後日談
こんな満月の夜
[前編]
「羞花閉月って知ってる?」
コハクが言った。
花も恥じらい、月も隠れる。
容姿の美しさの喩えだ。
「ほら・・・こんな風に」
羽根を広げ、窓から見える月を隠したりして。
「綺麗だよ・・・ヒスイ」
「ん・・・おにいちゃ・・・ん」
裸で絡み合う夫婦。
「ほら・・・ここもこんなに・・・」
ヒスイの両脚を腕で開き、股間への愛撫を予感させる。
毎晩の事でも、コハクの唇が割れ目に触れる瞬間は、恥ずかしさから腰が引けてしまうヒスイ。
月の満ち欠けの関係で、今夜はいつも以上に体が敏感になっていた。
「ヒスイ・・・」
コハクの舌が濡れた性器へとあてがわれた瞬間に。
ビクンッ!!
「あ・・・ごめ・・・」
大袈裟なくらいに反応してしまい、更に恥ずかしくなるヒスイ。
「大丈夫・・・可愛いよ、すごく」
真っ赤になったヒスイの頬を両手で包み、たっぷりと、キス。
「ひぁ・・・んっ!!」
ヒスイの脚を広げ、いきなりクリトリスに吸い付くコハク。
「うっ・・・あぁぁんっ」
浅く、深く、口に含んで。
くちゅ・・・ちゅ・・・ちゅくっ・・・ぴちゃっ・・くちゅくちゅ・・・
「あっ・・・はぁ・・・はぁ、あ、んっ・・・はっ」
「指よりもずっといいでしょ?」
愛液で濡れ輝くコハクの唇。
「ヒスイ・・・自分で剥ける?」
「う・・・んっ、あ・・・おにいちゃ・・・」
ヒスイ自身に剥き出させ、クリトリス集中的舐め。
まずは舌の中央に乗せ、グイッと押し上げる。
「・・・んっ!!」
膨らんだ肉粒を舌先で左右に揺らすと、ヒスイも震えて。
「あぁぁンッ!!」
「うん・・・コッチも可愛いね。それに・・・いい匂いがする」
生々しくも愛しい香りに心底嗅ぎ惚れ、コハクは強く鼻先を擦りつけた。
「やっ・・・ぁ・・・おに・・・あぁンッ!」
コハクの熱い鼻息がヒスイの割れ目にこもった。
月明かりの下。
ヒスイのお尻を膝に乗せて。
軽く手前に返すように脚を広げさせ、しっかり抱え込む。
あらわな格好・・・返されたヒスイの窪みが天へ向く。
滾々と湧き出る愛の泉。
そこには極上の愛液が湛えられ、淡い光を放っていた。
「おにい・・・ちゃぁ・・・」
これから与えられる快感をカラダが知っているので、ヒスイ自ら両手を使い、大きく脚を開いた。
「そうだね、いい子だ」
愛撫は丹念に。執拗に。
クリトリス、尿道口、膣口、それらを縁取る小陰唇と、アナル。
ヒスイの股間にあるものはすべて舐め尽くす。
「えぅ・・・っ!!おにぃ・・・んっ!!」
月光に照らされた静かな空間に、愛液を啜り上げる音が卑猥に響いた。
「次はコレでね」
開脚させたまま、ヒスイを仰向けに。
勃起したペニスを持ち、先端でクリトリスを擦る。
「っ・・・!!ううんっ!!」
下から上へ、繰り返し、繰り返し。抉るように。
強く押し付けては、滑らせる。
ムズムズと込み上げてくる快感に、ヒスイの膣から大量の愛液が漏れた。
「あっ!!ああっ!!」
ペニスの受け入れ準備は万全だ。
「入れる・・・ね?」
コハクの言葉に続き、ズプ・・・ッ。
「あ・・・っ!!」
ゆっくりと太いペニスが差し込まれた。
はっ!はぁっ!!はぁ!!
