世界に咲く花

38話 銀の悪魔


   

モルダバイト城。

 

窓からツバメが入ってきた。

メノウが連絡用に造り出した式神だ。

室内を一周してメノウの肩に留まる・・・

「シトリンとジン、こっちに向かってるって」

「・・・あと2、3日はかかるな」

オニキスとメノウは作戦会議の場所を城に移した。

こんな調子でメノウが離れの宮殿に居座ること3日。

シトリンとジンが帰着した。

「只今戻りました」

「ご苦労だったな」

オニキスはジンを労った。

「ところで・・・シトリンは」

「えっ!?あの・・・」

(王、ひょっとして知らないのか!?シトリンが猫になったこと)

「あ、言うの忘れてた」

助け船。メノウが進み出たので、一歩下がってバトンタッチ。

「シトリンさぁ、猫になっちゃったんよね。ま、詳しいことは後で話すけど」

「な・・・んだと?」

顔面硬直。足元を見て絶句。

金色の猫が行儀良く座っている。

(オニキス殿には知られたくなかった・・・)

シトリンはオニキスと目を合わせないように深く俯いた。

「・・・・・・」

オニキスは完全に言葉を失っている。

めまぐるしい展開。

トパーズとヒスイが敵に。そして、シトリンは猫に。

心労が重なる・・・もはや溜息しか出ない。

「まぁ、まぁ、そう暗くなるなって」

根拠のない励まし。メノウはオニキスの背中を軽く数回叩いた。

  

魔界。

星空の下、金と銀の頭が並ぶ。

コハクとトパーズだ。

「君も苦労するね」

「・・・・・・」

「・・・能力が著しく低下している」

「・・・・・・」

ヒスイとサファイアの就寝後、屋敷を抜け出した二人。

「それで本当にサファイアの望みを叶えることができるの?」

口を動かすのは専らコハクだ。
トパーズは沈黙を決め込んでいる。

「・・・“神”の棲む世界は時間の流れが早い。君は今、時間の流れを周囲に合わせる為に力の大部分を使っている。余力は殆どないはずだ」

「・・・・・・」

コハクの言っていることは正しかった。

“神”となった瞬間から別次元の存在・・・全く異なった時間速度。

周囲に影響を及ぼさない為に、想像を絶するエネルギーを消費していた。

戦闘能力はもはや皆無に近い。

「確実に前より弱くなってるね」

「・・・・・・」

“神”となり、吸血鬼特有の“渇き”から解放されたかと思えば、今度は“時間”のコントロールに身を削る。
トパーズに安息はなかった。

「・・・疲れたでしょ」

「・・・・・・」

「今なら多少気を抜いても大丈夫だよ。僕は“時間”の影響を受けない。そもそも魔界は寿命の長い生物ばかりだし。ほんの少し時計が早くなったって誰も気付かないよ」

  

一ヶ月後。

 

「銀の悪魔だ!!」

マーキーズにある都市のひとつを襲撃したのは、トパーズとヒスイだった。

「耳を塞げ!」

「歌を聴くな!!」

ここ何週間かで近隣都市のほとんどが一組の悪魔に消滅させられていた。

“銀の悪魔が現れると、住民が一人残らず消える”

世界を震撼させるニュースだった。

くすりとヒスイが笑う。美しく残酷に。

「・・・無駄よ」

少し膨れたお腹の上で両手を組んで歌い出す。

優しい子守歌。

すべてのものが眠りに落ちる。

『・・・凍結/送還』



ヒスイに続き、トパーズが気怠そうに呪文を唱えた。

歌に魅了され、無抵抗となった人々の体が一斉に凍り付く。

連続魔法・・・地表に現れた魔法陣が、氷のオブジェを次々と飲み込んでいった。

大きな都市でも作業には2時間とかからない。

「ふぅっ」

ヒスイが息を吐いた。

「・・・さっさと帰るぞ」

時間の流れを周囲に合わせているつもりでも、呪文を使った後などは不安定になり、少なからず影響を及ぼしていた。

共に行動する機会が多いヒスイのお腹は、もうソレとはっきりわかるぐらいふくよかになっていた。

「お父さん達、今日も手遅れだったね」

“銀の悪魔”を追って登場するメノウとオニキス。

何度か顔を合わせたが戦いにはならなかった。

「・・・向こうにも考えがあるんだろう」

トパーズは素っ気なくそう答えた。

  

魔界の洋館。バスルームにて。

 

「ごめんね。いっぱい働かせちゃって。お腹も目立ってきたのに」

湯船の中。後ろからヒスイを抱き締め、お腹を撫でる。

(異様に発育がいい・・・間違いなくトパーズの影響を受けてる。これ以上一緒にいさせるのはちょっと・・・)

