短編(No.05)
コハク×トパーズ
※久遠千世様に執筆していただきました。
『上等、ハーブティー』
小花を散らしたレースのカーテン越しに見えるのは、ヒスイとシトリン。手をつなぎ笑みを絶やすことなく、しゃべりながら街へと歩いていく姿は何とも楽しげで。
爽やかな風にゆるくなびく銀の髪と金の髪は、降り注ぐ木漏れ日にきらきらと煌めいていた。
「はいっ」
いきなりかけられた声と、差し出されたティーカップに、不覚にもびくりと背筋を震わせたのは、二人の姿を見ていたトパーズだ。
そして赤い瞳の視界におさまるのは、無駄に輝く笑みを浮かべるコハク。
二人でいる時にはありえない表情を浮かべる様は、一言で言うなれば“上機嫌”。
いつも以上にカチンとくるその態度にトパーズはすぐに視線をそらし、ティーカップは当然のように受け取らない。
もちろん、こんな態度には慣れたもの。コハクはごく普通にそれを出窓へと置いた。
「どう? 僕の見立て」
そう。これが上機嫌の理由。
“ヒスイがトパーズの選んだ服ではなく、コハクの選んだ服を着てくれたから”である。
「……」
答える気、ゼロ。
「あれなら二人並んで歩いても、両方がお互いをひきたてあってより可愛く見えるでしょ?」
確かにそれは納得せざるをえない。
でも。
「僕が何でシトリンの着てくるものを知っていたか、気になる?」
「……」
「言っておくけど、ズルはしてないからね」
そんなこと言わなくても分かる。
コハクがヒスイのそばを離れることなどあるはずもなく、昨晩もその前の晩も二人はずっと一緒におり、コハクが外出した形跡など欠片もないことは、トパーズも承知の上だ。
「昨日シトリンがヒスイを誘いに来た時、ジンくんからもらった服を着ていくって言ってただろ?」
昨晩いきなり尋ねてきて、ヒスイに買い物へ行こうと言いだしたシトリン。はしゃぎながらそんなこと言っていたなと、記憶をめぐらせる。
「ジンくんはセンスがいいから、絶対シトリンを一番綺麗に、でも本来の魅力をそこなうことのない服を選んでくるだろうなぁ、と思ったわけだよ」
言われてみれば、時間より早めにきたシトリンの姿をヒスイは見ている。その上でどっちかと言われれば、ヒスイとてコハクの方を選ぶだろう。
あまり普段は自分でコーディネートはしないヒスイ。でも、毎日着ているものはコハクが絶対の自信を持ってすすめる服。
目は相当こえているはず。
「ということで、僕の勝ち。きみはまだまだ修業がた・り・な・い・ね」
耳元でつぶやかれるその台詞に、反射的に出たトパーズのこぶしが飛んだ。だが今、上機嫌な上に絶好調なコハクにそれがあたるはずもなく、呆気なく避けられてしまう。
そんなトパーズをここぞとばかりに見下し、ふふんと不敵な笑みを向けるコハク。
「難しい本とにらめっこするのもけっこうだけど、ファッションの勉強もしたら?」
妙に癪にさわる響き。もう本当にむかつくことこの上ない。
「……黙れ」
「ふん。別にいいけどね。ヒスイが着るものはこれからもぜーんぶ僕が選ぶから」
言いながら笑い声を響かせ、コハクは部屋を出ていった。
イライラモード急上昇中だったトパーズだったが、その原因が出ていってくれたことで幾分下降。
そんな時、ふと視界に飛び込んできたのは先程差し出されたティーカップ。まだほんのりと湯気のあがる透き通った液体。
ただようのはハーブの爽やかな香り。
こんなもの、もちろん飲んでやる義理などないとばかりにきびすを返そうとするが、ふと、ある記憶がよみがえる。
──お兄ちゃんのいれるハーブティーはね? おいしいだけじゃなくて、すっごくすっきりして頭が冴えるんだよぉ──
ヒスイのおのろけ的コハク自慢。
そして今まさに進もうとしていた方向にあるのは、ファッション関係の本本本。
何だか今度は競争心が燃え上がる。
「……上等だ」
乱暴にカップを手に取り、一気にそれを飲み干すと、喉に感じる熱さなどなんのその。トパーズはドカリと腰かけると、本を取るべく手をのばした。
「ぷぷ。負けず嫌いだねぇ、本当に」
そんなトパーズの姿を、ドアの隙間からそっとのぞいているのは、もちろんコハク。
「誰に似たんだ?」
誰が見たってコハクなのだが、ふざけているのかそうじゃないのか、首をかしげている。
「……たまには覗きもいいなぁ」
ハーブティーの香る、とあるひとこま。
End...
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