World Joker

2話 brothers

 
 

時を同じくして。

アクア、5歳。ジスト&スピネル、16歳。
3人で広い船内の探険をしている内に、日が沈んでいた。

「兄ちゃんとフロ入ろうなっ!」

アクアを入浴させるのは昔からジストの役目だ。
頷くアクアを連れ、探索の末発見した大衆浴場へ。

「ボクも一緒にいい?」
「えっ!?スピネルも!?」
「うん。迷惑じゃなければ」
「迷惑だなんてっ!そんなことないよっ!!」

そう言ったものの、緊張。
無理もない・・・相変わらずスピネルは女の子スタイル。
男だとわかっていてもジストの脳内で妄想が広がってしまうのだった。

船上の入浴場。さすがに装飾には凝っている。
たまに揺れを感じるが、おおまかな造りは寮や銭湯の大浴場と同じだ。
乗船時、メノウが「メンテナンス済」と言っていた。
恐らくその恩恵だろう、浴室内は綺麗に掃除されており、たっぷりとお湯も沸いていた。

そこで苦悩するジスト。

(ドキドキしちゃだめだっ!!いくらヒスイに似てるからって・・・)

共に生まれ育ったサルファーとは年中入浴しているし、腰にタオルなど巻かないが、今晩は相手が違う。
肉体を得たスピネルとお風呂に入るのは初めてで、おのずと気を遣ってしまう。
腰にしっかりタオルを巻きつけ、チラリ。

「スピネル、髪、伸ばしてんの?」

すらりと背が高く、黒髪を束ねる姿が色っぽい。
小柄でロリ的なヒスイに比べると、顔の作りは同じでもスピネルの方が色気があるのだ。

・・・男でも。

「うん、その方が女の子っぽく見えるでしょ?」
「うんっ!似合うよっ!」

と、ジストは深く頷き、それから尋ねた。

「女子校って楽しい?」
「楽しいよ。賑やかで。誰か紹介しようか?」
「えっ!?いいよっ!!オレっ!まだそういうのは・・・」

くすくす・・・

口元を隠し、笑うスピネル。
ジストはそう言うだろうと思っていた。
サルファーに負けず劣らず異性から告白を受けるのに、みんな“友達”。
デートより家族でお出かけが好きなのだ。

(それに今はアクアがいるしね)

ジストの目が外に向くのはまだずっと先になりそうだ。
スピネルが、ゆっくりと湯船に浸かる。
その姿にジストがだらしなく見とれていると・・・

「・・・・・・」

アクアが無言で手を伸ばし、タオルの上からジストの股間に息づくモノを掴んだ。
まだ5歳の手ではあるが、力はかなり強い。

「わっ・・・痛いって!!ソコはダメだって・・・」

一緒にお風呂に入ると、アクアが決まって触る場所だった。
若干5歳にしてエロの片鱗を覗かせているアクア。
同じエロでもジストとは質が違う。
実践派。“夜”見た事を何でも真似したがるのだ。
ジストで試したがる傾向があった。
乗船する前の晩に覗き見た、愛の行為。

「ママがぁ〜・・・こうやってパパのを〜・・・」
「え?アク・・・ア?」

いきなりタオルを捲られ・・・パクッ!
若い男性器の先を銜えられてしまった。

よりにもよって、妹に。

「わぁぁ!!ダメダメ!!」

慌ててアクアの頭を押し戻すジスト。

「オレ達兄妹なんだしっ!!」などと口走る。
「ママがはむはむしてたのはぁ、こんなにふにゃふにゃじゃなかったけどぉ」

妹に言われ、衝撃。
欲情している訳ではないので、それも当然なのだが、アクアにはまだその辺りが理解できない。

(オレだってっ!!その気になればっ!!)