お腹が大きくなればなる程、行動が制限されてくる。

そして何より、この件が片付いてから落ち着いた環境で出産させてあげたいと思う。

「平気だよ。お兄ちゃんの役に立てて・・・嬉しい・・・あ」

お腹の上から指を滑らせ、割れ目へ。手前の皮を剥いて中をいじる。

癖だった。意識していなくても手が勝手に動く。

「あ、っぅ・・・おにいちゃん、お湯・・・熱い」

「あっ・・・ごめん、つい・・・」

コハクは慌てて指を引いた。

「・・・する?」

ヒスイから言ってきた。

「しない。今日こそ我慢する」

「ぷっ。お兄ちゃんじゃないみたい」

「・・・やっぱりそう思う?」

「うん。思う」

「じゃあ、“浅く長く”と“深く短く”どっちがいい?」

「深く長く!」

元気良くヒスイが答えた。

「こらこら」

少し困ったようにコハクが笑う。

「お腹の子がびっくりしちゃうよ?」

ザブン・・・

二人、湯船から立ち上がる。

見つめ合い、ゆっくりとキスを交わした。

「両親が仲良しなのはいい事でしょ?」

いつもならコハクが言いそうな台詞を今日はヒスイが口にする。

くすっ。

コハクは大きなタオルケットでヒスイの体を包み込んだ。

「ちゃんとベッドでしようね。滑って転んだら危ないから」

過去に何度か失敗したことがあった。

しかし今回は笑い事では済まされない。

「うんっ!」

ヒスイが無邪気に頷く。

子供の頃からコハクに体を拭いて貰うのが好きなのだ。

「お兄ちゃん大好き!」

純真無垢な笑顔でヒスイはコハクに抱き付いた。

  

「座って、ヒスイ」

ベッドの端に腰掛けさせ、足の間に体を入れる。

コハクはヌルリと光る中心に尖った先で押し入った。

「ん・・・おにい・・・ちゃん」

「ヒスイ・・・」

繋がる性器。最高の営み。

「アッ!アッ!アンッ!!」

パシパシとコハクの下腹部が当たって音をたてる。

濡れた金髪からポタポタと滴が落ちた。

ヒスイの体は丁寧に拭いたものの、自分は適当だったのだ。

「ンッ、ンッ、アウンッ!」

激しい腰使い。

ヒスイの体に負担をかけないように、短期決着を狙う。(予定)

「あ・・・イ・・・イっ・・・」

少し乱暴とも思える動きで絶え間なく突き上げる。

「あふ・・・ん」

腰掛けた姿勢のまま腰を浮かせていたヒスイは、あまりの快感に耐えられなくなり後ろへ倒れ込んだ。

大きく脚を開き、結合部を露出して喘ぐ。

「は・・・きもち・・・い・・・」

「ん・・・もうちょっと・・・ね」

仰向けに倒れたヒスイの太股を掴んでぐちゃぐちゃと中を掻き乱す。

「あぅ・・・も・・・だめ」

ヒスイが絶頂を訴えた。

「我慢。我慢。これからもっと気持ちよくしてあげるから」

「ぅう゛〜・・・」

「先にイッたら“おしおき”だよ」

「やっ・・・ぅん・・・」

コハクの言いつけは守る。ヒスイは歯を食いしばって快感に耐えた。

「体位変えるね」

「ウッ!ウゥン」

後背位へ移行・・・仰向きだったヒスイの体を横にする。

勿論穴は塞いだまま。

「う゛っ・・・ぅ」

途中、擦れが更に強くなり、入り口から中、隅々まで刺激が行き渡った。

ヒスイは低い声で呻いた。

「ヒスイ・・・動ける?」

はっ。はぁ。はぁ。

気持ち良すぎてなかなか動けない。

「そう・・・俯せに体を起こして・・・お腹、重いかな?」

「へ・・・いき・・・あぁ・・・っ」

ヒスイのお腹を支えて、コハクが激しく腰をぶつけてきた。

その振動でヒスイの体がガクガク揺れる。

「あ、ぁ、あ、お・・・にいちゃ・・・ぁ・・・・・・」

途切れ途切れの喘ぎ声。

我慢の限界。

「そろそろ・・・・イ・・・っても・・・イイ・・・・よ」

コハクの声も同じように途切れる。

「あ・・・ぁぁん!」

興奮の頂点・・・苦悶の表情でヒスイが叫んだ。

「ヒ・・・スイ・・・っ!」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

早めに済ませるはずが、たっぷり愛し合ってしまった。

とはいえ、お互い大満足。

「はぁ・・・おにいちゃん・・・」

「・・・よく我慢したね。いい子だ」

「んっ!」

背中にコハクの体温を感じる。

たまらなく幸せ。心が満たされる。

二人はしばらく繋がったまま快感の余韻に浸った。

  

人間界。マーキーズ。

「“銀の悪魔”か・・・やってくれるじゃん」

誰もいなくなった都市に遅れて現れたメノウとオニキス。

「・・・やはり血の匂いはしない」

「殺してるワケじゃなさそうだから今まで様子見てたけど・・・」

「・・・向こうの計画は着実に進行しつつある」

「そうだね。そろそろ手を打つか」

メノウはマーキーズ周辺の地図を広げた。

「健在の都市はあと一つしかない」

上から覗き込んだオニキスが指差す。

「・・・ここで迎え撃つ」

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