コハクの腰の動きが段々早くなり、刺激もどんどん強くなってゆく。
「うっ!うっ!あっ!あぁぁっ!!」
正常位で突き上げられ、その上、クリトリスを弄られて。
「おにいっ・・・ちゃ・・・!!もっ・・・だめ・・・あんっ!!」
奥が痺れて、意識も遠のく・・・が。
「このまま・・・もう一回イこうね〜・・・」
コハクはペニスを抜かず、更に激しく腰を振った。
「えっ・・・あぅっ!!うっ!あっ・・・はぁんっ・・・」
「どう?また良くなってきたでしょ?」
一回イッた筈なのに、続けて強引に擦られ、再び快感に襲われるヒスイ。
「あっ!いっ・・・!!んんっ!!おにぃちゃぁんっ!!」
牙を剥きだし、大きく喘ぎ、そのまま・・・二度目の絶頂を迎えた。
「お〜、やってる、やってる」
今夜、夫婦の部屋を覗くのはメノウ。
(銀の吸血鬼は月光と相性抜群だから。こんな満月の夜は月光浴させてやるといいんだ)
「流石にちゃんとわかってるな」
窓を開け、部屋に直接月光を入れている。
ベッドの上の位置取りも抜かりない。
月光には美容成分があるのだ。
今夜はまた一段とヒスイの感度が良く、愛液の味も最高級。
(コハクがやり逃す訳ないか)
妻、サンゴともよく月光の下で愛し合った。
見事な満月だったので、堪らなく懐かしくなって。
サンゴの忘れ形見・・・ヒスイを見に来たら、セックスの真っ最中だった。
「娘がイクとこ二回も見ちゃったよ・・・」
覗くつもりで来たわけではなかったが、成り行き上、そういう事になってしまった。
常連のジストは任務で家を空けていた。
ムーンライトSEXを見逃したとあらば、さぞ残念がる事だろう。
「そういやあいつの背中に紋様刻んだのも、こんな満月の夜だったっけ」
ふとコハクの背中が目に付き、思い出す。
もう、何十年と前の話だ。
「羽根を折るって、腕とか足を無くすのと同じなんだろ?」
「まぁ、そうですけど。僕、どうしてもヒスイと一緒に生きてゆきたいんです」
天使のコハクと吸血鬼のヒスイ。
光に属する者と闇に属する者。
二人の肉体の相性は最悪で。
触れる事さえ叶わない・・・あの頃はまだそんな状態だった。
「どうしても?」
「どうしても」
喪失した羽根の数だけ、熾天使としての力も失われる。
コハクは本来六枚の羽根を持つ天使だったが、ヒスイに触れるための代償としてまずは二枚捨てると言った。
「いっぺんに折ったらたぶん瀕死になると思うけど?」
「ああ、僕、血の気多いんで大丈夫です。失神しても、そのままやっちゃってください」
「ふ〜ん。ま、お前がそう言うんなら」
「あと、この事はヒスイには絶対言わないでくださいね」
僕が愛したくてする事だから。
「ヒスイに愛されるかどうかとは別問題なんです」
(な〜んて言ってたけど)
あっさりヒスイにバラしてしまった。
コハクには散々文句を言われたが、今ではすっかりお馴染みとなった。
「何やってんだ、ジジイ」
仕事帰り、眼鏡スーツ姿のまま廊下を通りかかったトパーズが足を止めた。
扉の隙間から見えるものはわかっていたが、そこにジストではなくメノウがいる事が不思議だったのだ。
「お前は見ない方がいいよ」
メノウが小声で返答した。
「勃っちゃうだろ」
「・・・・・・」
さらりと下ネタがメノウらしい。
「・・・ヒトの事言えるのか」
トパーズも動じない。ネクタイを緩め、鼻で笑う。
普通に下ネタが飛び交う家庭なのだ。
こんな会話は日常茶飯事だ。
「勃つわけないじゃん。娘だよ?それに俺・・・ソッチの方は燃え尽きたし」
メノウは冗談っぽく笑い、それから少し真面目な声色で。
「もう何も残ってない。全部サンゴに捧げた」
「・・・・・・」
トパーズは何も言わずに、眼鏡越しの紅い瞳でメノウを見ていた。
「そうだ。お前も行く?」
「何処にだ?」
メノウはシャツの胸ポケットから懐中時計を取り出した。
時間移動に使用するレアアイテムだが、エネルギー切れでしばらくお蔵入りになっていたものだ。
メンテナンスをするのにたまたま持ち歩いていたのだが、唐突に閃いた。
「過去。ヒスイ観光の旅」
遡る事数十年・・・過去。
ヒスイ3歳の「世界」。
満月の夜とは打って変わって、時は日中。
曇り晴れの穏やかな気候だった。
「ほうら、甘いよ?」
指に付けたシロップを幼女ヒスイの口元へ寄せるコハク。
「あ〜んして、ヒスイ」
「あ〜ん」
ぱくっ!
