世界に咲く花

12話 コイノノロイ。

  

ヘルメットを両手で抱えてヒスイが走る。

その後をシトリンが早足で歩く。

オニキスは宮殿の2階へ戻ってきていた。

数人のメイドと何やら相談をしている。

「ヒスイ様の作業服がもうボロボロで・・・」

「同じ物を手配・・・」

「縫ってみたんですけど・・・」

「何そのアップリケ。ヒスイ様は子供じゃないんだから・・・」

「でも似合いそう」

「うん。うん」

そこに噂の本人であるヒスイが現れた。

少し離れた場所からオニキスを手招きする。

「オニキス!ちょっと、ちょっと」

「何だ?」

「いいものあげる。屈んで目をつぶって」

「?」

ヒスイの言葉に素直に従うオニキス・・・

スポッ!

「・・・・・・何だコレは」

「夜間作業用ヘルメット」

「・・・・・・」

「王冠よりもこっちのほうがずっと似合ってるわよ?」

ヒスイがにっこりと微笑む。

呆気に取られしんとなっていた周囲がどっと笑った。

明るい城内。

「でも今夜は二人でシトリンのテスト勉強に付き合おう」

「そうだな」

どきっ。

(オニキス殿も一緒に?)

性懲りもせずシトリンの胸が高鳴る。

「あ、その前に私、トパーズのところでもう一個もらってくるから。先に始めてて」

(ええっ!?二人きりでか!?気まずい!気まず過ぎる!!)

「ちょ・・・母上・・・待て・・・」

シトリンは慌ててヒスイの後を追った。

  

その先での出来事だった。

招かれざる客。

金色の光。

渡り廊下を通りかかったヒスイの前に舞い降りた天使。

「・・・抱き締めにきたよ」

「!!!?」

コハクは驚きで声を失ったヒスイを言葉通り強く抱き締めた。

「!!お前・・・っ!母上を返せ!!」

ヒスイの後を追ってきたシトリンが叫び声をあげる。

「王妃様を少しの間お借りします、ってオニキスに伝えて」

コハクは以前と変わらぬ笑顔でシトリンにそう言った後、急上昇した。

金色の羽根が舞い散る。

「行かせるものか!」

「・・・追うな」

羽根を広げたシトリンの手首を掴んでオニキスが制止する。

「オニキス殿!?何を言って・・・」

「・・・これでいい」

「このままでは、あいつの好きなようにされてしまうぞ!?」

オニキスは黙って瞳を伏せた。

「・・・間違ったことをしているのはオレのほうだ」

「だがっ!母上は今、オニキス殿を好きだと言っているのだろう!?なのになぜ自分から手放そうとする!?」

「かりそめの想いだ。それがわかっていてもオレは・・・甘えてしまう。ヒスイも・・・お前も傷つけて」

「そんなの平気だ!私は丈夫なのがウリだ!頭以外なら自信を持って言えるぞ!」

「頭以外は・・・か」

シトリンの言葉にオニキスが笑う。固い表情が和らいだ。

「・・・だったらとにかく今は試験勉強だ。始めるぞ。ヒスイのことは心配ない」

「・・・宜しく頼む!」

先を歩くオニキスの背中。

手を伸ばしてみる。
でも届かない。
掴めない。

(今一番母上を追いかけたいのはオニキス殿だろう。これは・・・呪いだ。恋の呪い。どうか愛しいこの人が救われますように・・・)

「そして・・・できることなら私がその呪いを解いてやりたい・・・」

  

「あの〜・・・そんなに怖い顔しないでくれるかな?」

「人のこと誘拐しといて・・・何言ってるの!?」

(誘拐・・・ぐさっとくるなぁ・・・)

コハクはヒスイを屋敷に連れ帰った。

庭のテラスにある白いテーブルセットで強引にもてなす・・・

「別に取って喰おう訳じゃないから・・・ね?」

「・・・あなた“誰”?どうしてシトリンと同じ顔してるの?」

ヒスイが睨み付ける。

それに対してコハクは微笑みを返した。

「・・・コハク」

「・・・え?」

「僕の名前。これからはそう呼んで」

「コ・・・ハク?」

“コハク”と聞いた瞬間、目眩がした。
頭痛の前触れ・・・

ドクン。ドクン。ドクン。

激しい動悸・・・息ができない。

「はい、そこで深呼吸〜」

コハクが言った。
お手本とばかりに自ら深呼吸してみせる。

それに続いてヒスイも深呼吸。

(はっ!つられちゃった・・・)