硬くできるお年頃だ、が。

スピネルの前でそれはあまりにも恥ずかしい。

くすくすくす・・・

控えめな笑い声に続き、スピネルの加勢。

「アクア、こっちへおいで」

スピネルは一端湯船から立ち上がり、手招きした。

「うん〜」

アクアには兄が4人いる。
種違いでも兄は兄だ。
特にスピネルは母ヒスイに似ているので、兄の中でもアクアのお気に入りだった。
アクアはスピネルの元へ移動した。

「ボクと一緒に温まろう」
「ん〜」

二人は湯船へ身を沈め、ジストは持参した家族シャンプーで洗髪を始めた。
銀髪を濡らし、軽快に指を動かす。
そうしてたっぷり泡立ったところをシャワーで流す・・・が。

「ん〜と、タオル、タオル・・・」

両目をつぶったまま、手探り。

(あ、そういや・・・)

拭きタオルは脱衣所に置いてきてしまった。

(取りに行かなきゃ・・・)

「んっ?」

その時、タイミング良く一枚のタオルが手渡され、ジストは早速それで水気を拭いた。

「スピネル、サンキュっ!」
「ボクじゃないよ?」と、スピネル。
「へっ?じゃあ・・・」
「アクアじゃないよ〜」と、アクアも答えた。
「???」

それなら誰が・・・スピネルとアクアの二人を凝視するジスト周辺に。

スゥーッ・・・

白っぽい色をした火の玉が数個、集まってきていた。
狙われ体質のジストは、霊媒体質でもあったのだ。

「ひっ・・・人魂っ!?」
「彼等が気を利かせてくれたみたいだよ」

同情の笑いを堪え、スピネルが説明した。

「お前達・・・が?」

コクコク!巧みに形状を変化させ、火の玉がYESのサインを出した。

「そっかぁ〜・・・」


いい奴だっているんだ。
 

(幽霊だからって、“怖い”って決めつけちゃダメだよなっ!!)

「ごめん!ありがとっ!」

ジストの笑顔と言葉に喜んでか、浮遊していた火の玉が一層強く燃え、クルクル・・・
ジスト中心に回り始めた。

苦手をひとつ克服した、入浴タイム。
 

「蛍火のようで綺麗だね」

と、スピネルが言った。
丸い小窓から月光が差し込む脱衣所にて。
並んで着替えながら、言葉を交わすジストとスピネル。

「サルファーも姉ちゃんも一緒だったらよかったのにな〜」
「うん、そうだね」

シトリンは王妃という立場上、国を長く空ける事はできないとわかっているが。
ジストはかなり残念な様子で。

「兄妹が全員揃うコトってないし」

苦笑いで相槌を打つスピネル。

「帰ったら、会いにいこう。お土産持って」
「だねっ!」

スピネルの提案にジストは大きく頷いた。

「それにしても・・・何処いくんだろ?」
「それはたぶん・・・」
 

幽霊だけが知っている。

 

ザザーン・・・

波の音と潮の香り。
船上で迎える、初めての朝だ。
水面に反射した朝日が部屋に差し込んできた。

「ん・・・おにぃ・・・」

モゾモゾ・・・ヒスイが目を覚ました。
コハクは一足先に起床、間もなく美味しいミルクティーが運ばれてくる筈だ。
寝起きのぼんやり頭で夜の回想をするヒスイ。

散々喘いだ後の記憶がない。

(お兄ちゃんの血飲んで、すごくえっちになっちゃって・・・)

一度では飽きたらず、続けて何度もおねだりしてしまった。
思い出すと恥ずかしいが、コハクはその全てに応えてくれた。

「あの後・・・寝ちゃったんだ・・・」

ふあぁぁ〜・・・大欠伸で起き上がる。
ベッドにはコハクの羽根がたくさん落ちていた。
一枚一枚、拾い集めてみる。

コハクが脅しをかけてから、霊に邪魔される事はなかった。
血のついたナイフは跡形もなく片付けられ、昨晩の事件が夢のようにさえ思える。
室内はとても穏やかな空気だった。

「おはよう、ヒスイ」
「おはよ!お兄ちゃん!」

ところが。

102号室から一歩出ると、違う雰囲気だった。
通路は薄暗く・・・

「ひぁっ・・・!!」

どこからともなく白い手が伸びてきて、ヒスイの頬に触れた。

ゾワッ、鳥肌。

「気安く触らないでよっ!!」

霊に向け、怒鳴る。
ヒスイはコハクに獅噛み付き、宙を睨んだ。

「よしよし・・・」

コハクはヒスイの頭を撫でて。

「・・・・・・」

斬れない相手なだけに対応が難しい。

(ヒスイは吸血鬼だからなぁ〜・・・)