三時のおやつはプリンだ。
甘さ控えめ、その分シロップは濃厚に作ってあるが、プリンにはかけず、指に付けて舐めさせる・・・餌付け中、だ。
メノウとトパーズは窓の外で。
「昔からああやって食わせてたんだって」
“お兄ちゃん=甘い”って思うように。
「チョコとかクリームとか甘い物を自分の手から直接与えたって言ってた」
「・・・・・・」
「だからヒスイは今でもそう思ってるし、コハクが“甘い”って言えば、どんなものでも甘く感じるってワケ」
「どんなものでも、か。成る程」
「納得、だろ?」
ヒスイが日夜咥えているであろう甘いモノを想像し、二人は苦笑いを浮かべた。
「おにいたん、も〜おわり?」
「もっと欲しい?」
コハクの問いにコクコクと小さなヒスイが頷いた。
「じゃあ、もう一回だけね。虫歯になっちゃうから」
「うんっ!!おにいたんだいしゅきっ!!」
両手でコハクの手を取り、向けられた人差し指を懸命に舐めるヒスイ。
おやつタイムの次は、裏庭のハンモックでお昼寝タイムだ。
「おやすみ、ヒスイ」
コハクは得意の子守歌でヒスイを寝かしつけ、ふわふわの頬にキスをした。
「さて、洗濯物を・・・」
いそいそと動き出す。主夫は何かと忙しいのだ。
「夕食は野菜たっぷりのポトフにしよう。菜園でジャガイモ掘って・・・っと」
屋敷から一分ほど歩いた先の土地を耕し、ヒスイの好きな野菜を中心に栽培していた。
収穫用の籠を抱え、コハクは外出・・・チャンスだ。
「しばらく帰ってくんなよ〜」
影からコハクを見送り、早速二人はヒスイ観光へと向かった。
[後編]
ヒスイと森のハンモック。
ぐっすり眠り込んでいて、至近距離から覗き込んでも目を覚ます気配はない。
「舌足らずって話、ホントだったんだな〜。かっわいいよなぁ〜」
と、親馬鹿メノウ。
もともと小柄なヒスイだが、更に小さく、愛らしさも凝縮されていた。
「・・・馬鹿っぽい」
と、コメントしたのはトパーズだ。
「とか何とか言って、めちゃくちゃズキューンときてない?」
「・・・・・・」
(おい、おい、否定しないのかよ)
トパーズの“無言”は主に肯定の場合に用いられるのだ。
「あ!触っちゃだめだって・・・」
メノウの忠告も時空旅行におけるルールも無視で、トパーズの暴走が始まった。
「チビがドチビになっただけで、所詮はヒスイだ」
「言葉と行動がバラバラじゃん・・・」
言葉ではなじりつつ、ヒスイをハンモックから抱き上げ、衝撃の頬ずり。
「おに〜ちゃぁ?」
くんくん。
寝惚け半分で匂いを嗅ぐヒスイ。
トパーズの匂いに違和感がなかったらしく、そのまま再び眠りについた。
「お前今、口の中、唾でいっぱいだろ」
「・・・・・・」
メノウに指摘された通りだった。
ヒスイに触れるといつもそうだ。口の中が唾液でいっぱいになる。
齧りたくて。虐めたくて。幼女相手でも本能が疼く。
「クク・・・一段と美味そうだ」
(うっわ〜・・・トパーズがやばい・・・)
「おい、ちょっと落ち着けって・・・攫ってどうすんだよ」
ヒスイを連れ、森の奥へ、奥へと。誘拐紛いの展開に。
「コハクがブチ切れるぞ・・・」
(まいったなぁ・・・)
遠くから幼いヒスイを見るだけのつもりだったのに。
ハンモックから愛しき姫の姿が消えたとなったら、コハクが血相を変え追ってくるのも時間の問題だ。
もはや、ただでは済まないだろう。
「むにゃぁ・・・あり?おにいたんじゃない・・・」
目を覚ましたヒスイは、トパーズとメノウの顔を交互に見て、ポカン。
危機感に欠けるのは生まれつきか・・・状況を全く理解していないようだった。
「だりぇ?」
モゾモゾと動き出したヒスイをトパーズは地面へ降ろした。
「おとうしゃんでしゅよ〜」
トパーズの暴走に便乗し、メノウまで。
しゃがんで顔を近付け、こっちへおいでと誘うが・・・
