42話 嘘と隠し事
魔界。洋館前。
「オヤ?あのフタリ、雰囲気変わりましたネ?」
玄関横に位置する部屋の窓越しに見えるヒスイとトパーズ。
特に会話をしている様でもなかったが、外から見てもわかるほど和やかな空間だった。
「・・・・・・」
サファイアと共に帰還したコハク。
言われるまでもなく、すぐに気付いた。
(・・・何かあったな)
軽い胸焼けを起こしながら玄関をくぐる。
「お兄ちゃんっ!おかえりっ!」
ヒスイが小走りで出迎えた。
ちぅ〜っ・・・
唇を吸い合うただいまのキス。
「・・・ね、ヒスイ」
「ん?」
「僕がいない間に・・・何か・・・あった?」
「え!?別に何もないよ?」
ヒスイの声が1トーン上がった。明らかにアヤシイ。
「・・・・・・」
ヒスイに隠し事をされるのが何より嫌だ。
妙な悔しさが込み上げてきた。
「お兄ちゃん?」
コハクの心中いざ知らず、ヒスイが顔を覗き込む。
実に能天気な笑顔だ。
(・・・なんかすっごく苛めたくなってきた・・・)
戦いの後とは到底思えない夕食タイム。
今夜の当番はトパーズで“異世界料理図鑑”による“和食”を作った。
蕎麦と天ぷら。ごま豆腐。いなり寿司。
ヒスイはごま豆腐が気に入ったらしく、うっとりした顔で口をもぐもぐさせている。
いつもと変わらない食卓。
コハクもサファイアも戦いの話はしなかった。
衣服の乱れもなく、かすり傷ひとつ負っていない。
「ヒスイサン、ワタシの分もド〜ゾ」
「え?いいの?」
サファイアが差し出したごま豆腐をすかさずいただく。
「ん〜・・・おいし〜・・・」
ヒスイはぺろりと平らげて満足そうに微笑んだ。
「・・・・・・」
一見いつもと同じでもいつにも増してコハクの心は狭かった。
(ヒスイを喜ばせるのは僕の特権だったのに)
お株を奪われたようで面白くない。
「・・・・・・」
ご機嫌な笑顔ばかり見ているとたまに泣き顔が見たくなる。
鬼畜な習性。
(・・・今夜は泣かせちゃおうかな〜・・・)
「・・・マーキーズの駆逐は完了ですカ?」
「・・・ほぼ」
食事当番の仕事は片付けまで含まれる。
めずらしくヒスイも手伝っていた。
二人の様子を遠目で確認しながら食後のコーヒー。
ちょっとした打ち合わせには最適な時間だった。
「ヨルムンガルドの毒が流れれば、殆どの人間は死に絶える・・・だけど、稀に生き残る人間もいる。そういう奴等は大抵強い意志を持って毒の元を絶とうと自ら動く。人間は押さえつければ抵抗する生き物だ」
「そうですネェ〜」
「病気なら尚更、頭の上がうるさくちゃかなわないだろうし」
「エエ」
「・・・駆逐は徹底的に・・・ね」
コハクは上品にコーヒーを啜って、美しく冷酷に微笑んだ。
「グリーンティもなかなかイケるわね」
コーヒーの代わりに緑茶を楽しむヒスイとトパーズ。
部屋の明かりを消して・・・月光浴。
「ごま豆腐、美味しかった〜・・・私“和食”って好きかも」
上機嫌にヒスイが言葉を並べる。
「前から思ってたけど、トパーズがお料理上手って・・・意外」
コハクとは対照的に「そんなものは女の仕事だ」と、全くやらないイメージを持っていた。
「・・・料理は科学だ。オレに作れないものなどない」
「あ!じゃあ・・・」
「何だ?」
「もうすぐ結婚記念日なんだけど・・・」
「それが?」
「だからっ!お祝いにケーキ作って!」
こ〜んな大きいやつ!と身振り手振りでヒスイが説明する。
「・・・何故オレがお前等を祝わなきゃならん。馬鹿らしい」
「何故って・・・・・・子供だから・・・じゃ、だめ?」
少し迷いのある声でヒスイが言った。
「・・・調子に乗るな、馬鹿」
ぺしっ!