光を嫌う者同士、ヒスイにその気はなくても、霊が寄ってきやすいのだ。

(しっかり守らないと・・・)

パサッ・・・

コハクは昨晩のように羽根を広げ、ヒスイを包み込むようにして歩いた。

 

船内食堂。

先客は、今来たばかりというメノウとトパーズ。


オニキスと子供達の姿はまだない。

「さて、じゃあ僕等が朝食を・・・」

一家の食事係であるコハクと、いつの間にか補佐役にされてしまったトパーズが厨房へと向かうが・・・そこは賑やかで。

一足先に大勢の使用人が働いていた。

無論幽霊なので足はなく、向こう側が透けて見える体だ。

ふわふわ・・・食器やら食材やらがコハク達の目の前を通り過ぎてゆく。

「へ〜・・・これはまた・・・」

「俺達は“お客様”って事」

メノウの声だ。厨房入口に立っていた。

「たまには家事から解放されるのもいいだろ?」

「凶悪なのは一部だけのようですね」

「ま、そういう事になるかな」

だとすれば、お買い得かもしれない。

(さすがメノウ様・・・ナイス目利きだ)

厨房から運び出される料理を見送りながら、コハクは思った。

「ところでメノウ様、この船どこで買ったんですか?」

何の気なしにコハクが問いかけ、何の気なしにメノウが答えた。

 

 

「アンデット商会」

 

 

「・・・・・・」

途端、コハクが黙った。

トパーズの表情も変わる。

「ん?どしたの?」

「いいえ、何も・・・」

アンデット商会については、ヒスイから多少聞いていた。

ここでは無言のトパーズも、ヒスイから没収したアンデット商会の魔本を持っている。

 

不吉な縁。

 

(面倒な事にならなきゃいいけど・・・)

 

 

 

 

再び船内食堂。

 

 

厨房から、まずはスープが運ばれてきた。

テーブルに着席しているのは、ヒスイと・・・遅れて現れた子供達3人だ。

「いただきますっ!」

ジストが元気良く言って、一口。

幽霊が作ったであろうものでも、全く警戒していない。

「いただきまぁ〜す」

「いただきます」

アクアとスピネルも続く。

「・・・・・・」

子供達が平然としているのに、自分ばかり怖がってなどいられない。

ヒスイは大人の意地でスープを口に含んだ。

「あ・・・結構美味しい」

コハクの料理には敵わないが、なかなか味わいどころがある。

ヒスイの褒め言葉に、幽霊給仕のピッチが上がり、次々と料理が運ばれてきた。

朝食にしては豪華過ぎるメニューだが、子供達は喜んで。

(この船・・・意外と悪くない?)

あれほど怯えていたヒスイでさえ、そう思う。

 

不思議な・・・朝食タイム。

 

 

 

 

「時間もある事だし、ヒスイの洋服作ろう」

冒険用を一着、と張り切るコハク。

家事から解放されたところで、時間を持て余したりはしない。

ヒスイの為に費やす事に変わりないのだ。

「悪霊はそのうち一掃するとして・・・」

愛しき姫のお昼寝中に船内を探る。

デートの下見ではないが、ヒスイを案内する為にも船内構造は知っておきたい。

危険なエリアとそうでないエリアが、はっきり分かれているようなのだ。

 

 

「ここが船長室か・・・」

 

 

客室と違い内装は質素だが、机に海図や羅針盤などが置かれており、船長室ならではの趣がある。

そこでコハクは、航海中に入手したアイテムが陳列された戸棚を見つけた。

「海賊船だったらお宝も期待できるけど、客船じゃたかが知れて・・・」

文句を言いながらも、とりあえず。

南京錠を破壊し、硝子戸を開く・・・と。

 

 

「!!これは・・・」

 

 

 
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