「ちがゆよ」
ヒスイに存在を否定された。
『ひしゅいにはおと〜たんもおか〜たんもいないもん』
「でも、おにいたんがいるから、しゃびしくないよっ!」
(・・・ま、当たり前っちゃ、当たり前だな)
ヒスイの笑顔は幸せそのもので。
両親がいない事を嘆く様子もない。
(コハクに任せときゃ大丈夫って、子育て放棄したも同然だし)
この頃、メノウは自らの魔法で自らを仮死状態に追い込んでいた。
心身共に復活した時にはもうヒスイは18歳になっていて、コハクと恋仲、すでにエッチ済みだった。
(俺も偉そうな事言えないなぁ、こりゃ)
メノウはまず自分の頭を掻き、それからヒスイの頭を撫でた。
「良かったなぁ。“お兄ちゃん”がいて」
「うんっ!ひしゅい、おにいたんだいしゅきっ!!」
「お〜・・・そうか、そうか」
今も昔も“お兄ちゃん大好き”なヒスイ。
結局、コハクに任せて大丈夫だったという事で。
(俺ってすげぇ影薄い・・・)と。
自嘲するメノウだった。
「ひしゅい、おうちかえる」
滑舌は悪いが、言葉はよく知っている。
「おにいたんがしんぱいしゅるから」
と、ちびっこヒスイは帰路に就いた・・・が。
屋敷とは反対の方角を向いている。
「・・・待て」
そこでトパーズが、誤った方向へ踏み出したヒスイの頭を上から掴んだ。
「ぎゃっ!!」
驚いたヒスイは妙な声を出した。
「う゛ぅ〜っ!はなちてっ!めがねのおじたん!」
「・・・・・・」
“おじたん”表現にトパーズの眉が吊り上がる。
一方メノウは大笑いだ。
「・・・お前にオヤジ呼ばわりされる筋合いはない」
かわいさ余って憎さ百倍現象。
ヒスイの頭を掴んだ手に思わず力が入った。
「や〜!!いたいっ!!」
ヒスイが涙目で暴れ出し、ついに。
「おにいたぁんっ!!」
コハクの名を呼んだ。すると・・・
「ヒスイを離せ」
疾風の如く、コハクが現れた。
手に持っていたジャガイモを放り投げ、トパーズを見据える。
幼いヒスイの手前、武器を振り翳す事はないが、放つ殺気は本物だ。
「・・・・・・」
トパーズはヒスイを解放した。
「おにいたんっ!!」
ヒスイがコハクに飛び付く様は“今”と全く変わらず。
「ヒスイ、怪我はない?」
「うんっ!あり?おにいたん?」
エプロンを握り締めるヒスイの耳を両手で塞ぎ、コハクの口が動いた。
視線はまっすぐトパーズへと向けられている。
「逃げても無駄だよ。見たところ銀の血族のようだけど、ヒスイに手を出したら“死刑”だ」
「ほらな、“今”ほど丸くないんだよ」
トパーズの背後からメノウの声がした。
「額に“印”をつけられたら確実に殺られる」
それは、死刑囚の烙印。熾天使の死刑宣告。
どこに逃げても見つけ出されてしまうのだ。
「お前、昔からそういう狩り方するもんな」
話し相手をトパーズからコハクに移し、間に割って入るメノウ。
「あれ?メノウ・・・様?」
コハクの殺気は一瞬にして消えた。
「ちょっとヒスイに会いたくなってさ。ココの俺は氷の中だよ」
それだけで通じたらしく。
「それは・・・失礼しました。ヒスイの事になると、どうも見境なくなっちゃって」
コハクは爽やかに笑い、
「すみませんでした」
と、頭を下げた。
“今”よりずっと女性的な雰囲気で、長く編んだ金髪がコハクの動きに合わせて揺れた。
「どうですか?お茶でも一緒に」
「ん〜・・・やめとく。そろそろ退散するよ」
「そうですか」
「ヒスイの事、よろしく頼むね」
「はい」
「おにいたん!ひしゅい、なんにもきこえないよ〜!!」
両手で耳をピッタリ塞がれているヒスイが口を尖らせた。
「ごめん。ごめん。さあ、お家へ帰ろう」
「うんっ!!おにいたん、だっこ!!」
聞き入れたコハクがヒスイを抱き上げる。
「よっ・・・と」
それからメノウへ向け軽く会釈をし、ヒスイと森を後にした。