何故だか少し照れ臭い。

(なんだろう・・・この気持ち・・・)

「・・・馴れ馴れしい人ね」

ヒスイはツンと横を向いた。
照れ隠し・・・コハクにはわかる。

「うん。好きなんだ、キミのこと」

「・・・・・・え?」

(あぁ、この顔久しぶり!ヒスイの驚く顔、好きなんだよね、僕)

心の中で萌えて悶える。

突然の告白にヒスイは赤い顔で固まっている。

(可愛いなぁ・・・離れていた分、心に染みる・・・)

「はい。どうぞ」

コハクはヒスイの前にミルクティーを置いた。

優しく甘い香りが漂う。

「キミの好きなものだよ。飲んでごらん。告白の返事はまだいらないから」

「・・・・・・」

ヒスイはカップを手に取りミルクティーを飲んだ。

こくん・・・

「あ・・・」

一口飲み込んで涙。もう一口・・・また涙。

飲めば飲むほど涙が出てくる。

「ヒスイ・・・」

(たぶんまだ心のどこかに残っている記憶があるんだ・・・)

「美味しい?」

「・・・うん」

ヒスイはとても大人しい。
コハクはそっと頭を撫でた。

(もっと嫌がって暴れるかと思ったんだけど・・・従順だ・・・困惑してるのかな・・・?)

黙って空のカップを見つめているヒスイ。

(・・・試してみるか・・・)

「・・・もうひとつ、キミの好きなものをあげる」

「!!な、何してるのっ!?」

果物ナイフでコハクが手首を切った。

周囲に血の匂いが立ちこめる・・・

「・・・おいで」

「ぅ・・・」

(このヒトの言葉に・・・逆らえない・・・)

ヒスイはフラフラとコハクの傍へ寄った。

(血・・・飲みたい・・・)

コハクの手首を両手で握って跪き、夢中になって血を啜る・・・

(な・・・んでこんなに美味しいの?このヒトは・・・誰なの・・・?)

はぁっ・・・はぁ・・・

頭の芯が痺れるような甘い血の味に性欲が掻き立てられる。

(私・・・欲情してる・・・この血に・・・このヒトに・・・いや・・・だめ・・・)

愛している相手の血ほど美味く感じる・・・吸血鬼の性。

はあ・・っ・・・

ヒスイは熱っぽい息を吐いた。

(ヒスイ・・・血を吸うとえっちしたくなるんだよね、いつも)

記憶を無くしても体がみせる反応は同じだった。

「ヒスイ・・・」

コハクは顔を近づけ、ヒスイの唇に付いた自分の血を舐め取った。

そのまま唇を押し当てる・・・

「ん・・・・・・」

ヒスイは全く抵抗しなかった。

「・・・どっちのキスが好き?」

ほんの少しだけ唇を離してコハクが訊ねる。
そしてまたキス・・・

「・・・答えて」

はあっ。はあっ。

ヒスイの息づかいが益々荒くなった。

今にも泣き出しそうな顔をしている。

「ちゃんと答えるまで・・・止めないよ?」

「・・・んん・・っ」

撫でるように、摘むように、優しいキスを繰り返す。

それが徐々に濃厚なものへと変わっていく・・・

「・・・オニキスと僕・・・どっちがいい?」

はぁ・・・はぁ・・・

(私・・・何やってるの・・・?)

