し、ヒスイの前へ出た。
「よーう。不老不死の王とヒスイちゃん」
ニヤニヤと含みのある表情で、ウィゼは戦意がないことを告げた。
「今日は“お客様”だ。サービスしてやるぜ?っても、社長の伝言を伝えるだけだけどな」
同じ頃・・・
「おいおい・・・早すぎんだろ〜・・・」と、メノウ。
場所は、赤い屋根の屋敷。メノウの部屋だ。
その視線はコハク&ジストに向いている。
「これで借りは返しましたよ」
青龍の鱗、百虎の爪、朱雀の羽根、玄武の甲羅の破片。
取引材料を机に並べるコハク・・・完徹で四神狩りを行ったのだ。
「父ちゃん・・・オレ、眠い・・・」
徹夜に弱いジストはフラフラ・・・睡眠不足は大敵なのだ。
「少し眠るといいよ」
「ん〜・・・」
「お疲れ様」と、コハクが頭を撫でるとすぐ、近くのベッドに倒れ込み。
「じいちゃ・・・ベッドかし・・・て・・・」
瞬時に寝入ったジスト。スースーと深い寝息をたてている。
「さて、それじゃあ・・・」
ジストが眠れば、親の顔は必要なく。
欲望のままヒスイを求め、身を翻すコハク。
向かうは当然、シュガーランドだ。
「メノウ様、ジストのこと、お願いしますね」
「まかせとけって」
そしてこちら、シュガーランド。
入口広場一面にカラフルな金平糖が敷かれ。
飴細工のオブジェがたくさん並んでいる。
噴水は巨大な綿あめ製造機となっていて、本来水が溢れる場所には、綿あめがふわふわと浮いている。
園内はまるでお菓子の国だ。
一段と甘い香りに包まれながらヒスイが言った。
「つかまえてみろ、なんて。まるで鬼ごっこね」
このシュガーランドのどこかにいる社長を探し出すこと。
それがパーティの主旨らしい。
園内のものは何でも食べていい、と。案内パンフレットも貰った。
「・・・ヒスイ」
「ん?」
「すまん。少々・・・やりすぎた」
ヴィゼ達の登場でうやむやになってしまったが、ヒスイの愛液を口にしたことを謝罪するオニキス。
「あ・・・」
思い出した途端、赤面するヒスイ。
「あの・・・えっと・・・」
「うん」なのか「ううん」なのか、身から出た錆なので、何とも言えず。
答えに詰まって・・・照れ笑い。
それを見たオニキスも笑う。
「なかなかいいムードではないか」
影からオニキスとヒスイを見守るシトリン。
三番目に到着し、二人より少し遅れて入場ゲートを通過したところだった。
オニキスをリーダーにグループで行動していたのだが、何らかの仕掛けにより気付けばバラバラ。
ここは即合流すべきところだが・・・
シトリンは、ヒスイと二人きりになる機会の少ないオニキスを気遣い、声をかけずにいたのだ。
と、そこに。
不測の四番手が到着した。
「やあ」
「!!なっ・・・なぜお前がここに・・・」
そっくりな顔が二つ並ぶ。
シトリンと・・・コハクだ。
「ヒスイとデートしに」と、コハク。
その視線はもうヒスイに釘付けだ。
「あれ?」(なんか耳と尻尾が・・・)
ヒスイの格好が、気になる。傍に寄って確かめたい。ところが。
「ま、待て!!」
邪魔者を行かせてなるものかと、シトリンはコハクの腕を掴み。
迷路を抜けるのが早すぎると抗議した。
「迷路?ああ、あれね」
コハクはにこやかに笑い。
「いちいち付き合うこともないと思って、空から来たんだ」
「・・・・・・」(そうか・・・飛べば良かったな)
翼を持っていることを自分でも忘れていた。
「優しい子だね、君は」
コハクはそう言いながら、シトリンの頭に手を乗せ。
「もっと二人きりにしてあげたい?」
「そ・・・それは・・・」
コハクに言い当てられ、しどろもどろになるシトリン。
「でもごめんね。そういう訳にはいかないんだ」
隙を突き、コハクはシトリンの腕から逃れ。
「あ!こら待て!!行くな!!」
「ヒスイ」
「あっ!!お兄ちゃん!!」
こうしてコハクは、オニキスからヒスイを奪還した。
・・・のだが。
「・・・・・・」
(やっぱり・・・犬になってる・・・)
誰の仕業かは、聞くまでもない。
(トパーズ・・・よくもやってくれたな)
最近大人しくしていたかと思えば、ちょっと目を離すとこの始末だ。
「おにいちゃん?」甘えたそうに、見上げるヒスイ。
(これはこれで可愛いけど・・・)
・・・僕は猫派だ!!