「マジで殺られるトコだったぞ」
「ジジイ、余計な事を・・・」
「ここで取り合っても無駄だって事ぐらいわかってるだろ」
メノウは大きく伸びをして。
「さて、俺達も帰るか」
やっぱり“今”が一番いいや。
そして“今”。
二人は満月の夜に帰還した。
夫婦の部屋の前だった。
メノウとトパーズが過去に行っている間も愛の儀式は続行されていて。
「うっ・・・はぁ、はぁ、ぁ、おにぃ・・・」
ヒスイはコハクの膝の上で脚を開き、薄暗い中心部に指での愛撫を受けていた。
くちゃっ・・・
コハクの指が音を鳴らし。
「ん・・・っ!!」
月明かりの下、ヒスイの中にねじ込まれてゆく様がよく見える。
「あ・・・あぁんっ!」
膣内でコハクの指が激しく動いているのだろう。
ヒスイはビクビク震えて。
「あぅっ・・・おにぃちゃ・・・」
「よしよし、いい子だね〜・・・」
開ききった場所に、コハクの長い指が出入りを繰り返す。
「うっ・・・」
指先に絡みついた愛液が淫らに糸を引いた。
「そろそろアレが欲しいかな?」
「う・・・んっ・・・おにいちゃぁ・・・」
「甘えた声出しちゃって・・・ま、いっか」
扉の外。メノウは小さく呟いた。
愛娘がどんなに乱されていても、特に嫌悪感はない。
『コハクは俺の変わりになれるけど、俺はコハクの変わりにはなれないし』
コハクを信じて託すしかないとわかっているのだ。
「父親ってそんなもんだろ・・・あ、今の愚痴っぽかった?」
嘆きではなく、悟りなのだが、つい口から出てしまった。
「・・・“そんなもん”でも存在意義はある」
隣にいたトパーズが言葉を返した。
「存在意義?」
「そうだ」
お前がいなきゃオレもいない。
「“そんなもん”だが、しぶとく生きろ、ジジイ」
途中の説明がだいぶ省略されているが。
つまりは祖父と孫の間柄。繋がったひとつの流れである、と。
(そう言いたいワケ?)
「・・・やっぱ俺、お前のこと好きかもっ」
「オレは寝る」
メノウの告白を聞き流し、去りゆくトパーズ。
「ったく、つれない奴だなぁ」
とはいえ、トパーズが素っ気ないのはいつもの事だ。
「ふぁぁ〜っ・・・俺も寝よ・・・」
大きな欠伸をして、メノウは扉から離れた。
「あ・・・おにぃ・・・」
背を向けた夫婦の部屋から、ヒスイの悦ぶ声が聞こえる。
「くすっ。しっかり喘げよ、娘」
夫婦の部屋。
(今夜はメノウ様か)
夫婦のセックスは誰に見られても構わない。
素肌で愛し合っているだけで、やましい事は何一つしていないと思う。※コハク理論。
(それにしても、珍しいな)
こんな満月の夜だから。
今は亡き最愛の女性を想って。
(・・・ちょっと寂しくなったのかな)
「・・・ね、ヒスイ」
「あんっ・・・!!」
ヒスイの入口を指で開き、先を浸ける直前。
「あ・・・はぁ・・・んっ!」
耳に舌を入れ、ひとまず感じさせてからボソボソ・・・
「んっ・・・・・・え?」
「・・・ええっ!?お父さんが!?」
コハクの耳打ちで、ムード一変。
「もうっ!お兄ちゃんはっ!!どうして教えてくれなかったのっ!!」
「ははは!ごめん。ごめん」
「いっておいで」
・・・と、コハクが言うまでもなく。
ヒスイはベッドから飛び降りて。
「お父さんっ!」
「え?ヒスイ?」
呼び止められたメノウが振り向く。
はぁっ。はぁっ。
ヒスイは乱れた息づかいのまま、扉の隙間から真っ赤な顔を覗かせ、一言。
「おやすみなさいっ!!」
「あ〜・・・うん」
ヒスイの行動にメノウは内心驚いた、が。
喜びはすぐに広がって、笑顔。
「おやすみ」
続き頑張れよ、と手を振り、再び背を向け歩き出す。
一日の終わりに、娘の“おやすみ”。
「・・・なんて、最高じゃん」
こんな満月の夜も。
そうじゃない夜も。
父親らしく。潔く。
お前の幸せを祈るよ、ヒスイ。
+++END+++