トパーズはヒスイの額を軽く叩いた。
それから頭を掴んで顔を引き寄せる・・・
「トパーズ?あ・・・」
額にトパーズの唇が触れた。
「・・・操られた」
「・・・え?」
「オレの意志じゃない」
トパーズは素っ気なくそう言い残して部屋を出ていった。
「えぇっと・・・今のは・・・おやすみの・・・キス???」
ヒスイは両手で額を押さえ、照れ笑いした。
叩かれた痛みと柔らかい唇の感触が混在している。
「あれ?でも操られてた・・・のかな??」
「オヤァ?おかしいですネ。操ってナドいませんヨ?」
廊下の壁に寄り掛かっていたサファイアが腕を組んで笑った。
「・・・・・・」
「素直にオヤスミって言えばいいノニ♪」
「・・・いっそ操られていた方が楽だな」
トパーズは苦々しく笑ってサファイアの前を通り過ぎた。
「ヒスイ?いる?お風呂の時間だよ〜」
ヒスイが月光浴をする部屋は決まっている。
コハクはヒスイを迎えにやってきた。
月の光に包まれたヒスイの横顔には淡い微笑みが浮かんでいた。
「あ!お兄ちゃん!」
「ヒスイ、なんか嬉しいことあった?」
「え?そんな風に見える?」
「見えるよ」
トパーズがらみなのは間違いない。
一切顔には出さないが、やっぱり腹が立つ。
(何があったのか、まとめて聞き出してやる・・・)
「・・・いこうか」
「うん!」
「や・・・こんなコトしなくたって・・・・自分でちゃんと開くよぅ」
お待ちかねの時間。
コハクはヒスイを裸にし、体を椅子に縛り付けた。
両手を後ろで縛り、椅子の脚にヒスイの足を絡ませ、きつく括り付け、中央露出。
正面からヒスイの開かれた場所を眺める。
視姦。自分は服を着たまま、しゃがみ込んで、覗き込み、濡れてゆく様をじっくりと鑑賞。
「やだ・・・こんなの・・・」
嫌がるヒスイの股の間から愛液が滲み出る。
くすっ。
「・・・絶景だ。すごく綺麗だよ」
「う゛〜・・・」
「こうするとよく見えるね。うん、入れやすい」
「あん・・・っ!」
コハクは無造作に人差し指を突っ込んだ。指の腹は上向きではなく下向きだ。
愛撫とは少し違う指の動きでグリグリと中を穿る。
「やぁ・・・っ・・・ンッンッ!!」
潮吹かせ、愛液を流させるだけ流させて、指を引く。
「あ・・・ぅ・・・」
いつもなら飛びついて舐め回すところを、わざと垂れ流しにさせて羞恥心を煽る。
「もうヒクヒクしてる。イケナイ子だね」
「お・・・にいちゃんのいじわるぅ〜・・・」
「こっちが地だって、知ってるよね?」
バサッ・・・
コハクは羽根を広げた。
その中から一本、とりわけ大きく芯の通った羽根を抜き・・・ニヤリ。
「まぁ、コレも僕の一部だし・・・しっかり銜えるんだよ」
ズプッ。
コハクは金色に輝く羽根を田植えの要領でヒスイの割れ目に深く刺した。
「・・・っ!?おにいちゃ・・・なにを・・・やだってばぁっ!!」
涙と一緒にヒスイが叫ぶ。
「・・・ねぇ、ヒスイ。僕に隠し事してない?」
「!!?」
爽やかな笑顔のコハク。新手の拷問を受けていることにヒスイはやっと気付いた。
「か・・・隠しゴトなんてっ!!してな・・・」
「へぇ?そう?ならもう一本刺しちゃおうかな〜?」
コハク自ら羽根を吟味する。
「別に話したくないならいいよ。まだまだ刺すトコいっぱいあるし」
「ア・・・ッ!や・・・」
ぐっ、と中にもう一本。
「く・・・ぅん」
コハクの羽根は先が尖っていて、内側を鋭く突いてくる。
痛みスレスレの快感。
一本、また一本と追加されていく。
「えっ・・ぅっ・・・おにいちゃ・・・」
“隠し事”と言われてもよくわからない。
コハクの望む答えを口にできないまま時間が過ぎていった。
「・・・モノには頼らないのがモットーだけど、これでもまだ話さないって言うんなら、もっと痛いことしちゃうよ?」
「!!!?」
(せっ・・・洗濯バサミっ!!?)
「どこ挟まれるか、わかるよね?痛いよ。ホラ・・・」
パチパチと音をたててコハクが脅す。
(隠し事って!?トパーズと同じ夢見たこと!?)
説明するのが少し恥ずかしかっただけで、隠すつもりはなかった。
嘘と隠し事は禁止。幼い頃からそう躾けられていた。
(だからって!!ここまですることないじゃない!!)
「お・・・にいちゃんのバカぁ!!ヘンタイっ!!」