世界に春がやってくる

短編(No.39)2015.08.31改稿前の内容です。

ルチル×ヒスイ

『世界に春がやってくる』最終話まで読破された方向け。
番外編『Cross Crown』が前提となってます。



彼の泣き顔に、恋をした。

花咲く丘で―

それは、かつてコハクが罪人を弔った場所…なのだが。
何故かそこに、ルチルとヒスイの姿があった。

「あ…えっと…あれ???」
(まだ教えてないよね???)←ヒスイ、心の声。

学校行事のひとつでもある、遠足。
行き先候補地の下見に付き合って欲しいとルチルに頼まれ、辿り着いたのがここだった。

「どうして、ここを知ってるの?」

と、ヒスイ。

「思い出の場所なんです」

ルチルは、金の髪を片方の耳にかけ、笑った。
ルチルが16歳になったばかりの頃…
モルダバイトへの留学が決まり、育ての親であるラリマーと、マーキーズから移住してきた。
その途中のことである。

「近くを通りかかったら、花の香りがして」

ラリマーと共に立ち寄ったのだという。

「そっか」

不思議な偶然もあるものだと思いながら、続けてヒスイはこう尋ねた。

「ラリマー、何か言ってた?」
「彼は…泣いていました。“自分もここに、セラフィムと立つべきだった”と」

ラリマーは、ここがどんな場所なのか、理解したのだろう。

「私は、なぜ彼が泣いているのか、わかりませんでした」

ヒスイにそう話したルチルだったが…
おろおろしながらも、その泣き顔に心を奪われたことを鮮烈に覚えている。

「ラリマーは気が付いてるみたいだから、言っちゃうけど」

ふたたびヒスイが口を開く。

「ここ、お兄ちゃんが造った霊園なの」
「え―」

先の方、よく見てみて〜と、ヒスイが指をさし。
その時初めて気付く。
木製の十字架が、遙か彼方まで立ち並んでいることを。

「あのね―」

ヒスイが“裁き”について説明する。
なにせ話下手なので、内容は推して知るところだが…

「昔の話を聞いてから、二人で一緒に花の種を植えにきたの。これでも結構頑張ったんだよ?」

十字架が埋もれるくらい、たくさんの花が咲いたら。

「ラリマーとイズを招待する予定だったんだけど」
「ヒスイさん…」

しかしそれをすっかり忘れていたという残念な現実はさておき。

「ごめんなさい。そんな場所だったなんて…」

俯くルチルを、ヒスイは下から覗き込んだ。

「ううん。ねぇ、ここ、どんな風に見える?」

風が吹けば、一斉に花びらが舞い。視界はどこか霞がかっている。

「…天国、みたいなところですね」

ルチルが答えると。

 「そうなればいいな、って、思ってたんだ」

ヒスイは嬉しそうに笑った。

「…遠足は他の場所にしましょうか、ヒスイさん」
「うんっ!」

その言葉を待っていたかのように、ヒスイが頷く。

「近くにいいところがあるから、今度は私が案内するよ!いこっ!」
「はい」

返事をして、ヒスイの後に続くルチル…だったが。
ふと立ち止まり、花咲く丘を振り返った。

「……」

“自分もここに、セラフィムと立つべきだった”

記憶の中のラリマーの声と共に、当時の光景が鮮明に甦る―
涙の意味を知っても。
あの美しい泣き顔は、きっと一生、忘れない。



+++END+++

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