頭の中で声がする。

(この先・・・どうなるかもわかっているのに・・・体が拒めない・・・。オニキスはどうして追いかけてきてくれないの・・・)

泣きたい気持ちに反して高まる快感。

キスで溶かされた唇が勝手に動いた。

「・・・コハク」

「・・・いい子だね・・・このままもうちょっとだけ気持ちいいことしようか・・・」

こくん。ヒスイが頷く。

コハクはヒスイを抱き上げ、家の中に入った。

暖炉の前にある巨大なパウダービーズのクッション。

ヒスイが昼寝に愛用していたものだ。

そこにヒスイを寄り掛からせ、頬や首筋にキスをして服の上から胸を愛撫する。

はぁっ、はぁっ、はぁ・・・っ・・・

(だめ・・・やめて・・・)

そう思っていても、コハクの手が下に伸びてくると自然に脚が開く。

「こんなに濡らして・・・お城に帰れなくなっちゃうよ?」

美しく整ったコハクの微笑み。

長いドレスの裾を捲り上げ、下着の上からふっくらとした輪郭を指でなぞっている。
ヒスイの入り口をぐっしょりと湿らせるまで刺激して、それからゆっくりと脱がせた。

「あ・・・っ・・・」

(指、中に・・・入ってきた・・・中指・・・薬指・・・)

否応なく神経が集中する。ヒスイは挿入された指の数を数えた。

「ぅ・・・ん・・・」

(人差し・・・指)

「あ・・・ふっ・・・」

三本の指で中を探られている。一番触って欲しいところをわざと外しているとしか思えない動きで。

(・・・簡単にはイかせない。離れていても僕のことを考えるように、じっくり体に覚えさせる)

「ヒスイ・・・耳を澄まして、キミと僕が奏でる音を・・・聴いて」

コハクが耳元で囁く。

「・・・・・・」

ぬちゃっ。ぐちゃっ。

(・・・こんなの・・・ちっともいい音じゃない・・・でも・・・)

体が更に熱を帯びて、股の間から愛液が止めどなく溢れ出す。

(あぁ・・・綺麗だ・・・輝いて見える・・・)

ごくり。コハクの喉が鳴った。

(いつものように舐めまくって飲み干したい・・・!!指よりも口でするほうがヒスイも好きだし・・・でも・・・いきなりじゃ引くよね・・・ここはぐっと我慢を・・・)

はぁ。はぁ。

(知らない人・・・なのに・・・このヒトの指も唇も・・・すごく・・・気持ちがいい・・・私・・・自分から足・・・開いてる・・・もうオニキスのとこ・・・帰れない・・・)

胸が痛い。
体ばかりが悦んで。

ヒスイは涙を堪えてじらされた快感に溺れた。

  

「・・・そろそろアレ欲しい?」

散々乱されたヒスイが頷く。

コハクはズボンのチャックに手をかけた。

「その前に一つ聞くけど・・・ヒスイ、僕のこと・・・好き?」

「・・・わかん・・・ない。気持ちいいけど・・・泣きたい・・・気分」

「・・・・・・」

(泣きたい気分・・・か。だめだな、まだ。ヒスイとするの、大好きだけど・・・愛がなきゃイミない)

「・・・じゃあ・・・今日はここまでにしようね」

コハクはそう言ってヒスイの頬を撫でた。

(僕とやりながら頭の片隅でオニキスのことを考えてるなんて、ヒスイにとっても僕にとっても最悪だ)

「う゛ぅ〜っ・・・」

(やだ・・・したい。このヒトと・・・したい)

コハクの服を掴んでヒスイが本能の声を洩らす。

「う〜ん・・・そんなに求められちゃうと・・・」

(ヒスイも久しぶりで興奮してるな・・・このままっていうのもちょっと可哀想か・・・こんなに濡れてるし・・・。帰ってからオニキスと続きを・・・なんてのも困るし。やっぱり満足させてから帰さないと・・・)

ヒスイの中に再び指を潜らせる。

「あ・・・ん・・・」

もっと奥へ、と、ヒスイが腰を浮かせる。

「イク時はちゃんと僕の名前、呼んでね」

「・・・コ・・・ハク?」

「うん。そう」

コハクはヒスイの唇を塞いだ。

懐かしいヒスイの舌の味。

それを確かめるように舌を絡め、根元からたっぷりと吸う。

同時に指を激しく動かす。

「あ・・・ぁぅ・・・んふ・・っ・・・」

(ごめんね・・・オニキス・・・私もう・・・だめ・・・)

心が・・・体に支配されていく。

「あっ・・・あっ・・・コ・・・ハク・・・コハク・・・っ!」

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